第4章       無投票当選における信任投票への対応

 

(1)2000年6月議会において

 

 当活動のすべては、この2000年6月議会より始まった。その最初の陳情とは、『無投票当選における信任・不信任の住民投票条例制定を求める陳情書』というタイトルであった。つまり、公職選挙法第100条・無投票当選について、その法律どおりに候補者をそのまま当選とするのではなく、その無投票当選者となる候補者に対して、信任か不信任かを有権者に問う、住民投票を実施すれば良いのではないか、そしてその住民投票条例を条例化して欲しく求めたものであった。

 なぜ、無投票当選という制度に対するものとなったかというと、それは私の幼少の時代にまでさかのぼり、候補者が定数分しか擁立されなかったことで、果たして有権者の信任がなされたとみなすことができるのか、有権者全員が参政権を行使できる唯一の機会がなくなってしまって、政治熱が冷めたりしないのか、などの理由により、無投票当選という制度に疑問を抱いていたからである。無投票当選という制度に住民投票制度を利用することによって、訴えかけていきたかったのである。

 本章では、そんな無投票当選という制度に対しての住民投票制度の活用を訴えた、陳情の活動を見ていくことにする。現実的に無投票当選という制度で選ばれる可能性がある、地方議会議員たちはその制度をどのように見ているのか、本性で明らかになるはずである。

 

@       提出陳情内容

 

 今議会に提出した陳情は陳情書と無投票当選に対してレポートしたレポートと2部構成で提出した。

 陳情書はその一緒に提出したレポートから抜粋した程度の内容となった。

つまり、要旨にはレポートから抜粋した、投票日が本来行われるべき選挙から一週間後とすること、投票資格を現行法の有権者とすること、結果は法的拘束力のないこと、定足数を有権者の3分の1とすること、投票用紙を信任か、不信任かに丸を付ける二者択一で行うこと定めることを求め、また、この条例を市長提案で定めることを指示した内容となった。

その理由としては(理由の欄には)、公職選挙法第100条が様々な憲法の条文に抵触してしまうこと、住民の政治熱が冷めてしまうことの2点について、箇条書きで書いたものとなった。

また、2部構成となったレポートについては、そのような付加的なレポートについては、所管委員会の委員に参考程度に配布することはできるが、それを参考資料として審議内容に加えることはできない、とのことが議会事務局より説明があったので、実質的には陳情書のみで委員会審議が行われることとなったのである。

このような陳情書により、所管委員会である、総務企画委員会の審議となったのである。

 

A       所管委員会・総務企画委員会においての討論・採決調査

 

「不採択」

 

委員会採決 採択することに0−7

 

 当陳情の審議は総務企画委員会にて行われた。当時の総務企画委員会は8名となっている。その内訳は、市政クラブ2名、「あびこ21」1名、公明党1名、躍進あびこ1名、新世会1名、清風会1名、日本共産党1名となっている(本稿第2章参照)。

 現議会における総務企画委員会の審議結果は、「不採択」となった。本節ではその委員会審議で出された理由について、説明を書き記しておく。

 

a解職制という制度で補完ができている。

 

 総務企画委員会にて出された不採択という理由の第1点として、無投票当選になり、その候補が選挙されないことによる弊害を生むのならば、地方自治法第80条に規定されている議員の解職請求という精度を私用して解職させることができるということが挙がった。つまり、無投票当選の弊害は解職請求という制度でまかなえて、それで補完ができているというのである。

 ここまでの意見は出なかったが、ここで言う解職請求とは、無投票当選者に対する解職請求であるので、本来地方自治法第84条により、選挙が行われた場合はその選挙より、1年以上を経過した時でないとこの制度は行使できないが、無投票当選の場合は選挙が行われていないので、当選者が決まった翌日からこの解職制度を使用することが可能なのである。この選挙が行われた時は1年以上経過しないと使用できないとするのは、有権者に選挙を行った責任を持たせるためだとされている。

 だから、ここでの審議については無投票当選者が決まってその翌日でも、またはその当選者が弊害を生んだ時でも、有権者3分の1以上の署名を集め、解職請求制度を行使し、その解職請求を請求された市長または議員に対して、その解職請求を認めるか、認めないかの住民投票を行い、それで解職させるということを意味している。

 

bそんなに無投票という形の現職に不満があるなら、その不満がある人が立候補すれば良い

 

