110117takasun 現代政治の理論と実際中間レポート

 

高栖紀行「米韓黄海にて軍事演習―空母『ジョージ・ワシントン』も参加―」

 

1.テーマ設定の理由

 私は当初レポートの作成にあたり、北朝鮮の韓国延坪島砲撃以降緊迫化する朝鮮半島情勢に関する調査を計画していた。しかし調査を進めるうちに対象とする情報の膨大さに驚くとともに、自分自身事態の概要を把握する程度にとどまり「具体的には?」と聞かれてもきちんと答えることができない状態にあると感じた。そのため今回のレポートでは11月末に黄海で行われた米韓合同軍事演習に焦点を当て、演習の概要やその目的、各国の動向について調査した。

 

2.演習の概要

今回の演習は11月28日(日)から12月1日(水)の4日間にかけて、朝鮮半島西側の黄海にて行われた。11月23日に発生した北朝鮮の延坪島砲撃に対する事実上の対抗措置であり、北朝鮮のさらなる武力行使の「抑止」を目的としている。演習は海上の南北境界線にあたる北方限界線(NLL)から約180キロ南の海域で実施され、米韓両国の艦船による通信訓練や水上艦船・潜水艦を目標とした戦闘訓練、空母「ジョージ・ワシントン」艦載機による敵航空機の迎撃訓練などが行われた。

 

3.演習に参加した主な戦力

アメリカ軍

○ニミッツ級航空母艦「ジョージ・ワシントン」

 アメリカ海軍第7艦隊所属の原子力空母。戦闘攻撃機F/A−18E/F「スーパーホーネット」をはじめ約70機の航空機を搭載する。2002年のアフガニスタン戦争をはじめインド洋、ペルシャ湾、地中海を中心に活動し、2008年からは横須賀基地に配備されている。

○タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦「カウペンス」

 所属、配備は「ジョージ・ワシントン」に同じ。空母の護衛を主な任務とし、防空戦闘を目的としたイージスシステムをはじめ対空・対艦ミサイル、対空機銃などを装備する。2003年のイラク戦争ではトマホーク巡航ミサイルによるイラク領内への対地攻撃を行った。

○アーレイバーグ級ミサイル駆逐艦「フィッツジェラルド」ほか2隻

 所属、配備は「ジョージ・ワシントン」に同じ。空母の護衛を任務としイージスシステムや対空・対艦ミサイル、対空機銃などを装備する。海上自衛隊が保有するこんごう型・あたご型護衛艦、韓国海軍の世宗大王級駆逐艦のベースとなった艦でもある。

F22ラプター

 アメリカ空軍の最新鋭戦闘機。レーダー波吸収素材(RAM)やミサイル・爆弾の胴体内搭載構造(ウェポンベイ・兵器庫)などにより高いステルス特性を誇る。

 

韓国軍

○世宗大王ミサイル駆逐艦「世宗大王」

 韓国海軍初のイージスシステム搭載艦。アメリカ海軍のアーレイバーグ級ミサイル駆逐艦をベースに開発された。対空ミサイル、対空機銃のほか国産の対艦・対地ミサイルを多数搭載するなど兵装の国産化・重装備化が進んでいる。

※その他韓国軍からは哨戒機PC、駆逐艦、哨戒艦、などが参加予定。

 

4.演習中の各国の動向

主な出来事

11月23日:北朝鮮、韓国領延坪島を砲撃。

同 24日:空母「ジョージ・ワシントン」横須賀出港、米韓合同軍事演習参加へ。

同 25日:韓国、交戦規則の見直し、NLL付近の島の部隊増強などを計画。

       中国、演習について北朝鮮を刺激しないようにけん制。

同 26日:日本、演習開催に合わせ閣僚ら都内待機。自衛隊に警戒態勢強化を指示。

同 27日:韓国、延坪島砲撃で殉職した兵士2名の告別式。

       日本、前原外相と中国外相が電話会談。

       北朝鮮、砲撃で韓国の民間人に死傷者が出たことに遺憾を表明。

同 28日:演習開始(〜12月1日まで)。

       中国、関係国へ六カ国協議再開を提案。

12月 1日:演習最終日。

韓国、対北朝鮮政策の見直し(南北対話の中止、人道支援の停止、南北協力事業である開城工業団地の閉鎖など)。

 

