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Kunio Fujita
目 次
序
１．本研究テーマを取り上げた理由及びその目的
２．本研究の分析の視点
３．本研究の分析の前提
第１章 市町村合併の分析方法
１．分析の基本的考え方
２．分析対象データ
３．分析対象市町村合併事例
４．分析方法、手順
第２章 市町村合併をめぐるデータの指標化
１．市町村合併直後及び１０年後のデータの推移
２．データの指標化及びデータの個別評価
(1) １９７０～１９７５年の合併市町村
(2) １９８４年以降の合併市町村
(3) 最近１０年以内の合併市町
第３章 市町村合併成否の実証分析
１．市町村合併成否の個別評価
２．個別評価の整理、総合評価
結
あとがき
＜ 参考文献＞
＜合併市町村基本データ＞
序
１．本研究を取り上げた理由及びその目的
昨今、テレビ・新聞等のマスコミを市町村合併のテーマが賑わせている。特に平成１２年４月に地方分権法が施行されたことと同年同月に介護保険が実施されたことが市町村合併の機運を盛り上げているようである。地方分権法においては国の権限の一部を地方自治体に移管することであり、その受け皿作りとして市町村合併の必要性が唱われている。また、介護保険の実施はその実施主体が市町村であることから、各市
町村の財政力・政策能力が問われており、単独で実施能力のない市町村は周辺市町村との合併が課題として取り上げられるケースがある。勿論、現在の多数実施されている消防組合や事務組合などのような広域行政で介護保険も対応しようとしている市町村もあり、合併が唯一の解決方法ではないにしても合併のプレッシャーは相当強まりつつあるのが現実である。
しかし、このような現実があるにしても先ほども「市町村合併の機運を盛り上げているようである」と述べたが、周りを見渡して見ると真に住民レベルで市町村合併が盛り上がっているとはとても思われない。この現実のギャップが私を市町村合併のテーマに関心を持たせたきっかけである。このきっかけから、私は「なぜ市町村合併をする必要があるのか、目的は何か」、「市町村合併にメリットはあるのか、ディメリットはないのか」などの疑問を持ち、その後「では、今までの市町村合併はどのような結果になっているのであろうか」という疑問に発展してきた。市町村合併の目的、メリット、ディメリットについては様々な意見が言われているが、私はこの疑問に基づき文献を調べたところ、市町村合併併の評価（私の言葉に置き換えれば合併の成功、失敗の評価）が殆どなされておらず、多評価に触れられている場合にも「街が活性化した」といった抽象的な評価や、「人口が増加した」といった一面的な視点のみで評価あるいは市町村合併のパターン分析・類型化を行っているものであった。（埼玉大学横道助教授と宮城県商政課村上氏の共同研究「市町村合併の実証的分析」はタイトル名が非常に近いが本論とは視点が異なっている。なお、タイトル名は非常に似ているが、私が本研究テーマ、タイトル名を考えた時点では横道・村上両氏の研究の存在も内容も知らなかったことをお断りしておきたい）
企業経営においては必ずPDCA（Plan・Do・Check・Action）が行われており、実施したら評価するという当たり前のことが市町村合併という重大な事柄において全くなされていないことに初めて気づかされた。このことから、過去に行われた市町村合併が合併して成功したのか（良かったのか）、失敗したのか（悪かったのか）、何も変わらなかったのかといった評価を試みてみようと思い本研究テーマを取り上げた次第である。
２．本研究の分析の視点
市町村合併の評価とは、具体的には合併をして良くなったか（成功したか）、合併をして悪くなったか（失敗したか）を評価することであるが、どのような基準をもって成功・失敗を判断するのか、またその判断する手順・方法はどのようにするのかは必ずしも一般化されてはいない。市町村合併を評価する場合、国や県・市町村など行政の立場で見る場合と住民の立場で見る場合の二つの視点があるものと思われる。行政の立場で見た場合には、行政職員の削減が図れ行政コストの効率化が図れたか、あるいは財政規模が大きくなったことにより大型プロジェクトが可能となったか等が評価の基準となるであろう。住民の立場で見た場合にはどの程度住民サービスが向上したかが最大の評価基準になるものと思われる。
しかし、今回私は何れの立場にも立たず全く第３者的視点で分析を進めることとする。その第３者的視点とは客観的に得られる計量的な統計データのみを分析対象とするという視点である。計量的イコール実証的であると一概には言えないが、計量的なデータなくして実証的分析は不可能であることは何人も認めることであろう。ある哲学者は「合理的なものの考え方とは質的なものを量的なものに変換して考えることである」と述べており、また元文部省統計数理研究所長林知己夫氏が考案した数量化理論（１類～Ⅳ類）もこの考えを実践したものと言える。私がここで述べたいことは、「住み易くなった」、「住民サービスが向上した」、「効率化が図れた」などの評価は計量的なデータとして把握出来なければ評価の対象にし得ないということである。「住民サービスが向上した」は、たとえば「ゴミ収集の回数が週２回から３回に増えた」、「住民票の発行手数料が３００円から２００円に値下がりした」など具体的な計量的データとして把握出来、代替指標として使用することに大多数の合意が得られるものでなければならないということである。さらに、合併の評価を行うためにはこれらの計量的データがある程度の期間継続的に取られていなければ評価が不可能であるという技術的問題がある。評価方法など詳細説明は後述するが、本研究では質的・定性的な面は分析の対象外とし、あくまでも計量的な視点からのみ分析を試みるものである。
３．本研究の分析の前提
本研究では前述した通り市町村合併の賛否や是非を取り上げるのが主目的ではなく、今までに実施されてきた市町村合併が成功したのか失敗したのかを計量的な側面から分析することが目的である。
分析の進め方を検討する上で重要なことは、分析の方法・手順を決定することと評価基準を設定することであると当初考えていた。勿論この二つは非常に重要なことであり、慎重に検討して決めなければならないことであるが、実際に分析を行おうとして非常に厚い壁にぶつかった。この壁とは分析対象をどのようにして選定するかということであった。分析の対象には二つの意味がある。一つは分析の対象とする合併市町村であり、もう一つは人口・生産高など分析対象とする計量的データのことである。
分析対象とする市町村合併事例を選考するにあたっては、本研究がケーススタディ的なものではなく統計的な計量分析を主眼とする観点から対象数として数十（少なくても２０～３０程度）の合併事例を取り上げたいと考えていた。また、その選考にあたっては下記の様な点を考慮して検討を進めた。
① 余り昔の合併事例でないこと（何十年も前の事例では現在と比較できないのではないかという疑問）
② 出来れば大きな社会的・経済的変動のなかった期間を選ぶこと（為替変動相場制、オイルショック、バブル景気・バブル崩壊など大きな変動があった場合、合併の成功失敗を評価する上での攪乱要因が大きすぎるのではないかという疑問）
