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鳥越一史「沖縄を考える 占領への抵抗は豊かさに負けるか?」
嘉手納基地は200機近くの軍用機を有する極東最大の空軍基地であり、嘉手納町の83%を基地と弾薬庫が占める。地主数は7910人、年間賃借料が239億4900万円。飛行訓練や低空飛行などで、周辺住民は激しい騒音に悩まされ、正常な日常生活の支障、疲労、聴力障害、授業の中断などの甚大な被害を受忍している。もちろん本土復帰後も、飛行場内や本島周辺で墜落事故は15件発生。軽い事故は頻繁に発生。飛行コース下の住民はもちろん常に大事故の危険にさらされている。
基地内には約2万人の軍人・軍属とその家族が居住。小中高校、教会、銀行、クラブ、病院、バス停留所、映画館からゴルフ場まで完備され、基地従業員は2660人。沖縄上空は全面的に嘉手納基地の管制下にあり、民間機は不自然な低空飛行を強いられている。特に冬場は、民間機が戦闘機の下を通って方向を転換するので、民間機と戦闘機の接触の可能性もないではない。朝鮮半島有事の場合は、嘉手納基地のF15戦闘機中隊の一つが24時間以内に戦地に到着する。空軍は長期的に合理化を進めなければ戦力維持は不可能だから、日米両政府はこの嘉手納基地の恒久的使用を暗黙の了解にしているのかもしれない。
また、コザの空港通りは、米兵の街で、至るところに英語の看板がかかっている。「PAWN SHOP」とか「NEWPORT STORE」という質屋とか、「大衆食堂MICKEY」とか「麻雀倶楽部ミーティング」なんて店もある。ジーンズショップとか、テーラーとかも多い。服屋をやっているのはほとんどインド人だそうだ。この米人街、これでも日本化した方だという。以前は規模も今よりかなり大きかった。しかし本土復帰後経済格差がなくなったため、米兵相手の店は縮小していったという。ちなみにここはもともと「胡屋」で、米兵が誤読して「コザ」になった。返還後の1974年に美里村と合併、現在は「沖縄市」である。返還前のコザは年間1000件の外国人犯罪があり、アメリカ人による殺人・強盗・強姦などの凶悪犯罪が多数で、年間3000件の交通事故もあった。驚くべきことにそのすべてが無罪、もしくは微罪で処理されていたのである。
1970年12月20日、米兵が連続して起こした2件の交通事故と、MP(軍警察)の威嚇発砲をきっかけに、7000人を超える暴動が発生。「コザ騒動」である。沖縄県民の日本復帰運動によって、日米首脳は沖縄返還に合意せざるを得なくなったが、米兵は1970年、具志川市で女子高生を刺傷し、糸満市で主婦を車でひき殺し、その米兵は軍法会議で無罪になった。その4日後にはまたコザ市で米人乗用車が沖縄人を引き倒し、事故処理中の米軍憲兵隊を民衆が包囲した。事態は一旦沈静化したが、米軍憲兵隊が民衆へ威嚇発砲したため、ついに民衆の怒りは爆発した。
民衆はMPカーをはじめ米軍車両80台以上に次々放火!だが単なる暴徒と化した無秩序な暴力ではない。車両は家屋に飛び火しないように道路の中央に引きずり出して放火。暴動に乗じた略奪の被害届は一件もなかったという。民衆は嘉手納基地のゲートの中までなだれ込み、アメリカ人学校なども焼かれた。米軍は武装した300人の憲兵隊と400人の完全武装兵を出動させ、琉球警察も出動。7000人に膨れ上がった民衆と米兵たちが、6時間に及ぶにらみあいを続け、午前7時頃、ようやく鎮まった。米軍側負傷者61人、沖縄側27人、逮捕者21人を出した「コザ騒動」は、米軍占領に対する非武装の抵抗運動だった。イラクのファルージャでは、米軍占領に対して、武装した民衆が抵抗したが、「テロ掃討」の名目で虐殺され、女・子供もその巻き添えで死傷したが、イラク人の犠牲者は1000人以上、テロリストは20人くらいしかいなかった。沖縄とイラクの違いは、民衆が武器を持っていたか否かくらいしかない。
