021202iitomiy 現代政治の理論と実際  飯富 裕

北朝鮮の難民について

 

北朝鮮の人民と難民問題に関する第三回国際会議http://www.bekkoame.ne.jp/ro/renk/3rd.htm

 

最近の北朝鮮の難民事情

一例として、2000年12月から2001年1月にかけて中国にやってきた北朝鮮難民の数は、1999年12月から2000年1月に比べて、およそ半分近くに減少したとのこと。2001年から2002年1月にかけての場合は、前年度と変化はない。

 

難民の数が減少した理由は以下の5点になる。

1.北朝鮮側の国境警備がきびしいため。

2.北朝鮮内部で住民統制が復活し、移動の自由が制限されたため。

3.中国側の難民の取り締まり、強制送還のため(北朝鮮住民の間に、中国も安全ではないという情報が広まった)

4.昨年末、北朝鮮内部で一時的に食糧配給が復活したため。

5.北朝鮮内部における最も困窮した階層が、死亡したため。

 これらのうち4点目について加えていうと、北朝鮮ではもともと、基本食糧(主食)については、住民それぞれの階層が労働内容に応じて、国家が「配給所」を通じて一元的に供給する体制をとっていたが、1990年代に入って食料配給が段階的に減少し、94年前後には基本的に配給が止まった。これ以降、人々は「自力更生」で食糧を調達せざるを得なかった。北朝鮮当局も食糧入手のための「移動の自由」を黙認せざるを得なかったとされる。そのため中国への脱出者が急増した。

 したがって、食糧配給の復活が難民数の減少を伴うことは理解できるが、難民たちによると、それほど単純な話ではないようだ。つまり、「配給所」を通じた国家による食糧配給体制の場合、住民は職場の出勤証明と居住地の居住証明が必要とされるため、食糧調達のために長期間外出することは不可能なのである。その意味で、配給の復活と統制強化は一体のものと考えられる

 ところが、難民たちの話では、配給の復活は非常に限定的なものだったようだ。昨年5月に面談した二人の難民の話では、以下のような状況である。

1.2001年に入ってから、正月の特別配給で3日分が支給された。

2.配給は企業所(職場)によって異なる。茂山(ムサン)の代表的な企業所「茂山(ムサン)鉱山」の場合でも、配給は断続的であり、総体としては一ヶ月で10日分もない。配給されても、労働者本人の分だけで、家族の分は不足する。

3.配給がない企業所も少なくない。

 これでは何の意味もないため、人々は監視の目をくぐって行商をしたり、ヤミ市場で商売をしたり、さらには中国へ越境することになる。つまり、事態は基本的に変化してないと言える。

 また、2点目と3点目について加えて言うには、中朝国境地帯の北朝鮮側では、通常の国境警備隊のほかに、一般警察や治安警察、されには除隊軍人を中心とした民兵まで組織し、これまでにない厳重な警備体制を取っている。中国側も、国境警備隊の増員や一般警察による集中的な取り締まる、地元住民への度重なる布告など、難民摘発を進めている。中国では、昨年来、「厳打整治闘争」と題する全国的な犯罪取り締まり運動が展開されているが、その一環として、東北地方、なかでも吉林省では、北朝鮮難民に対する逮捕、強制送還攻撃が飛躍的に促進された。とくに昨年6月のチャン・キルス家族の事件直後、延吉市をはじめ中朝国境地帯の主要都市では、毎日100人規模で北朝鮮難民が逮捕され、北朝鮮に強制送還されたり、警察がタクシーを一台一台停めては、乗客の身分証を確認するといった、恐るべき状況になった。今年1月に、中国側住民から聞いた話によると、中国側国境側のいくつかの地点に、自動監視装置が設置されたとのことだが、実際に確認はできていない。

 しかしそれでもなお、難民たちは中国にやってくるそうだ。これら難民たちは、二つの類型に分けることができる。一つは、密輸など経済的な利権に関わっている者、もう一つは、生き延びるためにやってくる者である。後者の方はほとんどがすでに何度か中国に来たことがあるそうだ。中国で警察に捕まり、強制送還され、北朝鮮で拷問を受けるなどの経験などがあって、難民の意識が変わっていった。そして長期間にわたって窮乏に耐える生活から、北朝鮮での生活に展望がもてなくなるか、一度でも中国に来て、精神的な開放感を味わうと、もはや北朝鮮では暮らせなくなるといった理由でまた中国へやってきたということである。つまり、食糧や金銭といった物質的な欲求から、将来展望や開放感といった精神的な欲求が強まっていることがわかる。この例として、難民関係の犯罪が増加していることである。難民摘発のためにやってきた警察を、隠れ家に潜んでいた難民が反撃し警官を一人殺して、山の中に逃げ込んだそうだ。その後の追跡調査でその難民が逮捕される際にも、難民は警官一人を殺したとのことである。これによって中国の警察や地元住民のなかにも心境変化が生じ、北朝鮮難民に対する「同情心」が薄れつつあるそうだ。

 北朝鮮難民の発生の原因は北朝鮮における飢餓があるが、これは非合理な農業政策や経済政策だけでなく、「首領」(金正日)を中心とする核心階層の生き残りを何よりも優先する、独自の政治哲学、政治体制が特に大きな原因となっていると考えられる。こういったことから難民関係の犯罪が起きているとも考えられる。