論文審査報告 「地方自治体における新たな住民参加の動態と課題―行政の取り組みに注目して―」(中村祐司・田巻松雄・北島滋)2009128

 

地方自治体における住民参加の現状と問題点を検証し、改善の方向性を示した。自治体の具体的な政策・施策を把握し、行政と住民との関係等について検討した。そして、そこに生じている問題点を実際の事例を通して捉えた。地方分権時代の住民参加の趨勢を把握した上で、栃木県宇都宮市まちづくり会議、同市民協働推進指針・計画、岩手県県民参加のガイドライン、神奈川県川崎市自治基本条例、同平塚市「いどばた」会議などといった実際の自治体の住民参加をめぐる取り組みを検証した。事例研究の結果を受けて、制度や条例など住民参加の取り組みから「政策への活用度」を縦軸に取り、協働を進める主体である住民と行政の関係をそれぞれの性格、働きかけの程度から「住民の優位度」を横軸に取り、分類図を提示した。そして「行政主導型」「住民受動型」「住民自律型」「行政参考型」といった四類型を設定し、各々が抱える課題や今後の方向性についての指摘がなされた。

 

 本論文は、近年の日本における住民参加の新しい動態に注目した。13に及ぶ事例研究はいずれも現地調査が土台となっており、この点は高く評価できる。しかし、以下のような課題も散見される。すなわち、文献研究の手薄さ(研究動向の把握が不十分)、分類図掲載ページの不適切さ、分類図4類型についての説明不足、住民と行政との「距離」についての定義の曖昧さ、データ取得の時期と記述内容との不整合、対象事例を取り上げた理由説明の不徹底などがそれである。全体として研究の精度が「薄く広く」なってしまった感は否めない。とはいうものの、行政が提供する新しい住民参加システムの導入・運用動向をめぐり、意欲的なインタビュ活動と一次資料収集をもとに、個々の事例を丹念に追って丁寧にまとめた資料的価値は高い。また、政策状況の把握だけに止まらず、各事例から得られた知見を提示し、分類図の構築と、それへの各事例の盛り込みを試み、参加をめぐる自治体と住民との関係性についての真摯な考察が展開されている。地方自治をめぐる実証研究の修士論文として一定の評価に値する水準に達していると判断される。