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水庭誼子「森林・林業再生プランにおける木材自給率」
森林はとても多くの役割・機能を持っており、現在は、特に環境問題的視点からの森林への注目度は高い。日本の国土の67.3%、つまり約7割は森林であり、世界で見ても高い割合を保っている。京都議定書によって二酸化炭素排出量の削減を義務付けられている日本にとって、森林の扱いは非常に大切な問題となっている。
そんな現状の中、日本政府はこれらの問題の対策として平成21年12月25日に「森林・林業再生プラン」を公表した。この森林・林業再生プランによると「10年後の木材自給率50%以上」[1]にというのがこれから目指すべき姿として掲げられている。私は、この部分についてわずかな疑問を持った。そのため、今回は森林・林業再生プランと日本の木材自給率の関係や、日本の森林の現状、また、そこから森林・林業再生プランの問題点について論述していくことにする。
ではまず、この森林・林業再生プランはどのようなプランなのだろうか。
このプランの基本認識としては、戦後の一斉造林による人工林の木材資源が利用可能な段階であることへの対応という面、世界的な木材の需要が高まりによる資源の輸入の先行きの不透明さから、自国の資源の利用への期待という面、そしてこういった状況への対策として作成されており、日本国の社会構造をコンクリート社会から木の社会への転換を全体の目標としている。
森林は非常に多面的な機能を持っている。緑のダムと言われるような涵養機能、森林セラピーなどの保健休養機能や、現在注目されているような環境・生態系の機能もあるが、私はもっとも重要視するべきなのは生産機能であると考える。確かに森林保護は非常に大切なことであるし、必要なことである。そして、日本の経済における森林の占める割合は高くない。そのため、政府がむやみに森林に経済的な投資をしたのでは、資本主義社会的視点から釣り合いが取れなくなり、重荷になってしまう。つまり、理想としては森林から利益を得た上で、その利益の一部を森林自体にフィードバックしていかなくては、森林を軸とする社会を成り立たせることが出来ない。
また、上記のように、森林・林業再生プランによると、「10年後の木材自給率50%以上」というのが目指すべき姿として掲げられている。これは現在の日本の木材自給率が27.8%(平成21年)という現状が問題視されていることから提案されているのだと思う。しかも、この数値は、リーマンショックによる国際的な金融危機からの木材消費の全体的な低下によるものであることが考えられる。前年の平成20年度においては木材自給率24.0%、前々年の平成19年度では22.6%であり、全体から見てみると平成元年からは18%以上30%未満という、低い値での木材自給率となっている。[2]
ではここで、木材自給率50%以上というのは、日本で言うといつ頃の話なのかを考えてみる。これは、資料を遡って見てみると、昭和44年以前の自給率を目指すということである。つまり、いまから40年以上前のレベルである。この時期以降に日本の木材自給率が低下した理由としては、日本円の通貨としての価値が上昇したという点が理由として挙げられる。また、日本国内では、木材資源の需要が高まっており、供給量を増やすために木材の輸入量は増加した。日本は、国土面積から見て、世界的も森林面積と木材の生産量の釣り合いは取れていない。
では、なぜこんなにも豊富に存在している国内の木材が利用されないのか。
その主な理由としては、真っ先に国産材の木材価格が外材と比較して高くなっているということが挙げられるだろう。国産材は外材よりも育てるのに手間をかけ、節や曲がりのない木材を生産する。そのために、植林や下刈り、除伐・間伐など、木を育てる面で多くの労力を割いている。一方外材の多くは広大な土地を利用した天然更新が主であり、国産材と比較して育林面でのコストはとても低くなる。また、育林費と同様に国産材の価格に大きく関わっているのが伐出費である。伐出費とは木材を山から切り出す際にかかる費用のことである。日本の森林の多くは山に存在し、林業ひとつひとつの規模は大きくない。そのため木を切り出し運び出すための大型機械の導入は困難となる。大型機械の導入のためにはまず機械が通れるだけの道を作らなくてはならないし、機械自体も非常に高価なものである。また、山の斜面での生産効率は多くを平地で生産する外材に劣る。こういったそもそもの育林方法や育林場所の地形などの違いから、国産材と外材の間には価格差が生じてしまう。
このような価格差から、日本の木材は売れなくなり、需要と供給の関係から木材価格が下がる。木材価格の低下により、林業を営む人口が減少し、森林の管理が不十分になる。手入れを行わない人工林の木は一本一本がとても細く、森林全体のバイオマス量は多いが木材としては利用価値の低い、安値の木材しか生産できなくなる。よってますます日本の林業は衰退し、輸入に頼らざるを得ない現状へとつながる。
日本が木材自給率を上昇させるための案として、アメリカやカナダのような、広大な土地を用いた手間のかからない生産方法を採用するというのはほぼ不可能に近い。なぜならば、そうすることにより得られるものは非常に少ないからである。そもそもの規模が大きすぎるし、そこまでするほどのメリットがない。山を切り開けば、作業効率も良くなり、生産は容易になるかもしれない。しかしながら、そうすることでもともと山にいた動植物は住処をなくし、森林の持つ機能のひとつである生物の多様性、生態系は失われることとなる。また、その土地の所有者と話を付けるのも難しい。
日本が森林・林業再生プランにある「10年後の木材自給率50%以上」を達成するためには、端的言えば、木材の輸入をやめればいいのである。しかしながら、それを実行するのは国際関係の都合から考えて非常にむつかしい。木材を輸入することは、工業製品などで輸出超過の日本の貿易バランスをとるための一つの要素であるからだ。つまり、木材の国内生産量を増やし、輸入量を減らすべきである。国内生産をいくら増やしても、それ以上に木材を輸入しているのでは木材自給率が上がるはずがないため、輸入量にも目を向けなくてはならない。そして、日本で利用されている約83%のパルプ・チップが外国から輸入されている[3]ことから、輸入木材の中でも特にパルプ・チップの輸入量を減らさなければならない。しかし、林野庁の公表している森林・林業再生プラン[4]の中には、輸入に関する記述はなく、これからの林業の施業・方針に関する項目が内容のほとんどである。確かに、「森林・林業再生プラン」なのだから、まちがっていないのであるが、目指すべき姿にある、「10年後の木材自給率50%以上」という項目のみが突出してしまっているように感じる。漠然とした目標を掲げるのではなく、データを用いて算出した実現可能な値をこれからの日本の目指すべき姿とするべきではないだろうか。
[1] http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/saisei/pdf/saisei-plan-gaiyou.pdf
林野庁「森林・林業再生プラン概要」、2011年1月現在。
[2] 平成21年林野庁木材需給表、2011年1月現在。
[3] 平成21年林野庁木材需給表、2011年1月現在。
[4] http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/saisei/pdf/saisei-plan-honbun.pdf
林野庁「森林・林業再生プラン〜コンクリート社会から木の社会へ〜」、2011年1月現在。