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小松奈央子「食料再配分システム・フードバンクと100%リサイクル・アグリガイアシステムの試み」
2007年7月、北九州市で一人暮らしの男性が餓死するという事件が起きた。2006年末から生活保護を受けていた男性は、4月に保護を打ち切られており、死後一ヶ月経ったと思われる頃、やせ細った状態で発見された。残飯大国といわれる日本で餓死者が出たという事実は、日本国内での格差を思い知らせる。
世界に目を向けてみると、ここでもやはり大きな格差が見える。地球は、世界人口約65億人をまかなうだけの食糧生産が可能であると言われている。しかし今現在、貧困等の理由で満足な食事が出来ない人間が約9億いる1と推計されている。FAO(国連食糧農業機関)が開催した世界食糧サミットでは、栄養不足人口を2015年までに半減させるという目的を持ち、「世界食糧安全保障に関するローマ宣言」を採択した。
豊富に食料があるところと、そうではないところ。この格差を埋める一つの活動として最近注目されているものに、“フードバンク”がある。“フードバンク”とは、路上生活者や高齢者など、食事に困っている人々を救済するために企業などから、様々な理由で商品にならなくなった食料の寄付をうけ、施設などを通じて無償で提供する食料再配分のシステムである。2 商品にならなくなったとは言えど、安全性には全く問題のないものばかりである。ヨーロッパやアメリカ合衆国では、フードバンクはもうすでに浸透しており、アメリカ合衆国では200以上のフードバンクが50000に及ぶ慈善団体の支援を行っている。3
日本でフードバンク活動を行っている代表的なNPO法人に「セカンドハーベストジャパン」がある。支援を必要としている人々に食糧が届くまでの過程は三段階に分かれ、まずは供給者(レストランや卸売業者)がセカンドハーベストジャパンの配給ネットワーク(孤児院・老人ホームなど)に食料を渡し、そこから大勢の困窮者に食料が渡る。セカンドハーベストジャパンに食料を提供している企業としてはコストコやニチレイが挙げられる。食料提供する企業は食料廃棄にかかる費用を抑えられ、また企業のイメージアップにもつながる。
しかし、このフードバンクが日本で浸透するにはいくつかの難がある。再配分する食料は、例えばパッケージに傷がついていたり、賞味期限が近い商品である。それらの商品は本来なら廃棄にまわされるもので、安全性に問題がないと言われてはいるが、もし万が一何らかの問題が発生した場合、その責任を製造者が取らなくてはならない。日本の法律ではフードバンクへ商品が移ったあとも、食品製造の責任は企業にあるため、そのリスクを恐れる日本企業が多い。ここに日本でフードバンクが浸透しない一つの大きな原因があると思われる。それに比べて、フードバンク活動が積極的に行われているアメリカでは、食品を提供した後の食品製造責任がフードバンクに移るという法律が定められている。日本の法律が変わらない限り、日本企業はフードバンクの活動に賛同はしても、なかなか一歩を踏み出せないだろう。
また、ボランティアでホームレスに食料を無償で提供するときにも言われることだが、困窮している人間に食料を与えつづければ、彼らがその支援に頼りきってしまい、彼ら自身が行動しなくなる危険性もはらんでいる。かといって、食料を与えず、彼らの力のみで社会を生きていくには、日本の今の雇用現状では難しいだろう。フードバンクは一見、豊富なところで余った食料を足りていないところにまわす、という良い循環を生み出しているように見えるが、例えばそれらの食料を貧困国に送った場合、豊かな国では“廃棄物”とみなされるものを彼らは口にするということになり、そこにすでに大きな格差が生まれるのではないだろうか。二つの国の人々の心にも、無意識的に上下関係が出来るような気がしてならない。
売れなくなった食料のもう一つの行方として、食料を100%リサイクルするという“アグリガイアシステム”が注目されている。コンビニを例に挙げれば、消費期限間近になり、廃棄処分されていた食品がこのアグリガイアシステムにより、まずは冷やして運ばれ、アグリガイアシステムの飼料化センターで「高脂肪高タンパク配合飼料原料」、「低脂肪低タンパク配合飼料原料」、「液状飼料」の三種類の飼料にされる。今まで廃棄されてきたものが飼料としてよみがえり、再び商品となるのである。大量生産・大量消費の日本で、このシステムはとても画期的なものだと思える。フードバンクとは違い、自国内で循環させるので、格差が生まれる心配もいらない。
日本の残飯は年間約1000万トンになるといわれている。これほどの量の食料を捨てるのではなく、有効活用する方法を模索していくことがこれから重要になるだろう。香港市内のセルフサービスのレストラン数店舗では、食べ残し対策として5香港ドル(約78円)から20香港ドル(約310円)程度の罰金を課すことで残飯を減らす努力をしている。4 実際には課金されることはほとんどないそうだが、それでも残飯減量への強い関心と努力が見られる。また、カリフォルニア大学デイビス校ではレストランなどで残った食べ物を再利用し、エネルギーに再転換する実験を開始した。デイビス校は、周辺のレストランから毎週8トンの残飯を回収し、成功すれば1トンの残飯から、10軒の家が一日に消費する電力を発電できると見込んでいる。5
日本が必要としているのは食料事情への人々の関心と状況を打開する努力であろう。フードバンク活動にしてもアグリガイアシステムにしても、まだまだ知名度が低く、また他の国とは違い、活動が広がっていかない理由のひとつとして、日本の法律や政府がこうした問題に積極的に取り組み始めるのが遅いことが挙げられると思う。これから日本は、政府が問題に早く対応することで、企業などが活動に取り組みやすい社会を作っていくべきだと考える。
≪参考文献≫
・日本インターネット新聞 JanJan (「地域」2007年7月18日付)
http://www.news.janjan.jp/area/0707/0707179252/1.php
・外務省「世界食糧サミット」 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fao/syokuryo_s.html
・セカンドハーベストジャパン http://www.2hj.org/index.php/jpn_home
・Children’s
Express 「社会」 http://www.cenews-japan.org/news/social/071009_fmilage.htm
1 JAICAF FAO情報「世界の食料事情」 http://www.jaicaf.or.jp/fao/world/index.htm
2 2ちゃんねるニュース速報+ナビ http://www.2nn.jp/femnewsplus/1190625938/
3 フードバンク関西 http://foodbankkansai.web.infoseek.co.jp/
4 AFPBBニュース(2007年02月24日付) http://www.afpbb.com/article/1362418
5 ITmedia News (2006年10月26日付)http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0610/26/news015.html