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呉勤文「建設凍結を発想点に斬新な政策方向へ」

 

政権を握ると次の選挙戦を勝つために一生懸命マニフェストを実現するような政府は、近代民主政治の一環として見られる。政府がマニフェストを実現するのは多数選民の期待に応える正確な所為だが、果たしてそのまま公約を実現すればいいのだろうか。

 

近年、日本の鳩山政権は「人の暮らしを重視する」政権公約を実現するため、新規公共建設を凍結し、身近な追加経済対策を盛り込んでいく。一方、台湾の国民党政府は経済の活性化と金融危機によって損われた景気を回復することに狙い、次々と「振興經濟擴大公共建設投資」と「愛台12建設」の大規模な公共建設計画を打ち出した。両政府の違いは、新規建設に踏み出すかないかのことである。しかし、国債を発行してマニフェストを実現する事実はイコールだと考えられる。

 

IMFの推計によると、2014年に日本の国債のGDPに対する債務率は120%に上る。[1]そしてFitch Ratingsによると、台湾の債務率は2011年に5557%に上り、台湾は主権ランクをA+から格下げされるとFRは厳重に警告した。[2]

 

これについて、私は国債の発行は政府の必要な経済手段だと認めるが、赤字財政に陥る両政府が公約実現のために国債をさらに発行することは納得できない。日本のなされる政策はよく台湾政策のモデルや戒めとなる。そのため、今度やや筋交いであっても両政府の取った政策をともに考える必要があると感じるようになった。果たして国債を抱えている上で新規事業や新規建設に踏み出す選択は正しいのだろうか。また国債を発行してまで公約を叶うそれほどの価値はあるのだろうか。次に考えていきたいと思う。

 

まず、日本の政策を考える。今度凍結する予定の大規模な公共建設は100カ所の国道と八ッ場ダムを含む89のダム事業。凍結の理由は建設の維持管理に巨費が要するという。[3]建設凍結の代わりに取り残された一部の予算を老朽化した橋の補修や景観保全が必要な観光地の電線地中化などに回し、さらに高校無償化と高速道路の無料化など、暮らしを重視する事業に盛り込んでいく。これは、大規模な公共建設の中止によって予算をマニフェストの実現に回すという鳩山政権の政治対策として考えられている。しかし、高校無償化と高速道路無料化の費用は合わせて年に三兆円を超えると推計されており、政権はとうとう2010年予算案の歳出を賄うため、過去最大規模の赤字国債の発行に頼ることにした。[4]

 

赤字国債発行と建設凍結は大きな反発を招いた。赤字国債の発行は国民に負債額を高めるしかないが、建設を続ければ建設国債を発行して負債額は高められるものの、建設そのものは残されて子孫でも使えるようになるという論理が出た。そして道路建設の中止に対する反対の理由は:地方の発展を妨げること、道路修繕の予算が取られ、整備が進めなく道路の使用が不便になること。ダム事業の中止に対する反対の理由は:中止費は継続費を上回ること、また東京都の万一の水不足を賄う見通しが要ること。

 

これについて、私は高校無償化と高速道路無料化の急用性をともに考えていきたい。道路予算を削った上で高速道路無料化を実施すると道路整備の一つの財源は無くされる。整備が進まないと、使用者に不便をかける。というのは政権の掲げる暮らし重視の政策に背くのではないかと思う。私は高速道路の使用者が料金を支払うのは当然なことだと認めるので、高速道路使用の徴税はやはりなされるべき、その税収を道路整備の財源として保つ必要があると思う。そして、私は建設国債と今度教育の用途に増発する赤字国債を同じく見なす。二つの国債とも子孫に債務を掛け、ただ残されるのは有形の資産と無形の資産との違いがあると考えるわけだ。そのため、建設凍結によって建設国債を減らし財政難を緩和する動きは理解できる。だが、建設本体に効用価値あるかまた維持管理費の負担性について十分見出して考えた上の新規建設中止だけは正しいと思う。そうでないと、暮らしを重視する政策である以上、身近に関わる道路整備或いはダム修復はやはりちゃんと執行してほしいと思う。

 

一方、GDPの高まりに繋げる国民教育の普及を優先させることは、将来国債の負債率を下げることができると想定されている。しかし、建設国債は使用者に対する徴税によって減らせられるかもしれないが、赤字国債はGDPで埋めるしかない。少子化が進んでいくさなか負債率を下げかける時点はいつと見込められるのだろうか。そうだったら、このままにしてマニフェストに踏み出すと、債務だけは子孫に残るというマイナスな可能性も考えなければならない。赤字国債の増発以外、マニフェスト実現に繋げるのは、道路予算の削減による地方経済発展の損失、またダム事業中止による経費の無駄使いという事実。教育対策に一気に盛り込むことは諸刃の剣のように見えるのではないかと思う。高水準の教育は強い経済力に繋げることを考えると、私も教育の推進は必要だと認めるが、建設凍結を踏み石に、選民の機嫌を取るため、急いでマニフェストを実現するのは現代政治の盲目的なところではないかと感じるようになった。

