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EUの保護農業から考える日本の食料安全保障

 

 2007年の夏に参議院選が行われ、野党が過半数をとった。これにより、いわゆる「ねじれ国会」となった。このとき、民主党のマニフェストの中での農業政策が話題になった。民主党はこの中で農家に対する農家の所得に対する個別保障制度を訴えたのだ。現政府が打ち出した農業の競争力の育成に逆行するものであり、「ばらまき戦略」と批判されたりもしていたが、それがどういうことなのか考えていきたい。

 

 まず、現在の日本の食糧事情はどうなっているかというと、食料自給率が40%である。他の先進国がどうなっているかというと、フランスが130%、アメリカが119%、イギリスが74%である。これを見れば日本が特に低いことが分かるが、さらに問題であると思うのが自給率の数値の推移である。上記の先進国がここ数十年で数字が上がっているのに対して、日本は下がっているのである。これは、ヨーロッパを中心とする他の先進国が自給率に対して危機感を持ち、対策を講じてきたのに対して、日本がこの問題を軽く見てきた結果なのではないだろうか。

 

 それでは、これらの先進国はどのような対策をとってきたのだろうか。フランスを例に検証していきたい。フランスは1981年に有機農業に関する統一規格を世界で初めて法制化した。また、99年には新農業基本法が成立し、国と契約を結ぶ農業経営体に助成金を支給するという制度が出来上がった。つまり、作物の調整を国が行いやすくなったということだろう。政府は農業大国の復活を目指し、それに伴う雇用創出などを見越していた。財源としては、初めはEU基金から費用の半額を負担することになっていた。

 

 これによって、フランスの食料自給率は上昇したということである。しかし、問題点も存在している。まず第一に、農業が産業として成り立たなくなっているという点である。農家の所得に占める割合を見た場合、助成金が50%以上を占める結果になっているのだ。つまり、個人の経済性で見たときに採算が取れなくても成り立っているのだから、農業をするということが国を支えるための公共の産業のようになっているといえるかもしれない。そして第二に、経済の格差が生まれているということだ。助成金で保護しているのだからと思っていたので意外だったが、農家の中でも格差が広がっているのだ。合理化する中で農家の大規模化は必要で、フランスにおいても規模の大きな農家に助成金が多く流れるようになっている。

 

 このような問題の例として、モナコのアルベール王子やイギリスのエリザベス王女などが挙げられる。この二人は、大規模な農地を所有しており、採算性から見ても助成金が必要とは思えない。にもかかわらず、EUからの助成金は多額なのだ。さらに助成金を受け取っている。このほかにも、これ以上の補助を受けている農業関連企業が多くあるということだ。フランスのこのような企業の15%が助成金の60%を獲得する一方、小規模農家は17%程度しか得ていない現状がある。

 

 以上のように、農家に対して所得を補助する方法にも裏表があるということがわかったのだが、民主党のマニュフェストを考えてみると、不合理な点が見えてくるのだ。農家だけを助けようとすれば助成金を全農家に配ればいいかもしれない。しかし、国全体の食料の安定を考えれば、大規模農業に切り替えざるをえず、弱者は救われないのだ。

 

 また、今の政府の農業経営の健全化は可能だとする考えは誤りだということだと思う。商品作物についてはそれでいいのだが、穀物に関しては価格が低下している中においては不可能なのではないだろうか。たぶん、農業が競争力をつけてひとりで成り立つようになるには、食料の価格が今より相当高くなる必要があるのだと思う。

 

 つまり、物事は全て表裏一体であるということだ。税金を投入して農業を補助して食料自給率を上げるのか、または市場の原理にまかせて不足する部分を輸入で賄うのかは一方を立てればもう一方は立たないのである。つまり、日本は大きな選択の時を迎えているのだ。ただ、注意しなければならないのは、フランス型の政策を真似するのみでは格差を埋めるということにはならないということだ。あくまで国の安定を中心に考えていて、農家一戸一戸の均一化は図れないのである。

 

どちらにしても、現在の食糧事情は危機的であるから早急な対応が求められている。地球温暖化による異常気象や、バイオ燃料による穀物の価格高騰など様々な要素が発生している。そういう中で将来的に諸外国は自国の食料の輸出に規制をかける可能性もあるのだ。そのうえ、石油の高騰も影響が大きくなって農家の経費を直撃してもいる。参院選の自民党の惨敗は、切羽詰まった農家の叫びでもあるのだ。

 

農政の立て直しは人口の地方流出問題や雇用問題など、健全な農政は波及効果も大きいと思う。それ以上に、生活の基本となる「食」の安定ということは何よりも重要なはずである。このことに対して有効な対策をとれなかったのは、日本がグローバリゼーションの波にさらされている中で、世界での日本の工業分野などでの技術力や競争力ということに目が奪われていたからなのかもしれない。

 

これまで様々な問題点を述べてきたが、一番の問題点はこの事実をつい最近まで大きな問題としていなかった日本の意識にあると思う。つまり日本に今一番足りないものは危機感である。日本全体としてそういう意識が低下しているままでは、政治も動かない。つまり、日本の国民として一番やらなければならないことは、この問題に関しても関心を持ち続けることだと思う。無関心が何よりもいけないのだ。今後も政策の行方に注目していきたい。

 

 

参考資料

食育・食生活指針の情報センター「e-syokuiku.com

「我が国と諸外国の自給率」http://www.e-shokuiku.com/jyukyu/13_2.html

農林水産省「海外農業情報」

http://www.maff.go.jp/kaigai/gaikyo/f_z_03france.htm

インターネット新聞JANJAN2005/11/28「多額の農業補助金を得るフランス農家」

 ttp://www.news.janjan.jp/world/0511/0511285718/1.php