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佐藤杏子「政治参加の意義と手段 -投票と多様な可能性を探る-

 

1.政治参加の意義

 人間の生活は人間集団の中で営まれることが主であり、その集団がうまく機能するためにはルールや公共事業、そしてそれらを取りまとめる人物や組織といったものが必要である。現代の生活基盤に関わる組織を地方自治体や国家という枠組みで捉えるとすると、ルールや公共事業とは法律や社会福祉、包括的には政治であり、人物、組織とはすなわち政治家や政府などである。自分が何らかの集団と利害関係があるならば、それはその集団に属していることとなり、その集団に関わるルールや問題に積極的に関わっていくことは当然のことである。例えば日本に暮らし、判断・責任能力のあるとみなされる者は、自分の生活のために積極的に日本の政治に関わっていかなければいけない。それをせずして自分の生活の不都合を政治のせいにすることはあってはならないのである。

 本レポートでは、日本の国家や地方自治体が行う政治について、現状をその構成員がなかなか主体的に関わることができていないとみて、いかにして関わることができるか、国外の状況も視野に入れながら考えていくこととする。

 

2.政治参加の手段 -投票-

 では、政治に参加する手段としてはどのようなものがあるだろうか。最も深く政治に関わる方法は、やはり政治家となって最終的に政治を司ることである。しかし、現代の日本政治においては政治家となるには莫大な選挙費用やそれなりの知識が必要であるし、政治家の数にも限度がある。しかも政治家による汚職事件が相次ぐなど、純粋にまっとうな政治をすることはむずかしい。そのため国民、県民、市民など、一般の住民による主体的な政治参加の必要性が高い。一般住民による政治参加の代表的な例は、選挙における投票行為であるが、近年の投票率は低いと言われている。選挙に参加せずに政治に文句をつける人がないように、投票率を高める必要がある。

 国外の状況を参考にはできないだろうか。投票率が高い国には、北朝鮮のような独裁国家の他、義務投票制度を導入している国もある。オーストラリアやルクセンブルク、アルゼンチンなど約20カ国が採用し、うち12カ国が罰金などの罰則付きである。確かに、罰則付きの義務投票制度を導入すれば確実に投票率は上がるだろう。しかし、それだけでは不十分である。「いずれ投票するのなら責任を持って誰にするか決めたい」と情報を集めてきちんと判断する人もいるかもしれないが、あまり考えずに表面上の投票にしてしまう人が多いと考えられるからだ。

つまり、投票率が上がってもそれが無意味な形だけのものとならないように、政治に対する無関心を解決しなければならない。日本では、年齢層が上がるにつれて投票率も上がる傾向があり、若者の政治無関心が問題視されている。大統領選挙の投票率が8割を超える韓国では、若者は普段の雑談の中でもよく政治の話をするのだという。この違いはなぜ生じるのだろうか。一つには、学歴が関係していると思われる。世界でも有数の学歴社会である韓国では、高等教育機関へ進学する者が大多数であり、政治に関する知識や関心を有する者も多いと考えられる。また、日本の政治に無関心な若者は、裏を返せば政治以外のことに興味関心があるのかもしれない。これは、HD・ラスウェルが政治的無関心(political apathy)について三つの類型を立てたうちの一つであり、「経済・芸術・宗教など政治以外のものに関心を集中する結果、政治に対する知識や関心が低下する」という「無政治的(apolitical)態度」といえる。政治に関心を持ってもらうためには、魅力ある政策で心を掴み、わかりやすい情報で理解してもらえるように、政党や候補者の側からも積極的に働きかけていくことが必要だ。その上で自分なりの判断を下し、選挙に臨むことが求められている。

