―行政学のキーワード(3)―(『現代政治学小辞典』有斐閣より)

 

行政国家administrative state

19世紀の立法国家に対して、行政部の優位が確立された20世紀の国家をさす概念。立法国家は、他面において夜警国家であり、国家機能は最小限度の社会秩序の保持と防衛とに限定されていた。しかし、20世紀に入るとともに、夜警国家は福祉国家へ転換し、国家機能は国民の個別的福祉に影響を与えるあらゆる領域へと拡大された。こうした国家機能の拡大は、政治における専門的知識・技能の必要性を著しく強化することになり、原則的にはアマチュアによって構成されている立法部の政治における比重を著しく低下させた。例えば、法律案の作成はほとんど常に行政部によって行われ、また法執行の過程における行政部の自由裁量の範囲は著しく拡大した。具体的細目を行政部の判断にゆだねる委任立法や、行政部の規則や命令による立法の補充も一般化した。かくて行政過程は、社会の利害対立を調整し統合する機能をも果すことになる。こうした行政の政治化こそ、行政国家の最も重要な特質にほかならない。