修士論文研究レジュメ(MK000107 篠崎雄司)   2001年6月5日

 

「地方自治体の非現業部門における戦略的アウトソーシングの導入の可能性」

―戦略的アウトソーシングの対象業務―

 

1.研究の概要(再整理)

 

前回(2001年5月8日)のレポートで、イギリスにおける、サッチャー保守党政権(誕生は1979年)からブレア労働党政権(誕生は1997年)までの行政改革の変遷を見たが、そこでの課題として、経済性と効率性は、効果(有効性)との両立が難しいというものがあった。

すなわち、行政体が業務を民営化、民間委託しようとする場合、コスト節減などの経済性や単位当たりの生産性という効率性の向上はできても、その業務による住民サービスの質の向上をも両立するのは難しい、ということである。

この対応策として、篠崎は、従来行政体が実施している仕様書方式の契約ではなく、性能発注方式や成功報酬方式などの契約を導入することにより、受注する側に経済性や効率性だけでなく、効果を追求させるインセンティブをつけるべきと提案した。そしてそこでは受注企業のマーケティング能力の必要性、競争の原理がはたらく複数の企業群の存在などをその条件とした。

 

地方自治体の財政状況が悪化している現状においては、さらなる行財政改革に取り組む必要性は十分に認識している。民間企業が十分にできる業務をあえて行政が行う必要がないし、基本的に「小さな政府」となるべきだと考える。

しかし、現在の地方自治体が、民間企業に外部委託しようとする目的は、財政状況の改善のための、職員とコストの削減が唯一絶対になっていると思われる。

戦略的アウトソーシングによる戦略的経営とは、外部の資源(ノウハウ、専門性)を利用し、自社が一番強みを発揮できるコア業務に経営資源を集約することである(先進的にこれを導入している企業では、商品開発という自社の得意分野に集中するため、製造だけでなく営業まで委託しているケースがある)。そこでは、アウトソーシングによる経費の節減の意味も当然あるが、それよりも、自社が安心して中核の業務に専念できるように、アウトソーサーの能力によりコア以外の業務について責任をもって企画・運営し、成果を出してもらうことの方が大きいと言える。いわば、業務の効果の向上である。

自治体がアウトソーシングにより、よりスリム化し、どこまで「小さな政府」が実現できるかを追求するというのも一つの考察課題となるであろう(たとえばCCTの日本の自治体への導入など)。

 

しかし、ここでは、この戦略的経営の考えにより、自治体がそのコアの業務に経営資源を集約できるようにするために、アウトソーシングをどう戦略的に活用していくかを第一の考察のポイントとする。すなわち、単にスリム化を目指すのではなく、必要な行政サービスの向上をいかに達成するかを目的とする。そして、何がコアの業務で、何が非コアの業務なのかを明らかにするとともに、非コア業務への戦略的アウトソーシングの導入の可能性を追求する。

次に、コア業務についても、民間セクターがどのように関与できるかを検討する。

最後に、上記の二つの考察で相当なアウトソーシングの活用が可能となっても、現実の問題として大幅な職員数の削減ができない今日の自治体において、戦略的アウトソーシングの重要な要素である、「成果型契約」を自治体内部に組織的にどのように導入していくかを考察する。

2.地方自治体のコア業務とは何か

 

地方自治体、とりわけ地方分権時代の主役とされ、住民にもっとも近い立場にある市町村の場合、その遂行している業務を分類すると次のようになると思われる。

      

市民に直接サービスを提供する業務

法定受託事務

許認可、扶助、証明書交付など

戸籍事務

外国人登録

国勢調査

生活保護

など

自治事務

ソフト

市税賦課・徴収

介護サービス

国際交流

図書館運営

など

ハード

道路、河川、公園整備

区画整理事業

上・下水道整備

市営住宅建設

など

庁内の管理的な業務

政策・施策の管理・調整事務

総合計画策定

予算編成

人事管理

組織・定数管理

など

庁内の管理・支援的事務

庁舎・財産管理

契約

電算管理

出納事務

など

 

上記のように、自治体の業務は、@市民に直接サービスを提供する業務とA庁内の管理的な業務に分けられる。

Aは、@の業務が円滑に遂行でき、さらにそのサービス内容を向上させるための支援的な業務である。したがって、@が主で、Aが従の関係にある。

しかしながら、自治体(国も同様であるが)では、A、とりわけ「政策・施策の管理・調整事務」に優秀な人材が集められているのが一般的である。

これは、行政の場合、民間企業と違い、受益(サービス)と負担(税金)が分離しているため、その行政サービス、事業の優先順位の設定、資源の有効配分をするのに相当な企画力、調整力を要求されてきたためと考えられる(民間企業であれば一番収益の上がる事業が最優先されるはずであるし、本来優先順位の設定や資源の配分をするのは議会であるがその機能が働いてこなかった)。このため、実質的、あるいは感情的には、Aが主で、@が従の状態にある。

