070115Endoh

 

遠藤久子「雇用における就業格差の原因分析と格差解消に向けた考察」

 

 私は以前から地方格差について関心があり、中間発表の際に都道府県別の完全失業率について調べた。[@]その結果、ベスト3が1位 福井県2,4%、2位富山・石川・愛知・三重・滋賀県2,8%、3位 岐阜県2,9%となり、ワースト3が1位 沖縄県8,0%、2位 青森県5,7%、3位 北海道5,6%であることがわかった。この結果から北陸・東海地方の失業率が低く、福井県と沖縄県の差が5.6%もあることを知り、本レポートでは、なぜ北陸・東海地方は失業率が低いのかを、特に福井県に焦点を当てつつ分析した。また、他の地域が失業率を下げるためにはこれからどうしていくべきかを考えた。

 

 ここで反論のある方がいるかもしれない。それは、失業率には、就業機会が少ないと就職活動をあきらめる人が増えるため(非労働力化)、統計上は失業率を引き下げてしまうので、正確な雇用・就業情勢がわからないのではないかというものだ。そこで、より雇用・就業情勢を反映していると思われる就業率(就業者/15歳以上人口)を見てみると、やはり東海・北陸地方は就業率が高く、いずれも2005年時点で60%を超える水準となっている。[A]一方、北海道・九州地方では55%前後にとどまっている。長期的に見ても、1990年以降のいずれの時点でも、東海・北陸地方の就業率は全国最高準であり、北海道・九州地方の就業率は全国最低水準である。したがって、地域間の失業率や就業率の格差は、非労働力化の問題や、景気変動の結果に関係するというより、もっと別な部分に関係があるようだ。

 

 就業率の地域間格差に影響を与えている要因は、大きく分けて4つあると考えられる。

 

 一つ目は、移出・輸出における需要の大きさである。県内の需要は、国内の人口規模や産業構造などにある程度比例して決まってしまうが、県外・国外の需要はそうした心配がなく拡大することができるため、県外・国外に向けて需要を取り込むことに積極的な地域は就業率が上昇することになる。実際、2003年に内閣府と総務省が調査したところによれば、就業率と移輸出の間には関係が見出せる。[B]

 

 二つ目に、就業率が高い地域の特徴としては、全年齢層にわたって就業率が高いことがいえる。とりわけ女性と高齢者の就業率が高い点に注目できる。例えば、富山県は共働きの家庭が多く(全国第三位)、世帯主以外の世帯員による収入が多い(全国第一位)。そして女性の就業率は51,5%と全国第四位である。[C]

 

 三つ目に、北陸地域では中学・高校卒業者の進学率が高い。北陸三県の進学率は、全国平均45,3%に対して富山県が48,6%、石川県が50,6%、福井県が50,1%である。[D]進学率が高いことで、選択できる仕事の幅が広がっていることが、就業率に関係しているのではないかと考えられる。

 

 四つ目に、県民性である。NHK県民調査によれば、富山県の県民性は一般に、骨身を惜しまず黙々とよく働き、勤倹貯蓄を心がけ実直である。そして合理指向で実行力があり、進取の気性に富み、家族を大切にして助け合い、信仰心も厚く、思想面では保守的である。こうした気質は、一つには氾濫を繰り返す急流河川との戦いの歴史、また、冬季積雪下での忍耐の歴史によって育まれたと思われる。[E]

 

 一方、沖縄の県民性を見てみると、沖縄は「ウチナー(沖縄)タイム」という言葉がある。この言葉は、おおらかな風土を反映してのせかせかしない独特の時間感覚を表している。会合などに30分位遅れても、とくに謝るでもなく、また責める人もほとんどいないという。ただ雇う側としては、時間にルーズな点により、沖縄の人を採用することにためらうこともあるようだ。

 

 以上を踏まえて、今就業率が低い地域が今後就業率を引き上げて、地域経済を活性化していくためには、@移輸出を拡大させて労働の需要を創り出すことと、A女性と高齢者の就業を促す環境を作り出すことの二つが特に重要だ。

 

 そのためには各地域が地理的・産業構造などの特徴を生かし、特色ある拡大策を打ち出していくことが必要だ。そこで、移輸出の比率が高い地域の特徴を調べると、まず、製造業の比率が高い。製造業の中では、第一に電気機械、次いで輸送機械が大きなシェアを占める。商業・運輸も主に工業製品の流通がもとにあっておこる産業であることを考えれば、シェアの約八割は製造業に引き寄せられたものと考えられる。総務省の全国調査でも、就業率と製造業シェアの間には相関が強いことが分かっている。[F]

 

 次に高いのは11,3%のシェアを占めるサービスである。サービスについては、大都市圏と地方では産業構成が大きく異なっている。大都市圏では広告・調査・情報などの対事務所サービスが中心となっているのに対し、地方では旅館・飲食店などの対個人サービスが中心となっている。サービス移輸出額が多い地方では、観光産業を軸に地域経済の活性化を図っていることが特徴だ。今後は、中国を中心としたアジア諸国の所得水準向上に伴って、国際観光客の増加が見込まれる中、観光産業は地方の就業拡大の手段として期待される分野である。

 

 近年注目されるサービスが、介護サービス業だ。平成124月から介護保険制度が始まり、また、高齢化や核家族化、少子化傾向などの家庭環境の変化により、今後老人福祉・介護サービス業では、就業拡大が予想される。



[@]総務省 統計局・政策統括官(統計基準担当)・統計研修所http://www.stat.go.jp/index.htm 

 

[A] 株式会社 日本総合研究所 調査部 ビジネス戦略研究センターhttp://www.ri.co.jp/

 

[B] 脚注Aより。

 

[C] マーケティング&マニュアルゼミ<県民性―風土記>

http://www2s.biglobe.ne.jp/~kobayasi/

 

[D] 今週の指標http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/index.html

 

[E] 脚注Cより。

 

[F]脚注Aより。