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戸倉毅「郵政民営化によって変化した業務内容と民主党政権による民営化見直しについて」

 

はじめに

私は今回のレポート課題が出題された時、以前から興味深かった郵政民営化問題についてレポートを書こうと思った。2005年に行われた郵政選挙。その結果自民党が圧勝し、小泉元首相が掲げる郵政民営化が本格的に行われることになった。それから2年後に行われた参議院選挙で民主党が参議院第一党となり郵政民営化の見直しが始まった。そして今、民主党政権となり郵政民営化見直しが本格的に開始された。この5年間注目されてきた郵政民営化問題がこの先どのように決着するのか目が離せない。そこで今回のレポートを通して郵政民営化問題を次の内容に注目して考えていきたいと思う。私たちが普段利用する郵便局がなぜ民営化されたのか。また、郵政民営化による問題点や会社構造。そして、郵便局の業務内容がどのように変化したのか利用者と郵便局で働く人の双方の立場から論点を広げていきたい。

 

1.郵政民営化が行われた理由

郵便局は、郵便配達の他に郵便貯金や簡易保険業務を行い約350兆円もの資金が集まっていた。この資金は最初国に貸し出され、日本道路公団や住宅金融公庫といった特殊法人の資金になっていた。これらの特殊法人は資金源が安定しているので、道路建設に積極的に取り組んだ。その結果、建設費用に見合わない道路建設も行われるようになり赤字道路が作られるようになった。そこで小泉元首相は、郵便局に集まったお金を国に流れるのを阻止するためにも郵便局を民間にしてしまい、国がお金を利用できない形にすることを目的として郵政民営化を政策の筆頭に掲げた政治を行うことにした。また、郵便局も一般の金融機関と同じように、利用者から集めたお金を自分たちの力で利子をつけて返せるようになれば、民間の企業として国に税金が入ってくることになり税収増加も見込める。その他にも、民間企業としてサービス向上が期待される。[]これらの理由から郵政民営化が行われた。

 

2.郵政民営化による会社構造と各社の業務内容

 ここでは民営化によって作られた新たな郵便局がどのような会社形態をとっているのかについて書く。1871年(明治4年)以来国営だった郵便事業が2007年10月に民営化された。グループの持株会社となる「日本郵政」と、その傘下会社として手紙や宅配便を集配する「郵便事業会社」、窓口業務を担う「郵便局会社」、銀行業務を行う「ゆうちょ銀行」、簡易保険の「かんぽ生命」の5社で郵便局を構成することになった。現在各社の株式は政府が100%保有している。

 

3.民営化前の業務内容と民営化後の業務内容

 この段落では、郵便局の種類と民営化前、民営化後の各職員の仕事内容について書く。民営化以前は、普通郵便局と簡易郵便局の他に特定郵便局があった。この特定郵便局には、集配を行う集配特定郵便局と、集配を行わない無集配特定郵便局の2種類があった。日本にある郵便局の約4分の3はこの特定郵便局が占めている。現在は普通郵便局が支店、集配特定郵便局が支店の下にある集配センターとして、無集配特定郵便局は郵便局として存在している。民営化前と民営化後で業務内容が大幅に変わったのは集配特定郵便局の業務内容だ。普通郵便局は規模が大きいだけに民営化前から仕事の内容が貯金、保険、集配と分担されてきた。無集配特定郵便局は、民営化前も後も貯金や保険といった業務だけなので大きな変化はない。しかし、集配特定郵便局で3事業総合担務職員として働いていた人の業務内容が大幅に変化した。民営化前は3事業総合担務職員という名前の通り、郵便・貯金・保険の業務を一人3役で行ってきたが、民営化後は郵便事業会社か郵便局会社のどちらかへ帰属し、郵便配達をする社員と保険の販売や貯金を担当する社員に分担された。以前は郵便配達を行いながら保険の契約や、貯金などの業務を行っていたため現在より効率が良かったように思える。郵便配達の人が集配を行いながら貯金や保険の契約を行っていたことで、郵便局まで足を運ぶのが困難なお年寄りにも使いやすかった。また、地域の郵便屋さんという身近に感じられる郵便局員がいることで、一人暮らしのお年寄りの心の支えとなっていた面もあると思う。ある過疎地域にある集配特定郵便局では、地元の村役場と連携して郵便配達を行いながら高齢者の話し相手や相談相手になり、安否確認なども行っていたそうだ。しかし、郵政民営化後はこのような業務は廃止されてしまったという。(私の知り合いの郵便局職員へのインタビューから)

 

4.郵政民営化における問題点

 2でも書いた通り小泉政権の時に行われた郵政民営化では、日本郵政の下に傘下の4社がぶら下がる形がとられた。ここで注目したいのは、各会社の収益や損失状況だ。日本郵政が、2009年11月25日に発表した平成21年9月中間連結決算の最終利益は、前年を9.7%下回る2009億円となった。この背景には、日本通運との宅配便事業統合の遅れで損失が膨らんだ上、傘下の郵便事業会社が193億円の赤字を計上したことなどがあげられる。日本郵政グループでは、金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命)に比べ、郵便2社(郵便事業会社、郵便局会社)の収益は見劣りしている。最終損益では、ゆうちょ銀行は5.3%増の1581億円、かんぽ生命は53.9%増の380億円とそれぞれ黒字になっている。[]これらから、4事業間で収益性に大きな差が出ていることが分かる。郵便局会社や郵便事業会社は単独で経営を維持していくことは困難だ。