各国の対応

アメリカは今回の延坪島砲撃を受け11月28日から4日間にわたって米韓合同での軍事演習を実施、「ジョージ・ワシントン」やイージス艦を中心とする部隊を黄海へ派遣した。今回の空母派遣には北朝鮮の挑発抑止に加え軍事力誇示による中国の北朝鮮への影響力行使を迫る狙いがあったとみられる。28日に中国が提案した六カ国協議再開には消極的な姿勢を示した。

 

韓国は延坪島砲撃以降交戦規則の見直し、「黄海五島」(NLL付近の島)の戦力増強、対北朝鮮政策の見直しなどに着手することを表明した。このような強硬姿勢には北朝鮮への圧力に加え国内での政権運営安定化が狙いにあったとみられる。国内では戦争回避派と強硬策派の対立状態が続いている。中国が主張する六カ国協議再開には議論する時期ではないと難色を示し日本、アメリカと歩調を合わせる姿勢を見せた。

 

日本は演習期間中の閣僚らの都内待機や自衛隊の哨戒機・レーダー監視による警戒態勢の強化などを行った。27日には前原外相が中国外相と電話会談を行い、北朝鮮の新たな挑発行動を阻むための影響力行使や経済制裁へ向けての国連安保理での協力を求めた。六カ国協議開催には消極的な姿勢を示した。

 

北朝鮮は27日に砲撃で韓国の民間人に死傷者が出たことに初めて「遺憾」を表明した。米韓の圧力の緩和を期待しての対応とみられる。一方で死傷者が出たのは韓国が「『人間の盾』を形成した」為と主張して韓国に責任転換。演習への空母参加について「その結果はだれにも予測できない」と警告し新たな軍事行動を辞さない構えを示した。

 

中国は延坪島砲撃後、事態の鎮静化へ向けて北朝鮮・韓国双方に冷静な対応を求めた。また米韓合同軍事演習について「中国の排他的経済水域(EEZ)で、いかなる国も(中国の)許可なしに軍事行動をとることに反対する」すると表明し、北朝鮮を刺激しないようアメリカと韓国をけん制した。北朝鮮のさらなる暴発や自国の安全保障を懸念し演習に反対の立場を示したものの、韓国側に死傷者が出ていることや米国との対立回避を背景に強硬姿勢は示さなかった。演習初日の28日には関係各国へ六カ国協議の早期再開を提案した。このような動きの背景として米国などから北朝鮮への影響力行使を強く求められる中で外交努力をアピールする狙いがあったとみられる。

 

ロシアは当初「北朝鮮は韓国側に犠牲者を出した」「韓国は北朝鮮の警告にもかかわらず黄海で演習(9月に行われた米韓合同演習を指すものと思われる)を行った」として双方に責任があると主張したが、その後方針を転換、「人的犠牲を出した北朝鮮による韓国領内への砲撃は非難されるべきだとの立場をロシアは確認した」と北朝鮮を非難した。中国の六カ国協議再開の提案には肯定的立場を示している。

 

5.考察―今回の調査を振り返り―

 今回の米韓合同軍事演習は北朝鮮のさらなる武力行使の抑止を目的としている一方で、その裏では当事者のアメリカ、韓国だけでなく北朝鮮、中国、ロシアなども深い関わりを持っていることが分かった。また各国の動向や声明には必ず何らかの意図があることを知り、事象に対して広い視点から注意深く観察することが重要であると考えた。外交問題は自国の権益や他国との関わりの中で事象がより複雑化していて全体の把握が難しい話題であると感じた。

参考文献等

毎日新聞(毎日jp)2010年11月28日15時09分

http://mainichi.jp/select/world/news/20101128k0000e030016000c.html

読売新聞 2010年11月28日(日)

下野新聞 2010年11月26日(金)〜12月2日(木)