 

しかし、昨今ではこの作業には、行政評価が導入され客観的な事業の優先付けや、市民参加によるまちづくりの機会が増え、定量的、定性的の両方からの政策づくりが行われてきている。政策の優先性や資源の配分方法は、これらの職員の企画力や調整力に頼る時代ではなくなりつつあると思われる。このため、「政策・施策の管理・調整事務」の組織的規模は縮小していくであろう。

また、@の業務の従事職員は、日々一番近くで住民と接し、住民の声を肌で感じているはずである。しかしAが主で、@が従という構図では、このような現場情報は「人や予算を増大させるだけ」と取り扱われがちで、また住民の声を苦情としか聴くことができない状況もあり、そして企画力、調整力が十分になかったこともあって、必ずしも政策づくりには結びつかなかった。サイレント・マジョリティ(声なき声)を拾い、住民サービスの質の向上を図る必要がある今日、@の現場に資源を集めていくことが今後必要と思われる。

 

したがって、自治体のコア業務は「市民に直接サービスを提供する業務」であり、とりわけ、シビル・ミニマムの確保と自治体の独自性を発揮する「自治事務」がその中核となるであろう。

そして、非コア業務は「庁内の管理的な業務」であり、この業務分野について、戦略的アウトソーシングが可能かどうかを検証することとする。

 

 

3.「庁内の管理的な業務」における戦略的アウトソーシングの導入の可能性

 

「庁内の管理的な業務」とは企画、財政、人事、法規、管財などである。この分野は多少の違いはあってもほとんどの自治体に普遍的なものである。したがって、ここでは、平成12年度の宇都宮市の総務部、企画部、理財部、出納室の各課各係の業務内容を例にして戦略的アウトソーシングの導入の可能性を検証することとする。ただし、これらの部内でも「市民に直接サービスを提供するサービス」を遂行している課、係は除く。

対象の部、課、係は下記のとおりである。

主な業務内容

総務部

総務課

法規係

条例、規則の管理

 

 

文書係

文書の管理

 

秘書課

秘書係

市長、助役の秘書

 

財政課

財政第1

予算編成、決算事務

 

 

財政第2係

地方債の管理

 

人事課

人事係

職員の人事評価、採用

 

 

給与係

職員給与、手当の管理

 

 

研修係

職員の研修

 

 

福利厚生係

職員の福利厚生、安全衛生

 

事務管理課

管理係

組織定数、行政改革の管理

 

 

電子計算第1

電子計算組織の運用管理

 

 

電子計算第2係

電子計算組織のシステム開発

企画部

企画審議室

企画調整担当

総合計画策定、企画の総合調整

 

 

情報統計係

行政情報センターの管理

 

広報課

市民相談係

広聴、世論調査

 

 

広報係

広報誌の編集発行

理財部

管財課

管理係

庁舎の管理

 

 

財産係

公有財産、普通財産の管理

 

 

車両係

車両の管理、安全運転の励行

 

契約課

契約係

工事等の入札管理

 

 

物品係

物品の購入、入札管理

 

用地課

業務係

用地取得の資金管理、経理

 

 

用地第1、2係

用地取得

 

検証の方法としては、まず、それぞれの業務内容を明らかにし、その上で、行政が外部に委託せずに独自に行わなければならないものとして「公権力の行使」と「政策形成」の2つを定義し、その範囲を明らかにする。その際、民間委託にあたっての法的な制限がないかも確認する。

次に、それぞれの業務について、受託しうるアウトソーサーの存在状況を調査する。

 

 

4.コア業務における戦略的アウトソーシングの導入の可能性

 

コア業務として「市民に直接サービスを提供する業務」としたが、この業務は幅広く、さらに優先順位がつくであろう。

ここでは、市民に直接サービスを提供する業務についても、戦略的アウトソーシングが可能かどうかを検証する。すなわち、民間の経営能力、技術力をどのように活用し、官民のパートナーシップの構築を模索する。

検証の対象事業としては、@欧米では既に民営化されているものの日本ではまだ実現していないこと、A地方公営企業であり独立採算制を採り経営状況が明確で民間企業との比較が容易なこと、B規模の大小はあるものの全ての自治体に業務内容に差がなく普遍性があること、C平成13年度に法(水道法)改正(予定)により包括的な業務委託が可能にしようとしていること(既に3月に閣議決定済み)から、上水道事業を取り上げる。

ここでも具体的な検証は、宇都宮市水道局を例にする。

 

 

5.自治体組織内アウトソーシングの導入の検証

 

上記までで戦略的アウトソーシングによる外部資源の活用を検討するが、これらの要素である、成果主義、契約型雇用などが自治体組織内に利用できないかを検討する。