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高橋優「国際結婚の婚外子差別―国籍法上の不平等―」

 

 世界がグローバル化を迎え、各国間でモノと人の行き来が絶えない今の時代、国際結婚をするカップルはめずらしいことではない。厚生労働省によると2003年に結婚したカップルの20組に1組は一方が外国人ということだったので、クラスにふたりは国際結婚をする友達がいるということになる。このように外国人と恋愛をする日本人が増えてきたことによって、生まれた子どもの国籍が問題になることが多くなった。

 

 国際結婚によって日本で子どもが生まれた場合、両親のどちらかが日本人であれば、その子どもは日本人ということが現在の日本の国籍法で定められている。これは血統主義に基づいていて、1985年に国籍法が改正されるまで日本では、日本人父の子どものみが日本人と規定される父系優先血統主義を採用していた。一方、イギリス、アメリカ、カナダなどの国では、生まれた国の国籍を取得する生地主義をとっている。例えば生地主義の国籍法を採用しているアメリカでは両親が外国人であっても、アメリカで生まれた子どもはアメリカ国籍を取得できる。血統主義をとる日本では、両親の持つ国籍がそのまま子どもの国籍になる。法律上婚姻関係にある日本人と外国人カップルの場合、子どもは日本国籍を得ることができるし、外国人の親の国の法律によっては、もうひとつ国籍を得られることもある(*1)。しかし問題は、法律上婚姻関係にない国際カップルから生まれた子どもの国籍なのである。

*1 二重国籍をもつ場合、日本の国籍法によって22歳までに国籍選択宣言をしなければならない。

 

外国人父、日本人母の場合、両親に法律上の婚姻関係が認められなくても、出産の事実から母親と子どもに実親子関係があるのは明らかである。よって子どもは日本国籍を取得できるが、日本人父、外国人母の場合、現在の日本の国籍法では胎児段階での父親からの認知がなければ、日本国籍を取得できないことになっている。出生後の認知で子どもに日本国籍が認められる場合は、父母が法律上婚姻関係にあるときだけなのである(*2)。

*2 この場合子どもは20歳未満でなくてはならない。

 

 現在の国籍法をもとに、例を挙げてみる。マイラさんという外国人女性は日本人男性との間に生まれたふたりの子どもを育てているが、男性は既婚者であり、子どもたちは婚外子である。次女が生まれる直前に父親が認知したため、次女には日本国籍が与えられた。しかし、長女については出生後の認知であったし、両親の結婚は望めないため、日本国籍を取得することはできない。このように、全く同じ両親から生まれた姉と妹であっても、日本の国籍法では日本国籍取得上の不平等が生まれてしまうのである。

 

 日本に生活していながら日本国籍がないということで、さまざまな不便が生じる。1997年時点で日本で外国人登録をしている人は148万2707人で、15歳未満の子どもも17万4007人いる。そのほかに外国人登録されず超過滞在と思われる人もおり、その人たちの子どもも日本で生まれている。生地主義をとらない日本ではそのような子どもは当然母親の外国籍を受け継ぐことになり、また「日本生まれ」という在留資格はなく、子どもの在留資格は親のそれに順ずる。したがってもし親に在留資格がなければ、たとえ赤ん坊だったとしても国外へ強制退去となってしまう。

 

 外国人の在留許可の申請は三年ごとに行わなければならず、手続きを怠るとオーバーステイとなるほか、いったん強制退去されると再び入国することは難しくなり、その手続きも非常に煩雑である。子どもの出生後に日本人の父親が認知したとしても、日本国籍や在留資格がとれなかったため、実際に強制退去になった母子がいったいどのくらいいたかわからない。しかし、日本人父による認知が出生前であれば子どもは日本国籍を取得することができ、もし母親が超過滞在だったとしても特別に在留許可がおりる可能性がある。日本人父と外国人母が法律上の婚姻関係になくとも、ただ父親の認知時期の違いによってこのように差が生じることは、とても公平とは言い難い。

 

