080121shinozakit
篠崎智康「環境問題と国際社会」
地球温暖化の拡大を防ぐための国際協力体制を討議する、国連気候変動枠組み条約第13回締約国会議(通称COP13)が2007年12月3日から14日まで、インドネシアのバリ島で開かれた。この会議では京都議定書に続く枠組みがどのように取り決められるのか、大きな注目を集めた。
京都議定書とは、1997年に京都市の国立京都国際会館で開かれた地球温暖化防止京都会議で議決した議定書で、二酸化炭素・メタン・一酸化窒素・HFC・PFC・六フッ化硫黄などの温室効果ガスの削減を目的としている。その内容は2008年〜2012年の間に、1990年を基準として(HFC・PFC・六フッ化硫黄は、1995年としてもよい)日本
−6%・アメリカ −7%・EU −8%など、先進国全体で少なくとも5%の削減を目標としている。また京都議定書の特徴は、国際的に協調して目標を達成するための仕組み(排出量取引・クリーン開発メカニズム・共同実施など)を導入した点にある。
しかし、世界全体の温室効果ガスのうちおよそ2割をそれぞれ排出するアメリカ、中国が削減義務を負っていないという点や、中国と同様に人口が多く、経済発展が目覚ましいインドやブラジルも含まれていないという点など、その効力が問題視されていた。
バリ会議では、冒頭、主要先進国の中で米国とともに京都議定書を批准してこなかったオーストラリアが一転して批准を表明し、会場の喝采を浴びた。また2013年以降の温暖化対策「ポスト京都議定書」に向けた行程表「バリ・ロードマップ」では、京都議定書では実現しなかった、米国などの先進国とインドや中国といった途上国も含めた主要排出国すべてが参加する枠組みとすることや、2009年までに具体策を決めることが合意された。これは数値目標を設定しない一方で、途上国の持続可能な開発への技術協力を取り込むという、ぎりぎりの線でようやく決着したものである。
また、北京近郊で開かれた閣僚級の米中戦略経済対話は「今後半年に取り組む優先事項」として、エネルギーと環境の分野で今後10年間の協力計画を策定した。その内容は、温暖化ガスの排出量が少ないクリーンエネルギーや省エネなどの技術開発で米中が長期の連携を約束し、資源の確保でも共同歩調をとることや、太陽光や風力の発電設備など環境保全に役立つ貿易の関税撤廃を目指す方針も盛り込んだ。中国にノウハウの足りない戦略石油備蓄に関して、米国は技術や情報を提供するともある。
現在、中国では北京オリンピックを代表とした経済発展による急激な環境破壊が叫ばれている。過去には日本も高度経済成長と共に環境破壊を行い、多くの公害を生んだ。これから発展していく国が同じ過ちを繰り返さないためにも、アメリカだけでなく日本や他の先進国は、その経験で得たノウハウをもっと提供していくべきなのではないだろうか。
環境問題に対する国際的な取り組みの実際例として、以下ではバイオ燃料について取り上げたいと思う。バイオ燃料とは、とうもろこしやさとうきびなどの植物から作ったガソリンエンジン用の代替燃料であるバイオエタノール、ディーゼルエンジン用の代替燃料であるバイオディーゼル油の総称である。
バイオ燃料がなぜ環境に良いかというと、もともと植物は大気中の二酸化炭素を吸収し、光合成によって炭水化物に変えることで成長している。そのため、植物のどの部分を使った場合でも、それを燃やして出る二酸化炭素はもともと大気中にあった二酸化炭素であると見なすことができ、二酸化炭素の排出量削減になるという。よって、空気中の二酸化炭素濃度を高めないため温暖化防止に役立つという。
事実、地球温暖化の原因の大部分は自動車に帰することができる。日本に限って言えば、運輸部門からの二酸化炭素排出量が2億6200万トン。これは、総排出量の約20%に相当する。もし運輸部門の排出を半減できれば、京都議定書に基づく日本の削減目標値であるマイナス6%の達成も簡単である。
これらの話だけを聞けば、バイオガソリンは通常のガソリンより、絶対に環境に良いように思える。しかしバイオ燃料は、自動車による環境破壊を一気に解決してくれる夢の燃料ではない。数多くの問題点がある。もともとアルコール発酵によって作られるため、原料となる農作物が必要であり、食料と競合関係にあること。現在の農業は化石燃料を大量に使用しているため、バイオ燃料を得るにも化石燃料が必要であること。原料となる農作物をつくるには土地が必要であり、そのために森林が開墾されれば、地表での炭素蓄積量が減少して大気中の二酸化炭素が増加すること。また、バイオ燃料であるアルコール分は、法律上ガソリンに3%までしか混ぜられない。高濃度アルコール燃料が、脱税行為にもなりえるということで3%が上限と決められているのである。
現在、穀物の価格が急騰しているのは、アメリカが自動車の燃料としてエタノールの生産を推進したことで食用の穀物生産が少なくなっていることがその一因といわれている。だからといって、もともと食料自給率の低い日本で穀物からバイオ燃料を作る余裕があるとは思えない。もっと大げさにいえば、穀物から燃料を作るため、今以上に飢餓に苦しむ地域を広げてしまう可能性もあるのではないだろうか。
国家や社会は、どちらも個の集合である。環境問題の解決には一般の人々の努力が大きく関わっている。2006年度のCO2排出量を見ると、産業部門では基準年に比べて5.6%の減少であるのに対して、家庭部門では30.4%も大幅に増加している。最近は環境問題がメディアでも大きく取り上げられ、「省エネ」や「エコ」などの言葉は日常生活の中に氾濫している。消費者はそれらの言葉に踊らされるのではなく、その効果を見極め、他の社会的な問題にも目を向けなければならない。環境保全という地球全体を取り巻く問題について、国家の枠組みを超えてどれだけ連携し協力できるのか、人類の力量が試されているように思える。
<参考資料>
日経Ecolomy 「温暖化防止バリ会議(COP3)特集」
http://eco.nikkei.co.jp/special/article.aspx?id=20071206q1000q1