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福地俊祐 「東日本大震災後の日本のODA

 

 

1.       3.11後のODAを考える

 

311日に発生した東日本大震災の復旧・復興のために膨大な資金需要が見込まれ、日本の財政状況が今後一層厳しくなることが予測される中で、日本のODA政策はどのような影響を受けるのか、また今後ODAを行う上で必要とされることは何なのかを考察していきたい。

 

 まず、最初に、なぜ東日本大震災後の日本のODAについての考察を行おうと考えたのか述べていく。

 

第一に、今回の東日本大震災の影響を受けて、第一次補正予算案の財源捻出のためODA経費の一部が削減されたという点に注目した。このODAの予算削減対象の中には世界エイズ・結核・マラリア対策基金といった途上国においては人間の生命と直接的に関わるものが含まれていた。このような必要性の高い重要な援助でありながらも日本との直接的な関わりが弱いものの予算は、支援国で緊急事態があった場合には優先的に削減されてしまう対象になるではないかと思い、本件についての考察を行うことにした。

 

第二に、ODAで復興支援を行う手段として、被災地産品購入枠を設け、被災地の水産物などを優先的に購入し途上国のための食糧支援に充てるという政府の政策に対して、果たして本当にそれが効果的なものになりうるのかという疑問を抱いたので考察を行うことにした。

 

 

2.       ODAとは

 

そもそもODAとは何だろうか。ODA とはOfficial Development Assistance(政府開発援助)の頭文字を取ったものであり、政府または政府の実施機関によって開発途上国または国際機関に供与されるもので,開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上に役立つために行う資金・技術提供による公的資金を用いた協力のことである。[]

 

ではそうしたODA政策にはどのような狙いがあるのかを考えていく。外務省によると日本のODAの目的は、「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することである。」[]とある。この言葉を解釈するとODAには大きく分けて二つの狙いがあることがわかる。まず一つ目は「先進国としての国際貢献の義務を果たし、途上国の貧困削減や平和構築に貢献すること」であり、もう一つは「ODAを通じて日本の信頼と存在感を高め、自国にとって好ましい国際的環境を構築すること」である。この二つの狙いを踏まえて、日本政府は東日本大震災後に具体的にどのようなODA政策を行ってきたのかを検討していく。

 

 

3.       復興財源のために削減対象となるODA

 

日本は2011年度第1次補正予算案の財源捻出のため、当初予算に計上したODA経費約5700億円から501億円を削減した。このうち世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)への拠出金159億円は全額カットされた。[]

 

このことから分かるように東日本大震災などの国内で大きな問題が生じた際には、必要性の高い支援であったとしても、優先度の低いものとして捉えられ、ODAは減額の対象となることがあるのである。しかし、一方で日本は、今回の震災に対して世界の140以上の国々から緊急援助隊の派遣、物資や資金の提供を受けた。その中には世界で最も多くのHIV陽性患者を抱える南アフリカ共和国があり、同国政府はRescue South Africaという緊急援助隊の派遣を行い、被災地の復興に貢献してくれた。他にもエイズやマラリアとの闘いのただなかにあるサハラ砂漠以南の国々から多くの寄付があった。このような国々から多くの支援を得られたのは日本がこれまで長きに渡り、積極的な援助を行ってきたところによるものが大きいのではないかと考える。

 

しかし今回の日本政府の世界エイズ・結核・マラリア対策基金の全額カットという方針はアフリカ国内で患者数の増加を招くということを意味するだけではなく、今までの支援によって培われてきた日本の信頼を、不安なものにしかねないのではないだろうか。つまり、日本は被災地の復興・復旧に向けて効率的な予算の使用が必要とされているが、そのために直接的な関わりの弱い途上国への援助の予算を削減することは、被援助国でさらなる患者の増加を招くだけでなく、長期的に見た場合日本にとっても政治的な信頼の低下を招くのではないかという指摘ができる。

 

 

4.       ODAを被災地の復興に活用する

 

日本政府は急務である被災地の復興・復旧の予算の調整をしなければならないが、3章で述べたとおり、そのためにODAの重要な援助を削減することは日本にもマイナスの影響を及ぼしかねない。そこで日本政府は被災地支援とODAを両立させるための以下の政策を打ち出した。

 

