Nakamuray011203 「現代政治の理論と実際」レポート 中村祐司(担当教員)

 

「米同時多発テロ後のアフガニスタンをめぐる各国・各派勢力間の調整に関する考察」

 

2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件は、冷戦構造の終焉が世界秩序の安定をもたらしたという認識が幻想であることを示した衝撃的なできごとであった。今回の事件をめぐっては、テロ組織の撲滅に向けた軍事行動がアメリカを中心に展開されつつあり、イスラム諸国を含む国際世論も「反テロ」という姿勢には同調を示している。しかし、一方でパキスタンなどのアフガン周辺諸国では、米英軍によるアフガニスタン攻撃に反対するデモ行動や反乱が顕在化しており、難民の窮乏にも拍車がかかっている。

アフガニスタンの歴史やパレスチナとイスラエルとの対立に代表されるような中東紛争、90年代以降のアメリカの繁栄など、今回の事件の背景・要因には単にテロ組織対アメリカ、テロ組織対先進諸国、テロ組織対国際社会といった単純な構図では把握できないものがある。したがって、テロ組織の撲滅やテロ行為の抑止のためには、仮に一定の軍事的手段を用いるのも止もう得ないという立場に立つとしても、軍事行動以外の共存・平和への模索が今ほど痛切に求められる時代はないのではないだろうか。

すなわち、窮乏国家における交通網や通信網などのインフラ整備、食糧援助、草の根的文化活動交流、教育援助、民主的選挙制度など、当該国民の自己決定支援の拡充などを通じて、国際社会が軍事行動以外の相互理解、相互協力、相互依存の双方向性のコミュニケーションルートを多元的に確立し、あくまでも異文化の存在と尊重を前提とした共存社会への模索が今こそ追求されなければならない。

このように変転して止まない国際社会を見据えつつ、国家間の摩擦や紛争解決のあり方が追求されなければならない。新世紀における非軍事的活動を通じた国際社会貢献のあり方を、抽象論の展開ではなく、あるいは現実に適用不可能な空理空論モデルの構築ではなく、具体的に適用可能な処方箋を提示することを目指したい。例えば、国連調整活動、金融支援、農産物提携、スポーツ・文化活動支援、居住環境・インフラ整備、雇用の創出といった分野において、特にアフガニスタンにおける国際社会共存のための具体的政策モデルが提示できないであろうか。

例えば、先進国による途上国金融支援の新ルール構築と具体的措置、異文化相互理解のためのスポーツ・文化及び住民参加支援活動、労働市場及び雇用確保に向けた住民間ルールの確立、生活基盤としての居住環境整備のための具体的方策、農産物・食糧提供のための輸送ルート及び農業環境の構築、国連支援活動をめぐる新ルールの作成と人材の供給策、などを実現するにはどのような方策がとられなければいけないのであろうか。

上記のような方策がとられるための大前提として考えなければいけないのが、各国・各派勢力間の調整作業である。この点が克服されてはじめて、暫定政府の樹立にせよ、救援物資の搬送にせよ、インフラの再構築にせよ有効なものとなっていくと思われる。そこで、この勢力間バランスということを念頭に置きつつ、以下、若干の論を展開していきたい。

まず、指摘しておきたいのが、アフガニスタンの歴史そのものが他国による「干渉」と「無関心」、そして内戦の歴史であったということである。後者に関して例えば、1992年4月にナジブラ政権が崩壊後、ゲリラ軍はカブールを占拠し、ラバニを大統領とする暫定政権を成立させたものの、94年1月にはラバニ大統領派とヘクマティル首相派が衝突し、国内各地で2500人以上が殺害された。イスラム神学生を中心とする原理主義派の新興勢力タリバーンが蜂起した後の同年11月に、テヘランで20をこえる各派代表の和平会議が開催されるが、これも不成功に終っている。このように各派勢力間の調整はこれが効力を保つ期間には長短があるものの、いずれも失敗し今日に至っているということができよう。

 ネル・マク・ファクア氏(NEIL Mac FARQUHAR)によれば、オサマ・ビン・ラディンはアメリカのアフガン軍事行動はイスラム対する挑戦だということを強調し、宗教戦争という認識に世論を誘導しようとしていることになる。これに対して、ブッシュアメリカ大統領及びその周辺はイスラムの宗教的価値を否定するつもりは毛頭なく、あくまでも反テロリズムを基軸とした軍事行動に入っているという主張を行っている。(http://www.nytimes.com/2001/11/04/international/04LADE.html

こうした互いに一方通行の「論戦」の段階においても両者が同じ土俵に立つということが不可能であることが分かる。

 また、2001年11月5日付のニューヨークタイムズでは、アメリカのアフガニスタンに対する姿勢は、アメリカ国内における治安対策と経済再建政策をめぐる調整と連動した形でなされていることが指摘されている。すなわち、民主党との摩擦も辞さず、アメリカ国内共和党勢力に呼応する形で、ブッシュ大統領は治安対策をめぐる財政支出を渋ったというものである。ニューヨークタイムズによれば、従来は民主党と共和党の主張を巧みに調整する形で進めてきた大統領の手法に変化がみられることは、アメリカの外交姿勢をも変えていくというのである。(http://www.nytimes.com/2001/11/05/opinion/05MON1.html

