090119ishikawar 期末レポート

 

石川 諒「道州制の導入の是非と地域住民」

 

近年、日本において道州制の導入が示唆されている。道州制を導入することによって日本はどのように変わるのか。メリットとデメリットは何なのか。地域住民にとっての道州制とはどのような存在になりうるのか。

道州制のモデル地区として全国に先駆けてさまざまな取り組みを展開している北海道とその地域住民にスポットを当てて調べてみた。

 

道州制とは

現在の47都道府県を9~13の道州に再編することで、これまでの中央集権的な政治制度を改革して、より地方に政治権力を分散しようとする制度のこと。地方分権の代表的政策の一つ。各州自治により、これまでより効率的で活発な日本の経済活動が期待できる。

ちなみに道州制において州の分割方法にはいくつか種類があるが、そのいずれにおいても北海道は現行の行政区画を保たれるために、試験的にモデル地区として採用された。

 

道州制に求められていること

・国民が暮らしやすい環境を作る

・政府は無駄なお金を使わない

・政治家は皆、国民のために頑張って仕事をする

・地方にも都市機能を充実させ、地方が自分たちだけでできることを増やす

・地方の風土に合った、独自の個性を生かした産業で発展する

 

道州制を導入することによって生じる利点

・これまでは国からの国庫支出金や地方交付税など、ある程度使途が限定された財源が大きな割合を占めたため、地方にとって自由な用途をもつ財源が不足し、地域に根付いた“本当に必要なもの”を創ったり行ったりすることが難しかった。

しかし、地方も徴税権を有することで、税金の使途に関して国からの縛りが大きく減り、より自由な政策を行うことができるようになる。

・地方において新たな活動(たとえば過疎地域におけるタクシーやバスの運営等)を始めようとしたとき、何度も何度も東京と自分の暮らす地域を往復して、面倒な手続きをしなければならない。それが各州の政府で行われることにより、より効率的に、しかも現実的な政策をこれまでよりも容易に始めることができる。

・国の財政の減額が期待できる。

・地域住民が普段の生活の上で感じている不満や、望んでいることが実現しやすくなる。そのため、国民の直接的な喜びの実感につながる。

 

挙げられる課題・問題点

・導入にかかわって、多大な人員、労力、資金、時間が消費される。

・公務員が大量に人員削減される可能性がある。

・日本の政治が、基本的に覇権型政治で、地方にも中央から人員を送り出して全国的な勢力拡大を図ろうとする傾向が強い政治体制なので、道州制に移行したところで結局自民党のような保守政権が主導権を握り、どの州においても政治構造に個性が生まれにくいと考えられる。

・地域住民と地方自治体との距離感が大きくなるかもしれない。

 

→県がなくなる

「県」という概念が、理論的にはなくなってしまうことになるので、県民としてのアイデンティティが傷つけられてしまう可能性がある。北海道がモデル地域として採用された理由として、導入後も行政区画に変化がないということに加え、このアイデンティティの面における負のイメージを連想させないため、という理由もある。つまり、より円滑に導入を進めるための「効率」を優先した結果と言える。もともと、道州制は関西地区の面積の小さな件が集中している地域から提案がなされたものであり、北海道のように大きな行政区画を持つことで経済発展や住民の生活水準向上が見込めるという発想だった。そのため、北海道がモデル地域として採用されている現状は、論理的に矛盾している。

 

→勢力格差

・東京や神奈川を含む南関東地区が、人口からみても日本の4分の1を占めるなど、明ら

かな勢力格差が生まれてしまい、力を持つ州の急発展、持たない州のさらなる衰退が起

こってしまう可能性がある。現に国営から民営に変わってから、JRNTTでこの現象

が起こっている。

・東京は、現段階での県ごとの収益から、道州制導入によって再編された州の収益を考えた場合においても、単独でトップとなる。そのため、この極端な一極集中状態をどのように改善していけるかが問題だ。

・兵庫県や静岡県は、現在は地域間交通の要所であり、それなりの経済規模を誇っているが、州が導入されることによって一番端の県になってしまう。

http://www.news.janjan.jp/government/0901/0901084897/1.php

道州制.comがまとめた、都道府県の道州制への取り組み状況)

 

