110117
akatsukas
赤塚諭「法人税率引き下げの必要性」
⑴法人税実効税率
法人税は企業の所得にかかる国税である。所得とは収入から材料費や人件費などの費用を差し引いたものである。法人税額は所得に法人税率をかけて算出する。これに法人住民税や法人事業税などの地方税を加味した企業の実際の負担を示すのが実効税率である。主要国の法人税実効税率はアメリカが40.75%、フランスが33.33%、ドイツが29.41%である。日本の実効税率は40.69%である。[1]
菅政権は2010年12月16日、法人税実効税率を5%引き下げることを決定した。同時に、菅政権は所得税と相続税を7,400億円規模で増税することも決定した。[2]菅政権の決定は企業の税負担を軽減し、個人向けの増税を行うものである。
見かけの実効税率だけを他国と比較し、日本の実効税率は他国より高いから引き下げるべきだという議論は短絡的である。本稿では現在の日本における法人税の軽減措置を考察し、法人税率引き下げの必要性を探る。
⑵日本の法人税の軽減措置
現在、日本では法人税の軽減措置がとられている。法人税を軽減する方法は2つある。1つめは法人税率を引き下げることである。2つめは税額を減らすことである。
資本金が1億円に満たない企業については、法人税率を22%としている(法人税法第66条2項)。2010年度までは、中小企業に対する法人税率は18%である。[3]2011年度から3年間は、中小企業の法人税率は15%に下がる。[4]
日本は試験研究費税額控除、外国税額控除という法人税の軽減措置をとっている。試験研究費税額控除とは、試験研究費を企業の法人税額から差し引いて、法人税額を減らす制度である。試験研究費とは新製品の製造や技術の改良、発明のために必要な費用のことである。最大で法人税額の20%が企業の法人税額から差し引かれる。
外国税額控除とは外国に支払った税額を日本の法人税額から差し引くことである。海外で営業している日本企業が海外で所得を得たとする。日本企業が所得の15%を法人税として外国に納めたとする。この日本企業が本来納めるべき法人税は30%だが、すでに外国に所得の15%を納税しているので、日本で納税するのは所得の15%でよい。この日本企業は所得の30%を日本に納める必要はない。この制度は日本企業の不当な税負担を軽減しているので、妥当な制度である。
しかし日本は一部の国に対して、みなし外国税額控除を認めてい
る。みなし外国税額控除は、日本企業が外国政府に実際には支払っていない税額までも、日本に納めるべき法人税額から差し引く制度である。日本がみなし外国税額控除を認める理由は、外国企業誘致のために外国企業に優遇税率を適用する国に配慮するためである。外国が企業誘致のために減税措置を行っているのに、外国では優遇されて支払わずに済んだ税金を日本が徴収すると、企業から見れば納税国が違うだけで納税額は同じになる。
たとえば、外国企業に優遇税制を適用するA国に、B社という日本企業が進出したとする。B社はA国と日本に合計で3,000円の法人税を納税しなければならないとする。B社はA国に1,000円、日本に2,000円を納めることにしたとする。だが優遇税制により、B社はA国に500円しか支払わないですむとする。このときB社が支払うべき法人税の3,000円から、A国に実際に支払った500円を差し引いた2,500円をB社が日本に納めるのではない。B社が支払うべき法人税3,000円からA国に支払うべきだった1,000円を差し引いた2,000円をB社は日本に納めればよい。B社がA国に実際に支払った金額は500円だから、企業は500円の税金を納めずにすむ。みなし外国税額控除がなくなり、B社がA国に500円納税し、日本に2,500円納税しなければならないとする。B社はA国に進出してもしなくても、納税額は変わらない。A国への外国企業の進出が進まず、A国の優遇税制が無意味になる。日本は他国の優遇税制に配慮し、みなし外国税額控除を認めている。
⑶実際の法人税実効税率
資本金が1億円に満たない企業の法人税率は22%である。法人税率が22%のとき、実効税率は32.30%になる。2008年度の日本では、資本金が1億円未満の企業の割合は全企業の98.6%を占める。[5]日本にある企業の98.6%に対する法人税実効税率は32.30%である。2011年度から3年間、中小企業に対する法人税率は15%に引き下がるので、中小企業に対する法人税実効税率は24.81%になる。試験研究費税額控除や外国税額控除などの法人税の軽減措置を利用すると、日本の大企業の法人税実効税率の平均は30.7%になる。[6]日本の企業の大部分に対する法人税実効税率は他国と比較しても高くはない。
⑷法人税実効税率引き下げの必要性
日本の大部分の企業に対する法人税実効税率は他の主要国と同等である。法人税率を5%引き下げれば1.5兆円の税収が減少するが、現在のところ1.5兆円の財源は確保できていない。[7]2011年度予算では、法人税率を引き下げる一方で、個人向けの増税は7,400億円になる。[8]個人の負担を増やしてまで日本は法人税率を引き下げる必要はない。
[1] 財務省 法人所得課税の実効税率の国際比較
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/084.htm(2011年1月現在)
[2] 朝日新聞 2011年1月6日 朝刊6面
[3] 国税庁 平成21年度税制改革(法人税)について
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/hojin/kaisei2009/pdf/02.pdf(2011年1月現在)
[4] 朝日新聞 2010年12月17日 朝刊1面
[6] 北野弘久・谷山治雄著 『日本税制の総点検』 2010年 勁草書房 150ページ
[7] 朝日新聞 2010年12月14日 朝刊3面
[8] 朝日新聞 2010年12月14日 朝刊1面