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竹川章博「独・英の環境政策と現状」

目的と背景

ヨーロッパには環境政策に大変力を入れている国が多く、しかもその政策がうまく回っている事例として取り上げられることも多い。今回はヨーロッパの地球温暖化に対する取り組みを調べ、なぜそれがうまくいっているのかを調べた。国際的な流れとしては従来の規制的手法だけでなく、経済的手法としての環境税(炭素税)、企業による自主的取り組み、京都議定書で活用が認められている排出権取引等の手法を組み合わせて用いるのが一般的であるようである。環境税はエネルギーへの課税により排出抑制を狙う手法であるが、温室効果ガスを確実に削減できるかという観点からは不確実性が残る。企業による自主的な取り組みは、規制的手法と比べて効率的な対策を講じることが可能であるなど、企業にとって大きなメリットがあるが、一方で実効性の担保が課題として残ってしまう。そこで、政府と協定を結ぶ(環境税の軽減etc.)など、いくつかの手法を併用する(ポリシーミックス)ことで、実効性を高める試みが欧州では実施されている。以下では、欧州の具体的な事例としてイギリスとドイツを取り上げた。これらの国の政策の導入事例をふまえて、日本の政策はどうあるべきなのか提案できたらと思う。

 

ドイツにおける導入の過程

ドイツでは長期間にわたって環境税の導入が議論されており、1999年に導入された。

環境税の導入以前に、ドイツ産業連盟(BDI)が1995年に自主宣言を行ったが、背景に                                            は政府からの環境税導入の圧力が存在していた点があげられる。当時の政府と産業界の間には「自主宣言と引き換えに環境税は導入しない」という了解が存在したが、政権交代により伴い、導入に至った。税率は、経済に多大な影響を与えない程度ということで定められた。減免措置に関しては、対象外とされた企業からのクレームにより当初の提案は変更され、最終的に業種別の減免は適用されなかった。しかしながら、産業界には8割減税の措置が取られた。この背景には、BDIの自主宣言の存在があったと考えるのが妥当であると思われる。

 

イギリスにおける導入の過程

環境税の導入は労働党の1997年の選挙公約であり、政権獲得後2001年に導入された。

排出量取引のパイロット調査と産業及び商業のエネルギー消費に対する税の導入を提案したマーシャルレポートが、当初政府案のベースとなっていた。これに対して、主要産業団体であるCBIや英国鉄鋼連盟などの産業団体から要望書が提出され、自主協定により、税率は当初提案から大幅に削減された。このようなに、イギリスの環境税制度には、制度設計の段階から産業界が積極的に関わっている。また、20024月に国内排出権取引制度が導入され、これは環境税の制度とリンクするものである。

協定制度

 企業の自主的取組の、実効性の担保の問題を解決するための手段の具体例として、環境税との併用をあげたが、これは欧州では積極的に活用されている手法である。ちなみに、自主的取組の形態には、

1.    事業者が目標及び対策への取り組みを宣言

2.    事業者が定めた目標及び政策を政府が公認

3.    目標及び対策について政府と事業者間で合意文書を交わす(自主協定)

 の3つに分類可能で、我が国の産業界による自主行動計画は2.にあたり、欧州で積極的に活用されているのは3.である。13の順に拘束力が強くなる。先に例を挙げたドイツでは自主宣言(CO2原単位[a1] 20%改善)の発展形として200011月にBDI及び主要産業団体と政府が締結している。20016月にもエネルギー業界を対象とした熱電併給(CHP)利用促進に関する協定がさらに締結された。一方、イギリスでは締結された協定の数は42にものぼり、約7000の企業が含まれる(目標の指標は原単位/総量から選択)。企業は削減措置の見返りとして、イギリスでは環境税の軽減措置を受けることができる。協定不順守の場合、この軽減措置を受けられなくなってしまい、企業が受けるであろうダメージは計り知れないとされている。ドイツでも環境税の軽減措置と直接の関連はないものの、協定により新たな政策を導入しないことが政府により明言されている。協定の目標が達成されない場合には、新たな規制が導入される可能性がある。

