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森島史明「八ツ場ダム問題を通して政治について考えたこと」

 

 2009(平成21)年は政権交代により、事業仕分けや新しい事業の試みといったように、行政の見直しが急ピッチに進められている。毎日毎日新しい出来事が起こっており、そのあまりの速さに一つ一つを自分自身理解が付いていけない。しかしそんな中、国土交通省が八ツ場ダム建設中止を表明ということで、大きく世間の関心を集めた。メディアでは、住民の立場からの報道が多く、建設中止は悪というような記事や報道が多く感じられた。私も一時期はそのような考えを持っていたが、この講義でダム問題を取り上げられた時、行政側の意見を知り、ひとすじに建設中止が悪だということはいえないと思い、この問題に関心を抱いた。それと同時に、自分自身農業環境工学科に所属しているので、将来、ダム建設に何らかの形でかかわる可能性が十二分にあるということで、レポートの大きなテーマをダム問題に決定した。

 ダムといっても、全国には数多くのダム(建設中も含む)が存在している。それぞれ、抱える事情や役割が異なり、それを取り上げるには時間もなく、きりもなくなってくるため、今回は自身の地元である栃木県に関係する八ツ場ダムに論点を絞っていきたい。

 まず、八ツ場ダムとは、群馬県長野原町を流れる利根川の支流吾妻川で、国が建設していた治水、利水、発電、流量維持を目的とする多目的ダムである。このダムは、1947(昭和22)年に関東地方で発生したカスリーン台風を教訓に、洪水対策として1952(昭和27)年に計画が浮上した。また、高度経済成長により東京で渇水が頻発し、水不足への懸念が強まっていたことも同時に背景にある。

しかし、流れる水が強酸性であり、鉄やコンクリートを急速に劣化させることから、一時は計画が断念された。その後、上流にて中和処理事業が始まり、水質問題が解決されたため、1956(昭和31)年に再び計画が浮上した。計画では、340世帯が水没するという。当然、地元住民は強く反対運動を展開したが、1980(昭和55)年に県が地元住民へ生活再建案を提示した結果、1985(昭和60)年にダム建設を事実上容認した。翌年に国が基本計画を告示し、1994(平成6)年に関連工事に着手した。当初、2000(平成12)年度に完成予定だったが、工期が二度延長され、2015(平成27)年度完成予定に変更された。この間に、首都圏の水需要の頭打ちや環境問題の観点から、ダム建設に疑問を持つ都市住民が目立つようになった。

また、事業が長期化したことで補償がかさんだため、建設事業費は2110億円から4600億円に倍増した。この額は、国内のダムの建設事業費としては最高額で、ほかに地域振興の関連事業に一千億円以上が投じられる予定だった。ところが、ダム本体の関連費用だけ見てみると、わずか620億円となっている。

そんな中、民主党はマニフェストにて中止を明記し、2009(平成21)8月の総選挙で大勝し、自民党から政権をとった。1)

 政権交代後、前原国交相はマニフェスト通りダム建設の見直しを表明。その中でも八ツ場ダムは建設中止を言い渡された。当然、地元住民を始め、ダム建設費用の一部を負担している都県からの反対の声があがった。

 地元住民は、ダム建設に対して苦渋の決断をして建設の協力を行ってきたのに、今さら中止なんて勝手すぎるという怒りをこめた気持ちであった。また、中止になったら地元住民の生活はどうなるのかという大きな不安や戸惑いもある。

 各都県の知事らは、水資源の確保の点で不安の色を隠せない。また、利水や治水を予定して投資したのに、中止になったら大きな損害になると懸念している。特に、治水分を負担している6都県(栃木県を含む)は、治水分については返還の規定がないため、建設中止の反対を要求している。

一方、前原国交相は、できるだけダムに頼らない治水への政策転換を考えており、堤防のかさ上げや既存ダムの改良などの治水策を検討している。地元住民においては、生活再建は継続するとしている。また、各都県においても、特定多目的ダム法で規定のある利水分の返還はもちろんのこと、返還規定のない治水分においても返還を検討していく方向であるとしている。この二つを実行するには、少なくとも1660億円が必要である。2)

