110117hiromiyat
廣宮知典「新卒採用の現状から見た、今後の国・政府の課題」
1.
現在の新卒の就職状況と、その背景
最初に、現在の新卒の就職状況と、その背景について、述べたい。
まずは、就職状況である。産経新聞によると、今春卒業者の10月1日時点の就職内定率は、57.6%と、調査が始まった平成8年以来で、過去最低となった(Yahoo!ニュース 2010年12月13日参照)[1]。また、毎日新聞によると、12年の新卒予定者は、就職活動が事実上始まった大学3年生や12年新卒予定の大学院生が、11月時点で既に1人当たり57社を受けており、就職を早く、また、より多くの企業を受けていることが分かる(毎日jp 2010年12月13日参照)[2]。
このような背景として、どのようなことが挙げられるだろうか。
1つ目は、雇用体系の多様化である。朝日新聞によると、2008年10月以降に、解雇や雇い止めによって、職業を失った非正社員の累計は、予定も含めると今年3月までで30万人に達するが、そのうちの半数を、派遣労働者が占めている為、一部例外を除いて、製造業派遣を禁止すること等を盛り込んだ改正案を2010年春の通常国会で提出されたが、未だ成立していない(朝日新聞 2010年12月31日参照)[3]。
しかし、影響を受けているのは、非正規労働者だけではない。朝日新聞によると、正社員も「使い捨て」が起きていることを、都内の男性のインタビュー等によって、説明している(朝日新聞 2010年12月7日参照)[4]。
2つ目は、今日の経済状況である。アメリカに端を発した、世界同時不況の影響や、我が国の急速な円高による影響が大きい。外務省によると、2009年の実質GDP成長率は、-6.3%となっている(外務省 2011年1月16日参照)[5]。
そして、3つ目は、リーダーシップの欠如である。先日行われた、参議院選挙によって、民主党・国民新党の連立与党が議会での過半数割れをした。毎日新聞によると、内閣支持率は29%である(Yahoo!ニュース 2011年1月17日参照)[6]。内閣支持率の低迷の理由として、様々な要因が挙げられるが、小沢元民主党代表を中心とした、政治とカネに絡んだ問題や、相次ぐ閣僚の失言、また、政権の不安定さが、リーダーシップの欠如に繋がっているのではないかと考える。
2.
日本と世界との職業教育訓練の違い
次に、日本と世界の職業教育訓練の違いについて、述べたい。
丸山氏によると、ドイツ・中国・オランダ等は、学校に行きながら職業の現場にも行き、勤めた分の給料も出る、従弟制度型を採用している他、フランス・アメリカは、学校教育中心型を採用しており、これにより、高度に職業資格が発達しているのに対して、日本は、企業内教育中心型を採用している(丸山剛史 2010年11月12日参照)[7]。
このように、我が国の職業教育訓練は、世界と比べて大きく異なっている。
これは、同時に、他の国のような雇用対策を行ったとしても、効果的な成果は得られないのではないかと考える。
3.
主に、個人から見た取り組みの例
ここからは、様々な立場から見た、取り組みについて、述べたい。
朝日新聞によると、「逆求人フェスティバル」という、選ばれた学生約100人を、企業側が訪れるというものが開催されたり、ブルーシートの上で、学生と社会人が缶ビールやつまみを手に車座で「働くとは何か」を語り合う「月見塾」という企画を開催したりという動きがある(朝日新聞 2011年1月7日参照)[8]。
これらの企画を主催したのは就職支援会社や、コンサルティング会社ではあるが、その取り組みに、学生が参加するという点において、個人から見た取り組みに入れた。
4.
主に、企業から見た取り組みの例
次は、企業での取り組みである。
先程挙げた「逆求人フェスティバル」や、「月見塾」は、企業が主催となって、取り組んでいる。つまり、企業から見た取り組みでもある。
その他の例について、見ていきたい。
毎日新聞によると、パイオニアは、新卒者採用を12年春入社から3年ぶりに再開する方針を決め、その理由として、10年3月期までに国内外で約6000人の正社員を削減し、業績が改善したことによる措置である、と述べている(毎日jp 2010年12月13日参照)[9]。
会社独自の動きがある一方で、経済界においても、手を拱いている訳ではない。
朝日新聞によると、日本経団連は、大学新卒者の採用に向けた会社説明会等の広報活動を、現行よりも遅らせるように、会員企業に求める検討を始めたり、去年10月には、商社の業界団体である日本貿易会が、選考活動の開始時期を4年生の夏以降に遅らせる方針を表明したり、また、去年12月には、日本製薬工業協会が説明会を3年生の2~3月に遅らせる会長声明を出している(朝日新聞 2011年1月6日参照)[10]。
5.
