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鈴木 俊平「中国国内の著作権侵害問題」

 

 中国国内では、米や日本、ヨーロッパ、そして中国も含めた国々の映画やアニメ、音楽、または車のデザインやゲーム機などを、許可なく不正にコピーし、真似て製造している。また最近では、複数の自動車メーカーのデザインを切り貼りして1台の車を作るなどの手法が巧妙化している。そして、それらを販売し、利益を得ている人々や企業がある。このような海賊版や模倣品が中国で広く蔓延しているのだ。さらに、中国内にあるいくつかの遊園地が、日本や米のアニメや映画のキャラクターを本物に真似て、オリジナルのキャラクターとして使用していた。これにより日本でも大きな被害が出ていると言われている。

主に具体的なものでは、「ディズニーランドは遠すぎる」をキャッチフレーズにしている北京の石景山遊園地には、シンデレラ城など、ディズニーランドそっくりなものが数多く存在し、白雪姫などのディズニーのキャラクターにそっくりなものも多い。しかし、このようなキャラクターの使用許可は一切受けていないという。

 米政府は、07年の4月にこれらの中国の知的財産権の侵害問題で世界貿易機関(WTO)に「中国による偽造や著作権侵害は高水準」として提訴した。この問題で、米は年間数十億ドルの損害を受けていると言われている。さらに、米の諮問委員会は、中国の生産品の15〜20%はこのような模倣品であると指摘した。また、米国のソフトウェア団体のビジネス・ソフトウェア・アライサンスによると、2005年時点で中国に存在するビジネス・ソフトウェアの約86%が違法コピーであるという。

 このように、WTOに提訴したアメリカに対し中国は、中国の新聞の人民日報で「米国にも責任がある」と反論した。中国のなかには、「中国人の収入は米国民の4%にすぎないのに、海賊版の20倍もする正規版の映画を買うのは難しい」「正規版は高すぎる」、などの主張が存在する。そして、「正規版の販売網を整備し、価格をもっと安くして、中米両国の努力が必要だ」という意見もあるという。このことから、海賊版や模倣品の氾濫において、中国と米国や日本などとの収入格差の問題があることに注目するべきであろう。ソフトウェアは、世界的にほぼ等しい値段で販売されている。収入が比較的まだ低いとされる中国人の多くは、安価なコピー版を買う人が多いと考えられる。しかしながら、今後のさらなる経済発展で中国国民の収入が上がったとしても、海賊版や模倣品の氾濫が治まる保証はない。その理由に、中国のなかでも比較的収入が高い香港のここ4年間の海賊版利用率は、52〜53%で、決して低いわけではない現状がある。このことから考えると、収入が他の地域でも上がったとしてもあまりこの状況は変わらないのかもしれない。また、中国国民の所得が上がったとしても、国内の格差の問題もある。将来的に、北京や上海などの都市部の所得が上がって現在より違法コピーの状況は改善されたとしても、内陸の都市と格差があった場合、それらの地域での海賊版や模倣品の状況は、現在とあまり変わっていないかもしれない。だが、この外国との収入の格差というのも、中国で海賊版や模倣品があふれている原因のひとつである可能性がある。もしかしたら、正規版の価格の引き下げも問題の解決へのひとつの方法かもしれない。