③ 合併後１０年以上経過していること（合併の成果の評価は短期間で行うべきものではなく最低でも１０年以上経過してから評価すべきであるとの考えから）
④ 合併する市町村の人口規模・経済規模などが極端に離れていないこと（例えば数十万人から１００万人規模の都市が周辺の数千人の町や村を合併してもその成果を計量的に評価することは困難であるのではないかという疑問。出来れば４～５倍以内の合併が分析対象として望ましいとの考え）
このような条件から見て当初は昭和５０年代の１０年間を分析の対象期間とすることが最も望ましいと考えた。しかし、この期間には市町村合併そのものが非常に少なく（新設合併、編入合併を含め全国で８件）、その上④の条件に該当する事例はわずか１件しかなく、分析の対象期間には適さないことが判明した。その後、過去の合併事例を調べていくことで、最終的には昭和４５年以降を分析対象期間とすることとした。また、合併後１０年経過していない合併事例も分析対象に含めるとともに、④の人口規模の条件（人口規模が４～５倍以内）を緩和して、人口規模が１０倍以内の合併（全てが編入合併）も分析対象とした。これは、計量的分析を行う上で最低限必要であると初めに設定した２０～３０の合併事例を集めるための措置であり、特に他意はない。
次に、分析対象とするデータの選考について説明する。分析対象とするデータとしては所得、工業生産高、住宅着工戸数などの経済的指標、人口や転入率などの社会的指標、地方税収入額や自治体の人件費比率など財政的指標など１０前後のデータを収集することを試みた。このデータ収集を行っていく過程においていくつかの問題に直面した。最近でこそ各市町村別の詳細なデータが統計として公開され簡単に入手できるようになったが、このようなことはここ十数年のことであり２０～３０年前までさかのぼると県や市の統計は公に入手できるものの、町や村ごとのデータとなると一部を除き殆ど一般には公開されていないことが判明した。各種統計資料やインターネットでも入手を試みたがやはり限界があるとともに、年代によって統計データの種類が異なりデータとしての一貫性がなく分析対象外にせざるを得ないものもあった。もちろん、各市町村に直接問い合わせをし過去２０～３０年のデータを照会することで入手できるデータの範囲は広がるであろうが、物理的・時間的な制約もあり諦めざるを得なかった。分析対象データについては第１章で詳細な説明を行うが、以上のようなことから分析対象データは人口や小売売上高、工業出荷高、事業所数など社会的・経済的に基本的なデータが対象となるとともに、分析対象市町村（時期）によって分析対象データの数が少なくなることがあることを最初にお断りしておきたい。
第１章 市町村合併成否の分析方法
１．分析の基本的考え方
この分析を行うにあたっては経済企画庁が毎月公表している「景気動向指数」の考え方、方法を準用した。ここで「景気動向指数」について簡単に説明することとする。「景気動向指数」は景気の上昇（拡張）と下降（縮小）の状況を判断するための指標として開発された。この指数は３つの系列に分類され、景気に対して先行して動く「先行系列」と景気とほぼ一致して動く「一致系列」そして景気に対して遅れて動く「遅行系列」である。「先行系列」を算出するために用いられる指標は新設住宅着工床面積や新規求人数など１１指標（他に最終需要財在庫率指数＜逆サイクル＞、原材料在庫率指数＜逆サイクル＞、実質機械受注、建築着工床面積、新車新規登録・届出台数、日経商品指数、マネーサプライ、製造業投資循環指数、中小企業業況判断来期見通しの９指標）であり、同様に「一致系列」では大口電気使用量や百貨店販売額など１１指標（他に鉱工業生産指数、原材料消費指数、製造業稼働率指数、製造業所定外労働時間指数、投資財出荷指数、商業販売額指数、営業利益、製造業中小企業売上高、有効求人倍率の９指標）、「遅行系列」は法人税収入や家計消費支出など８指標（他に最終需要財在庫指数、原材料在庫指数、常用雇用指数、実質法人企業設備投資、完全失業率＜逆サイクル＞、国内銀行貸出約定平均金利の６指標）である。
計算の方法としては各系列ごとの指標をそれぞれ３ヶ月前と比較して増加しているか減少しているかを調べ、増加している指標の数の割合を数字で表している。この数字は割合であるので当然であるが０％から１００％の間の数字で表され、５０％が景気の局面を２分割する境界線とされている。すなわち５０％より大きい数字であれば景気は上昇（拡大）局面に入ったと判断し、５０％より小さい数字であれば景気は下降（縮小）局面に入ったと判断することになる。「景気動向指数」はアメリカにある全米経済分析研究所で出していた指数に習って考案されたと言われているが、特にこの指数に学問的・理論的な根拠があるわけではない。ただし、日本においても数十年（私の知る限り４０年以上）用いられている指標であり、経験的に非常に有効でありまた評価もされている指標である。この指数算出にあたっては系列ごとの構成指標の数や種類を定期的に見直しており、社会の動きを考慮、反映した指標になるよう工夫を行っている。一般的に景気の判断や予測を行うには複雑な計量モデルを用いることが多いが、「景気動向指数」を用いる最大の利点は何と言ってもその単純さである。”Simple is best”という言葉があるように、「景気動向指数」は数字の大小の比較と指数を計算するための割算しか必要とせず、小学生にも理解出来る方法である。計算方法が簡単であるだけでなく、使用する指標の少ないこともより景気動向指数を分かりやすいものとしている。前述している通り「遅行系列」は８つの指標だけで計算しており、「先行系列」や「一致系列」でも用いている指標は１１である。以前は今以上に少ない指数で計算していた時期もあった。このように８から１１の指標だけで日本経済の景気動向を判断するということは経済の門外者から見ると余りにも無謀とも思われるかもしれないが、この「景気動向指数」は経験的に見て信ずるに値するものとして評価されている。
今回、市町村合併の成功、失敗を判断するにあたってはこの「景気動向指数」の考え方、方法をそのまま利用することとした。更に、使用する指標を決めるにあたって今回の分析に必要なデータ、欲しいデータをいくつも候補としてあげ検討した。経済的な指標以外にも、例えば「住民に対するサービス度合いを表す指標」、「住民の住み易さや生活満足度を表す指標」、「自然環境の善し悪しを表す指標」等も検討し調査もしたが、過去２０～３０年前に遡った系統的データとなると全くと言っていい程なく、入手することも作成することも不可能であった。指標の選考にあたっては紆余曲折があったが最終的には「人口」など７つの指標を用いることとした。７つの指標については次項で説明するが、７つの指標しか使用しなかったことあるいは使用した７つの指標の内容については批判もあるかと思われる。これについては甘んじて批判を受ける覚悟である。私自身、この点についてはさらに追求すべき点があるかと考えており、今後の研究を進める上での課題としてゆきたい。
また、合併の成否を判断するためには比較する２つの時期を決めなければならないが、本分析では市町村合併の直後(原則合併の翌年または翌年度)と合併１０年後とした。１０年後としたのは先述したように合併の成果を短期間で評価するのは困難であり、成果が目に見える形で出てくるには最低１０年程度は必要であろうという判断からである。