ここでも、国内における党派間の調整の難しさを垣間見ることができる。

目をアフガニスタンおよびその周辺国に転じてみると、ジュリアン・ガーリング(Julian Gearing)氏は、北部同盟が首都カブールを含むアフガニスタンの半分を支配下に置いたことを受けて、広範囲の諸勢力を基盤にした政府を構築するための本当の試練はこれからだと指摘している。氏によれば、パキスタン、イラン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ロシア、中国、アメリカの代表者は反乱軍が到着する前にカブールに置く暫定政府の方策を必死にみつけよとしていたが、アメリカ国内における航空機墜落事故によるセキュリティ拘束などもあって、結局、うまくいかなかったという。11月13日にタリバン支配下のカブールが崩壊した際、アメリカ政府は北部同盟に対して暫定政権が立ち上がるまでは、カブールに入らないように命じていたにもかかわらず、北部同盟の戦車はカブールに侵攻した。軍事的な展開が政治的な活動を追い越し、アフガニスタンの状況は流動的で危険な状況に置かれている、という。

より具体的にいえば、アフガニスタンは北部同盟とタリバンとに分割する兆しがあり、アフガニスタンにおけるすべての民族や部族から構成される有効な政府が欠如している点に危機の核心があることになる。「広範囲に及ぶ基盤から、多民族的な、政治的均衡のとれた、民主的に選出されたアフガン政権」を樹立することがいかに困難であるかを氏は強調しているのである。国家建設は不信感に染まった関係者によって妨げられるのではないか。問題の核心は異なる民族や地域グループの間での権力配分である、という指摘もなされている。パキスタンについても言及し、アメリカの同盟国としてパキスタンは表面上、反タリバンの姿勢をとっている。しかし、自らが生み出したタリバンの敵対勢力である北部同盟には懐疑の目を向け続けている。この少数派が勢力を伸ばせば、パキスタンのアフガニスタンへの影響力が弱まるのではないかということを恐れている。パキスタンはまた、タリバンが南方へ撤退したり、崩壊したりすれば、交戦が国境に及ぶことも恐れている、と分析している。

http://www.pathfinder.com/asiaweek/magazine/dateline/0,8782,184614,00.html

ジュリアン・ガーリング氏の指摘するところが、これからのアフガニスタンにおける暫定政府を樹立する上での鍵となっているように思われる。すなわち、各諸アクター間の調整こそが問題の核心なのである。関係国や各派勢力の範囲をもう少し広げて、調整をめぐる諸課題を取り扱っているのが、2001年11月30日付の「エコノミスト」の記事である。この中で、国連を中心とする国際コミュニティにとってもボンで開催されている調整会議は困難を極めるとしている。反タリバングループの代表者28名が一同に会しているのだが、北部同盟とその中の非主流派、亡命国にいた党派の間での意見の歩みよりは難しいという。タジク人、ウズベク人、ハザス人、パシュトウン人といった複雑な民族分布がこれに拍車をかける。確かに200名の国民協議会を基盤に、15-25名の執行部を中心に暫定政府を樹立するという声はある。しかし、やはり問題の核心は「実際の権力配分をめぐる合意」(agree on an actual division of powers)にあるという指摘がなされている。そして、ここに来て、アメリカとロシアの共同歩調にも陰りが見え始めた。ロシアのアフガン北部に対する軍事的てこ入れや北部同盟に対する突出した支援ともとれる行動が目立ってきたのである。一方、アメリカを盟主とするパキスタンはタリバン穏健派を後押ししようとしている。結局、アフガニスタンという不幸な国をめぐる大国のゲームはいつ終るとも分からないと結んでいる。

http://www.economist.com/agenda/displayStory.cfm?story_id=893790

以上のようにこのレポートでは、非軍事的活動を通じたアフガニスタンへの国際社会貢献を達成するための大前提となるアフガン政局の安定や打開、さらには暫定政府の樹立に必要な各勢力派間の調整がいかに難しいものであるかを、国外の雑誌・新聞記事をもとに探ってきた。果たして私たちにどのような解決策が提示できるのであろうか。仮に調整が成功したように見えても、結局、アフガニスタンは「内戦」と「干渉」そして「無関心」の歴史を繰り返すことになるのであろうか。確かなことは「解答のない解答」を探り続ける努力を継続していかなければいけないということかもしれない。

 

<参照サイト>

The New York Times on the web

ニューヨークタイムズの電子新聞。簡単な登録を経て詳細な記事やコラムをみることができる。

ASIAWEEK.com

アジアの視点で書かれているという週刊の電子雑誌。

Economist.com

今回取り組んだ中では最も英文の理解度が深かったと思う。