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城間 正矢「テロ支援国家指定解除宣言後の北朝鮮問題と日米同盟の必要性」

 

 2007年11月米国は北朝鮮のテロ支援国指定解除の条件として、従来の寧辺の核施設無能力化完了に加え、新たにプルトニウムの抽出量・ウラン濃縮計画の実態・外国への核移転の状況の3点を核計画の申告時に明示することを追加した。これは直前の日米首脳会談において日本政府が非解除を強く求めたことに対する配慮であると考えられている[]。この条件に対して、北朝鮮は濃縮計画と核支援を全面的に否定しているばかりか、後日開かれた事前協議の中で、高濃度ウラン計画関連の内容は申告しないと主張している。しかし、北朝鮮のウラン計画に対する態度はこの6年あまりの間に二転三転している[]ため、実際に進めてられているのかは疑わしく思われても仕方がないのが実情である。そのため、実態把握が出来ず解除が大幅にずれ込むのは必至である。

 

 そのような状況を打破するため、また北朝鮮の核放棄に対する姿勢が今後の米朝関係を占うのではないかという理由から、ブッシュ米大統領は金正日総書記宛に親書を出して回答を求めた[]ところ、後日北朝鮮から行動対行動の原則を強く求めるという口頭回答があったと報告された[]。この親書の内容は未だに明らかにされていないが、一部では北朝鮮に対して核計画完全申告を求めるような事が書かれているとされている。

 

ここで注目するべき点は、米国が北朝鮮に対する対応が同時多発テロ後に比べて穏和になったことである。テロ後はイラクとともに“悪の枢軸国”と名指しで批判していたが、最近の米朝の動向をみると、米国が北朝鮮に歩み寄っているように思われる。このことから、北朝鮮の核計画を廃棄させるために米国側が態度を変化させたとみても間違いではない。しかし個人的な推測であるが、この変化の裏には、米朝同盟締結を考えるのなら核問題の解決が必要とみる米国の思惑が含まれているのではないだろうか。

 

さて、話が脱線したので元に戻すが、ついに2007124日ヒル国務次官補と朴宜春外相が平壌にて会談し、核施設無能力化作業の進展状況・核計画完全申告の追加条件等について協議を行った。[]その中でも特に、北朝鮮の核計画をすべて表記した『第一次申告リスト草案(核リスト)』に関して、ウラン濃縮計画などの追加条件を盛り込んだことにより合意には至らなかったと会談終了後ヒル氏は述べている。この追加条件は前記のように北朝鮮のテロ支援国指定解除を拒否する日本政府に配慮して入れ込まれたものだが、米政府からみればこれらの条件は邪魔同然のものであろう。将来的には同盟を組むであろう米国にとって、北朝鮮の態度が再び固化してしまい核問題の解決の遅れることは痛手だし、北朝鮮にとってもテロ国家指定・敵国通商適応の年内解除の絶好機会を逃してしまった。したがって、この追加条件は両国にとって痛いものではないだろうか。では、北朝鮮が追加条件を受け入れる見通しはあるのだろうか。答えはノーで、プルトニウムの用途明示を拒否したばかりか過去の核関連活動に対して曖昧な態度をとっている。そのため、この状況が続くならば交渉が進展するかの鍵は北朝鮮の今後の対応であると見られている。[]

 

これまでは米朝間での北朝鮮問題を捉えてきたが、ここからは六カ国協議からみた北朝鮮問題を見ていくことにする。

 

六カ国協議は協議中に突然中断されてはまた再開と繰り返してきたが、20059月の第4回協議では初の共同声明を発表し核放棄に合意し、20072月の第5回協議では北朝鮮が核開発計画を協議する見返りに、他5か国は緊急エネルギーとして重油5万tを支援する事。また、施設を無能力化した場合最大重油95万t分の経済・エネルギー・人道支援を行う事などを盛り込んだ共同声明が出された。[]しかしながら、ここで問題点が1つ浮かぶ。六カ国協議で挙がる北朝鮮問題は主に核問題であるが、日本にとってみれば拉致問題も外すことの出来ない問題である。だが、これまで拉致問題を協議する度に、現代用語で言えば『空気読めない』国とみなされ、必ず非難の対象になってきた。このように六カ国協議参加国の中で日本のみが足並みを揃えていない状況になってきているのである。

 