２．分析対象データ
今回使用するデータは次の７つである。個々のデータは全て総務庁や通商産業省など政府機関が発表した数字が基になっているが、公表機関（発行元）や公表時期によって多少数字に違いが出てくる場合がある。数字が訂正されたり（統計上の修正であり誤りではない）公表機関や発行元で一部加筆する場合もあるためと思われるが、ここでは東洋経済新報社が毎年刊行している「地域経済総覧」を基本にデータを収集した。その他、朝日新聞社が発行している「民力」や自治省が発行している「全国市町村要覧」などからも一部のデータを利用した。なお、③の「着工住宅床面積」に関してはデータ収集の関係上、昭和４６年以前については「着工住宅床面積」を用いているが、昭和４７年以降については「着工住宅戸数」を用いている。（指数化する上で特に問題はないと考える）
①人口
毎年３月３１日現在で、当該市町村の区域内に住所を有するものとして住民票に記録され ている人口
（原典：自治省「住民基本台帳人口要覧」）
②地方財政歳出額（決算額、単位：１００万円）
各市町村の普通会計（公営企業会計及び収益事業会計を除く）の決算額。
（原典：自治省「市町村別決算状況調」）
③着工住宅床面積（単位：㎡)、戸数
建築基準法に基づき各都道府県知事に届け出が行われた建築物の総床面積。戸数。
（原典：建設省「建設統計月報」）
④工場数
工場数とは俗称で正式には事業所数と言う。１区画を占めて、製造または加工を行っているもの。毎年１２月３１日現在で調査対象は従業員４人以上の全事業所。
（原典：通産省「工業統計表」）
⑤工場製品出荷額（単位：１００万円）
調査は同上。年間出荷額。（原典：通産省「工業統計表」）
⑥小売店数
３年に１回行われる商業統計調査による。個人または家庭用の商品を販売したり、商業用使用者に少量または少額を販売する事業所の数。調査年の７月１日現在。
（原典：通商産業省「商業統計表」）
⑦小売年間販売額（単位：１００万円）
調査は同上。年間（前年７月１日から翌年６月３０日までの）販売額。
（原典：通商産業省「商業統計表」）
３．分析対象市町村合併事例
すでに説明しているが、分析対象となる合併事例の条件を基に３０年前まで遡って調べた結果、下表の３０の合併を分析対象とすることとした。基本的には新設合併を分析対象とする予定であったが、該当事例が予想したほどが得られなかったため、人口規模が１０倍以内の編入合併も分析対象とした。また、合併した自治体が町の場合には過去のデータが必ずしも公表されていないために幾つかの合併事例は除外した（特に２０～３０年前まで遡った場合、町や村のデータを入手することは非常に難しかった）。
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[注]23のつくば市のうち筑波町は昭和６３年１月３１日に編入合併した。
４．分析の方法、手順
分析にあたって「景気動向指数」の考え方、手法を真似ることはすでに説明済みであるが、実際の分析手順は下記に示した通りである。なお、下記の「第七ステップ」の」中での「市町村の属性データ」とは合併した市町村の特徴を表す属性のことである。具体的には、合併した年月日、属する都道府県、合併市町村の人口比（３つ以上の市町村合併の場合には最大人口と最小人口の人口比）、合併後の総人口（直後の国勢データの人口）、合併後の面積である。このうち、人口比、総人口、面積については「第五ステップ」で算出した指標との相関係数（ピアソンの相関係数）を算出するとともに、相関係数の検定も試みることとする。
＜実際の分析の手順＞
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第２章 市町村合併成否の実証分析
１．市町村合併直後及び１０年後のデータの推移
昭和４５年以降の３０の市町村合併の事例を取り上げ、合併の翌年と１０年後のデータを収集し整理した。繰り返しの説明になるが１０年後のデータを取り上げたのは合併の成果が見えてくるには最低１０年程度は必要であるとの判断からである。整理したデータは本論の最後にまとめて提示した。データの中には小売店数や小売年間販売額のように３年ごとの調査データ（以前は２年ごと最近は５年ごと）しか無いものもあり、この場合には該当年の後の最新データを対象とした。そのため、平成７年に合併したあきるの市や鹿島市の場合にはこれらのデータが１回しか調査されていないためデータの比較が出来ない結果となっている。また、他にも一部のデータ収集出来なかった場合もあるがこの場合にも収集出来たデータだけを用いて分析を行うこととする。
２．データの指標化及びデータの個別評価
ここでは、前章の「分析の方法、手順」に則してデータの指標化を行うこととする。具体的には、合併市町村の７つのデータについてそれぞれの市町村が属する都道府県における重み（比率）を計算する。また、同様の方法で全国における重み（比率）も計算する。ただし、分析評価を進める上ではあくまででも全県（都道府）比を基本とし、全国比は参考までに提示するに留めることとする。
なお、計算結果は割合（％）を小数点４桁目を四捨五入し小数点３桁で表示する。合併直後と１０年後の割合を比較し、１０年後の割合が大きい場合のはプラス（＋）、小さい場合にはマイナス（－）の表示を行う。どの程度の差があった場合にプラス、マイナスの表示を行うかの判断は厳密に言えば非常に難しいところであるが、ここでは「景気動向指数」と同様たとえ僅かでも差があればプラス、マイナスの表示を行うこととする。ただし、今回は実数の比較ではなく比率の比較であるため四捨五入等との関係も考慮して、0.001％の差の場合には横這い（△）の表示を行い、0.002％以上差がある場合にプラス（＋）、マイナス（－）の表示を行うこととする。
（１）１９７０～１９７５年の合併市町村
1. 深川市（昭和４５年４月１日合併：深川市、多度志町）
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深川市は北海道に位置し、人口34,783人の深川市が人口5,029人の多度志町を編入合併した市である。人口比は約７倍である。７つの指標を合併直後と合併１０年後で比べてみると全県比では比較可能な６指標のうちプラスになっているのは二つの指標だけであり、四つの指標はマイナスになっている。同様に、全国比でみた場合にも、七つの指標のうちプラスに転じているものは一つだけであり、三つの指標がマイナス、三つの指標が横這いという結果になっている。このことから、この２市町の合併はプラスよりもマイナス効果が大きかったと見なすことが出来る。
2. 上田市（昭和４５年４月１日合併：上田市、塩田町）
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上田市は長野県に位置し、人口73,940人の上田市が人口16,123人の塩田町を編入合併した市である。人口比は約４．５倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比ではマイナスの指標が一つだけ、全国比でみても横這いの指標が一つある以外はすべての指標がプラスとなっている。このことから、この二つの市町の合併はプラス効果が大きかったと見なすことが出来る。