主に、国・政府から見た取り組みの例
最後に、国・政府での取り組みである。
朝日新聞によると、経済産業省は、地球温暖化対策や省エネに繋がる民間企業の設備投資に対して、約1100億円の補助金を支出する対象となる153の事業を発表し、設備の増設等によって、直接的には計9700人の新規雇用を、取引先企業を含めると9万5千人の雇用を生み出すとしている(朝日新聞 2010年12月28日参照)[11]。
また、11年度の政府予算案によると、雇用創出の分野において、内定していない高校生や大学生への就職相談員の増員や、新卒応援ハローワークの設置で、計110億円を計上している(朝日新聞 2010年12月25日参照)[12]。
6.
私の意見
ここまで、新卒採用における現状について、述べてきた。
就職する側も、また、採用する側も、様々な手を使って、今日の就職状況を乗り切ろうとしていることが分かる。
しかし、個人や企業だけでの努力では、限界があると考える。例えば、企業では、新卒の採用時期を遅らせるという動きがある。しかし、より優秀な人材を欲しいと考える企業にとっては、より早くに、採用したいと考えるのは、当然のことであり、制度やルール作りを、しっかりと構築することが、大切になると考える。
このような例を挙げた上で、私は、国・政府の重要性について、述べていきたい。
先程の例で考えると、企業の採用の開始時期を国・政府が主導となって、法律で設定しておけば、制度として、より確実なものになるのではないかと、考える。
しかし、先述にも挙げたように、国・政府は、現在、厳しい状況におかれている。
ここでは、大きく3つの点について述べたい。
1つ目は、政治不信である。これは、先程に述べた。
2つ目は、国際社会における、経済状況である。これも、先述の通りである。
3つ目は、我が国の財政状況である。朝日新聞によると、2011年度の一般会計の予算案のうち、税収が国債発行を2年連続で上回っている(朝日新聞 2010年12月25日参照)[13]。また、朝日新聞によると、国債の発行残高は11年度末で667兆6000億になる見込みであり(朝日新聞 12月25日参照)[14]、「借金をするために借金をする」という、悪循環に陥っている。
私は、現在の新卒採用の改善の為には、国・政府の役割が、非常に重要であると考える。
したがって、国・政府の役割が最大限に発揮される為には、これら3つの点の改善を行うことが、現在の新卒採用の改善の為に、必要不可欠になるものと考える。
[1] Yahoo!ニュース(産経新聞)/過去最悪の就職内定率 「超氷河期」に戸惑う学生;
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101204-00000572-san-bus_all
(2010年12月13日参照)
[2] 毎日jp(毎日新聞)/就職活動:12年新卒予定者、既に1人57社「より早く、多く」;
http://mainichi.jp/life/job/news/20101211ddm012100110000c.html
(2010年12月13日参照)
[3] 朝日新聞 『派遣切り 再発の懸念』 2010年12月31日付
[4] 朝日新聞 『正社員も「使い捨て」』 2010年12月7日付
[5] 外務省/主要経済指標(日本及び海外)/1.4実質GDP成長率(PDFファイル);
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ecodata/pdfs/k_shihyo.pdf (2011年1月16日参照)
[6] 毎日jp(毎日新聞)/内閣改造:政権浮揚不発、民主党内に悲観論…本社世論調査;
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110116k0000e010002000c.html
(2011年1月16日参照)
[7] 丸山剛史 世界の職業教育訓練(教育課程及びその方法) 2010年11月12日参照
[8] 朝日新聞 『学生・企業 新たな出会い』 2011年1月7日付
[9] 毎日jp(毎日新聞)/パイオニア:新卒者採用3年ぶり再開へ 12年春入社から;
http://mainichi.jp/select/biz/news/20101204k0000m020058000c.html
(2010年12月13日参照)
[10] 朝日新聞 『就職の会社説明会 経団連「遅らせて」』 2011年1月6日付
[11] 朝日新聞 『9700人雇用拡大へ』 2010年12月28日付
[12] 朝日新聞 『雇用増 乏しい戦略』 2010年12月25日付
[13] 朝日新聞 『借金頼み 予算92.4兆円』 2010年12月25日付
[14] 朝日新聞 『雇用増 乏しい戦略』 2010年12月25日付