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海老原美貴「日本の京都議定書脱退による今後の影響と課題」

 

1.京都議定書延長が採択されるまでの経緯

 

20111128日から1211日に京都議定書以降の地球温暖化対策新枠組み(ポスト京都)を話し合う国際気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)が開催された。京都議定書の延長を求める途上国と、アメリカや中国など全ての国が参加する新たな枠組みを求める先進国の対立により、予定の会期を延長するという異例の展開の末、新ルールはまとまらず京都議定書延長(第2約束期間:20132017年)が採択されることとなった。[1]日本はCOP17で京都議定書の延長拒否の主張をしたため、2013年以降は自主的な削減に取り組むこととなり、事実上削減義務のない「空白期間」となる。一方で温暖化の悪影響を食い止めるにあたってこの10年間が重要で、温暖化対策に猶予は全くない。日本を含めた世界中が早急に温室効果ガスの削減に取り組まなければならないだろう。日本の京都議定書離脱という選択は、今後の日本の温暖化対策の在り方にどのように影響してくるのだろうか。また、今後の課題とは何だろうか。

 

 

 2.京都議定書の概要

 

 そもそも京都議定書とは、先進国の温室効果ガス(COなど6種類)排出量について法的拘束力のある数値約束を設定したものである。目標の基準は1990年比としており、主な目標は2008年から2012年の5年間で先進国全体で少なくとも5%削減を目指すことである。各国の目標は、日本・カナダ・ハンガリー・ポーランドが-6%、アメリカが-7%、EU-8%、クロアチアが-5%などだ。また、京都メカニズムという制度があり、それは京都議定書で温室効果ガス排出量に数値目標が課せられたOECD Organization for Economic Cooperation and Development)加盟国(先進国)や経済移行国が、目標を達成するために利用することのできる柔軟措置の1つで,自国の温室効果ガス排出量が排出枠を上回った場合に、外国から排出枠を購入したり、外国で実施した温室効果ガス削減を自国の削減とみなすことができる仕組みである。これによって先進国は削減分を有効に活用することができ、途上国にとっても資金と技術移転の機会となる。[2]

 

 

3.京都議定書の問題点と日本の京都議定書延長離脱までの経緯

 

しかし、この京都議定書には問題点がある。一つ目は、温室効果ガス排出量が一位の中国(22%:2008年)と二位のアメリカ(19%:2008年)の不参加と途上国の削減義務がないことである。このことで、削減義務のある国は世界の温室効果ガス排出量に占める割合の26%となり、議定書の効果はかなり薄いものとなってしまった。二つ目は、京都議定書には強い法的拘束力を持たないことである。削減目標を果たすことができなかった国に対して何もペナルティが課せられていないので、やはり削減に対しての意識を高めるものではないことは確かだ。そして三つ目は、日本にとって不平等要素があることである。削減目標を1990年比で決められているため、オイルショック以降省エネ化した日本には大変きつい目標である一方で、大変非効率動力だったかつての東欧諸国(ベルリンの壁崩壊以降にEU化した国々)を含むEUにとって、1990年を基準にして削減することは日本に比べて容易い。排出取引権という名の罰金を払い続けるのはおそらく日本だけである。

 

これらの問題から、日本や他の先進国は京都議定書の延長ではなく、COP17で全ての排出国が参加する新枠組みをつくることを主張した。さらに、新枠組みを作るには先進国のみに削減義務を課す京都議定書は妨げになるとも主張したが、これまで通り削減義務を負いたくない中国などの新興国や途上国に押し切られ、京都議定書延長が採択され、日本はこれを離脱することとなった。

 

 

4.温暖化対策の今後とは

 

こうして京都議定書延長を離脱した日本の他にカナダやロシアも離脱したため、少なくとも3か国は2013年以降温室効果ガスの削減義務を負わない方針となり、2013年以降に議定書で削減義務のある国の排出量は、世界全体の15%となってしまった。ますます議定書の形骸化が問題とされる一方で、世界の2010年の排出量は330億トン(前年度から4%以上増)で過去最高だった。また、北極海の海氷の体積が2011年で過去最小となったとする分析結果も出ている。[3]国内外とも温暖化対策は正念場を迎えているが、削減義務のない空白期間を迎えようとする日本はどのような努力をしなければならないのだろうか。

