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大木辰也「中国の環境問題と日本の行政施策について」


中国は今急速に発展を遂げ、成長を続けている。しかしその一方で、開発により生じた環境への負荷も大きく、既に中国国内では様々な環境問題が発生している。さらに、環境問題による被害は国境を越えて生じうるものである。その地理的条件から日本は中国の環境問題を無視できない状況にある。また、2008年を迎え北京オリンピック開催が迫り、中国の環境問題は世界的な注目を集めている。そこで今回、中国での環境問題と日本がそれに対して行う行政施策に関して考えてみようと思う。


 中国は日本の約25倍の国土を持ち、人口は13億人を超える。近年は経済成長率10%以上を維持しており、急速な経済発展の只中にある。中国の急速な経済成長は、経済面で日本に大きな影響を与えうる。しかし考えられる影響はそれだけには留まらない。成長の一方で生じている環境問題の面でも中国は日本に様々な影響を及ぼす。現在中国で発生している環境被害としては、大気汚染、水質汚濁、砂漠化、黄砂などが主な物として挙げられる。まずその現状を考えみたい。


 大気汚染の状況を見ると、大気が汚染されていると判定された都市が全体の過半数に近く、大気品質の指標として最良とされる1級基準を満たす都市はわずかである。汚染物質としては、二酸化硫黄の排出量が2000万トンを超えており、その増加が目立っている。これは、1次エネルギー源として使用される石炭の燃焼により発生している部分が大きい。中国では現在も石炭が主な1次エネルギー源であり、排煙の浄化設備の機能が不十分な現状を考えると、経済発展による電力需要の増加は今後の二酸化硫黄の増加を促す大きな要因になると言えるだろう。また、大気汚染の原因として自動車の増加や、排ガス中の汚染物質の多さなども指摘されている。汚染物質による健康被害が既に発生しており、人々の健康面への影響も大きい。さらに大気中の汚染物質によって発生した酸性雨の影響が南方地域では見られており、森林資源や建築物への被害などが問題とされている。


 水質汚濁では、人が接触するのに適さない程度まで汚染が進んでいる領域が主要河川の6割を超えており、改善が進んでいるとはいえ、未だ課題は多い。工場廃水については処理施設の整備が進んでおり、増加率もそれ程大きくない。一方で、都市化に伴い生活廃水は大きく増加している。また、生活廃水に関しては汚水処理率が低いことや、上下水道の未整備地区の存在から、廃水の垂れ流しが依然として行われていることが問題となっている。河川が水銀などに汚染されることによる健康被害も生じている。また、一部の地区では地下水の汚染が見られる。


 砂漠化は、近年ではその拡大スピードが低下こそしてきているが、以前として毎年3000平方キロほどの速度で面積拡大が続いている。砂漠化した土地の面積は、国内の総耕地面積を上回っており、国土面積の27%に上る。早い時期から中国国家林業局による砂漠化防止計画が進められており、2050年までに砂漠化地の生態系を再生することが目標とされている。


 黄砂は内陸部の乾燥・半乾燥地域で土壌、鉱物粒子が風によって巻き上げられることによって発生する。元々は自然現象として考えられていたが、近年その被害や規模の甚大化により環境問題として捉えられるようになってきている。これには砂漠化や森林減少が影響している部分も大きい。また、黄砂は大気汚染とも関連した問題でもある。黄砂は飛来時に大気中のアンモニウムイオン、硝酸イオン、硫酸イオンなどの有害物質を吸着するため、農業被害とともに健康被害を引き起こす原因ともなるのである。


 こうした環境問題は中国国内だけでなく、日本にも様々な影響を及ぼしている。地理的な要因から、日本には偏西風によって中国から汚染された大気や黄砂がもたらされる。近年九州地方を中心に光化学スモッグが発生しているが、これは中国から運ばれてきた大気中の有害物質によるものである可能性が高い。そのため、離島や都市部など、それまで排煙とは関わりの無いとされた地域でも発生が見られている。黄砂の飛来はそれ自体で生活や農業環境に影響を与えるが、汚染物質を吸着してくることで健康被害の要因ともなりうる。また、黄砂粒子を核とした雲の発生や降水など、気候への影響は世界規模に及ぶ。日本人への影響という点で考えるならば、中国在住の日本人や、仕事や観光で訪れる日本人が劣悪な環境下にさらされる可能性があるということも問題として挙げられる。


 さらに、中国が排出する二酸化炭素量も問題となっている。2004年の値では、排出量はアメリカに次ぎ、世界の排出量265億トンのうち18.1%を占めるほどであった。近年では排出量がアメリカを抜き世界一になったと言われるなど、排出量は増加の一途を辿っている。国民1人当たりの排出量として考えるとそれ程多いわけではないが、国土、人口ともに大規模である為その量は必然的に多くなり、それが地球温暖化に与える影響も大きい。現在の京都議定書による二酸化炭素排出削減の枠組みには参加していない為、今後中国がどのような二酸化炭素削減の取り組みを行っていくのかに注目が集まっている。


