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金良孝矢「思いやり予算についての分析と展望」

 

 思いやり予算の正式名称は在日米軍駐留経費負担である。つまり、日本(主に沖縄)にある米軍基地施設を維持していくための、日本がアメリカ軍に対して使用するお金のことだ。思いやり予算は二つの支出に分けられ、まず米軍隊舎と軍人家族の家などの整備をすることが決められた地位協定の支出がひとつ。あと基地施設で働く日本人従業員の賃金や、米軍と軍人家庭で使用される光熱費、訓練移転費を負担する日米駐留経費特別協定の支出がふたつである。[i] 日本政府の見解としては、在日米軍の駐留を円滑かつ安定的にするための施策として、財政事情も考慮に入れつつ、日本国が在日米軍駐留経費を自主的に負担するということだ。[ii]

 

 時代に沿って思いやり予算の内容をおおまかに見ていきたい。まず地位協定の範囲内での負担は、1978年から駐留軍等労働者の福利費等、1979年から提供施設整備費等が始まった。米軍の戦闘機や飛行機が飛ぶことによる騒音の防音工事の対策費、在沖米海兵隊のグアムへの移転費や沖縄における再編の事業などがここに含まれる。そして特別協定中の負担は、1987年に駐留軍内の日本人労働者の労務費、1991年から米軍人の家庭の光熱水料費、1996年に訓練移転費が始まった。ここには射撃訓練やパラシュート降下訓練の費用も含まれている。彼らは生活するのに何の苦もなく、兵隊は地域住民が反対するなかで戦争を想定した訓練を相変わらず行っているのだ。

 

 この思いやり予算は1978年に当時防衛庁長官であった金丸信が始めたものである。開始当初の予算は62億円だった。この思いやり予算が行われるようになった背景には1970年代からの日本の物価と労働賃金の上昇、国際経済の変化により、アメリカが在日米軍基地施設を維持する金額の負担が増えたためである。これにより、アメリカは日本に基地施設の維持費の負担を手助けするように頼み、日本は思いやりを持ってそれを受け入れた。

 

 日米地位協定第24条(経費の負担)2によると、『日本国は、すべての施設及び区域並びに路線権(飛行場及び港における施設及び区域のように共同に使用される施設及び区域を含む。)をこの協定の存続期間中合衆国に負担をかけないで提供し、かつ、相当の場合には、施設及び区域並びに路線権の所有及び提供者に補償を行うことが合意される』とある。[iii] ここの「負担をかけないで提供」するということは日本がアメリカに対して(恐らく、自主的に)米軍基地施設の維持費を払ってあげるということだと捉えられる。1970年代に、

ベトナム戦争やオイルショック、日本の物価の高騰によりアメリカの米軍基地施設の経費負担が増大してきたのを受けて、アメリカはこの24条2を口実に日本に対して経費負担の援助を求めてきたように思われる。

 

 日米地位協定では、日本が安全保障条約に基づいてアメリカに日本の土地を提供するということは約束されている。(第2条) しかし、この日米地位協定第24条2の中で日本が米軍基地施設に対してどのような資金負担を行うのかははっきりと明記されていない。また、基地施設内で働く日本人の給料と、米軍、その家族の家庭の光熱水料費の負担を日本が受け持つことになった日米駐留経費特別協定は、この日米地位協定に則ったものであるので、特別協定もはっきりとした確実なものではないということになる。ゆえに沖縄の地方新聞では、米軍基地施設を運営していく費用(光熱水料費など)や日本人基地内就労者の給料を日本が払うことについて反対の意を表明している。そしてそれらの負担は本来のアメリカが受け持つべきであるのだ。

 

 この思いやり予算は1978年から62億円でスタートし、1999年の2,756億円で最大負担額を記録し、去年度2008年の予算は2,083億円である。[iv] 30年のスパンで見てみるとかなりの増額だ。負担金額は1978年の翌年には約5倍の280億円にも膨らみ、1999年まで年々上昇していく。米国の財政、景気不安に始まった思いやり予算は米国の財政改善、景気浮上後も継続されている。1990年代のクリントン大統領時代のアメリカ経済は豊かだと言われたのに思いやり予算はそのまま続けられた。一度おいしい蜜を吸いだしたら止まることを知らないのだろう。こんなアメリカのための国なんて世界中に他にない。

 

