061653igarashif
五十嵐 文昭「年金問題のこれから」
小泉政権のもと平成16年に年金制度は改正された。少子高齢化を迎える日本に小泉政権は抜本的改革として年金改革法を施行した。大きな枠組みとしては以下のとおりである。
まずは、年金の給付と負担の両面の見直しである。少子高齢化に対して給付の引き下げだけによる対策で年金制度を維持した場合、高齢者の年金引き下げは、かなりの金額に達してしまう。また、逆に現役世代の負担だけで対策を行った場合、現役世代の国民年金や厚生年金の負担額が大きくなってしまう。よって両方に負担をしてもらい、年金制度を維持していく路線に見直された。これは、少子高齢化によって総保険収入が減少し、総保険給付額が増加するのであるから至極自然な流れかもしれない。
そして、改革の一番の柱としているのが、保険料の増加における上限設定である。2017年(平成29年)以降の保険料水準が固定され、厚生年金は総報酬の18.3%に、国民年金は月額16900円になる。それまで改正前の厚生年金13.58%が平成16年10月から毎年0.354%ずつ引き上げられ、国民年金13300円が平成17年4月から毎年280円ずつ引き上げられる。基礎年金の国庫負担を三分の一から二分の一に引き上げることも改革にあげられるが大きな枠組みとしては以上の二つである。
段階的な給付の引き下げと負担の引き上げは少子高齢化の時代では避けて通れないことである。しかし、現状で年金だけでは生活できない高齢者や国民年金を払えない経済状況にある現役世代がいることも事実である。そのような状況下にいる人びとは段階的な給付の引き下げと負担の引き上げに耐えることができるのであろうか。将来の負担の上限を設定することによって国民の年金の負担増に対する不安を取り除く意図があるとしているが、果たしてそれだけで十分なものとなるのであろうか。抜本的改革となるかといえば、疑問が残るものであろう。
ここで現状での年金制度はいかなる問題があるのか。詳しくみていきたい。まず、日本の年金制度は厚生年金、国民年金、公務員共済など職種によってさまざまな制度が存在する。賃金や所得の把握の状況がそれぞれ異なるという背景から制度の乱立が存在する。厚生年金を例にとると、自営業者の所得に対して民間企業で働く人と違い収入に比例した保険料徴収ができなく、定額(1万3860円)となっている。これは公平性に問題があると指摘されている。そのような問題を解決しながら、わかりやすい年金制度として制度の一本化が図られるべきであろう。
日本特有といってもいい正規労働者と非正規労働者という二つの立場をどう扱うかという問題もある。非正規労働者は、フリーター、パートタイマーや派遣労働者があげられる。このような人たちは年金制度に加入していない。パートタイマーが厚生年金に加入するには、フルタイマーの4分の3以上勤務しなければならない。厚生年金に加入すべき事務所に働きながら、年金保険料を拠出していないパートタイマーは約500万人とされている。パートタイマーは長時間労働による所得税の負担や社会保険料の負担を避けて労働時間を短くする。パートタイマーが厚生年金から除外されている理由の一つとなって、意図的に加入を回避しているといえる。また、もうひとつの重要な問題として企業がそのようなパートタイマーを好んで雇用しているということである。実際に日本の経済活動の一部を非正規労働者が担っているというのが現実である。企業は社会保険料の事業主負担分を払わなくてもよく、さらに医療保険なども同様であるパートタイマーを雇用するのである。しかし、これは既婚者が離婚した場合などに無年金者となってしまう可能性が高いことを意味する。こういった状況は是正されなければならない。政府はパートタイマーが厚生年金に加入する条件を引き下げることも検討されるべきである。
また、基礎年金給付の国庫負担を三分の一から二分の一にする政策が決定しているが、財源はどこから出すのか、そもそもこれからの年金制度は保険料方式で徴収するのか、税方式で徴収するのかという問題がある。
そして、国民年金を中心とする保険料の徴収が円滑に行われていないという問題がある。理由として国民年金制度への信頼性が揺らぎつつあり、意図的に払わないことがあげられる。経済的に払えない状況である人がいることもあげられる。国民年金受給者のうち、約四割が未納という現実があり、制度は破たんしているともいえる。厚生年金も同様に企業が保険料の事業主負担を嫌い制度から脱退したり、保険料を払わないケースが増加している。
以上に日本における年金問題をふれてきたが、日本にふさわしい公的年金制度とはいったいどのようなものなのか。橘木俊詔著者の『アメリカ型不安社会でいいのか』にあげられている「年金制度改革7つの私案」を検討するなかで意見を述べていきたい。
「年金制度改革7つの私案」の中で一番の大きな制度改革として公的年金制度を基礎年金に限定し、さらなる年金は積立方式として一般の保険会社が行うような保険に任意に加入してもらうようにすることである。また、その基礎年金給付は全額税収で賄うとしている。そして、一段階である基礎年金給付において最低限である一定額の年金をすべての国民に給付する。
基礎年金給付を全額税収で賄い、保険料制度を撤廃することには大きなメリットが多くある。国民年金を払わないことも現役世代の選択となってしまっている現状では、自分で貯蓄して老後に備える人や老後に備えない人も存在してしまっている。しかし、生活保護費として老後に備えない人が救済されることに対して、正直に社会保険料を支払った人が自分の税金で救済されることによる不公正さが生じる。これでは将来的にさらなる年金の空洞化は避けられない。また、社会保険庁という組織を合併などでスリム化できるという利点がある。複雑な年金制度がなくなれば、管理費用の節約が可能になる。
基礎年金給付で最低限の保障をしたうえでの上乗せとなる部分の年金を公的年金制度が関与しないことは、ゆとりの部分は自己責任とすることを意味する。合理的な制度と考えられる。
以上で述べた筆者が述べる意見に大部分で賛成するが、最低限の必要な生活費がすべての国民に給付することによる絶対に貧困にならない、と保障されることが経済的に成り立つのかということである。極端ではあるが全く勤労しようとしない人までもが救済される状況が起こりえてしまう。やはり絶対に一定の救済が保証されるのではなく、低い設定でも基準によって減額されることが必要であると考える。その基準は単なる所得や資産だけでなく勤労意欲や勤務実態などの総合的評価である。近年、取りざたされているワーキングプアに代表される労働実態の割に所得が極めて少ない人々がこの基準によって積極的に救済されるべきである。
また、筆者は基礎年金給付を消費税における全額「累進課税制度」で補うとしている。贅沢品は高い税率にして生活必需品は低い税率にする。この案は逆進性を考慮した、検討されるべき制度である。しかし、すべてを消費税で賄うというやり方は難しいのではないかと考える。理由としては消費者の購買意欲の減退や景気状況の伸び悩みがあげられる。
私の主張としては、筆者同様に公的年金を基礎年金に限定し、上乗せの部分は自己責任で運用することが重要であると考える。しかし、すべての人が同様に救済されるのではなく、自助努力の促進が残る基準を設けることが重要だと考える。また、累進課税も考慮にいれ消費税を基礎年金給付にあてるべきであるが、すべてではなく所得税などの直接税にかけること、高齢者負担、その他の財源からの支出など、バランスの取れた総合的施策によって永続的に年金制度が存続するようにしなければならない。
《参考文献》
橘木俊詔 「アメリカ型不安社会でいいのか」−第4章 年金改革の切り札は税方式だ−
平成16年度年金制度改正のポイント(厚生労働省年金局作成)http://www.sia.go.jp/seido/nenkin/nenkinkaikaku.htm