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佐藤利津「定額給付金から見た税金の再分配」

 

1 理由

 私はレポートテーマを考えるために、中村祐司先生のホームページでこれまでに提出されたレポートを読ませていただいた。その中の2008年度のレポートに定額給付金について書いてあるものがあった。その時点ではまだ定額給付金の正式決定にも至っていなかった。地方自治体からの目線で、主に批判的な内容であった。私も同じように定額給付金に反対の立場であった。だが、発表されて2年余り経った今定額給付金は経済対策として本当に効果があったのか。このことを考えさせられた。国民から集められる税金なのだから有効に使われていなくてはならない。ましてや、日本は多くの国債を抱えてしまっているのだ。今回は、定額給付金の視点から税金はどのようにして国民に還元されるべきなのかについて考えていきたいと思う。

 

2 概要

 与党等が決定した「生活対策」に基づき、景気後退での生活者の不安にきめ細かく対応するための家計への緊急支援として発表された。住民への生活支援を行うとともに、あわせて、住民に広く給付することにより、地域の経済対策に資することを目的としていた。給付対象者1人につき12000円(平成212月を基準にして65歳以上の者及び18歳以下の者については20000円)の給付が行われた。事業費は2兆395億13百万円 (事業費 1兆9570億円・事務費 825億13百万円)であった。事業の実施体は市町村(特別区を含む)で実施に要する経費(給付費及び務費)については、国が補助(補助率10/10)をした[1]

 

3 地方として

支給を受けるための申請書の印刷・郵送に始まって、返送されてきた申請書類の受付、不備検査、正常な申請書類のデータベースへの登録などの事務作業には、50万人規模位の市で最低150名必要になる。そんな余剰人員はさすがにどこでもいない。事務を業者に委託したり、自治体自らが臨時職員を雇ったりした。結果、期間限定だが、全国で数万人規模の新規雇用を生み効果があったようだ。膨大な事務作業に忙殺された市区町村の負担、事務費がかさんだ[2]。国は地方に仕事を任せ過ぎたと思う。

 

4 家庭として

結果として9割の人が定額給付金を受け取った。家計が市区町村から受け取った定額給付金の金額の1世帯あたりの平均は、4万4840円であった。各個人に給付されていたわけだが、世帯としてお金が入るため家族単位で家電を買ったりする家庭もあったようだ。また学生は、学費にあてられるなど、ある意味消費という位置づけのものだが、個人での消費には繋がっていないように思われる。使い道をコントロールしているのは、あくまでも保護者、または家計を預かる者である。定額給付金が消費として支出された割合は、「100%」とする世帯が50.0%、一方で「0%」とする世帯は26.9%であった。1世帯あたりの平均は、64.5%であった。また支出は教養娯楽が37.6%で次いで食料、家具、衣服、交通・通信というように並んだ[3]。使い方は指定されず、使うかどうかも強制されていない。だから消費では偏りが見られ、消費せずに貯蓄にまわす家庭もあったようだ。

 

5 社会では

デパートでは定額給付金セールを旅行会社では定額給付金旅行パックツアーなど定額給付金をうまく使わせる工夫がなされた。定額給付金募金[4]などということをおこなった団体もあったようだ。外食で『回らない寿司を食べる』、『発泡酒ではなくビールを飲む』といったような“プチ贅沢”をする人もいた。また市町村や総務省を装い給付金をねらった振り込め詐欺が懸念された。

日本ではGDP55%強を支えているのは個人消費であり、「現金給与総額」から見る限り、「消費支出」が増える要因はなかった。それが、定額給付金の対策がとられた2009年の5月、6月は「消費支出」がプラスになったという資料もあった[5]

 

