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阿部優子「高齢者の交通手段を考える。(二つの事例を通して)」

 

 毎年、日本の少子高齢化は進み、65歳以上の高齢化率は20年度の総務省国税調査によれば21.1%1518,6%)である。75歳以上は10.2%158.3%)である。栃木県でもほとんど同じような数字を示している。それに伴い、いろいろな問題が起きているがその中でも、高齢者の閉じこもりが大きく問題視されている。閉じこもることにより外からの刺激が少なく、精神的には認知障害が生じやすくなること、身体的には足腰が弱くなり転倒しやすくなることがあげられる。転倒したことから寝たきりになる高齢者も多い。また、高齢者だけの世帯も多く、そのうち独り暮らしの高齢者は400万人に達している。そのような中で、買い物に出られないことからくる衰弱、餓死もみられている。また、もし若い所帯と同居していても、遠慮や気兼ねなどから通院や買い物を控えてしまい病気を悪化させたり、欲しい物や食べたい物を我慢する高齢者も多いと聞く。

 そのような高齢者の閉じこもり対策の一つとして、市町村、地域では高齢者の足の確保、すなわち交通対策を真剣に考え始めている。栃木県内で全く違った形式の交通手段を取り入れている地域を知る機会を得た。それを紹介して、高齢者だけではなく、交通弱者といわれる人々にとって、より便利で使いやすい交通方式はどのようなものか考えてみたい。

 

 事例1(宇都宮市担当者より説明、資料提供)

 宇都宮市清原のミニバス「さきがけ号」について述べる。

「さきがけ号」は民間バスが通学、通勤時間の朝夕にしか運行していない地域住人から買

い物、通院時等の交通手段が欲しいという希望が出た。それが平成17年である。その後、

18年に対象地域の住民に2回にわたり、利用希望者、走行範囲、利用料金等についてア

ンケート調査を行う。住民の希望に基づいてミニバスを走らせるための「会」を19年に

立ち上げ、20年1月試行運転が開始となる。形式は乗合バス方式。乗車定員9人のジ

ャンボタクシーを使用。運行委託については民間業者間で競争入札を行い、一社が年間

690万円で請け負うこととなる。試用期間を経て、再度利用者の希望を取り入れて運行

経路の見直し等を行い、20年8月から正式に1日9便(朝8時30分から夜7時まで)

で運行開始する。1便の平均利用者数4.5人。正式運行開始後の8月の利用者数は合計

1239人、9月1178人だった。まだ正式運行から時間が経ていないので利用者の年

齢統計はないが高齢者の利用が多く感じられるという。利用先は医療機関が一番多く、希

望により、医療機関の玄関前まで行くように運行経路を変更後はさらに利用者が増えてい

る。次が大型スーパーまでの利用が多い。

利用料金は1回につき全区間150円。運行委託費用はバス料金収入と地域負担金(7

自治会×10万円)と地域商工会等の寄付金65か所合計100万円、そして不足分、全体の6〜6,5割を宇都宮市が補助。利用者の制限はなく地域住民ではない訪問者等も含め、誰でも150円で利用できる。バスの停留所は各自宅からおよそ25メーター以内である。バス停付近であればバスへの乗降は黙認している。同じバスの運転手のことが多いので利用者と顔なじみになり、バスの乗降の手伝いをしてくれたり、挨拶を交わす。

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利用者からは出たい時に家人の都合を気にせず出かけられる。バスの中は顔見知りが多

く、会話が弾むと好評である。

住民の出来るところは住民が行い、いろいろな書類手続きなど専門的なこと等、住民ガ出来ないことは行政の手伝いを依頼する。これが行政との協働であり、今後の課題は宇都宮市からの補助金をできるだけ減らして、自立するためにバスの利用者を多くして行くことという。また、現在は運行範囲が孤立しているため、民間運行バス等に接続できることを目指している。

                                               

事例2(芳賀町担当職員より説明、資料提供)