このような環境問題を抱える中国に対し、日本はODA(政府開発援助)による援助、支援を行っている。二国間援助のODAの内容としては、資金や資本の返済義務が無い無償資金協力、低利子で返済期間を長期に設定して各種開発事業に資金の貸付を行う有償資金協力(日本が行う場合には円借款と呼ばれる)、人材や機材、教育などによって技術を伝える技術協力がある。中国へのODA1979年の大平総理(当時)が訪中時に中国近代化の支援を表明したことから開始され、円借款を中心としてインフラ整備や保健医療の改善、環境対策などを行ってきた。中国の改革・開放政策の支援ために重点的に使用されてきた円借款であるが、近年は中国の経済成長や中国自身による開発途上国支援の援助量増大などからその見直しが求められていた。さらに日本国内でのODA削減の流れの中で、2001年には支援の重点を環境保護事業や人材育成、技術支援に転換するなどの見直しを盛り込んだ「対中国経済協力計画」が策定され、それに伴い円借款の額も減少してきていた。そして20054月の日中外相会談において、新規の円借款を2008年の北京オリンピック前に終了させることが合意決定された。ピーク時となった2000年度には2144億円を記録した円借款であるが、最終年度となった2007年度の円借款は約463億円で、金額は7年連続での減少となった。円借款の最終的な供与総額は33165億円に上る見通しである。円借款終了の一方で、無償資金協力や技術協力は継続するという政府の方針が示されている。


 今回の円借款終了により、日本の中国支援の枠組みは1つの転換期を迎えることになる。これまでの円借款による環境保護事業は一定の成果を上げてきた。環境モデル都市に指定されていた大連、重慶、貴陽などにおいては、工場設備の近代化や発電所への硫黄酸化物除去設備の設置などが円借款で行われ、環境改善に大きく貢献した。円借款の終了で中国へのODA額は大きく減少する。その中で今後の中国への支援、特に環境問題の改善に関する支援をいかに行っていくか、そのための枠組みをどのように形成するかが問われている。


 今後の中国支援の要となるのは技術である。公害防止や、環境改善のための技術を中国国内に導入、浸透させることが環境問題解決には不可欠であろう。そして、中国の成長や日本の財政難など、これまでのODA方式の援助の維持にも限界があることが見えてきた。ならば、ここで考えねばならないのは民間活力の活用ではないだろうか。かつて公害問題を経験し、今も環境問題への取り組みを進める日本企業は、中国の環境改善の担い手となる可能性を秘めている。折しも、日本企業の中国への進出が近年活発になってきている。現地での公害対策、環境改善が積極的に行われれば、中国国内での環境問題は大きく改善されるだろう。行政はそうした民間企業の活動を支援、促進する為の制度の設立などによって、ODAという直接の援助とは別の方法での支援を行えるのではないだろうか。


 中国の環境問題解決は、単に隣国の支援というだけでなく、最終的な自国利益の保護という意味も持つ。今後も中国は日本の重要なパートナーであり、しかもその度合いを強めていくだろう。現在の中国には、発展次第では現在の先進国に並び、追い越すほどの成長の可能性が秘められている。その成長の「過程」を現在の先進国が辿ってきた「弊害」が伴うものより優れたものとできるのかが今問われている。その実現を支援することが、先進国としての日本に求められている役割であり、責任ではないだろうか。





《出典・参考資料》

「中華人民共和国」 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/data.html

ODA国別データブック「中国」

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/kuni/06_databook/pdfs/01-04.pdf

ODA白書2007年版

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/07_hakusho/pdfs/07_hakusho_020203.pdf

黄砂ってなに? http://www.env.go.jp/earth/dss/kousa_what/kousa_what.html

環境・循環型社会白書(平成19年版) http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h19/index.html

通商白書2005年版 http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2005/2005honbun/index.html

通商白書2007年版 http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2007/2007honbun/index.html


  http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0328&f=national_0328_006.shtml

・人民日報(日本語版) 「砂漠化による経済損失は年間540億元」

  http://www.people.ne.jp/a/481f7f9d92114421914642fc30b9d461

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BF%E5%BA%9C%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%8F%B4%E5%8A%A9

http://allabout.co.jp/career/politicsabc/closeup/CU20020224/index.htm

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/110534/

http://news.rkb.ne.jp/rkb_news/archives/006483.html

中国の環境汚染は即日本に影響 http://www.apic.or.jp/plaza/oda/study/20060518-01.html

日本にとても重要な中国の環境問題

http://www.apic.or.jp/plaza/oda/news/20060217-01.html