 どちらの協定も第三者機関による検証が義務付けられている。

 また、イギリス・ドイツに限らず、自主協定導入された全ての国に環境税が既に存在しており、これは大変興味深いことではないかと私は考える。

 

日本における自主協定・環境税の適用可能性

 前述のように、日本には企業による自主行動計画が存在する。これは産業・エネルギー転換部門における参加業界からのCO2排出量2010年において1990年レベルとする目標が設定されていた。第三者機関による最新のフォローアップによると、目標は順調に達成されているものの、京都議定書の削減目標には依然として距離がある。また、現在は目標が達成されているものの、信頼性の担保に問題が残っている。これを解決するために協定制度を導入すべきとの議論があるが、欧州と日本の置かれた状況にはかなり大きな違いがあることに触れておかなければならない。

 ドイツやイギリスは、日本の6%削減の削減目標に対して、21%削減、12.5%削減というように、一見すると日本よりもはるかに厳しい削減目標を設定しているように見える。しかしながら、ドイツ・イギリスの必要削減率がそれぞれ6.8%、3.6%なのに対し、日本やアメリカの必要削減率は17.9%、16.7%と、独・英の2倍以上にものぼる。

 すなわち、国としての達成基準が比較的厳しくないことから、産業界として協定制度を受け入れることに大きな抵抗感がなかった、と捉えることができる。

 他方、日本やアメリカのように目標達成が総体的に困難な状況下では、産業界に対し追加的な削減が将来的に要請される可能性もあるため、産業界にはより拘束力の強い自主協定制度を導入することには強い抵抗感があるだろう。特にアメリカは国としての立場として京都議定書からの離脱を選択している。このように、自主協定の導入には大変厳しいものがあると私は考えるが、環境税の導入に関しては、もっと積極的に議論されるべきであろう。イギリス・ドイツでは、環境税を導入しつつ同額の税収を社会保険料の削減に充てる税制中立的な運用を図っていることも大きな特徴であり、

 ・経済成長に大きなマイナスのインパクトは見られず、

 ・雇用は逆に増え、

 ・ある程度のCO2削減が可能となり、

 ・低所得者層に対する逆進的な影響が懸念される使途分配についてもそれほど大きな影    響もみられない

 などのメリットが報告されている。雇用の増加は年金保険料の負担軽減によるもので、ドイツでは実際に成功例がある試みである。ただし、これらの政策の議論にあたっては、

「なぜ導入が必要なのか」という目的意識を明確に持つことが重要であると思われる。 

 現在消費税の導入が議論されているが、環境税により税収を増やすのも選択肢の一つではないだろうか。

 

参考資料

EUにおける環境政策枠組みの概要 

http://www.keieiken.co.jp/monthly/2006/0612-11/index.html

be special ECOマネジメント/コラム

http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/sawa/03/03.shtml

イギリス排出権取引の現状と展望

http://www.murc.jp/report/ufj_report/704/33.html

温暖化対策:エネルギー政策(再生可能エネルギー、原子力等)(METI/経済産業省)

http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/taiwa-answer-saiseienegy.htm

ヨーロッパの温暖化対策

http://earthoffuture.kagennotuki.com/yoroppa.html

EICネット[環境用語集:「エネルギー原単位」]

http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=237

京都議定書達成目標値と達成状況

http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/data/2010/kp_commitment_100602_graph.pdf

2009年度環境自主行動計画第三者委員会評価報告書

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2010/039.pdf

環境税制改革とポリシーミックスの定量評価

http://www.mof.go.jp/jouhou/soken/kenkyu/h18/adbi070228/s_02.pdf

 

 

 

 

 

 

 


 [a1]エネルギー効率を表す値。単位量の製品や額を生産するのに必要な電力・熱(燃料)などエネルギー消費量の総量のことで、一般に、省エネルギーの進捗状況をみる指標として使用される。