 出生後に日本人の父親が認知しても子どもに国籍を認めないのはなぜか。法務省は「父親の認知がいつになるか分からないし、そのときまで非嫡出子の国籍が確定できないのは好ましくない」と説明している。最高裁判例でも「胎児段階で日本人の父親から認知された場合に限る。そうでなければ出生と同時に日本国籍を取得することはない」としている。

 

 しかし、日本と同じように「自国民の子ども」のみに国籍を与える血統主義を採用する国すべてがこうではない。ドイツやフランス、韓国などでは、出生後に父親が認知すれば 国籍を認めている。日本でもこれらの国のように出生後の認知でも国籍を認める国籍法の改正を求める声が各地から上がっている。

 

 こういった流れを受けて、2005年4月に東京地裁は「国籍法は夫婦の子と婚姻届を出していない男女間の子の間に不合理な区別をしており、法の下の平等を定めた憲法に違反する」と判断した。国籍法規定を違憲とし、内縁関係にあるフィリピン人女性と日本人男性の間に生まれ、生後に認知を受けた男児に日本国籍を認めたのだ。

 

 また、国籍法の改定を求める声は国内だけにとどまらなくなっている。国連子ども権利委員会も、日本政府に婚外子の法的差別をなくし、出生前認知を国籍取得の要件にしないよう勧告している。

 

 しかしこれにもかかわらず、国会では国籍法改正の議論が高まる気配はない。「自民党をはじめ多くの政治家が相変わらず日本に住む人は『純粋日本人』と『純粋外国人』に分かれていると思っている。その間のグレーゾーンの人がいるという現実を全然知らない」(TOKYO大樹法律事務所の近藤博徳弁護士)。実際に問題に気づいていても「伝統的な日本国家になじまない」、「非合法に滞在していた人たちに配慮する必要はない」などという意見があり、法改正を根強く拒む向きもある。日本では外国人に選挙権が認められていないため、選挙での票獲得に直接結びつかないとして、国籍法の改正は後回しにされがちである。

 

 一方で、民主党は2004年10月に「外国人の人権と国籍問題に関するプロジェクトチーム」を立ち上げ、婚外子の国籍問題や重国籍問題などについての協議を始めている。同党の松野信夫前衆議院議員は、昨年6月の衆院法務委員会で「胎児認知と出生後の認知で明確に区別するという判断がすでに破綻している。父親が日本人であれば日本国籍を与えるのを基本原則にすべきだ」と政府側に主張した。

 

国内だけでなく国外からも国籍法改正の要求が出てきているなか、日本に住むさまざまなバックグラウンドをもつ「個人」に対する日本の態度が試されている。前述のように、各国間でモノと人の行き来が絶えない今の時代、家族構成や価値観(「家族」の規定)が多様化しており、法律上の婚姻関係のみで子どもの国籍を判断することは困難になってきている。そんな今の時代に嫡出子と非嫡出子を区別して国籍を決めることに、重要性は見当たらない。ましてや、日本国籍を得られる要件が日本人父の認知時期だけで決まるとすればなおさらだ。

 

 日本人父と外国人母の婚外子の国籍取得要件は、子どもの立場から見ると国籍法の規定が子どもを平等に扱っていないということである。日本と血縁的、地縁的に関係している人々のつながりを、国籍というものでつないでおいてもいいのではないだろうか。そして、そのような人々を意味のない基準で「日本人」、「外国人」と区別することに、何の利益があるのだろうか。子どもの立場を一番に考えたときまず優先されるべきは、さまざまな家族、個人のあり方を認め、法の不備を改めることである。いま日本は、まさにその立場に立たされていると言える。

 

 

《参考》

もりきかずみ著 『国際結婚ガイドブック 国際家族の時代に向けて』第二版

明石書店 2000年

榊原富士子編 子どもの人権双書編集委員会企画 『戸籍制度と子どもたち』

  明石書店 1998年

     HASEGAWA LAW OFFICE http://www.celloko.com/

     在留許可申請手続きサポート http://www.yokoho.com/contentsB003.html