これは、文字通り、そのような無投票当選となることに不満を持っている人がいるならば、そのような不満を持っている人が立候補すれば、無投票当選にはならない、という意味である。

 

住民投票を行うと、公費がかかる

 

 この意見は、あとの常設型の住民投票条例を制定を求めた陳情の章でも出てくるが、本来、無投票当選という形になれば、その選挙でかかる費用が浮くのに、このような住民投票を行うとなれば、結局は費用が浮かずにかかってしまうということである。これ以上は委員会の審議では出なかったが、仮に定足数の3分の1以上が満たさなかったら、開票もしないで、費用もかかってしまい、何の意味もないことに費用を使うことになる、ということを意味しているのではないか、と思われる。

 因みに、他の自治体の住民投票にかかった費用を示しておくと、

 新潟県巻町で664万円、

 岐阜県御嵩町で532万円、

 宮崎県小林市で1028万円、

 沖縄県名護市で2173万円、

 徳島県徳島市で4123万円、となっている。

 仮に、我孫子市で住民投票が行われたとすると、市の執行部の計算では2000〜2300万円かかると予想されている(2003年3月議会総務企画委員長より、第8章・第1節を参照)

 また、この後、我孫子市長選挙が無投票当選となるのであるが、そこで浮いた市の費用は人件費や広報費などで、約2000万円ということが明らかになっている(2003年3月5日の我孫子市長へのインタビューより、第3章・第4節より)。

 

d前例がない。我孫子には無投票当選となった前例がない。

 

 我孫子市では住民の政治熱が比較的高く、無投票当選となった前例では、1975年以来、ないということで、そのような実感がわかないものでは、実態に即さないという意見である。

 ただ、これは後の話であるが、前述したとおり、我孫子市においても2003年1月の市長選において、無投票当選がなされるのである。

 

B       本会議採決における採決調査・議員の採決意思

 

本会議採決 採択することに1−28

 

 総務企画委員会では、不採択ということで委員長による報告があり、本会議採決では願意採決の方法で採決がなされることとなった。

 ここで、我孫子市議会の採決の方法を説明しておくと、採決の方法には二種類あり、願意採決と継続審査についての許可・不許可についての採決方法である。

 願意採決とは一発で決着をつける方法で、採択か不採択かの二者択一にて行うのである。つまり、この方法での採決方法では、起立をすると採択の希望を意味し、着席であると不採択を希望する意味となるのである。

 継続審査の許可・不許可についての採決の方法では文字通り、閉会中の継続審査とすることを認めるか、認めないかについての採決の方法である。この採決に起立をすると継続審査を許可することを希望することを意味し、着席をすると閉会中の継続審査を認めなく、即、上記の願意採決にての一発決着を希望することを意味している。なお、この採決方法にて、着席者が過半数を占めた場合はすぐ同議案、請願、陳情について、願意採決が行われることとなるのである。

 この採決手段のどちらで採決するのか、それについては委員会審議にて決定するのである。その報告は本会議採決の日に、委員長より委員長報告として、報告があるのである。

 話を戻すと、であるからこの「無投票当選における信任・不信任の住民投票条例制定を求める陳情書」については、委員会で願意で計り、不採択として決定したため、本会議採決においても願意採決にて計ることとなったのである。

 本会議においての採決は、起立者(採択希望者)1名と着席者(不採択希望者)28名であった。

 不採択希望者はやはり、委員会の意思に習い、会派内で結束し、不採択となったようである。だから、不採択とした理由は委員会の意思と同じであろう。

 起立をし、採択を希望した議員は1名である。それは勝部裕史議員(当時新世会、現無会派)であった。勝部議員は「無投票当選の問題は抜きにして、議会に学生が一人で陳情をしてきたこと、これは我孫子市政上初めてのことであり、(若者の投票率や政治への関心が低下している現代で)このことは高く評価し尊重をしたく、そのような理由で起立をした」と、採決の理由を私のインタビューや自身のホームページで述べている。

 

C       所見

 

 第1回目の陳情の活動が終了した。これについて、無投票当選というものが、現場の市議会でどのように見られているのか、それが聞けただけでも収穫があった。その収穫を基にして、今議会の委員会で出た審議、その他議会について、所見として、私の意見を述べておいて、本節をまとめておくこととしたい。