また、義務投票制度を導入するとなれば、増加する投票数の管理や有権者側の利便性の面から、インターネットを用いた電子投票も同時に導入するべきだ。そのシステムに必要なのは、「誰が投票したかわかるが、その人が誰に投票したかはわからない」という仕組みだ。従来の投票の形を電子的に再現するのだ。電子投票は今年から韓国が取り入れる予定だが、「有権者本人ではなく他人が投票する代理投票、一人が数回も投票を行う重複投票をどのように防止するか、具体的な方法はまだない状況だ」という。代理投票も重複投票も、従来の投票においても起きうる問題だと思われるが、電子投票において重複投票は有権者に個別の番号などを配布し、それを入力、投票画面では匿名となるようにし、再びその番号からの投票はできないようなものができれば解決する。これならば「誰が投票したかわかるが、その人が誰に投票したかはわからない」という仕組みも含んでいる。

ところで、低投票率は問題でもあると同時に、ある重要なメッセージをも示している。低投票率の一因である「選挙に参加しない」ということは、単純に「投票しない」ということではない。勿論、単に面倒だからなどという理由で投票しない人もいるだろうが、当該選挙に賛同できる候補者がいないことを示そうという意図で投票しない人もいるはずだ。それも一種の選挙参加なのではないだろうか。しかし、投票しないことは「棄権」とされ、理由の如何に関わらず一緒くたにされてしまう。また、白票や当該選挙に賛同できる候補者がいない旨を書いたものの投票も、そうしたメッセージが無視され「無効」と片付けられてしまう。投票しない理由の見極めは難しいため、「棄権」に関しては解決が困難だが、白票などの無効票はその項目もきちんと設けて各候補者と並ぶ一つの選択肢として投票結果に組み込むべきだ。

以上をまとめると、投票を有意義なものとするために、罰則付きの義務投票制度を導入するだけでなく、政党による魅力ある政策やわかりやすい情報提示の努力、投票環境の整備、無効票の適切な位置づけが必要である。

 

3.政治参加 多様な可能性-

 投票以外の手段による政治参加を考えたとき、例えば自分の支持する候補者に投票するよう知人に依頼したり、候補者や政党に献金したり、選挙運動の手伝いをするなどの選挙活動や、デモを含む市民活動に参加するということは政治学の中で典型的に挙げられる事柄である。しかし、それらの活動にはもともとそれなりの政治的関心と自発性が要求されるため、政治に無関心である人に関心を持たせることにはなりにくい。そうするためには政党や候補者による魅力ある政策とわかりやすい情報の提示が必要であるとは既に述べたが、それに加えて、政治参加を投票や上記のような政治活動という枠の中に留めずに様々な形で関われるようにすることで、政治をより身近に感じられると考える。具体的には、音楽や美術を通して政治を考えるイベントに参加したり、最初の段階での参加動機は政治以外でも政治に触れられるような機会があるべきだ。また、政治に関心はあるものの選挙活動や市民活動ははばかられるという程度の人もいるだろう。そういった人には、堅苦しくない雰囲気で政治家と接触できる催し物などが考えられる。勿論、そうしたイベントの主催者側にはいくらかの政治的関心があることが前提となるだろうが、少ない主催者側が多くの参加者に政治参加のきっかけを提供できれば有意義なものとなるだろう。さらに、学生による政策提言の試みや、NGONPOなどによる政策提言も市民による政治参加において大きな役割を果たしている。

 

4.結論

 政治参加の手段はその形態や性格が様々であるが、多様な可能性を持っている。私たちは集団に属する者として積極的にそれらを創造・行使して政治に参加していくべきであり、政治を司る側もまた、自分が政治家であると同時に集団を構成する一員であるという意識を持ち合わせることを常に忘れず、双方にとって有益な政治の実現が望まれる。

 

参考

BATTLE TALK RADIO ACCESS (2008/01/11)

http://www.tbs.co.jp/ac/bt/2003/20031030.html

 

加藤秀治郎、中村昭雄「スタンダード政治学」芦書房 2005

 

Chosun Online 朝鮮日報(2008/01/11

http://www.chosunonline.com/article/20050117000070

 

蒲島郁夫「政治参加」東京大学出版会 1994