 

次に台湾の政策を考える。台湾政府もマニフェストの実現に熱中している。

2008年の内需拡大方案と2009年頭の「振興經濟擴大公共建設投資」の引き続きとして、今度景気の回復を狙いに打ち出された政策は「愛台12建設」である。[5]内需拡大方案は「愛台12建設」の事前建設であり、「愛台12建設」は建設案の内容が「振興經濟擴大公共建設投資」と一部重ねるが、より長期的で大規模な建設である。この一連の建設案は国民党が08年政権を取ってから公共建設をもって景気回復を図るという選民への公約を休めずに実現する動きを示している。一方、08年の内需拡大法案の起債額は約88億元だったが、09年の「振興經濟擴大公共建設投資」の起債額は約1922億元で、治水とダム整備の予算また債務利子の返済をあわせて、2010年度の総起債額は約4460億元になる。[6]そして「愛台12建設」の総予算は最初1.3兆元と推計されていたが、予算編成後、政府部門だけでの予算は2.6兆にのぼるという。執行機関の経済建設委員会によると、今後「愛台12建設」の政府投資分の2.6兆元は税収と建設国債の発行で賄うことにする。[7]これは、4460億元という台湾史上最大規模の起債額を合わせいれて、国民負債額は一層加重されていくことを示している。これについて、私は財源つくりが困難で、財政赤字が深刻になっていく現在、まさか「大きな予算割合を賄う」のは国債という手段ではないだろうかと思うようになった。

 

地方政府が公債と借款のため財政が悪化しつつあり、中央政府との建設政策の歩調があわせられないという不効率的な台湾行政の現状を考えいれると、私はこの建設案の実施効果に対して疑問を抱く。2.6兆元のうち、中央と地方との政策調整によって無駄使いのようになる予算はいくらもあるのではないだろうか。そして例年の減税によって財源拡大に失敗した政府は新しい財源が確保できないうちに2.6兆元を税収と国債の発行で賄うというのは、国債が予算の大きな割合の担い役になると国民に暗示しているのではないかと考えるようになった。こんな背景の下に、政策が出されるとその計画内容に高い評価を下す学者は幾人もいるものの、一部の国民はやはり国債の増発に焦れさせられた。私も、この建設案は国債を大きく増えさせても執行に踏み出すそれほどの価値があるのかに対して疑問がある。そのため、次に「愛台12建設」の内容と景気回復効果に絞って考えていきたい。

 

「愛台12建設」が支持されている主な理由は二つある。一つは、その交通建設のMRTと鉄道路線の充実、すなわち大衆交通手段の発展は二酸化炭素排出量の減少と温暖化防止に寄与するということ。もう一つは批判された振興經濟擴大公共建設投資と違って、産業対策を導入して交通建設とバランスを取ること。ハイテク産業圏の形成と整合、政府ネットサービスの強化(E政府)、工業区基礎建設の整備、産業の方向転換などという、産業の新鋭化と活発化は、地理的な優位性と融合され、台湾に周辺国との外部連携を緊密化させ、ASEAN+Nの経済連携潮流から除外されないように、世界経済において立脚させる、ということが見込まれている。しかし、一方、「愛台12建設」も他の公共建設と同じ、逃れなく世論の砲撃を浴びた。まず、交通建設の内容は蔣經國時代の十大建設と相似性が高すぎ、時代が変わったのでそれほどの景気回復効果は収めない、結局債務を残すしかないじゃないかという指摘が出た。また、交通建設の内容は大衆交通建設だけでなく、東部の高速道路建設も含まれているし、それに関して環境保全の具体策は提出していないため、このまま建設に踏み出すと、大きな環境破壊と生態破壊に致すに違いないという批判も出た。

 

これについて、まず、温暖化防止対策としての大衆交通手段及び、地方開発と輸出の便利化に繋げるその他の交通建設の執行に私も賛成する。台湾は国際社会に正式的に温暖化防止の責任を課せられていないものの、経済牽制で制裁される可能性を考えいれば、やはり国際メンバーのつもりで責任を負う必要がある。というわけがあるので、大衆交通手段の発展は欠けられないものだと考える。一方、交通建設が進むと生産資本が減らされる可能性もあると考えると、産業を活性化するには交通建設は必要だ。ただこれは大きな社会資本を生み出す建設なので、執行前にやはり実行できる環境保全策を考え出してほしいと思う。

 