 

 

5.これから日本が温暖化対策ですべきこと

 

日本は議定書から離脱したといっても、もちろんこれまで同様CO2削減に取り組み続けなければならない。まず国単位でしなければならないことを考えると、日本としては京都議定書に替わる、全ての国が参加する新しい枠組みの構築を求めていくのが最も必要だ。しかし、現段階で日本は議定書に参加しているにもかかわらず、排出量を削減するどころか増加させてしまっているのが現状である。これでは日本の主張が説得力に欠けているのも無理はない。議定書に参加していないアメリカですら前年より削減しているにも関わらず、日本のこの有様はまさに「口先だけ」という印象を他国に与えかねないし、すでに与えているかもしれない。国連の下での地球温暖化交渉が滞っている状態を考えるとき、日本としては国連外交以外の場も活用していく必要がある。大きな国レベルの話し合いでは、どうしても各国の利害の対立が起こってしまう。だからこそアジア太平洋地域や2国間レベルでの地球温暖化対策など、今こそ地域の中で積み重ねていくことができる温暖化抑制に具体的に結びつく試みを考えていくときである。

 

また、さまざまな環境問題が一刻の猶予も許されない状況に陥っている一方で、日本は東日本大震災により東京電力福島第1原発事故後火力発電所をフル稼働させるための燃料となる石油・石炭・液化天然ガスの輸入量が大幅に増えており、京都議定書の6%削減達成すら厳しいと見られている。まして大部分の原子力発電が全国で停止に追い込まれている状態で、COP16のカンクン合意で鳩山総理が掲げた25%削減の達成は極めて困難である。まず日本はこの目標を撤回し、東日本大震災という現実と向き合っている目標を設定しなおすことも必要だ。そして最後に最も大切なのは、やはり国民11人の意識だろう。今の環境問題の現状を知り、何ができるかを考えた行動の積み重ねが大切だ。

 

 

6.すでに身近で行われている温暖化対策

 

そんな中、身近ですでに地球温暖化対策に向けて有効になり得る研究を行っている人もいる。宇都宮大学農学部の倉持仁志教授は、二酸化炭素を一般の植物よりも多く吸収する植物であるイワダレソウという植物(雑草)の改良種の研究を続けている。研究中の改良種は成長が早く寒冷地や乾燥地でも生育することができ、酸性にもアルカリ性にも強いので砂漠での生育の実験にも成功している。この研究が進み、実用可能になれば二酸化炭素を多く吸収する植物で砂漠地域の緑化が可能になる。現在この改良種のうち4品種を農林水産省に種苗登録していて、中国、中近東諸国、アフリカ諸国、アメリカ等からも注目されている。今はより耐寒性の強い品種や花をつけない品種の研究中を行っている。[4]今までエコカーのように二酸化炭素を「減らす」技術のほうが多く注目されがちであったが、このような二酸化炭素を「吸収する」技術にも注目していきたい。理論的には後者のほうが地球温暖化の抜本的解決といえるかもしれない。

 

しかしだからといって個人の努力をおろそかにしてはならない。国民11人の努力が最終的に大きく影響する。ただでさえ京都議定書延長から離脱したことで国連での立場的なリスクを抱える日本が今後ますます「口先だけ」と思われないようにするためにも、そしてそれを見返すためにも、個人でできることを積み重ねていくことが必要だ。

 



【参考】

[1] 読売新聞(朝刊)20111211日付「COP17紛糾・中断 繰り返し」

[2] 経済産業省HP「京都メカニズムの概要」201112月現在

http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/ozone/kyoto_mechanism.html

[3] 毎日新聞(朝刊)「温暖化対策に猶予なし」20111210日付

[4] 倉持仁志教授講義「野の植物の化学」

宇都宮大学農学部HP  201112月現在

http://agri.mine.utsunomiya-u.ac.jp/about/08-08-01.html