 

5.民主党政権による郵政民営化見直し

 2009年夏に行われた衆議院選挙で民主党が自民党に大差をつけ圧勝した結果、民主・社民・国民新党による3党連立政権が誕生した。この3党は衆議院選挙前から共通政策として郵政民営化の抜本的な見直しを掲げていた。現在国民新党の亀井静香郵政・金融担当大臣が中心となり民主党連立政権による郵政民営化見直しが行われている。2009年12月4日には臨時国会の参議院において日本郵政グループの株式を凍結する法案が可決された。その結果、郵政民営化当初の目標であった、日本郵政の保有するゆうちょ銀行・かんぽ生命両社の株式の2009年度中の上場・市場売出しと、かんぽの宿などの不動産売却が当面凍結されることになった。[]

 また、郵政民営化見直しの具体案については、現在政権与党内で調整が続いているが、2010年1月13日に郵政改革法案の国民新党原案が明らかになった。国民新党原案によると、現在の日本郵政グループのうち、持株会社の日本郵政と郵便事業会社、郵便局会社の3社を統合。原則として政府が統合会社の全株式を保有するが、売却する場合も3分の1を限度とする。ゆうちょ銀行とかんぽ生命は統合会社の子会社とし、株式は100%親会社が保有し続ける。今後、この案を軸に政権与党内で調整を進める。この原案の目的は政府に統合会社の全株式を保有させることで郵政事業に対する国の関与を残すことが狙いの一つになっている。[]この案で郵政民営化見直しが行われた場合は、収益性に弱い郵便事業会社と郵便局会社を日本郵政に統合することによって支えることができる。また、金融2社を子会社とすることで各事業間でのつながりが今まで以上に強くなる。

 

6.郵政民営化における現状と民主党政権における民営化見直しに対しての自分の考え

 私は、今回のレポートで郵政民営化がなぜ行われたのか。また民営化によって引き起こされた問題点や、地方の郵便局での業務内容の変更、及び4事業間での収益格差、そして民主党政権における民営化見直しについて見てきた。郵政民営化が行われた理由の1つである、国による郵便局資金の活用は避ける必要があると思う。しかし、郵便局は首都圏、過疎地に限らず地域の金融の要所となっている。そのため、郵便局を民間にすることで過疎地にある旧無集配特定郵便局や簡易郵便局が閉鎖される恐れが出てくることは、過疎地域に住む人への金融隔離が進むことになると思う。また、町村地区といった比較的田舎の地区では、旧集配特定郵便局が多く、現在はその地域を管轄する郵便局の支店の下に集配センターとして存在している。3でも述べたように、民営化される前のある村にある集配特定郵便局では、役場と共同で一人暮らしのお年寄りの安否確認や、道路の状況の良くない場所を役場に報告する業務も行っていた。しかし、民営化と共にこのような業務が廃止されてしまった。これは、地域住民と郵便屋さんという心温かいつながりを切ってしまっているのではないだろうか。私自身田舎出身のため、郵便屋さんは身近な存在であった。それが民営化によって崩れてきたように思う。また収益を見ると郵政4事業の内、金融2社と郵便2社の間には大きな差がある。この差がある限り郵便局の完全民営分社化は難しいだろう。

 これらから私は現在民主党政権が調整を行っている郵政民営化見直しに賛成である。まだ調整中でどのような結果になるかはっきりとは分からないが、基本的に郵便2社を持ち株会社の日本郵政と統合することは、郵便機能を確実なものにできるので良き考えであると思う。そして、日本郵政グループ株の全部または大半を政府が保有することで国の影響力を示しながらも運営を任せる現在の国民新党の原案は過疎地域の郵便局を守るためにも良き考えだ。地方の小さな町村では郵便屋さんが配達だけでなく、一人暮らしの高齢者の話し相手になったり、安否確認をしていた昔ながらの地域密着型の郵便局に戻ってほしい。

 



≪参考文献≫

[] http://www.nhk.or.jp/kdns/hatena/05/0319.html (NHK週刊こどもニュース「郵政民営化とは」、20101月現在)

 

[] http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/print/politics/econpolicy/328623/ (iZaβ版、産経新聞「日本郵政の9月中間決算、宅配便統合遅れで減益」、2010115日現在)

 

[] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%B5%E6%94%BF%E6%B0%91%E5%96%B6%E5%8C%96(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「郵政民営化(民主党政権による見直し)」、2010118日現在)

 

[] http://www.asahi.com/politics/update/0114/TKY201001130498.html (asahi.com「郵政株、政府が3分の2以上保有 国民新党の見直し原案」、2010114日現在)