3. 尾道市（昭和４５年４月１日合併：尾道市、向東町）
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尾道市は広島県に位置し、人口90,740人の尾道市が人口9,436人の向東町を編入合併した市である。人口比は９．６倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比、全国比ともに全ての指標がマイナスである。このことから、この合併はマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
4. 君津市（昭和４５年９月２８日合併：君津町、小櫃村、上総町、小糸町、清和村）
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君津市は千葉県に位置し５町村が合併して出来た市である。最大の人口は君津町の13,223 人であり、最小の人口は清和村の4,292人である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比ではプラスとマイナスが半々であり、全国比では７指標のうち６指標がプラスある。全県比で見ると着工住宅床面積は大きく伸びているが人口は必ずしも増えていない。小売りは伸びているが工業は伸びていないと言える。ただし、全国比では殆どがプラスであり、千葉県全体が伸びている中で伸び悩んでいるといえるのではないか。結論としてこの合併はプラスともマイナスとも言えない。
5. 東予市（昭和４６年１月１日合併：壬生川町、三芳町）
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東予市は愛媛県に位置し、人口23,222人の壬生川町と人口9,086人の三芳町が新設合併で出来た市である。人口比は２．６倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全
県比では６指標のうち４指標がプラスある。全国比でも７指標のうち４指標がプラスである。この合併はマイナス効果よりもプラス効果が大きかったと言える。
6. 鴨川市（昭和４６年３月３１日合併：鴨川町、長狭町、江見町）
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鴨川市は千葉県に位置し、鴨川町と長狭町と江見町の３つの町が新設合併して出来た市である。最大人口は鴨川町の18,047人であり、最小人口は江見町の6,841人である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比では６指標全てがマイナスであり、全県比でみても７指標のうち４指標がマイナスであり、２指標が横這い、１指標だけがプラスである。このことから鴨川市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
7. 備前市（昭和４６年４月１日合併：備前町、三石町）
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備前市は岡山県に位置し、人口28,378人の備前町と人口5,269人の三石町が新設合併して出来た市である。人口比は５．４倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比では６指標のうち５指標がプラスである。全県比でも７指標のうち４指標がプラスである。このことから備前市の合併はマイナスよりプラス効果が大きかったと見なすことが出来る。
8. 滝川市（昭和４６年４月１日合併：滝川市、江部乙町）
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滝川市は北海道に位置し、人口43,535人の滝川市と人口7,313人の江部乙町が新設合併して出来た市である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、６指標のうち４指標がマイナスであり、２指標がプラスであった。全国比では７指標のうち３指標がプラス、３指標がマイナス、１指標が横這いであった。このことから滝川市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかった見なすことが出来る。
9. 富津市（昭和４６年４月２５日合併：富津町、大佐和町、天羽町）
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富津市は千葉県に位置し、富津市と大佐和町と天羽町が新設合併して出来た市である。最大人口は富津町の19,473人であり最小人口は大佐和町の17,667人である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比では６指標のうち５指標がマイナスであり、全国比でも７指標のうち４指標がマイナスである。このことから富津市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
10. 上越市（昭和４６年４月２９日合併：高田市、直江津市）
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上越市は新潟県に位置し、人口75,053人の高田市と人口45,357人の直江津市が新設合併して出来た市である。人口比は１．７倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比では６指標のうちプラス指標とマイナス指標がそれぞれ３つであり半々である。全国比で見ても７指標のうち３指標がプラス、３指標がマイナスで１指標が横這いである。このことから上越市の合併はプラスともマイナスとも言えない。
11.須坂市（昭和４６年４月３０日合併：須坂市、東村）
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須坂市は長野県に位置し、人口41,538人の須坂市が人口4,244人の東村を編入合併して出来た市である。人口比は９．８倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比では６指標のうち４指標がプラスであり、全国比でも７指標のうち５指標がプラスである。このことから須坂市の合併はマイナス効果よりもプラス効果が大きかったと見なすことが出来る。
12.鹿角市（昭和４７年４月１日合併：花輪町、十和田町、尾去沢町、八幡平村）
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鹿角市は秋田県に位置し、花輪町、十和田町、尾去沢町、八幡平村の３町１村が新設合併して出来た市である。最大人口は花輪町の19,944人であり最小人口は尾去沢町の6,299人である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比、全国比ともにプラスになった指標は１指標だけである。このことから、鹿角市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