 米国防省の報告によると、世界中の同盟国による米国外の米軍の駐留経費負担額(2002年)は、85億ドルであり、その中の日本の負担は441134万ドルと50%を上回る。これは世界で最もアメリカの米軍基地駐留経費負担を担っていることだ。いくら日本の物価上昇、国際経済の変動によって日本が米軍駐留経費を負担するにしても、ここまでやるのは世界的に見てもおかしいとしか言えない。またこの報告書では、日本の在日米軍駐留経費は直接的にお金をアメリカに回しているのが、322800万ドル、税金などの免除による間接経費負担が118300万ドルだという。[v] この約12億ドルもの税金をきちんと収集できていれば、日本国民はもっと豊かな公共サービスが受けられるというのに。                                                                                                              

 

 日本はかつてない財政赤字を抱えていると言われながら、多額ものお金を在日米軍基地施設に掛ける必要はないだろう。ただアメリカとの関係を良くしたいためだけにここまでやっているように見える。アメリカとの関係を良くすることで日本の利益はある程度は見込めるかもしれないが、その目的のためにたくさんもの犠牲を払ってはいないだろうか。例えば、現在の例で言えば、100年に一度と言われているアメリカ発の経済危機で、世界で最もその影響がないと言われた日本の経済でさえも結局、経済危機は波及した。日本企業は大打撃を受け、そのしわ寄せが派遣社員や非正規雇用者らの大量解雇などで表面化している犠牲である。思いやり予算の支出をそうした派遣社員や非正規雇用者への住居提供、新しい職探しへの支援金に回せば、たくさんの困っている人を助けることが出来るだろう。また、今後少子高齢化がますます進み、高齢者が増えた結果若い人たちの保険料負担が増加する問題もある程度は解決出来ると思われる。思いやり予算をなくすことで現在の日本を取り巻く問題を少しは解決することは間違いなく可能である。そして沖縄における基地負担を軽くすることにも繋がり、それが沖縄、日本から米軍基地がなくなることを期待したい。

 

 思いやり予算の支出は1999年から低下しつつある。やはり原因は日本の財政が乏しくなっているということだ。この低下は経済危機の影響もあって今後も続きそうだ。今年か来年あたりの予算額が大幅に変わりそうな兆候である。そうすると今後の日米関係も変わってくるだろう。私が予想する限り、アメリカの立場が少し弱まりそうだ。なぜならこの経済危機の根本的原因はアメリカだからである。アメリカは1929年にも世界恐慌を起こしながら、また同じことをしてしまった。この責任はしっかりと取ってもらわなくてはならない。そして日本としては、アメリカに対する在日米軍駐留経費負担は減りそうだが、アメリカとの関係はそれほど悪くはならないと思われる。日本の経済が弱くなり、財政が以前よりもまして大変になるので、思いやり予算にお金を掛けている場合ではなくなるのは確実である。アメリカにはその責任があるので何も言えない。それからアメリカは実質上在日米軍基地施設を現状維持出来なくなってくるであろう。兵隊の駐留人数を削減したり、訓練をする回数や資金も減り、基地の縮小が進むはずだ。ゆえに米軍兵士による犯罪事件も減り、訓練による地域住民へに与える被害も減り、沖縄県民や本土の基地周辺に住む人たちの心に案心感が広がるだろう。よって思いやり予算の負担額の減少はもっと進むべきだ。そして思いやり予算の負担金額が減った分を先述した通り、別のものに企てれば良い。もうアメリカには思いやりをもつ必要はない。日本政府はまず立場の弱い自国民に思いやりを持つべきだ。

 

 

 

参考資料



[i] 基地労務費削減 思いやり予算の見直しを‐琉球新報‐沖縄の新聞、地域のニュース(20081219日) http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-29038-storytopic-11.html

[ii] 防衛省・自衛隊:在日米軍駐留経費負担の経緯(2009119日) http://www.mod.go.jp/j/defense/US_keihi/keii.html

[iii] 日米地位協定(2008119日) http://www.jca.apc.org/~runner/chiikyoutei.html

[iv] 防衛省・自衛隊:在日米軍駐留経費負担の推移(20081221日) http://www.mod.go.jp/j/defense/US_keihi/suii_table_53-60.html

[v] 防衛省・自衛隊:在日米軍駐留経費負担の経緯(2009119日) http://www.mod.go.jp/j/defense/US_keihi/keii.html