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板橋功貴 「TPPと農産物」
1.
TPPとは
TPPは環太平洋戦略的経済連携協定といい、環太平洋の国々の間の経済自由化を目的とした経済連携協定である。発足時はシンガポール、チリ、ブルネイ、ニュージーランドの4ヶ国であったが、現在ではアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシアの5ヶ国が交渉参加国となっている[i]。そして2011年11月11日に日本はTPP交渉参加に向けて関係国と協議に入ると表明した。しかし、20011年12月に開かれた拡大交渉会合に日本は参加する事ができなかった。交渉会合は現在までに既に10回開かれており、2012年には5回の会合が予定されているが、日本のTPP交渉参加に対してアメリカは参加承認までの審議に半年かかるとしている。
TPPは自由貿易にとって妨げになる関税や関税以外の方法によって貿易を制限する非関税障壁を撤廃し、特別な場合を除いて基本的にすべての産品に対する関税を撤廃することを目標としている。
TPPやEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)は混同しやすいが、FTAは特定の二国、または数ヶ国間や地域との間で貿易の障害となる関税や規約などを取り払うことで物流の自由化を行い、EPAは物だけでなく人の移動、知的財産権の保護、投資、競争政策などより広い分野での自由化を図るものである。また、TPPとは違って特定の国の間、輸出入品目別で貿易関税などに例外を設けることができるなどがある。日本は既にTPP交渉参加国のうちシンガポール、チリ、ブルネイ、ベトナム、ペルー、マレーシアの6ヶ国と既にEPAを締結している。
2.TPPと栃木の農業
栃木県は国内でも有数の農業県であり、JA栃木は日本のTPP参加について断固反対の立場をとっている。JA栃木、農林水産省の資料によると日本がTPPに参加した場合、農林水産額は4兆5千億円程度減少、食料自給率(供給熱量ベース)は40%から13%まで減少、農業の多面的機能の損失額3兆7千億円程度、国内総生産(GDP)減少額8兆4千億円程度、就業機会の減少数350万人程度となっている[ii]。しかし、専門家や政府内部などの意見が食い違っている現在の状況でこの数字をそのまま鵜呑みにしてよいのかどうか疑問に思う。
3.TPPとこんにゃく
こんにゃくは関税率が高い農産物として知られている。こんにゃくといえば群馬県が有名で国内の生産量の約90%を占めている。栃木県内でも鹿沼市などでこんにゃくが作られている。TPP参加において農業に与える影響が最も大きいことは関税の撤廃であろう。こんにゃく芋にかかる関税率は価格に応じて決まるのではなく輸入する重量に応じて関税がかかる。こんにゃく芋は税率が二段階に分かれていて、第一次税率は267トン以内は40%。第二次税率は、2796円/kgがかかっていて1706%という数値が決められているのではなく、ある時点の海外のこんにゃく芋の価格(kgあたり)に対し、2796円が何パーセントになるか逆算して決まる仕組みだ。
高い関税率のこんにゃく芋だがこんにゃく芋を日本に輸出している主な国は、ミャンマー、インドネシア、中国であり、TPP参加交渉国は含まれてない。しかしTPPに対する中国の今後の動向など楽観は出来ないと考える。
4.TPPと牛肉
栃木県は主に那須塩原市などの北部で牛肉の生産が行われている。黒毛和牛のブランドである大田原牛は全国的にも有名であり、同じくブランド牛のとちぎ和牛は2009年の全国肉用牛枝肉共励会において名誉賞を受賞し、全国1位となった。
現在、栃木県などの北関東や東北地域では20011年に起きた原発事故での放射能被害によって苦境に立たされているが、TPP参加における影響も心配されている。
牛肉にかかっている関税率は38.5%であり、TPPに参加した場合、輸入牛の仕入れ値は四割ほど安くなるとされている。オーストラリア産やアメリカ産の牛肉を主に使用している牛丼チェーン店やファーストフード店、ファミリーレストランなどでは原価が安くなることをチャンスと考えて値下げを考えている企業もあるようだ。消費者の立場で考えると海外の牛肉が安く入ってくることはメリットとなるかもしれないが失業者の数は増えるだろうと予想され、国内の畜産農家、特に震災で被害を受けた地域の農家にとっては死活問題となりうる。
また、牛肉に関して心配されていることは安価な外国産の牛肉が大量に入ってくるということだけではない。日本は2003年にアメリカでBSEが発生して以来、アメリカ産牛肉に対して輸入の禁止や規制などの政策をとってきた。[iii]そして2007年から現在までは生後20ヶ月の牛の肉のみ輸入を許可している。これは他国と比べるとかなり厳しい。関税や非関税障壁が撤廃されることでBSEの危険のある部位や安全性に問題のある牛肉が大量に流入してくることが心配されている。OIE(国際獣疫事務局)は牛肉の輸出入での牛の月齢の規制を廃止している。そのため日本の規制に対して科学的でないという意見もある。日本とアメリカでのBSEの原因とされる特定指定部位の定義の違いなどは今までも問題となってきた。日本では流通が禁止されている特定規定部位である脳や骨随などを含む牛の肉骨粉がアメリカでは流通して牛用の飼料に混入する危険も指摘されている。これまでもアメリカは日本に牛の月齢による規制を20ヶ月から30ヶ月へ緩和するよう求めてきたが日本は2011年11月に牛肉の輸入規制緩和に向けた手続きを始めた。これを日本のTPP交渉参加に関するアメリカからの圧力ではないかとの見方もある。
4.TPPに対するまとめ
現在、TPPに関しては様々な意見や推測か飛び交っている状況である。国の内部でさえ賛成派、反対派に別れ議論を続けている。私個人としてはTPPに参加すること自体は賛成である。激化している工業、情報産業などの分野での国際競争で生き残るためにもTPPに加入し、貿易の拡大を目指す必要があると考える。しかし、全体の利益を重視して一部の国民にしわ寄せがくるということは避けなければならない。TPPがメディアに多く取り上げられるようになったのは最近のことだがTPPの参加交渉自体は以前から続いていた。日本がTPP交渉に参加できるようになるのがしばらく先になりそうな状況を見ると、日本のTPP参加表明は遅すぎた感が否めない。日本政府の国民への説明不足も問題であり、より詳細で分かりやすい説明が必要だ。またTPPの影響によるデフレも心配されている。我々は目先の利益、不利益だけにとらわれず、長期的な影響も含めた見方で議論を展開する必要があると感じる。
[i] Wikipedia 環太平洋戦略的経済連携協定
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E6%88%A6%E7%95%A5%E7%9A%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E9%80%A3%E6%90%BA%E5%8D%94%E5%AE%9A