13総社市（昭和４７年４月２２日合併：総社市、昭和町）
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総社市は岡山県に位置し、人口37,371人の総社市が人口5,672人の昭和町を編入合併して出来た市である。人口比は６．６倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比では６指標のうち４指標がプラスあり、全国比では７指標のうち４指標が横這いであった。このことから総社市の合併はマイナス効果よりもプラス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
14.茂原市（昭和４７年５月１日合併：茂原氏、本納町）
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茂原氏は千葉県に位置し、人口48,495人の茂原市と人口9,708人の本納町が新設合併して出来た市である。人口比は５倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比では６指標のうち４指標がマイナスであり、全県比では７指標のうち５指標がプラスである。全国比では伸びているが千葉県全体の伸びに追い付いていないと見ることができる。このことから茂原市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかった見なすことが出来る。
15阪南町（昭和４７年１０月２０日合併：南海町、東鳥取町）
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阪南町は大阪府に位置し、人口17,430人の南海町と人口10,892人の東鳥取町が新設合併して出来た町である。人口比は１．６倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、比較可能な５指標は全県比、全国比ともにすべてがプラスである。このことから阪南町の合併はプラス効果が大きかったと見なすことが出来る。
16.深谷市（昭和４８年４月１日合併：深谷市、豊里村）
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深谷市は埼玉県に位置し、人口60,609人の深谷市が人口7,278人の豊里村を編入合併して出来た市である。人口比は７．１倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比では６指標のうち１指標がプラスで残りの５指標はマイナスである。全県比では７指標のうち４指標がプラスであり、１指標がマイナス、２指標が横這いであった。全国比では伸びているものの埼玉県全体の伸びに追い付いていないと見ることが出来る。このことから深谷市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
17函館市（昭和４８年１２月１日合併：函館市、亀田市）
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函館市は北海道に位置し、人口241,663人の函館市が人口50,623人の亀田市を編入合併して出来た市である。人口比は４．８倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県（道）比では６指標すべてがマイナスである。全国比でも７指標のうち４指標がマイナス、３指標がプラスである。このことから函館市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
18.沖縄市（昭和４９年４月１日合併：コザ市、美里村）
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沖縄市は沖縄県に位置し、人口58,658人のコザ市と人口24,123人の美里村が新設合併して出来た市である。人口比は２．４倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比では６指標のうち４指標がプラスであり２指標がマイナスであった。
全国比でも７指標のうち４指標がプラス、１指標がマイナス、２指標が横這いであった。このことから、沖縄市の合併はマイナス効果よりもプラス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
19宇和島市（昭和４９年４月１日合併：宇和島市、宇和海村）
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宇和島市は愛媛県に位置し、人口64,262人の宇和島市が人口6,468人の宇和海町を編入合併して出来た市である。人口比は９．９倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比では６指標すべてがマイナスであり、全国比でも７指標のうち５指標がマイナスであり、１指標がプラス、１指標が横這いであった。このことから宇和島市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと言える。
20.東広島市（昭和４９年４月２０日合併：志和町、高屋町、西条町、八本松町）
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東広島市は広島県に位置し、志和町、高屋町、西条町、八本松町の４つの町が新設合併して出来た市である。最大人口は西条町の24,567人であり最小人口は志和町の7,234人である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比では６指標のうち５指標がプラスであり、全国比でも７指標のうち６指標がプラスである。このことから、東広島市の合併はプラス効果が大きかったと見なすことが出来る。
21.篠山町（昭和５０年３月２８日合併：篠山町、城東町、多紀町）
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篠山町は兵庫県に位置し、篠山町、城東町、多紀町の３つの町が新設合併して出来た町である。最大人口は篠山町の14,164人であり最小人口は城東町の4,914人である。合併直後と１０年後の指標を比較すると、全県比では５指標のうち４指標がマイナスであり、全国比でも６指標のうち４指標がマイナスである。このことから篠山町の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
(2)
１９８４年以降の合併市町村
22. 飯田市（昭和５９年１２月１日合併：飯田市、鼎町）