→地域格差

・一つの州の中で、現時点で発展している地方都市に都市機能や人口が集中し、ますます地方の過疎化が進む可能性がある。しかし、その点においては、地方の雇用の拡大、つまり代表的な事柄を挙げれば、地方産業の発展が求められるということになる。地方産業の発展は、道州制の効果として一つとして期待されており、長期的に見て都市機能の分散は可能だと考えられる。とはいっても現実的に現在の状況が道州制導入によって劇的に変化する可能性は低く、州自体が州全体の利益を考えて政策を行えるようにしていかなければいつまでたっても地方の環境貧困は解消されないだろう。

 

北海道の取り組み

取り組み自体は平成12(2000)年から始まっている。具体的には、5月に「道州制検討懇

話会」が設置され、のちに道州制を推進するための基盤となる役割を担う。

 平成15(2003)年には総理から先行的な道州制への取り組みを要請され、ここから北海道は全国に先駆けて道州制モデル地区としての取り組みを積極的に行っていくことになった。

現在のところ、具体的な活動よりかは国や道内における活動提案書のやり取り等が中心となっているようだ。

提案としては、

・独自の標準時刻基準点を設け、都心と比べて1時間程度早くすることで、世界で最も早く開く金融市場を展開する

・小さな子供からお年寄りまで、誰もが気兼ねなく訪れたり生活することのできるコミュニティハウスをつくり、住民同士の話し合いや、生活の支援に役立ててもらえるような環境を作る

・北海道において、除雪は生活に直結する大きな問題であるが、これまでは国道、道道、市町村道のそれぞれを区別した形で除雪を行っていた。しかしそれでは、国道ばかりが優先的に除雪され、地域住民の生活にとって必要不可欠な道路が思うように除雪されない、という不具合が生じていた。そこで、道州制を導入して国道、道道、市町村道の境なく除雪を行うことができるようになれば、効率良く、地域住民の求める除雪を行うことができるようになる。

など、これまでにはなかった、個性的で、住民の生活に密着した提案がなされている。も

ちろんこれらには住民の意思も反映されており、より積極的な住民の参加が期待されてい

る。

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sk/cks/bunken/doushuusei-top.htm

(北海道HP 道州制のページ)

 

考えたこと

 このように、数多くの長所と短所を持つ道州制を導入するそもそもの目的はどこにあるのか。それがこの問題にとってなかなか大きな意味を持っている。つまり、最終的な目的がどこに照準を合わせているか、ということだ。これまでに触れてきた内容から考えてみると、道州制は政府が地方に対する支出金を減らすために発案したとも取れるし、関西地区が行政区画の拡大を目指していることから始まったとも取れる。

 どちらにしても、発案元は団体としての国民ではないということだ。そのため、利益として最優先される主体はあくまで国であるように感じる。もちろん、国民にとって少なからず利益はもたらされるだろうと私は考えている。しかし、その利益と不利益のどちらが大きいのか、利益は国民の実感につながるのかを考えることが必要だと感じる。

 どのような政策においてもリスクは伴われるものだと私は考えている。たとえば、スウェーデンが医療や教育など、さまざまな公共サービスにおいて充実している背景には、高額の消費税やその他が存在していたりする。日本は先進国としてはかなり低い水準の税収によって国の運営を行っている。しかし、国民の声としては出来るだけ税率は下げてほしいし、同時に出来るだけ公共サービスは充実させてほしいと主張する。つまり、国と国民との根本的な利益観念の違いが政策と世論のすれ違いを引き起こしているようにも感じる。

 要は、国民がどれだけ道州制の導入を望んでいるのか、そして、道州制によってもたらされる利益のために、同様に起こるであろう不利益と向き合う姿勢を国民が見せられるかどうか、また政府が向き合わせられるほどの力量を発揮できるかどうかにかかっていると思う。たとえどんなにいい政策だとしても、政治家が親身になって国民一人一人と向き合わないことには、国民生活の水準向上は望めない。同時に、国民一人一人がもっと政治に対して関心を持ち、この国をより良くしていく方法を考え、「国民」という一つの政治主体であるという意識が必要だ。そしてその意識が反映される社会、それが道州制であることを信じたい。

 

その他参考文献・HP

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%93%E5%B7%9E%E5%88%B6

Wikipedia 道州制)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%81%93%E5%B7%9E%E5%88%B6%E8%AB%96%E8%AD%B0

Wikipedia 日本の道州制論議)