 まず、委員会審議で出た、aの意見であるが、それについては現在では解職制もあまり利用されていない現実があるのだ。昭和22年5月3日から、平成7年3月31日の間においても、請求の件数が市町村長で561件、市町村議会の議員で242件となっている。そのうち、投票で解職したのが首長で85人、議員で67人、投票で不成立となったのが、首長が74人、議員が15人となっている。また、投票を前にして辞職したのが、首長で120人、議員が55人となっている。これは、全自治体数からしてみると、解職が成立したのは1割にも満たない数で、また、請求しても、住民投票で可決されなければならないなど、多回ハードルがあるのがお分かりであろう。

ゆえに、これは有権者の3分の1の署名を集めるということが、とても困難なことであるということがお分かりであろう。また、中核市以下の自治体であれば、まだ、比較的容易なほうになるかもしれないが、政令指定都市となると、区割りがあるため、当該区の受任者はその区の有権者の署名しか集められないという地方自治法上の規定があるため、さらに困難さを増してしまう事由もある。

であるから、無投票当選の住民投票はその解職制を後押しする効果があるように思われる。例えば、この住民投票で3分の1以上の不信任票が集まれば、そのまま解職請求と持ち込めるのである。このような、解職請求を行使する前提にもなるし、解職請求を見極める、手段にもなるのである。

また、前述したとおり、地方自治法第80条の解職請求は地方自治法第84条により、選挙をした場合は1年間は行使できないが、但書において無投票当選の場合は当選が決定した翌日から、行使が可能なのである。これは、逆手に取れば、わざわざ地方自治法が無投票当選について、解職請求の但書きを用いていることは無投票当選の弊害を認めていることにもなり、ならば、無投票当選となったら、即、住民投票を行ってしまったほうが住民に分かりやすい仕組みとなりえないであろうか。わざわざ、住民からの提起を待つよりも、直接行ってしまった方が、より、地方自治法の趣旨に沿った現実政治となるはずである。

bの意見については、立候補することにも精神的苦痛、経済的苦痛が伴うはずなのである。立候補するために供託金が集り難い人もいるであろうし、また、人前で話すことが苦手な人もいるであろう。そのような財政的な運命にある人や性格を持つ人が政治に参加できないというのでは不公平になってしまう。ならば、有権者全員に信任を問うべきなのである。

cの意見については、無投票の住民投票の場合については、実際の選挙をスライドさせるのだから、財政的には以上に負担がかかることはないのである。また、いくら財政難といえども、すべての政策について、否定するのでは割が合わない。実際に行われている政策においても、現実に即していなかったり、住民のニーズに即していないものもあるであろうし、そのような点を見極めることが重要なのである。

dの意見については、前例がないというから見送るのではなく、そのような無投票当選が多くて、問題となっている自治体に対して、見本になって欲しいものである。つまり、地方自治の発展途上の地域のお手本となるような先進市になって欲しいと期待を込めたいものである。これはいわば、地方自治の昨日のうちの先導的機能に値する。

 以上が私の今議会で出た意見の反論なりの所見である。

 また、委員会において、陳情者に陳情の説明をさせたらどうか、という意見も出た。

 これに対し、事務局の答弁は、継続審査になるくらい意見が均衡しないと、陳情者は意見を述べたり、反論したりできないのだそうだ。

  全体的な議会の感想としては、例え、一人の陳情で委員会メンバーの全員が反対であったとしても、立場上、誰か一人は陳情者の立場で、賛成者の意見で行なうべきではないかと思われた。裁判においても、弁護人がいて、意見を対立させて進行させるのである。陳情の場合は、裁判のような犯罪者ではないのだから、全員で集中して反対する事はなくて当然だと思われる。立場上、誰か一人でも、賛成者の立場で発言する人がいても良いように思われた。

 

(2)栃木県議会2000年9月議会提出陳情について

 

 ここで、視点が我孫子市議会の点より異なり、少し、余談となるが、私は我孫子市議会で出た意見について、前例がないという点があったので、前例のある自治体にて行ってみた。つまり、栃木県議会について、行ってみたのである。本節では、その栃木県議会についてのレポートについて、簡潔ではあるが、書き記しておきたい。

 

@       提出陳情内容

 

 まず、提出の陳情書の内容であるが、これは前回の我孫子市議会のときよりも大幅に改良した。

ここでは要旨と私が作成した、私案の条例案としたのである。その条例案を陳情書に書き写したものを要旨としたのである。それは、前回の我孫子での陳情書が中途半端な内容となったという反省からであり、条文や条例の内容で指示するのであれば、丸ごと条例を載せた方が分かりやすいのではないか、との点からである。