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飯田市は長野県に位置し、人口78,515人の飯田市が人口13,175人の鼎町を編入合併して出来た市である。人口比は５．９倍である。合併直後と１０年後の指標を比較するとを全県比、全国比ともに７指標すべてがプラスである。このことから、飯田市の合併はプラス効果が大きかったと見なすことが出来る。
23. つくば市（昭和６２年１１月３０日合併：桜村,谷田部町,豊里村,大穂村,筑波町）
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つくば市は茨城県に位置し、桜村、谷田部町、豊里村、大里村が昭和６２年１１月３０日に新設合併してつくば市となり、翌年１月３１日に筑波村が編入合併して出来た市である。２段階の合併であるが一つの合併として評価することとした。最大人口は桜村の41,335人であり最小人口は豊里村の12,365人である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全国比では７指標のうち４指標がプラスであり、全国比でも７指標のうち５指標がプラスである。このことから、つくば市の合併がプラス効果が大きかったと見なすことが出来る。
24. 仙台市（昭和６３年３月１日合併：仙台市、泉市、秋保町）
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仙台市は宮城県に位置し、人口852,164人の仙台市が人口124,216人の泉市と人口 5,171人の秋保町を編入合併して出来た市である。仙台市と泉市の人口比は５．９倍である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比では７指標のうち５指標がマイナス、２指標がプラスであった。また全国比では７指標のうち４指標がマイナス、３指標がプラスであった。このことから仙台市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
(3) 最近１０年以内の合併市町村（参考までに）
25. 北上市（平成３年４月１日合併：北上市、和賀町、江釣子村）
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北上市は岩手県に位置し、人口58,779人の北上市と人口14,777人の和賀町、人口 9,346人の江釣子村が新設合併して出来た市である。合併直後と１０年後の指標を比較すると全県比全国比ともに７指標のうち４指標がプラスである。このことから北上市の合併はマイナス効果よりもプラス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
26. 盛岡市（平成４年４月１日合併：盛岡市、都南村）
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盛岡市は岩手県に位置し、人口235,434人の盛岡市が人口43,063人の都南町を編入合併して出来た市である。人口比は５．９倍である。合併直後と直近の指標を比較すると全県比では７指標のうち５指標がマイナス、２指標がプラスである。全国比では７指標のうち３指標はプラス、２指標がマイナス、２指標が横這いであった。このことから、盛岡市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
27. 飯田市（平成５年７月１日合併：飯田市、上郷町）
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飯田市は長野県に位置し、人口91,859人の飯田市が人口14,636人の上郷村を編入合併して出来た市である。人口比は６．３倍である。合併直後と直近の指標を比較すると全県比では７指標のうち５指標がマイナスであり、プラス指標は２つである。全国比でも７指標のうち４指標がマイナスであり、１指標がプラス、２指標が横這いであった。このことから、飯田市の合併はプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。飯田市は昭和５９年にも合併しており、この時はプラス効果の方が大きかったとの評価が出た。今回は反対の評価が出る結果となった。
28. ひたちなか市（平成６年１１月１日合併：勝田市、那珂湊市）
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ひたちなか市は茨城県に位置し、人口109,825人の勝田市と人口32,577人の那珂湊市が新設合併して出来た市である。人口比は３．４倍である。合併直後と直近の指標を比較すると、全県比では７指標のうち４指標がプラス、３指標がマイナスであった。
全国比では７指標のうち６指標がプラスであり１指標がマイナスであった。合併して６年しか経過しておらず（データとしては２～３年後）評価は難しいところであるが、今までと同様の基準で評価すれば全県比では７指標のうち４指標がプラスであり、全国比でも７指標のうち６指標がプラスであった。このことから、ひたちなか市の合併はマイナス効果よりもプラス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
29. あきる野市（平成７年９月１日合併：秋川市、五日市町）
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あきるの市は東京都に位置し、人口54,126人の秋川市と人口22,252人の五日市町が新設合併して出来た市である。人口比は２．４倍である。合併直後と直近の指標を比較すると、全県比では５指標のうち３指標がマイナス２指標がプラスであった。全国比で見た場合、２指標がプラス２指標がマイナス１指標が横這いという結果である。
合併後間もないので合併成否の評価をすることは困難であるが、敢えて評価を行えばこの合併はどちらかと言えばプラス効果よりもマイナス効果の方が大きかったと見なすことが出来る。
30. 鹿島市（平成７年９月１日合併：鹿島町、大野村）
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鹿島市は茨城県に位置し、人口46,184人の鹿島町が人口15,193人の大野村を編入合併して出来た市である。人口比は３．０倍である。合併直後と直近の指標を比較すると、全県比では５指標のうち４指標がプラスであり、全国比で見ても５指標のうち４指標がプラスである。この事例も合併後間もないので合併成否の評価は難しいところであるが、敢えて評価を行えばこの合併はプラス効果が大きかったと見なすことが出来る。
第３章 市町村合併の実証分析
１．市町村合併の個別評価
前項では各指標のプラス、マイナスの評価を行ったが、ここでは分析対象指標のうちプラス
の指標の割合を計算する。これが正に「景気動向指数」の考え方、算出方法である。計算した
結果は下表の「評価結果」の「指数」に表示した。指数が５０％を越えている場合には○の表
示を、５０％未満の場合には×の表示をした。「景気動向指数」では５０％を越えた場合には