異民族による占領への抵抗は、当然のものであり、この戦いに蜂起する者こそがパトリオットである。私が沖縄人なら当然、パトリ(郷里)を守るために「コザ騒動」に参加しただろうし、イラク人ならファルージャで死んだだろう。利口なやつは「話し合いで解決すべき」とか、「民主的な手続きで」とか、言うのであろうが、力ずくでも郷土を守る、死んでも国を守る、民族自決のために死ぬ、という者が一人もいない抵抗など、必ず占領者の狡猾さにからめとられ、挫折するに違いない。真の愛国者は抵抗者である!この「コザ騒動」がなかったら、米兵の態度は変わらなかったであろう。
「浦添グスク」跡公園は沖縄最大の激戦地だった。なにしろこの地区では「一家全滅」の率が2割を超えた。死体を踏まないと逃げられないほどの凄惨な状況だったという。公園はきれいに整備され、すぐそこまで住宅地になっているが、今でも人骨が出てくるそうだ。「浦添グスク」跡は、沖縄戦で破壊され、世界遺産の対象にはなっていない。グスクの裏側には、王の墓である「浦添ようどれ」があり、現在修復工事が行なわれている。「首里城」や「今帰仁グスク」などは15世紀に作られた4万uを超す大型グスクだが、英祖王統代の13世紀に出現した「浦添グスク」も14世紀には同規模のものだった。「浦添グスク」の周辺にある王陵「浦添ようどれ」の規模を見ても、首里城と同じくらいの王の存在を暗示している。1422年に、三山分立していた沖縄を尚巴志が統一して「琉球王朝」を作ったのだが、実在する王としては、すでにこの「浦添グスク」の段階で英祖王が王権を作っていた可能性が高い。
少し話が脱線したので元に戻そう。そもそも、外国の軍隊とすっかり共生してる生活というのは、極めて特殊ではないか?もちろん生活がかかってない立場の者が、生活のことを考えもしないで「基地反対」と言うのは観念的であるけれど。外国の軍隊の存在が自分たちの死活問題になるというのはやはり正常ではないと思う。
本土復帰の前に、沖縄の保守系知識人が「基地ハダシ論」というのを唱えた。「基地がなくなったら、イモ食ってハダシの生活に逆戻りするぞ、それでもいいのか!」と。今でも親米保守派は「アングロサクソンについていかなければ生活水準が下がるぞ、いいのか!」と言ってる。沖縄の本土復帰を妨害してたのは親米保守派だった!今は彼らが日本の「自主独立」を妨げて、アメリカの属国化を促進しているが…昔からそうだった。アメリカに追従して今現在の生活が保たれるなら、独立すらいらないというのが親米派の本音だ。ところが、保守が「基地ハダシ論」を言った時に、残念ながら沖縄の革新派は、「魂を売るくらいなら、イモ食ってハダシでもいい」とは言わなかった。結局、そこまでの覚悟は、誰もしていなかったのだ。そこも今と同じである。
「生命と財産が国益」と親米派は考える。私は、そんなものは手段にすぎないと考える。ところが、親米保守も革新派もどっちも「命どぅ宝」で、「奴隷の平和」でいいと言うわけだ。どっちも「戦後民主主義」の代表的価値である「生命至上主義」じゃないか!「命を賭けるほどのものなどない」という功利主義!私は自衛隊が米軍の傭兵とならぬために、北朝鮮が怖くてイラクを侵略するような正義も大義も道義もない国家にならぬために、自主防衛の体制を作るべきだと思う。米軍依存によって、今、我々が身の丈以上の生活をしているのなら、等身大の生活に戻せばいいだけじゃないか。アメリカはイラクも沖縄化することを狙ってるんだろう。中東民主化のために米軍基地を作って、居座ってしまう。でも、そうなったら沖縄のように米兵が基地から出て、地元の店で食事するなんてことはできないだろう。イラク人には一神教があるから。しかも武器もある。多神教で、武器も持たない沖縄ですら、「本土復帰」という大義を掲げて、反占領闘争を続けたんだから!「コザ騒動」までやったのだから!