さて、次回の日程であるが、当初は前年126日から首席会合を開催する予定であったが、北朝鮮が難色を示したため白紙に戻り、最悪の場合年内開催が見送られる可能性があった。[]しかし、同年1210日に韓国外交通商省が経済・エネルギー支援作業部会という形で首席代表会議を開くと発表があった。今回の協議では重油50万t分のエネルギー施設補修資材を北朝鮮へ提供する方法の詳細が主な議題となっているが、この支援に参加を表明している国は米・露・韓・中の4カ国[]であり、日本は拉致問題の解決の糸口が見えるまで支援に参加しないことを表明している。この態度は果たして『空気が読めない』事なのだろうか。もしそうであるならば、再び非難の対象になるはずであるが、今のところそのようなことはない。しかし、安心してはいけない。“日本が勝手に参加しないだけで全く気にしてないよ”と既に蚊帳の外に置かれている可能性は十分考えられるのである。その可能性があるにも関わらず、協議の場で拉致問題ばかりを主張してきた日本政府。ここは一旦主張を抑えて、流れに身を任せてみるのも1つの方法ではないだろうか。このままでは日本は完全に国際社会から弾き出されてしまい、発言しても無視されてしまう日が急速に近づいてくるであろう。

 

ここまで北朝鮮問題を取り上げてきたが、話は全く変わって、次は日米同盟の必要性について論じていくことにする。

 

最初に日米同盟について記したいが、これに関してはどこを指すのか判断しづらい面もある。そこで、ここでは1960119日に調印された新日米安全保障条約(通称:新安保条約)を指すことにする。この条約は195898日にサンフランシスコで調印された旧安保条約の改訂版であり、国際紛争を平和手段によって解決する(第1条)・平和的かつ友好的な国際関係の発展に貢献する(第2条)と表向きは『平和』を強調している。しかし、平和に対する脅威には武力攻撃も辞さない(第5条)・国際平和及び安全の維持のため米国の陸・海・空軍が日本の施設・区域の利用を許可する(第6条)[10]と実際は『武力』の利用を認めているのである。これは日本国憲法第9条違反のグレーゾーンではないのだろうか。日本は他国から攻撃を受けた場合、米国を媒介して戦争をしても良いと、この条約は記述しているのだ。戦後、日本は再び軍事国家にならないように整備してきたが、この条約は将来的に武装して戦争を起こすことを容認しているかもしれないのだ。

 

これまで日本は米国の傘に守られてきて、悪く言えば米国の奴隷であった。しかし、今回の北朝鮮問題に対する対応では日米間で明らかな違いが見られるようになった。日本は北朝鮮に対して常に態度が固化であり、国際舞台でもそのことは目に見えて分かるぐらいである。一方、米国は前記のように態度が軟化しつつある。このように最近の日米間には次第に溝が生じてきた。これは次のことからも明らかである。 “内閣府の世論調査によると、日米関係が『良好であると思う』は前回調査(0610月)比で6,4%減の76,3%。『良好だと思わない』は前回調査比で8,8%増の20,4%となった。これは米国の北朝鮮に対する融和姿勢・インド洋での海上自衛隊の給油活動からの撤収・米国産牛肉の輸入問題などが理由として挙げられる。 (2007/12/02付毎日・読売新聞)” また、テロ支援国指定解除の賛否・地球温暖化の進行に対する不安の有無・中国に対する感情などの統計[11]をとっても、日米間では明らかな差が生じている。つまり、もう日本は米国と同じ考えを持つ国ではないのだ。

 

ではここで、今回の論点『日米同盟は本当に必要なのか』に戻るとする。私の答えはノーである。日本は今や世界有数の経済大国であり世界を十分先導できる能力を持つため、米国と同等の発言権の持っているはずである。しかし、現在の国際社会において日本の存在感は薄まっているように思われる。それは、米国におんぶに抱っこの状態が上層部に浸透してしまい、同じ方向に進んでいってしまったからであろう。このままでは、ますます世界から孤立していってしまう。そこで、私は溝が深まってきたこの機会を利用して日米同盟を破棄することを提案したい。日本が本当の意味での独立をすることで、今まで米国に同調することで闇に葬られてきた独自の意見を国際舞台で表明できる可能性が増してくる。それにより、世界での日本の位置を確立出来るのだ。今後は北朝鮮を巡る米国・日本両国の動向に注目して、日本の真の独立の時期を勝手に予想していきたい。



[]  2007/12/01読売『米、北に追加3条件』

[]  2007/12/03毎日・夕『高濃縮は含めず』

[]  2007/12/07毎日・夕『核の完全申告要求』2007/12/07読売『米大統領金総書記に親書』

[]  2007/12/15毎日・夕『北朝鮮「義務に従い行動する」』

[]  2007/12/05毎日『ヒル国務次官補が北朝鮮外相と会談』

[] 2007/12/06読売『米朝「核リスト」合意せず』 2008/01/05読売『北が核計画申告拒否』

[]  フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』六者会合http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E8%80%85%E4%BC%9A%E5%90%88

[]  2007/12/05毎日・夕『6カ国首席会合今週開催困難に』

[]  2007/12/11毎日『北朝鮮核問題できょう作業部会』2007/12/12読売『六カ国協議の行方』

[10] データベース『世界と日本』戦後日本政治・国際関係データベース東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19600119.T1J.html

[11] 2007/12/14読売『日米共同世論調査』