 仮に、追加工事をまったくしない前提で建設を続行するとなると、水特法と基金の残事業620億円と残る建設事業費の1390億円の計2010億円が必要である。また、ダム建設によって海岸が侵食されるため、新たな護岸工事が必要になる。それに加えて、ダムにたまった土砂も除去しなければならない。これらの手間と費用も考える必要がある。

 前原国交相は、最も早く中止される川辺川ダムを中止のモデルケースとして補償をつめていくことになることと、新たな治水の基準を検討して個別のダムを再検証する手続きを踏むため、ダム計画を中止した後も水没予定地の住民への国の補償措置を明確にする新法について、来年の通常国会への法案提出を見送ることを表明した。3)

 このようなことから考えて、私の意見を単刀直入に述べると、ダム建設中止には賛成であるが、今回のような中止の表明の仕方をすることには反対である。

 ダム建設中止に賛成であるとなると、確かに、地元住民の思いを踏みにじる形になり、水需要の確保ができるのかという懸念もあるだろう。しかし、ダムの建設を続行することが本当に必要なことなのだろうか。

 そもそもダムは、周囲の環境に多大な影響を及ぼす。それに加えて、建設やそれに伴う住民の生活補償、建設後の管理などにおいて多額の費用が必要だ。また、ダム完成後には一度水を満水にする必要があり、時間的にも数ヶ月という長い時間かかってしまう。ダムの持つ、貯水や洪水を防止するという役割は必要なことだが、わざわざ自分たちの環境を壊してダムを作らなくても、ダムに頼らない方法をいくつか考えることができる。

 例を挙げると、堤防嵩をあげたり、堤防を引堤したり、河川を深くしたり、放水路を作ったりなどがある。これらをダム建設と比べると、環境への負荷は少ないと考えられる。また、住民の住居移動も必要としないため、住民への理解を得やすい。

 しかしながら、今回のように住民への理解の欠如、関連する各都県へのダムに替わる具体案の提示が不足していたことは大きな問題である。

 何の説明もなく、いきなり中止と言われては、誰もが納得いかない。それでは、信頼性や支持する心が薄れていく。このダムの問題は、まず内閣や国会で時間をかけて話し合うことが必要だったのではないだろうか。地元住民には、半世紀近く迷惑をかけているのだから、やはりそれに見合う時間、労力をかけることが筋だと考える。また事前に、地元住民が戸惑うことのないように、新しい生活再建の提示も必要になってくる。新事業のための予算確保ばかりに目を向けているようで、かなり急ぎすぎの印象が目立ち雑に扱われたという印象があった。

 関連する各都県においても、ダム中止に替わる新しい水資源の確保の案を提示し、負担した分の費用をどうするかいう案も同時に必要だろう。

 今後はダムの建設での問題でわかるように、国民の生活や安全のためだと思っても、それ以上にリスクがあるということを踏まえ、責任の持てる発言や行動をしてほしい。中止や廃止の一言だけで終わってしまうようなことはないようにしてもらいたいと思う。

 その反面、政権がかわり、新しい視点で行政を見直せると思うので、ダムに頼らない利水や治水の方法など、今まででは実行できないような斬新な考えがでてくることを期待して、ダム問題をはじめ今後も見守っていきたいと思っている。

 

1)http://www.asahi.com/topics/%E5%85%AB%E3%83%84%E5%A0%B4%E3%83%80%E3%83%A0.php

朝日新聞社の速報ニュースサイト「八ツ場ダム」(091023)

 

2)http://www.asahi.com/politics/update/0919/TKY200909190333.html?ref=reca

「八ツ場ダム、自治体負担金を返還へ 前原国交相が表明」(09920)

 

3)http://www.asahi.com/politics/update/1211/TKY200912110267.html

「ダム中止補償法案、来年の国会提出見送り 国交相表明」(091211)