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本田眞季「サービス残業の実態とワークシェアリングという考え方」

 

 日本では欧米に比べ、残業をするということが当たり前のようになっている。その中でも「サービス残業」という言葉をご存知だろうか。数年前まではあまり聞きなれないようであったが、ここ最近、マスコミでも大きく騒がれるようになった。

 

 サービス残業は現在、連合組合員では2人に1人が該当するという。過労死や過労自殺、家庭崩壊等の原因にも挙げられる社会問題となっている。ではサービス残業とは何なのか、どうして行われてしまうのかを考えてみた。

 

 サービス残業とは所定時間外労働、休日労働をしても、その分の賃金が支払われない残業のことである。正式には「賃金不払残業」と呼ばれる。ではなぜサービスなのか。労働者に圧力をかけて残業申請を行わせない。第三者から、労働者が自主的に働いているように見えることからついた。

 

 サービス残業は大きく8つのタイプに分けられる。自己申告規制型、上限時間設定型、定額型、下限時間設定型、振替休日未消化型、年俸制組込型、管理監督者不適合型、法不適合型等である。ここでは管理監督者不適合型について述べてみる。管理監督者には残業手当がもともと存在しない。これは労働時間の規定を受けない代わりに、管理職手当が存在するためである。名目だけ管理職に昇進させ、少額の管理職手当と引き換えに残業手当をカットしているというパターンだ。

 

 統計によって多少異なるが、サービス残業の特に多い業種に挙げられるのは商業、金融・広告業、製造業等である。この中で商業に着目して、平成15年度と平成16年度の労働監督署による割増賃金の是正支払事案を比較してみる。100万円以上の割増賃金は企業数348→398。対象労働者数57,174人→44,864人。是正支払額500,639万円→572,153万円。対象企業は増加している。

 

 ではどうしてサービス残業が頻発するようになったのか。サービス残業が行われる背景として、業務量の十分な削減がないにも関わらず、リストラ等によって正社員が減らされ、残された正社員の負担が増加している。人件費削減のために残業代が抑制されているのだ。そんなに人件費を削減する必要性はどこから生まれるのだろうか。それは1980年代に起こったバブル景気に大きく関連するようだ。

 

 1991年までの約10年間続いたバブル景気。アメリカのドル高に伴って日本は円安だった。しかし1985年のプラザ合意で急激に円高が進み、日本は不況に陥った。そして日本銀行は低金利政策を行い、株価・地価がみるみる高騰し続け、バブルに突入したのであった。「失われた10年」という言葉があるように、バブルが崩壊してからは地価・株価が大きく値下がりした。簡単にいえば、借金をしてまで土地や株を買いあさった人には借金だけが手元に残ったということである。このように不良債権問題が浮上し、企業や家計も投資や消費を抑制した。この中に人件費削減も含まれる。長期に渡って不況が続き、企業はリストラをし、正社員を減らす代わりにパートやアルバイトを採用するようになった。こうして数少ない正社員1人1人に残業が課せられ、負担が増大していったのである。

 

 そもそも「残業」扱いになるのはどのような場合なのか述べる。残業は休憩時間を除いて「1週40時間、1日8時間」(労働基準法で定めている法定労働時間)を超えて仕事をする場合。各企業が法定労働時間にのっとって、独自に決めた所定労働時間を越えて仕事をする場合。または「1週1回、4週4回」の法定休日に仕事をする場合等である。残業の割増賃金の割増率は時間外労働25%以上、休日労働35%以上、深夜(22時〜翌5時)労働25%以上と決められている。だが、割増賃金を支払えば、いくらでも残業をさせられるわけでもない。36協定と呼ばれる手続きをしないと、残業は出来ないことになっている。

 

 36協定とは、正式には「時間外・休日労働協定」で労働基準法第36条に定められているものである。延長時間や休日労働日、延長事由、対象業務、人数等を定める。使用者と労働者の過半数の代表者(*)とで締結し、労働基準監督署長へ届け出なければならない。さらに36協定にも限度がある。一般の労働であれば、1週間15時間、1ヶ月45時間、1年間では360時間までである。

(* その事業場において労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合。労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者。)

