Madanbashi060123

 

真玉橋知香「各国NGOを支える背景とそれに比較される日本のNGOの相違点と問題点」

 

 世界的にNGOの存在は政府によらない市民のアクターとして重要視されている。日本のNGOの成長は三期に分けられるといわれ、第一期は80年代初めの誕生期、二期目は政府からの活動資金援助が始まった89年頃からで、96年の三期目以降からは政府と対話の場が持てるようになり、現在までにその存在や必要性は認識されつつあると言われている。しかし一部の活動的市民の認識を除いて、実際に日本国全体を対象としてNGOと日本の関係性をみた場合はどうであろうか。

 

去年の夏ごろから腕に白いゴム製のバンドをしている学生を多く見かけるようになった。ホワイトバンドである。書店やコンビニ、インターネット上のNGO管理サイトなどでひとつ税込み三百円で購入できるというものだ。ホワイトバンドが若者の間で流行したのにはわけがあり、「ほっとけない 世界のまずしさ」というキャンペーンで、有名スポーツ選手や俳優、アーティストなどがホワイトバンドを身につけ「ホワイトバンドを身につけよう」と宣伝していたからだ。

 「ほっとけない 世界のまずしさ」というキャンペーンは、Global Call to Against Poverty (G-CAP)という国際的に行われているキャンペーンの日本版であるが、現在一部のネット上でこのホワイトバンド販売が問題視されており、こうした状況がメディアにも報道された。

  

 GCAPの目標とするところは2000年に行われた国連会議のミレニアム宣言の中に基礎づけられている、2015年までの貧困の半減などを謳ったミレニアム開発目標Millennium Development Goals(MDGs)を達成させ、貧困のない世界を創るということである。世界各国でこの活動目的に賛同した様々な非政府アクターが、貧困に無関心でないということをそれぞれの方法で政府にアピールしている。こうした活動の最もわかりやすい例として、G-CAP公式サイトでは、まずしい国の人でも比較的簡単に手に入る白い物(主には布)を体の一部に身に付けることで、世界中から貧困の撲滅を訴えていこうと呼びかけている。

 

 日本ではこうしたキャンペーンに賛同した企業がホワイトバンドを製品化し、販売しているが、そのキャンペーン活動の趣旨を十分に説明できていないとして論争が巻き起こっている。その主な論点は時間とともに変化してきているが、以下のような点があげられていた。

 

     ホワイトバンドの所持が国策変更への賛同を示すという点を説明できていない。そのため募金活動などいわゆるチャリティーだと勘違いして購入するケースが増え、それが不満を増す要因にもなっている。

     価格の一割がNGOの活動資金に回されるとされているが、その割合が低いということ。

     資金提供を受ける一部のNGO自体の信頼性、一般購入者から見て活動資金の使途が不明確。

 

実際にはNGOという貧困と向き合った活動をしている団体に資金提供という形で協力している事実があるにもかかわらず、こうした非難が一時期活発に行われたのは日本独特なことなのではないか。バンドは募金だと思って購入したが募金は一円も行われず、NGOの活動資金に使われる。そういった不満が声高に語られる背景には、日本人のNGO活動や途上国支援に対する知識のなさ・認識の薄さ、貧困のような世界規模の問題に対する当事者意識の低さが伺えるのではないだろうかと考える。

イラク戦争で問題となった自己責任問題で政府は、いらぬ迷惑をかけ国益に害を及ぼしたとして帰国費用負担を請求し、国民世論も危険を冒してまであんな場所に行く奴が悪いのだとして非難を浴びせ、メディアもあおるように過失を強調した。一方、米ニューヨークタイムズ紙が「彼らの罪は、お上に反抗したことだ」と記事にしたように、国際的にはこうした活動は評価されるべきものと捉えられている。いったい何の違いがこうした認識の差異を生んでいるのか。

 

以下、世界の先進的なNGOを支える背景と、それに比較される日本の相違・問題点を様々な角度から考えていきたい。

 

 

国の文化的側面から考えた場合、まず始めに宗教的視点があげられる。NGO活動が盛んに行われている欧米諸国は、いわゆるキリスト教信仰の影響が強いと考えられる。国民の多数がキリストもしくはそこから派生したキリスト教系会派に信仰しており、博愛や隣人愛などの精神からNGONPOを良識的な活動とし、支持する国民性が強い。またボランティア性の促進が幼いころからの教育体制に組み込まれていることも、NGOの浸透を手助けしているのではと考えられる。こうした支持母体を背景に、欧米諸国では早くからNGONPOという概念が生まれ、長い歴史と経験を基にNGO組織自体の仕組みも安定し、組織としての信頼性は増し、豊富な寄付による資金力も後押しして、充実した支援・援助が行えるという状況が生まれている。