ODAの東日本大震災の復興支援と風評被害払拭のため、東北で製造された物品を優先的に購入する特別枠をODAに新設する。具体的には、例えば発展途上国に対する食糧支援の際には、被災地の水産加工業者が製造したサバやサンマの缶詰を使うことなどを想定している。缶詰は、政府が事前に放射能検査を行い、安全性を確認する。また、福島県で多く製造される内視鏡のほか、被災地で作られた車いすなどを医療支援に活用する東北の産品を購入することで復興を支援するだけでなく、食品について政府が安全面の「お墨付き」を与えることで海外での風評被害払拭につなげる考えだ。」[]この政策について外務省は、被災地に貢献できるほか、途上国の発展や福祉向上に役立つ事業と位置づけているが果たして本当にそうであろうか。

 

まずは被災地に貢献できるという点についてだが、宮城県南三陸町のわかめ栽培を営む漁師さんの援助を震災直後から行っている佐藤隆司さんにお伺いしたところこのような回答が返ってきた。「漁師さん達は、これまで多くの支援を日本全国の方から受けてきたので、何らかの形で恩返しをしたいと考えている。確かに政府が買い上げてくれれば、生活をするためのお金を得られるが、それ以上に国内の人たちに自分たちが作ったわかめを食べてほしいと考えているのだよ。」これが実際に被災している人たちの意見であり、政府の被災地復興政策の方針とはギャップがあることが分かる。

 

さらに途上国の発展や福祉向上に役立つという点についても疑問点が残る。その最大の理由はこの政策は、被援助国のニーズを無視した援助する側の都合が先行したものになっているのではないかと考えたからである。まず通常、食糧支援が望まれる難民キャンプでは小麦粉や豆類などの低コストで高カロリーの食糧が必要とされる。[]しかし、サバやサンマなどの缶詰では輸送コストも高くなるので、費用対効果を考えるとやはり穀物の方が望まれると考えられる。それに加え、日本政府は被災地産品の輸出によって風評被害払拭につながると考えているが、日本国内での放射線物質の基準値には満たされていたとしても、日本での基準と異なり海外での基準値は満たしていないという事態になった場合には、大きな国際問題になりかねないだろう。つまり、こうした援助側の都合で行われる援助は、被支援国に最大の利益はもたらさないと考える。

 

日本政府が被災地の復興とODAを絡めた上記の政策は、一見、同時的に問題を解決しているかのように見えるが、実際には現地のニーズを十分に理解しているものと言い難く、先に述べたODAの目的を満たしていないのではないかと指摘できる。

 

 

5.       ODAを最大活用するために

 

これまで東日本大震災の復興とODAという二つのテーマについて述べてきたが、優先課題は復興と考えられてきた。それに対しては私自身も何ら反対する余地はない。「ODA2割削減して震災復興の財源にする政府案に賛成か?反対か?」というアンケートに対して、72%の人が賛成をしていた[]ことからもそれは明らかである。しかし、ODAが日本にとっても大きな利益をもたらすということは震災後の世界各国からの支援の多さからも分かるし、日本が先進国という立場である以上、中長期的に見た場合これからも行っていかなければならないことだと考えられる。

 

そういった現状の中、行われている現在の日本政府の被災地支援とODAの両立政策には、5章で述べたような指摘されるべきところがあり、ODAの本来の目的を失った誰のための援助か分からないものになってしまっていると思う。つまり、現在の日本の厳しい財政状況の中で、しっかりとその予算を有効活用させるためには、現地のニーズを十分に把握したうえで、被支援国にとって最大の利益をもたらし、日本にとっても良好な国際環境構築につながるようなODA政策を打ち出す必要があるので、これらを満たせない場合には強引に被災地復興をODA支援に絡ませるのではなく、二つを切り分けた政策を行っていく必要があるのではないだろうか。

 



[]外務省HP ODAとは http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/nyumon/oda.html

アクセス日時:2012112日現在

[]外務省 経済協力局 政府開発援助大綱 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/taikou/pdfs/taiko.pdf

アクセス日時:2012114日現在

[]復興財源でODA削減 日本の信用力懸念も - 47NEWS 

http://www.47news.jp/CN/201104/CN2011042201001021.html

アクセス日時:2012114

[]ODAに被災地産品」、「読売新聞」、2011919日号(朝刊)

[] UNHCR Japan - 基本情報 - 難民とは? - 難民キャンプでの生活 - 食事と栄養 http://www.unhcr.or.jp/ref_unhcr/camp/camp_02.html

アクセス日時:2012115

[]ODA2割削減して震災復興の財源に」 あなたはこの政府案に賛成ですか、反対ですか? - goo ニュース畑http://news.goo.ne.jp/hatake/20110415/kiji5301.html?disp=all

アクセス日時:2012115