 海賊版や模倣品について、中国も何も対応していないわけではない。02年にはコンピュータソフトウェア保護条約が成立させ、WTOに加盟したことによって著作権に対する意識も前進している。また、外国政府からの度重なる主張により、中国最高人民法院は、2007年4月5日、最高7年の懲役刑となる海賊版政策枚数を5000枚から2500枚に削減するとし、また軽度の海賊版製作行為についても罰金請求額の増額を決定し、現状の海賊版によって得られる利益の2倍から15倍に増額するという。そして、これまでは1000枚以上の海賊版ディスクを作成した者に対して刑事訴追がなされていたが、今後は500枚以上の海賊版ディスク作成者に対しても罰金の代わりに刑事訴追を行っていくという。これらのことから、中国政府は様々な対策をしていることが窺い知ることができる。やはり、外国の訴えに対策せざる得なくなったという感じも受ける。しかし、中国政府がこのような対策をしても効果がなかったら意味がないのではないかと感じる。ACCS(コンピュータソフト著作権協会)の久保田専務理事は07年に開催された「CEATEC JAPAN 2005」で、「中国の復旦大学の学内にも違法ソフトを販売するものが出入りしており、安い値段で販売している。上海市で売られている日本のゲームソフトの95%は違法コピーである。中国におけるソフトウェアの違法コピーの稼働率は90%で、世界で3番目に悪い。」などと、紹介した。久保田氏の紹介から、中国国内での摘発は進んでいないかと感じる。さらに、久保田氏は、違法コピーの日本のアニメや漫画がヨーロッパにも輸出されているとして、現地の警察と協力して摘発などの活動をしていきたい、という考えを示した。このようなことが起こっているのならば、他の国の警察と共に解決するようにするべきである。輸出先となる国から、海賊版の取締りを強化していけば、効果がでてくるのではないかと感じる。また、模倣品において、もうひとつ大きな問題がある。それは、自動車などの製品を模倣した際、外見は真似できても性能が完全ではなかった場合、事故につながる可能性があるということだ。もしこのような機能不完全の模倣商品が世界中に輸出されでもしたら恐ろしい事態ではないか。これを防ぐために、日本の自動車会社の日産自動車が中国で、中国政府関係者やマスコミも含めた模倣品の危険性を紹介するイベントを開いた。正規部品と模倣品の使用前後の実物を展示して模倣品の耐久性が著しく劣っていることを示したり、車体の右に正規品、左に模倣品のブレーキパッドを搭載した自動車で急ブレーキをかけたりすると、事故につながる危険性が高くなることをアピールしたりした。このイベントは中国のマスコミでも取り上げられ、模倣品の恐ろしさを啓発する報道や販売業者に対する罰則規定強化を支持する報道に結びついたという。この問題は、命に関わる重要なことで、自動車やバイクなど、乗り物の機能の不完全な模倣品の摘発は、特に厳しくやっていく必要がある。この日産自動車の今回のようなイベントは、とても効果的に模倣品に危険性を広くアピールできる場なので、今後も対策として、多くの企業はこのようなイベントを開いていくべきである。

 こうした中国の著作権侵害の問題の解決への取り組みについては、多くの企業や団体が連携し、政府との協力が重要であるとされている。そして、中国国内で著作権保護の啓発活動も行うことも大切である。日本の社団法人のコンピュータソフトウェア著作権協会は、すでに上海の大学生を対象に著作権や、情報保護を訴える活動をしている。このように、問題解決に重要なのは、バッシングではなく協調である。近年の中国は、国際社会の要請を受けて、模倣品排除の活動を推進している。模倣品や海賊版の対策活動の際、留意する点が、中国政府や関連機関と協調して模倣品を排除することだと言える。そして、中国でも海外留学からの帰国者などは、著作権に対する考え方がしっかりしているという。また、彼らは著作権ビジネスについても関心が高く、中国の著作権に対する考え方は前進してきているともいえる。さらに、最近中国でもクリエーターなどの著作権者が増えてきている。彼らもまた、自国内の海賊版や模倣品の被害者である人も多いとされる。なので、このような人々とも連携して、これからの中国を担う若者に著作権保護の意識を持たせていくことも必要であろう。

 

<参考文献>

http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/accs20060621.html (日経BP 知財 Awareness  中国における海賊版対策を強化)

http://www.afpbb.com/article/1500707 (海賊版製造は産業の一部、米国は著作権侵害でWTOに提訴−中国 国際ニュース 2007年4月10日付)

http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/nissan20071119.html (中国政府との連携強化で模倣品対策に成果)

http://jp.ibtimes.com/article/intl/070409/6142.html (中国、海賊版の取り締まり強化へ)

http://ascii.jp/elem/000/000/042/42449/index-2.html (中国IT小話―中国の海賊版についての考察あれこれ)

http://www.gci-klug.jp/fxnews/07/04/10/wto_1.php (中国の著作権問題、米国がWTOに提訴)

http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_07050202.cfm (中国の海賊版問題「正規版高すぎる」人民日報が米に反論)

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2005/10/05/9378.html (「中国の著作権侵害の状況は20年前の日本と同じ」〜ACCS久保田氏)