6 事例

以前にも今回のような現金ではない地域振興券という形で経済政策をとった。地域振興券とは199941日から930日まで国内で流通した商品券である。子育てを支援し、老齢福祉年金等の受給者や所得の低い高齢者の経済的負担を軽減することにより、個人消費の喚起と地域経済の活性化、地域の振興を図ることを目的に発行された。財源の総額6,194億円を国が全額補助し、全国の市区町村が発行した。原則として発行元の市区町村のみで使用が認められた。配布対象となったのは、15歳以下の子供のいる世帯主、老年福祉年金、障害基礎年金、遺族基礎年金、母子年金、準母子年金、遺児年金、児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当の受給者、生活保護の被保護者、社会福祉施設への措置入所者、また満65歳以上で市町村民税の非課税者(課税されている者の税法上の被扶養者を除く)であった。このような条件を満たした者に一人20000円分の地域振興券が交付された。1999年に経済企画庁が行ったアンケートでは、振興券によって増えた消費は振興券使用額の32%であったとしている。地域振興券で消費は行うものの、その分使わなかった分のお金は貯蓄にまわされるなど、振興券がなくても行われた消費に使われたということである[6]だが発行元の市区町村でしか使用ができないため、買える物が限定されてしまうなどの問題もあったが、地域の商店街の活性化に繋がるといった良い面もあったのではないだろうか。

 

7 まとめ

今回の給付は国民一人一人が対象であり、給付額は一率ではなく一定の給付であった。使い道が限られることや指定されることはなかった。高所得者への給付の問題や「ばら撒き」との声があがった。給付は18歳以下、65歳以上は20000円と子育てと老齢福祉を優遇していることがわかる。また不景気であるから、所持金を増やし消費を拡大しようとした。とても単純な経済対策である。地域振興券の場合にはある程度配布対象者が狭められていた。また商品券にして釣銭を出すことを禁止していたため、交付以上の消費をする消費者が多くなる仕組みがあった。実際には商品券として交付しても貯蓄に回ってしまっていたのだ。政府にはこのことももっと学習しておいてもらいたいところであった。

景気後退での生活者の不安にきめ細かく対応するための家計への緊急支援」として給付が行われた。緊急支援としては、税金として国民から収集したお金を現金のまま国民に返すのが手っ取り早いかもしれない。現在子ども手当が支給されているが、これも現金での支給となっている。現金での支給では、個人または家庭で用途を自由に決めることができる。国の望む使い方ではないにしろ振興券とは違い定額給付金の受給者においては貯蓄という選択肢もあった。また高所得者と低所得者また障害者などのいる家庭では、たとえ一定の支給でも一定の価値ではないはずである。私は、税金の再分配として現金で国民に返すような作業するのではなく、生活環境を整えるなどの福祉を充実させるべきだと考える。例えば、子育てに関しては、養育費のために家庭にお金を支給するのではなく、保育施設の充実を図り保護者が働ける環境を作るなどである。その他にも、雇用の場を与える、医療・福祉の負担を軽減させる、など改良すべき環境はまだたくさん残っている。その方が家庭としての収入が上がる可能性がある。次に事務費について考えると、定額給付金では市町村に負担を与え、事務費に800億円以上もかけている。収集したものを返すのに事務費をかけるのならば、その分の税金を集めなければ良いのではないかと考えてしまう。事務費は正確に作業を行うためには必要だが、国民にとっては生活の向上に繋がってこない。

 定額給付金が給付された時私は18歳以下であったため20000円がもらえると、嬉しくなった。だがしかしそれが税金でまかなわれていると思うと重くなる。それは、私たちの義務となってその穴埋めをしなくてはならないからである。増税の議論がなされているが、給付をして増税をするような現金の渡し合いをするのは国の政策として不安定であると思う。税金はより良い社会づくりのために国民が収めているのだから、生活環境や社会構造に充てられるのが良いと思う。それは、現金によって各個人が変えていけるようなものではないと考える。だからこそ国民から税金としてお金を集め、一丸とされてから社会に再配分されていくべきだと思う。

 

 



[1]http://www.soumu.go.jp/teigakukyufu/index.html総務省|定額給付金について

[2] http://www.dir.co.jp/publicity/column/081208.html大和総研ホールディングス コラム「定額給付金」再考(201012月現在) 

 

[3]「定額給付金に関連した消費等に関連する調査」の結果について 内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

[4] http://www.charity-platform.com/kikin/img/top_image.gif top_image.gif

[5] http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091029/192387/?P=2定額給付金 効果はあったのか? なかったのか? | BPnetビズカレッジ:ビジネスベーシック | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

[6] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E6%8C%AF%E8%88%88%E5%88%B8地域振興券 - Wikipedia