 

またボランティア性に関連しては、歴史的に欧米諸国が世界を植民地化してきた事実も関連していると考えられる。植民地となった国には、突然外国からきた勢力への従属関係に対する反発心から、自らの力で態勢を変えていこうとする自発性が培われていく。これは長い目でみてボランティア=自発性にもつながるものだと言えはしないだろうか。その点からいえば日本は島国であり、隣国の脅威にさらされることも少なく、直接的に外国の支配下におかれたこともなかったため、育ちにくい感情だといえる。しかし古来日本は農業国であり、近隣の村単位での自給自足生活の中で隣の畑作業は手伝って、そして自分の作業も手伝ってもらうという、ボランティア性に似た共同体内の協力関係・意識は存在していた。こうした精神は工業化・機械化が進むにつれ徐々に失われていってしまったのではないだろうか。

 

またタテ社会・お上文化の中に育った日本人が持つボランティアの概念には、他国に比較してなんとなく不自然な感があるといってよい。欧米に負けずボランティアが盛んな国のひとつであるオーストラリアでは、ボランティアをするといってもギブアンドテイクの自覚があり、してあげるという意識はさほど持っていない。日本では阪神大震災の際に一時問題になったように、ボランティア活動が不安定な自己アイデンティティの確立のために利用されるケースや、不慣れで無責任なボランティアという評価による、ボランティアに対するその後の負のイメージの創造があった。また日本人がボランティアをする際に抱きがちな無意識的な“かわいそう”という上から下にみる気持ちにより、ボランティアされる側の精神的な負担感や依存心が形成されてくるといった問題が指摘されていることにも、ボランティアが自然な生活の中の一部として浸透していない原因として挙げられるかもしれない。

 

いわゆる途上国と呼ばれる国にも国内NGOが存在していて、しかも日本でいう大企業や一流会社に匹敵するほどの規模と社会的ステータスを持っているという点においても注目すべき視点がある。バングラデシュでは初等教育の普及という役割をNGOが全県的な規模で担っているのが実情で、その規模の大きさ・修学児童数の多さゆえに一定の学年まで達すれば国管理の学校に編入資格が認められているほどだ。また海外からのNGOも数多く国内に存在しており、その給料はスタッフにとっては魅力のあるものである場合も多い。政治腐敗の進むこうした国ではNGOのプレゼンスは非常に大きく、国連職員、教師などの国家公務員と並ぶ地位の職業であり、社会を担う重要なアクターなのである。

 

日本のNGOが諸外国と比べ、脆弱な基盤で成り立っていることもNGOの拡大の妨害になっているだろう。政府の支援無償資金協力により資金の援助を受けられるようになってはいるが、資金がないために、継続的な活動を行うための事務活動を行う職員を充分に雇うことができず、煩雑で時間のかかる援助の申請に担当者を回している時間がないのである。また資金協力を受ければ申請時の計画どおりのプロジェクトの進行が要求されるため、現場のトラブルに対処した柔軟な対応ができない問題もある。

オランダ政府とNGOが上手く協力しあい、互いに信頼関係を築きあってきたことで、その援助が被援助国から高く評価されているという報告がある。オランダはODAの対GNI0.7パーセントという国連の目標を上回っているばかりでなく、ODANGO資金供与が世界トップクラスの20パーセントという高い数値を示しており、そのうちの10パーセントが自動的に国内のNGOに供与される仕組みになっている。こうした、政府資金援助に見られるNGOとの信頼関係によって、よりよい援助が可能になることで、市民のNGOへの理解も深まるのではないだろうか。

 

 

顔の見える援助を、といわれて久しい日本の国際協力だが、まずは政府・お上と成長の過渡期にあるといわれるNGOとの協力体制を強化・充実させていくことが国際的に評価される援助につながり、なおかつ市民の中に当事者でありアクターであるという認識をもって生活してもらえることにつながるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

参考

ウィキペディア「ホワイトバンド」

ホワイトバンドの問題点 http://whiteband.sakura.ne.jp/

G-CAP http://www.whiteband.org/index_html/switchLanguage?set_language=en

オーストラリアのボランティア活動の紹介 http://www.twin.ne.jp/~aplac/box/voluopen.html 

ODA(政府開発援助)NGO http://www.iti.or.jp/kikan55/55nagasaka.pdf

OECD東京センター http://www.oecdtokyo.org/theme/deve/2005/20050411oda.html