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伊澤美里「アメリカ教育から日本教育へのつながり」

 

 アメリカは高校までが義務教育で、公立高校入学まで受験と言うものがない。学校区の中に小中高が存在し、学年を終了すれば児童進級となるのである。また、自分の移住区と異なる学区の高校に通いたい場合も、学校区の教育委員会に理由と共に届ければたいていは認められる。また、私立の場合でも学校独自のペーパー試験と言うものはほとんどなく、過去の成績を合否の判定の基準にしている。

 

 アメリカの高校は、基本的に日本で言う普通高校だけで実業高校などに値するものはない。ただ、授業のシステムとして最低取得科目を除くと、大半が選択科目方式をとっていること。科目毎の能力別クラスが徹底していて、同じ科目でも自分の能力に応じたクラスを選択出来ることが大きな違いだ。従って、同一学年でも一人一人習った科目が違ければ、教科書も異なり、授業によっては複数の学年の生徒が混じり合うケースも多く生じるということだ。

 

 例えば、出来る生徒に対してはオーナークラスとかアドバンスドプレースメントクラスが用意される。そして、高校時代に大学の一般教養科目の単位が取得でき、どの大学でもこの高校時代に修得した単位が認められるのだ。よって、大学で同じ授業を受ける必要がない。一方、それほど難しい科目に興味がない生徒に対しては、より実務教育に近いタイピングやコンピューター、料理、自動車修理などの科目が数多く用意されていて、それらの単位も全て他の科目同様、修得すれば卒業資格に加えられるなど、一律教育を目標にするのではなく最低必修単位以外は生徒の能力や希望に応じたクラスが用意されている。

 

 最も本人の能力がクラスについていけないと判断された場合は、生徒の意志とは逆に先生によってクラス変更が行われる。また、これらの選択クラスのシステムは、中学校時代からすでに始まっている為に、高校でも生徒にとって自然に受け入れているようだ。生徒側でも、レベルが高いとか低いといったクラスで授業を受けることはあまり意識していないようで、逆に一律教育を受けたことがない為に妙な対抗意識や優越感はないようだ。

 

 これだけ聞くとアメリカの高校システムは日本より遙かに優れているように感じられるが、実際はそうでもない。アメリカ教育上最大の問題は、子供は子供、親は親と言うような個人主義の徹底からか子供の教育に関心のない親が増えていることである。(親は新型車を買う金があっても子供の大学資金を出さないと言う親は珍しくない)。親の離婚に伴う家庭の複雑さ、誘惑等の要素が重なった非行生徒の問題。これらを学校ではギャング団と称されている。

 

 アメリカの場合、初等中等教育について見てみれば、「学力の向上」を優先課題としていて、「教育スタンダード」の策定や「全国学力テスト」の導入が特徴的である。これに対して日本では、個性を重視し、学習内容を精選して、ゆとりある中で「将来を生き抜く力」を育成する方向にある。さらに、アメリカではこれまでの行き過ぎた多様化、日本では行き過ぎた画一化への反省が改革の起点となっていることから、教育改革の方向にズレが見られていた。しかし、教育改革として日本とアメリカが掲げている「教育水準の向上」は同じである。

 

 今日のアメリカの教育改革を見てみると、クリントン大統領の教育政策を受けついで、現ブッシュ大統領は、学力水準の向上とそれに伴うアカウンタビリティ、授業中や放課後における学校安全の推進、薬物乱用防止、学校の自己評価に基づくスクールレポートの公開、教師教育の改革と教員職能開発、すべての子供へのコンピューター活用や情報教育の充実、学校教育とコミュニティーサービスを結びつけたサービスラーニングなどが上げられる。

 

 実は我が国でも、これらの課題は重要な教育施策になっている。第一に、「確かな学力の向上」とそれに向けた学習集団や指導の工夫だ。これからの教育では、知識・技能はもちろん重要であるが、学びの意欲・思考力・判断力・表現力までを含めて学力ととらえ、このような学力を生徒に育むことを重要視している。そのため、個別指導やグループ指導、理解の程度に応じた指導方法など、個人個人に応じた細やかな指導の充実や地域からの支援などが私達の課題となるのだ。

 

 第二に、指導力不足教員への対応のみならず、全般的な教員の資質向上策や、学校の自己点検・自己評価制度の具体策も課題である。

 

 第三に、不登校・いじめ・学級崩壊・校内暴力などといった学校病理現象の中で、問題を起こす生徒に対するあらゆる面からのサポート体制も課題である。

 

 第四に、「分かる授業」を実現するため、コンピューターやインターネットを活用し、教員や生徒がより学びやすい環境作りを目指すことが課題である。

 

 このような日本の教育改革の中で、アメリカにおける「学力向上策」「生徒規律」「学校改善と評価」「学校集団教授法」「情報教育」「学習ボランティア」に焦点を当てて進捗状況を明白にすることは、日本の教育課題をグローバルな視点でとらえ直すことが出来ると共に、有益な示唆をもたらしている。アメリカの現状を見て、我々は自国を潤すのだ。

 

 

 参考文献

「アメリカの教育とくらし」編集工房ノア:東山明、高光義博 著

「教育の論点」文芸春秋:文芸春秋 編

文部科学省ホームページ http://www.mext.go.jp/

「強育論」ディスカヴァー・トゥエンティワン:宮本哲也 著