景気は上向き、５０％未満の場合には景気は下降という評価をする。ここでの○は合併がプラ
ス効果をもたらしたと評価し、×はプラス効果がなかった（マイナス効果があった）と評価す
る。なお、後ほどの分析のため合併人口や人口比、合併面積を同時にまとめておくこととする。
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【注】人口の単位は人、面積の単位は平方㎞
２．個別評価の整理、総合評価
前ページの評価の結果、３０の合併市町村のうち○の評価が１３市町村、×の評価が１５、
△の評価が２市町村となった。合併時期で見る限り特に際だった特徴はみられない。地域的な特徴を調べるため下図の日本地図に、○を赤色の「・」で、×を黒色の「・」でプロットしてみた。
＜日本地図＞
この地図をみて次のようなことが読みとれる
・合併自体に地域的な偏りがある。北海道、東北地方、東京都近県、長野県、中国地方には合併市町村が見受けられるが、北陸地方、中部地方、山陰地方、九州は全くと言っていいほど合併が行われていない。
・赤色の「・」すなわち合併がプラス効果をもたらしている地域としては、長野県や中国地方にやや目立っている。
・東京都近県では黒色の「・」すなわち合併がプラス効果をもたらしていないところが多く、北海道の３つの合併も全てプラス効果ではない。
更に、「評価指数」と合併市町村の「人口比」、「合併後人口」、「合併後面積」など基本属性との相関係数を算出したところ、次のような算出結果が出た。
① 評価指数と人口比 －０．２５６
② 評価指数と合併人口 －０．１９７
③ 評価指数と合併面積 －０．２３６
ここでの相関係数の計算にはピアソンの相関係数を用いたが、この相関係数とは２つの変量の間の直線的関係の強さを表すものである。簡単に言えば、一方が大きくなれば他方も大きくなる場合は正の相関があると言い、一方が大きくなれば他方が小さくなる場合を負（逆）の相関があると言う。正の相関の例としては、体重と身長あるいは収入と支出などが考えられる。身長が高い人は体重が重い、収入の多い人は支出が多いということである。また、相関係数の数字は１に近づくほど２変量の相関が強く、０に近いほど相関が弱い（相関関係がない）と言うことが出来る。一般的には相関係数が±０．２以上ある場合には多少（弱い）相関があり、±０．４以上ある場合には相関があり、±０．７を越えると強い相関があると言われている。また、相関係数の検定（相関があると言えるか否か）も行うこともある。
上記①、②、③の相関係数を見ると、係数はそれほど大きくはないが、人口比、合併後人口、合併後面積すべてが評価指数とマイナスの相関であることは興味深い。詳しい検証、最終的な結論は後ほど述べることとするがここで（可能性として）言えることは、
・ 合併する市町村の間で人口の差が大きいと合併効果は低くなる
・ 合併して人口規模が大きくなるほど合併効果は低くなる
・ 合併後の面積が大きくなるほど合併効果は低くなる
である。
相関係数の数字だけをみると以上のようなことが読みとれるが、これを確認するために幾つかの視点からの検証を行ってみた。まず、統計学的に相関係数の検定をおこなったところ、人口比、合併後人口、合併後面積と「評価指数」との間には何れも「有意差あり」との結果にはならず、これらの間には相関があるとは言えないとの結果になった。
次に、人口比、合併後人口、合併後面積をそれぞれ評価結果が○のグループと×のグループごとに集計し、その単純平均を算出し比較してみた。算出した結果は次ぎの通りである。
＜○グループ平均＞ ＜×グループ平均＞
人口比 約４．３８ 倍 約５．１８
倍
合併後人口 約６４，０００ 人 約１４４，０００
人
合併後面積 約１７９ 平方㎞ 約２６８
平方㎞
この数字を言葉で説明すると、「○のグループ」すなわち「合併がプラス効果をもたらした市町村」は合併した市町村の人口比が平均４．３８倍であるのに対して、「×のグループ」すなわち「合併がプラス効果をもたらさなかった（マイナス効果があった）市町村」の人口比が平均５．１８倍ということである。プラス効果のあった市町村の平均値はプラス効果のなかった市町村に比べ０．８倍ほど低い数字となっている。同様に、合併後人口を見た場合には、プラス効果のあった市町村の平均はプラス効果のなかった市町村に比べ８万人ほど少ない結果になっている。また、合併後面積では約８０平方㎞ほどプラス効果のあった市町村の平均が低い結果となっている。ここでは総計学的な「平均値の差の検定」はおこなわなかったが、平均値の差を比較する限り相関係数の結果を説明したこととほぼ似たようなことが読みとれる。すなわち、人口比が大きい市町村ほど、人口が多い市町村ほど、面積が大きい市町村ほど合併効果が低くなる傾向があると言えるのではないか。
最後の検証として、「評価指数」と人口比、合併後人口、合併後面積をそれぞれ散布図にプロットしてみた（次ページ参照）。散布図にプロットする目的は前述した相関係数の確認の意味がある。２つの変量を散布図にプロットすると、正の相関がある場合には右上がりの傾向が見てとれる。すなわち一方が大ききなれば他方も大きくなる。これに対して負（逆）の相関がある場合には右下がりの傾向が出てくる。すなわち、一方が大きくなれば他方が小さくなるということである。３つの散布図を見て言えることは、相関係数の説明や平均値の比較の説明で述べたほどは明確な傾向は見られないということである。ただし、この３つの図の中で「合併後面積」と「評価指数」の図においては右下がりの傾向が多少読みとることが出来る。これは正に負（逆）の相関であり、合併市町村の面積が大きくなるほど合併効果は低くなる傾向があるということである。
＜散布図＞
結
過去３０年間の新設合併及び合併市町村の人口比が１０倍以内の編入合併を分析したところ、合計３０の市町村合併のうち１３の事例が合併して良くなった（成功した）との評価結果になり、１５の事例が合併して悪くなった（失敗した）との評価結果になった。これらを合併時期で見た場合には特に際だった特徴は見られなかったが、地域的に見た場合には、次の様な結果となった。
・ 合併して良くなった（成功した）地域としては、中国地方や長野県に目立っている。中国地方と長野県ではそれぞれ４つの合併事例があったが、両県ともそのうち３事例が合併して良くなった（成功した）との評価結果になっている。
・ 反対に、合併して悪くなった（失敗した）地域としては、東京都近県や北海道が上げられる。東京都近県では８つの合併事例のうち５事例が合併して悪くなった（失敗した）との評価結果になっており、北海道は３つの合併事例すべてが合併して悪くなった（失敗した）との評価結果になっている。
また、「合併の成功・失敗を評価する指数（７つの指標のうち１０年後プラスになった指数の割合）」と、合併した市町村の人口比、合併市町村の総人口、市町村の総面積との相関係数（ピアソンの相関係数）を計算した結果と、合併して良くなった（成功した）市町村のグループの人口比、総人口、総面積の平均と、合併して悪くなった（失敗した）グループの平均を比較したところ同じ様な結果が出た。すなわち市町村合併にとって、人口比が大きいほど（離れている程）、総人口が多い程、総面積が広い程マイナス要因になるのではないかという結果であった。