もちろん、占領下で生活していくために米軍基地から恩恵を受けるイラク人も出てくるだろう。生活の保障のために米軍駐留賛成派が少しずつ多くなっていくかもしれない。そうしてイラクを第二の日本化(属国化)することに成功したら、中東全域の属国化をすすめる。しかし、「貧乏にはなるけれども健全になる」という話をどこまでの人が受け入れられるだろうか?
あれだけの沖縄戦を経験して、占領された沖縄人が生活のために基地を利用したのは、一点の非もないと思う。それが面従腹背だったってことは、「コザ騒動」が証明している。むしろ、日本本土の者こそが、面従腹背でアメリカを受け入れたはずが、ついに親米服従となってしまっている!かと言って革新派の「反米・反戦・反基地・反自衛隊」では、米軍基地の問題は解決しない!日本では米軍なしでは「自衛戦争」もできない、アメリカなしでは自国のビジョンも立てられない、そう思いこんで主体を喪失していることこそが問題なんだ!日本はオイルショックの時はアメリカ抜きで中東と独自外交したんだからやろうと思えばやれる!パレスチナ問題だって日本がやらねば。アラブの親日感情をこのまま崩壊させるのはよろしくない!東アジア共同体にも、中国と並ぶ中核として参加し主導するべきなんだ!
沖縄は本土に対して「おまえら逃げるな!」と詰め寄る立場になればいい。今まで沖縄人は恨み節で「日本軍が悪かった、戦争は悲惨だった」と言うばかりだろう。後ろ向きで文句言って金もらってるだけなんだ!沖縄は、「我々はこうしたい、だから金くれ」と言わなきゃならない。そう!金出させるのはかまわない!ガンガンイニシアティブをとって、大交易時代のように、東アジアとの連携を強めてくれ!アメリカが中国を仮想敵国としないように、中国とも、すぐ近くの台湾とも親交を深めてくれ!
アメリカこそ打算だけの国益でしか動いてないんだから、台湾の独立もアメリカが阻んでいるし、EUと組んだ中国が今より大市場になったら、すぐ日本なんか裏切ってしまうさ!沖縄のことをちょっと考えれば、アメリカが信用できる国かどうかなんて、すぐわかります。行動原理は損得勘定だけ!義理が通じる相手じゃない!裏切られるかもと言うと、親米派は「だから裏切られないほどに一体化してしまえばいい」なんて言い出すんだ。狂ってる!
米軍再編によって、日本は今、全土が沖縄化してるのかもしれない。自衛隊も米軍の傭兵となって世界中でアメリカの侵略と占領を手伝えるようになるのかもしれない。サヨクが今、感じている危惧は、ほとんど私と共通するものだろうが、それはサヨク諸君が、自国防衛すら拒否してニートになっていたせいではないか!
〈参考文献〉
「誰も書かなかった沖縄」惠隆之介/「沖縄の自己検証」おきなわ文庫/「オキナワなんでも事典」大城立裕/「沖縄戦」那覇出版社/「沖縄決戦」新里堅進・クリエイティブ21/「ある神話の背景」曽野綾子・PHP文庫/「母の遺したもの」宮城晴美・高文研/「鉄の暴風」沖縄タイムス社編・沖縄タイムス社/「沖縄の戦後教育史(資料編)」沖縄県教育委員会編/「わたしたちのおきなわ四年上」新里益弘編・おきなわ時事出版社/「新編・琉球弧の視点から」島尾敏雄・朝日文庫 〈敬称略〉