 

 次にサービス残業問題を解消するにはどうすればよいか。厚生労働省では2001年4月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」、2003年5月には「賃金不払残業総合対策要綱」をまとめた。さらに、毎年11月は「賃金不払残業解消キャンペーン月間」としてキャンペーンを展開している。都道府県労働局や労働基準監督署および関係機関用にポスターやリーフレットを作成し、国民にも理解を求めている。11月23日勤労感謝の日には、全国一斉にフリーダイヤルで相談を受け付けている。一方、労働基準監督署も規制を強化し、対策に乗り出している。具体的な解決策として、ここではワークシェアリングという考え方を取り上げたい。

 

 ワークシェアリングとは、1人当たりの労働時間を短縮し、限られた仕事を多くの人が分け合うというものだ。サービス残業が増加する一方で、失業率も高水準に達している。2006年8月現在の完全失業率は4.8%。2003年1月に過去最悪の5.5%をマークしたのに対して、改善されつつあるが、25歳未満は現在も9.6%と高水準である。ワークシェアリングを取り入れれば、1人当たりの給料もその分少なくはなるが、これ以上リストラによる失業率を増やさずに済む。日本ではあまり取り上げられていないが、欧州諸国では多く取り入れられており、ドイツ、フランス、オランダ等で進んでいる。その中でもオランダが最も注目を集めている。

 

 オランダは現在、失業率は1〜2%と驚異的に低い。しかし以前からこのように低水準をマークしているのではない。1982年には12%超えという最悪な水準であった。どのようにして10%以上も下げることに成功したのだろうか。それは1982年に政府、労働者、使用者のトップによる「ワッセナー合意」が起点となっている。賃金抑制、正社員の時間短縮、パートタイム雇用の拡大等を行った。これによって正社員とパートタイム労働者の均等待遇が実現されている。均等取り扱いとなるのは、時間当たり賃金、法定最低賃金、休日・休暇、失業・傷病・障害給付、健康保険、公的年金、企業年金等である。1983年から85年には法定労働時間が週40時間から38時間に短縮され、さらに2000年からは週35時間にまでも短縮された。またパートタイム労働者は一般に女性であり、女性の社会進出や子育て等の面でも利点がある。その上、未熟練の若年者が社会進出しやすい環境にもなった。

 

 日本でも年々、女性の社会進出は積極的になり、パートタイム労働者や契約社員の増加など雇用形態は多様化してきている。パートタイム労働者についてみても日本とオランダを比べれば違いがあることがわかる。パートタイム労働者の処遇である。日本ではパートタイム労働者や契約社員は、雇用保険や社会保険に加入してもらえなかったり、手続きが正社員とは異なっていたりする。

 

 ワークシェアリングが実現されるには、労働時間の短縮に伴う給与の取り扱いやコストをどう対処するのか、生産性の問題、政府や労使の取り組み等さまざまな問題が生じる。しかし最も重要なのは、パートタイム労働者と正社員との均等待遇の確立であると思われる。

 

 日本は歴史的な観点から見ても、外国の文化や政策等を取り入れ、独自に発展してきた国のように思える。経済活動の変化に伴って雇用形態、働くことへの意識も変わってきている。また、労使間の信頼関係や結束も薄れてきているように感じる。そんな日本社会の中で表面化してきたサービス残業の解消策の1つとして、日本独自のワークシェアリングを考えてみてはどうだろうか。

 

 

【参考資料】

・『本質が見えてくる 最新現代社会資料集』改定2版

 第一学習社編集部編著 第一学習社 2003年

・『そのサービス残業は違法です!』

 佐藤広一著 中経出版 2006年

・『これで解決!「サービス残業」』

 労働調査会出版局編 社団法人 全国労働基準関係団体連合会 2005年

・『サービス残業Q&A

 木村大樹著 社団法人 全国労働基準関係団体連合会 2006年

・『日本型ワークシェアリングの実践』

 樋口美雄編著 生産性出版 2002年

・平成14年2月_一般質問 島野 直議員

 http://www.pref.saitama.lg.jp/s-gikai/gaiyou/h1402/1402q050.html