理由については、前回の我孫子でのものをそのまま利用した。このような内容の陳情書で議会に望んだのである。

 

A       所管委員会・総務企画委員会においての討論・採決調査、陳情の流れ

 

 「不採択」

 

委員会採決 採択することに0−7

                                  

このような所管に当たらない陳情は受け付けることができるのか。

 

 この意見は、この陳情の内容とは特に関係ないが、このようなどの委員会の所管にも当てはまらない陳情は受け付けることができるのか、という議員からの疑問点を議会事務局の職員に聞いている質問であった。

そこでの事務局よりの返答によれば、「陳情というのは会派全体で一人以上賛成があれば委員会に付託して、委員会審議を受けさせるように、受け付ける。何も所管に当たらないものが総務企画委員会に来る。」(議会事務局談)とのことであった。

 

憲法や法律で他の手段がある。(解職制、信任選挙)

 

 これは、前回の我孫子市議会でも出た意見で、要するに解職請求という制度がある、ということなのであろう。

ただ、憲法には憲法第95条に特別法の住民投票として、一域に対する特別法は法律の定めるところにより、住民投票にかけることが書かれていて、その点だけである。むしろ、この無投票当選に対して、憲法論を用いるならば、普通選挙を阻害するものとして、無投票当選反対論となってしまうようにも思われる。

  栃木県議会においての議論は以上の2点が大きな点であった。

 

B         本会議採決における採決調査

 

本会議裁決 採択することに 

 

 この栃木県議会において、本会議の採決は傍聴には行かなかったので、分からないのであるが、おそらく、県議会がほぼ政党政治化をしてしまっている状況を見ると、起立者は一人もいなかったのではないかと予想できる。

 採決の細かい人数までは議事録には掲載されないので、もう、現時点での確認作業は不可能な状況になってしまってきている。

 

C       所見

 

 この栃木県議会の陳情については、あまり大きな収穫はなかったように思われる。

 ただ、aの意見にも見られたように、議会論的な側面で陳情の進行状況が異なる場面が見られたと言うことが大きな点であった。

それらは、三つの点に挙げられる。

一つは、陳情が委員会で審議されるまでの道程が長いということだ。まず、最初に事務局に提出する時、職員より、参考程度に全議員に配布するいわゆる「議長預り」か、委員会に付託するのか、の選択を迫られるのである。私は委員会付託を希望した。そしてその後、陳情書を各会派に送り、そこで全議員のうち一人以上、付託を希望してもらえて、やっと委員会審議となるということだ。

二つ目は、傍聴者に本日の委員会で使用される資料一式、すべて用意されていたということだ。これは、良い部類の感想に属する。特に、細かい陳情などの資料も用意されていたのには驚いた。我孫子市議会においては、未だに傍聴者への資料の配布がなされていない。たしかに、都道府県レベルと市レベルの違いはあるが、地方分権が進み、対等平等な関係となった現在においては、市のほうが議会改革を強く進め分かりやすくしても、違和感はないのであり、更なる精進が求められることであろう。

三つ目は、二つ目と関連してのことであるが、資料を一式用意するため、各委員会、傍聴者が三人に限定されてしまうことだ。希望者が三人を超えた場合は、抽選により、三人に絞るのである。幸い、私が傍聴した総務企画委員会では希望者が私を含め二名であったため、いわゆる「無投票当選」状態によって傍聴できたが、隣の委員会では、希望者が十名を超え、抽選していた。陳情や請願の代表者は優先されることや、審議をビデオに録画し、貸し出すなどの工夫が必要であろう。

  bの意見に関しては、我孫子市議会での所見で述べたとおりである。前節のCを参照願いたい。

 

 やはり、無投票当選に対する住民投票条例を制定させるものとして、我孫子市議会、栃木県議会において活動を行ってきたが、住民投票制度というものですら抵抗感を感じる議員がいる上に、自分の議席が関わってくる無投票当選への住民投票制度となると、さらに抵抗感は増すように感じた。

ここで、この活動も改善を余儀なくされたのである。

 

 

(参考文献)

 

横田清編『住民投票T』(公人社)

今井一『住民投票』(岩波新書)

 

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