ところで、景気回復を狙うには交通建設の大規模な工事だけに拘らなく、産業の新鋭化と活発化にも重点を置く政策は巨視的なものとして称すべきだと思うが、実際に12建設の盛り込まれた予算から見ると、交通建設は一項目だけで全体の予算の3割を占めており、産業政策の四項目を合わせてからこそ、その予算が交通建設を上回り、しかも中に政府ネットサービスの強化という項目だけで産業対策予算の半分弱も占めている。というのは、大衆が目にしてすぐ政府の恩恵をありがたく感じるようにさせる政策に盛り込んでいくのではないかと思うようになった。これも、ハイテク産業の発展と産業の更新に対する政府のやる気不足、また交通建設を景気回復の手段とする政府の公共建設依頼性を示しているのではないかと考える。一見、交通建設とバランスを取ったよい建設案だが、中身から見ても執行の時期からみても、実は「振興經濟擴大公共建設投資」プラス産業政策の、より複合的で国債多発的な「愛台建設」ではないかと考えられる。

 

私はこんな「愛台建設」は景気回復によい効果を齎せないと思う。交通建設も重要だが、長期的な経済発展を考えれば、産業対策に対しては実質的に重点を置くべきだと思う。しかし、バランスを取るためにさらに国債を発行するのではなく、今の財政状況を考えた上で、急用性の高くないほどの新規建設を切り捨て或いは停止するという手段を使うべきだと思う。また公約の時限までに一気に完成させるではなく、もっとも社会利益に繋ぐ建設を先に為すべきだと思う。具体的に言うと、大衆交通手段も高速道路の建設も巨費を要し必要な建設だが、執行の容易性と環境保全策の未提出との現状を考えいれると、限りある資金を使うため、前者を優先させたほうがいいと思う。東西部経済発展のバランスに悪い影響を齎すかもしれないが、台湾の国際的且つ経済的立場をも考えいれば、そして交通建設をやならければならないなら、大衆交通手段による温暖化防止は確かにより急用的なものだと考える。しかし、温暖化防止の美しい大幡を振りながらも、建設執行の取捨で国債発行の防止にも尽力してほしいと思う。

 

台湾はその幅の狭さと総人口の少なさのため日本と中国と違い、中小企業が多いので外国の大企業と競争できなく、産業の多様性も大国と匹敵できない。この上、国際社会において一つの国家として認められないので、ASEANのような経済連携から除外されるという事実も横たわっている。そのため、産業技術大国として立脚することを優先させるのは、もっともの優先策であると考える。一方、台湾は前述の通り大国ではないので、政府破産の齎す損失に耐えられない。発展とともに国家財政を健全化することもとても重要だと考えられる。建設国債の問題は赤字国債ほど深刻でないと看做しても、建設国債を埋めるために赤字国債が作り出される可能性も考えいれたほうがいいと思う。景気回復の甘い喚声に浸り、急いでマニフェストを実現しようとし、取捨の重要性を考えなく、台湾を負債国の道に更に進ませる執政者に、台湾の未来をちゃんと考えてほしいと思う。

 

最後に、私は一番大事なのはマニフェストや建設凍結、公共建設や交通建設にでも拘ることなく、国の必要なものを見出すことだという結論を出す。日本政府も台湾政府もよい政策を考え出したが、マニフェスト実現を夢中にして、社会損失を考えた上での、何が一番必要か何を優先させるべきか、もっとも重要なことを、見出したのだろうか。台湾はいつも深刻な財政赤字に陥っている日本を戒めとする。しかし、今度政策の策定からみると、やはり台湾政府は大規模建設で景気回復を狙う90年代の日本の試行錯誤に辿っていくのを選んだのだろうか。。深刻な財政難に陥っている今の台湾は、必要だけの政策に踏み出してこそ国債の発行に意義があると思う。そこで、「建設凍結」という日本政府の発想は台湾のためになると思う。凍結の齎す損失を別にして考えれば、この対策本体は、「取捨によってより効率的な政府になる」という発想を台湾政府に提供してくれたのではないかと思う。私は政治力は一国の経済力を深く影響することを信じる。そのため、台湾政府は一つの政治主体として認められなくても、せめて「中身の政治能力」はきちんとしてほしいと思う。

 



[1] IMFhttp://www.imf.org/external/np/speeches/2009/121009.htm

[2] Fitch Ratings http://www.fitchratings.com.tw/zh-tw/sov/sov/issuers.html

[3] 東京新聞:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2009120402000086.html

[4] 京都政経調査会:http://kyoto-seikei.com/09-1007-n3.htm

[5] 行政院經濟建設委員會-主要推動方案及計畫: http://www.cepd.gov.tw/m1.aspx?sNo=0000015&ex=1&ic=0000015

[6] 大紀元新聞: http://www.epochtimes.com/b5/9/8/21/n2630931.htm

[7] 08.10.27聯合報