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和栗佳代「少子化対策〜社会から個人の問題へ〜」

 

2005年、日本の人口は戦後から続いていた増加傾向から減少へと転じた。今後も人口減少は加速していくと予想されている。いまや、少子化現象は目を背けることのできない問題になったといえる。日本政府はどのような対策を施しているのだろうか。また、その対策は十分な効果がみられるのか。今回は、「少子化社会対策特例交付金」に焦点を当てて調べてみた。

 

まず始めに、日本における少子化の現状について説明する。平成17年の日本の総人口は127,767,994人で一年前の127,790,000人より約22千人減少している。年齢別にみると、年少人口(15歳未満)、生産年齢人口(15歳〜64歳)はともに減少しているのに対し、老年人口(65歳以上)は増加している。合計特殊出生率も1970年代から緩やかに減少し始め、2005年には過去最低の1.25を記録した。現在では一人っ子の家庭がごく普通になった。しかし、日本の現在の人口を維持するには、一組の夫婦につき少なくとも2人の子供がいなくてはならない。現状では人口減少は避けることができないといえる。

 

少子化問題は、現代日本の社会的背景と密接に関わっているといえる。女性の社会進出の進展における晩婚化、夫婦出生力の低下、結婚・出産に対する価値観の変化等が子どもの数の減少の原因であると考えられている。理想の相手がみつかるまでは結婚しなくてもかまわないと考える人が増加し、今では「結婚適齢期」という言葉は死後になりつつある。また、子どもの存在に対する価値観も、むかしは家業の生産を助ける労働力であるとともに、家族の世話をあい、また、将来親の老後を支えることが期待された。一方、今日では親の雇用化、家族規模の縮小、社会保障制度の整備等を背景に、子どもをもつ理由が愛情を注ぐ対象であり、家庭を明るく楽しくすることへの側面に、その重点が移行してきた傾向にある。

 

このまま少子化が進んでいくと、今後の日本はどうなるのであろうか。労働力の減少により、日本経済は後退していき、現在急成長を遂げている中国やインドといった国々が日本を追い抜いていってしまうのだろうか。とにかく、少子化という深刻な問題を抱えた日本には明るい将来を望むことはできないと考える。少子化の流れを変えるために、日本政府は1994年に今後5年間(H7年度〜H11年度)の少子化対策の方針を定めたエンゼルプランを発表した。1994年以降、様々な取り組みがなされている。

 

少子化対策臨時特例交付金は平成11年に「平成11年度少子化対策臨時特例交付金実施要綱」が厚生省(現厚生労働省)により定められ、同年7月に成立した平成11年度補正予算において所要経費が計上された。この交付金は、臨時緊急の措置として講ずる単年度限りの特例措置である。市町村及び都道府県が保育所待機児童の解消を始めとする地域の実情に応じた少子化対策に関する保育、教育等の事業を実施し、または民間が実施する当該事業に対し、市町村等が助成する場合において、これに要する経費に対し交付金を交付し、もって地域における少子化対策の一層の普及促進を図るとともに、雇用・就業機会の創出に資することを目的とする。115日申請締切りの時点で全市町村からの申請があり、総額1,939億円が交付された。交付金の用途としては、保育関連が多数を占め、駅前保育所の設置や保育所の施設・設備整備等に充てられた。施設だけではなく、保育所保育士の研修など、人材育成にも使われている。この交付金により、待機児童数の減少などの効果がみられた。

 

この交付金の利点は、交付する金額の限度は決まってはいるものの、用途の指定がなく、各地方自治体の裁量に委ねられているということ、そのため、地方自治体が主体となって少子化対策に取り組むことができるという点であると思う。少子化問題は日本全国が抱えている問題ではあるが、取り組むべき課題は地域によって異なる。児童数が多く、保育所に入れないという市町村もあれば、逆に過疎化が進み、保育所が閉所された市町村もある。各地方自治体のニーズに合わせて交付金を効率的に使うことができ、より大きな効果が期待できる。ただ、ひとつ指摘したいのは、この交付金の大半が保育関連に使用されたという点である。保育施設が充実すれば、合計特殊出生率は増加するのであろうか。私にはそうは思えない。朝日新聞がH16年に実施した少子化に関する朝日新聞全国世論調査の概要を参考にしたい。「子供の数が減ってきた背景として、一番大きなものはなにか」という質問に対し、「子供に金がかかる」、「男女の結婚への意識が変わった」という回答が半数以上を占めている。また、「国や自治体、企業は少子化対策として何に力を入れるべきか」という質問には、「労働時間短縮や再就職促進など働き方の見直し」が「保育サービスや地域の子育て支援の充実」を抑え、最も多かった。保育施設の充実も大切なことだと思うが、少子化の流れをかえていくには不十分なのではないだろうか。

 

子供がたくさん欲しいと思っても、一人の子供を大学まで通わせるにはおよそ1000万円かかるといわれている。金銭的に厳しいため、子供を作らないという夫婦も少なくないと推測する。また、育児休暇の期間や、その間に保障される給料も十分とはいえないのではないだろうか。いまもなお、結婚した女性は退職しなければならない企業もある。現代の日本社会を取り巻く環境は、子供を作ろうとしている夫婦にとって、快適なものであるとは決していえないと考える。国や地方自治体は、少子化対策に積極的に取り組んでいるが、一番見直していかなければならないのは、日本企業のあり方なのではないだろうか。企業によるフィランソロピー(社会貢献)や環境保全は盛り上がりをみせているというのに、なぜ、自社の社員に対しては厳しいのだろうか。少子化が進めば、企業にとっても悪影響である。企業ももっと少子化対策に積極的に取り組んでいかなければならないと考える。

 

平成11年度少子化対策特例交付金により、地方自治体の少子化問題に対する意識を向上させ、子育てしやすい環境づくりがなされた。次は民間企業の少子化に対する意識を向上させていくべきだと考える。平成15年に制定された次世代育成支援対策推進法では、企業の責務が明確化・徹底された。従業員が300人を超える企業には、計画期間、目標、対策内容及びその実施時期を定める「一般事業主行動計画」を策定することを求めている。行動計画そのものを国や地方自治体に届け出る義務はないが、策定した事実を届け出なければならない。インセンティブとして、計画期間終了後に目標の達成等一定の要件を満たした企業に対しては、「対策推進企業」として認定マークを交付するとしている。このように、ゆっくりではあるが、少子化問題が国や地方自治体の行政から民間へと浸透しつつある。

 

日本は人口減少時代に突入し、少子化問題はますます深刻さを増している。政府は様々な少子化対策を講じているが、効果は極めて希薄であるといえる。民間企業の積極的参加が必要であると考える。職場環境の整備、育児休暇の充実、そして再就職の支援など、改善していかなければならない課題は数多く存在する。そのためにも、政府・企業・国民が一体となって少子化問題に向き合っていかなければならないと考える。

 

参考資料

CSRアーカイブスHP「少子化対策:国の法整備と日本企業の取組み」http://www.csrjapan.jp/research/newsletter/008_03.html 

少子化に関する朝日新聞全国世論調査の概要(16.11.20 13版)http://www6.ocn.ne.jp/~shi-en/newpage28.html 

厚生省HP平成11年度少子化対策臨時特例交付金について

http://www1.mhlw.go.jp/topics/syousika/tp0816-1_a_18.html 

少子化社会・高齢化社会対策 共生社会政策統括官

http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2004/html-h/index.html