芳賀町デマンド型交通システム乗合タクシー「ひばり」について述べる。

芳賀町は従来から鉄道が通っておらず、公共の交通手段は路線バスとタクシーだけだった。近年、家庭の乗用車の普及に伴いバスの路線数は減少され、今後も路線バスの増加は見込めない。そのためその時の町長の指示にて15年にコミュニテイバスの導入について検討が開始された。その後、他市町村のコミュニテイバス導入地の視察、デマンド型交通システム導入地の視察を経て、それぞれ別々の導入検討委員会で検討を重ねた。その間デマンド交通についての住民アンケートを実施する。そのアンケート結果を踏まえ17年からはコミュニテイバス導入委員会は解散し、デマンド型交通システム導入に向けて委員会は一本化して検討を重ねる。同時に事業主体が芳賀町商工会になる。その後商工会、芳賀町、自治会、まちづくり委員会、学識経験者等々の代表委員で委員会が持たれ、17年7月1日より運行開始となる。

利用者は前もって登録、利用1時間前までに予約をし、自宅から利用先迄ドアー・ツー・ドアーのシステムである。複数人で乗り合い利用する。専用のオペレーターが「ひばり」の運行経路を作成し効率よく運行する。9人乗りのワゴン車2台、5人乗り普通タクシーを民間タクシー会社から借り上げて使用している。

運行時間は午前8時から午後5時まで。原則1時間に1巡回。運行範囲は芳賀町全域と隣町の大型店舗まで。運賃は大人300円、小人150円。前もって利用登録している人の年齢は75〜79歳が一番多く、次に55歳〜59歳、80〜84歳が続く。少ないのは予想通り20〜30歳代である。実際の利用者で一番多いのは

70歳代、次に80歳代が続いている。利用者の73.9%が70歳以上である。利用者数は1日平均114,2人。利用先はダントツで医療機関が多く、スーパー、温泉と続いている。町役場等の公共施設への利用は意外と少ない。

事業費として19年度はタクシー借上げ料20,209,200円を含め28,650,745円の支出である。収入は乗車収入8,047,500円。町からの運営補助金21,000,000円。雑収入が入り、計29,050223円で余り399,478円は町に返還された。

今後の課題として固定客の確保を含め利用者の増加、運行範囲を町外の医療施設に拡大すること、町内者だけの利用を町外者にも広げられないか検討中であると言う。

 

 

 

同じ交通弱者の交通対策であるがこの2つのケースの違いは以下である。

 

宇都宮市清原の「さきがけ号」

芳賀町の「ひばり」

つくられたきっかけ

地域住民の希望

町長の意向

設置主体

地域住民で作った会

商工会、実態は芳賀町

運行範囲

7自治会範囲内

全町、町外の一部

形式

巡回方式

デマンド方式(ドアー・ツー・ドアー)

運営

業者への委託

タクシーの借り上げ

利用者

町内町外、誰でも利用可

前もって登録した町内の人のみ

利用者同士の交流

利用者の範囲が狭いので顔見知りが多い

利用者が全町になるので顔見知りが多いことは少ないと思われる

 

*利用者数、利用範囲などが大きく違うためこの事業に係る全体の費用や市や町からの持ち出し分等は比較できない。

 

両ケースの同じところは利用者が70歳以上の高齢者がほとんどであり、利用先は医療機関が圧倒的に多いこと次は買い物である。初めに書いたように現在、70歳以上の高齢者が医療機関や買い物に行くために難儀している様子が伺える。                                      

後期高齢者になり、身体機能が大きく衰えた場合や若い人でも病気の場合は芳賀町のデマンド式の玄関まで迎えにきて利用先の玄関まで送ってくれるやり方は有難い。利用者にとっては便利で低料金であるため利用しやすいがそのために民間企業の圧迫や税金投入が大きいことにより全町民、特に若い人の理解を得るための行政の働きかけが必要と考える。また、高齢者の引きこもりの予防や他の人との交流ということで考えると「さきがけ号」の利点もある。また、「さきがけ号」では行政との協働ということで、これからの住民と行政の関わりを考える上ではその名の通り「さきがけ」となるケースである。

これからも高齢者や交通弱者に閉じこもるのではなく生き生きとした生活をしてもらうために、その地域に合った交通手段を行政も地域住民も知恵を出し合って、行かなければならないと考える。

最後にご多忙の中、それぞれの「道の駅」についてご説明いただいた各市町の担当職員に謝意を申し上げたい。

 

 

1,)宇都宮発見 | みんなでミニバスを走らせた

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