ただし、「相関係数の検定」の結果ではこのような結果を断定することは出来ず、「平均値の差の検定」も行わなかったので、統計学的に言えばこれらの特徴を言い切ることは危険である。しかし、「検定」は決して絶対的な基準では無く、相関係数を確認する意味で３つの指標と「合併の成功・失敗を評価する指数」を散布図にプロットしたところ、「面積と合併の成功・失敗を評価する指数」と総面積との間には負（逆）の相関（図では右下がりの特徴）があることが読み取ることが出来た。
以上のことから、人口比が大きいことと総人口が多いことが市町村合併にとってマイナス要因であると断定することは危険であるが、合併した市町村の面積が大きければ大きいほど合併効果は出づらい（失敗し易い）と言い切って問題はないものと思われる。このことは我々の感覚や常識から判断しても矛盾することはなく納得出来る結果と言える。言われてみれば当然のことと思われるが、過去の市町村合併のデータを分析して得られた結果として見ると、非常に興味深いものを感じる。市町村合併を論じる場合、人口規模を視点とする場合が多いが、合併後の市町村の面積の視点からも検討する必要性があるのではないのだろうか。
あとがき
本論の結論は既に述べているので、ここでは今回の研究を通して私が経験したこと、感じたことを紹介することとしたい。「はじめに」において「市町村合併」を研究テーマに取り上げた理由は述べているが、実は他にもっと切実なきっかけがあったことを述べておきたい。私ごとではあるが、私の出身地は栃木県北部の西那須野町という田舎町である。この町で生まれ高校時代まで過ごした後、都内の大学に進学し、卒業後は東京に本社を持つ金融機関に就職した。この間、住居は東京都や横浜市などであったが何故か何時も頭の片隅には故郷「西那須野町」のことが離れることはなかった。２５年振りにUターンした故郷は昔に比べ人口の増え大規模店も増え道路も格段に整備されていたが、雰囲気は昔とほとんど変わっていなかった。非常に嬉しい思いであった。ただし一つだけ昔と異なることがあった。それは、那須地域が首都機能移転の最有力候補地になっていたということである。さらに、西那須野町北部にある国有地、県有地が国会など首都機能の一部が移転する具体的な候補地になっていた（厳密に言えば栃木県の計画に過ぎないが）。このことがきっかけとなって、栃木県北の市町村において首都機能移転を進めるために市町村合併を行うべきであるとの議論が起きつつあった。「起きつつあった」と述べたのは、この議論は未だ地元ではほとんど行われておらず、栃木県も首都機能移転には積極的ではあるが市町村合併に関しては消極的なスタンスを取ってきたためである。しかし、市町村合併が本格的な議論にはなっていないものの、私が生まれ育ちまた現在も住んでいる「西那須野町」が市町村合併の候補・対象になっていることは紛れもない事実である。このことが「市町村合併」を研究テーマに選んだ直接的きっかけである。
本研究では市町村合併の是非、賛否は取り上げないことと説明したが、個人的な信条としては基本的には市町村合併に反対である。その根拠は「可能な限り小さな単位で生活出来る社会が最も望ましい」という自分自身の価値観にある。最近のグローバリゼイションにも反対であり、EUの統合にも賛成しかねる。ただし、「基本的には」と言った様に何が何でも市町村合併に絶対反対ということではない。状況によっては或いは条件が整えば市町村合併に賛成し、積極的に推進することもあり得ると考えている。例えば、単独市町村で財政が成り立たず且つ関係市町村（具体的には住民）が全て賛成するような場合であれば市町村合併は進めるべきであると考える。しかし、本研究のテーマはこのようなことを分析し論じることではないのでこれ以上の説明は避けることとしたい。本研究の目的はあくまでも「過去の市町村合併の成功、失敗を評価する」ことであり、それ以上でもなければそれ以下でもないことを再度強く述べておきたい。
また、本研究を進める上で最も時間を費やし苦労したことは「データの収集」であったことを参考までに述べておきたい。データ収集にあたっては様々な過程を経て最終的には東洋経済新報社が刊行している「地域経済総覧」に行き着いた。当初は朝日新聞社が刊行している「民力」からデータ収集を始めたが、「民力」の現在のデータ項目は十数年前からであり、それ以前は項目が大きく異なっていることが判明した。更に、今回昭和４５年以降の市町村合併の事例を取り上げることとしたが、これらのデータを掲載している「地域経済総覧」を取りそろえている大学、図書館、機関は栃木県には皆無であった。身近なところで調査したところ、東京都新宿区にある政策研究大学院大学付属図書館と明治学院大学付属図書館に蔵書されていることが判明した。なお、経済学や商学に強いと評価の高い一橋大学にもこれらは整備されていなかった（決して批判している訳ではなく、事実を述べているだけである）。関東地方ではこの２カ所以外に国立国会図書館に蔵書されていることは分かっていたが、国立国会図書館は日祭日は完全に休館であり土曜日もほとんどが休館である。平日の利用も午後４時半までであり、仕事を持っている私のような者にとっては利用価値が全くない図書館である。国は地方分権を考える前にもっとするべきことがあるのではないかと強く言いたい気持ちである。ちなみに、自治省のホームページによる市町村合併のメリットの中で、「他の市町村の図書館など公共施設が利用し易くすくなる」と述べているが、今回のデータ収集に際して私が住んでいる町以外の周辺市町村の図書館も自由に利用が出来たことを述べておきたい。各市町村は住民の利便性を考えて互いに協力し合っている。自治省が挙げている市町村合併のメリットの中には、合併をしなくても実現出来ることが数多くある（実際には合併しなくてもほとんどが実現出来る）。
なお、最近はインターネットの利用により多くの情報が入手出来るようになったと言われているが、今回のデータ収集にあたってはインターネットは必ずしも有効ではなかった。
インターネットでは最新の情報は比較的入手し易いが、過去の情報（特に数十年前）となるとインターネット上でも入手は困難である。古いと言われるかもしれないが、情報収集の最善最強の道具は結局は自分自身の足であり目であることを強く痛感した。ただ、痛感した時期が遅かったため余分な苦労をしたことも事実であり、今ともっては反省することしきりである。
最後に、データ収集にあたり懇切丁寧な対応をしてくれた政策研究大学院大学付属図書館と明治学院大学付属図書館の皆さん、また私が本研究の進め方に迷った時にアドバイスをして頂き、本論の内容のチェックも行って頂いた中村祐司先生、さらに本研究の内容に直接的な関係はなかったが、私の大学院での勉学や生活に多くの支援をして頂いた北島滋先生、杉原弘修先生に厚く御礼を申し上げたい。
＜参考文献＞
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書 名 |
著 者 ・ 編 者 |
出 版 社 |
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①市町村合併・広域連合事例集 |
坂田期雄編 |
（株）ぎょうせい |
