第13章 2003年3月議会において

 

 2002年が終了し、2003年に入った。無投票当選においての住民投票で陳情をしていたときから換算すると、この活動も3年目に突入した。

 この議会の直前の1月には、市長選挙が行われた。結果は現職の無投票当選となった。

我孫子市役所や我孫子市議会内では、市町村合併に関する話題もひと段落がついて、今後の当陳情の議論は本格的な一般的な常設型の住民投票条例に関するものとなっていくであろうことが予想された。今までは、市町村合併に関する住民投票制度とあわせて討論がなされていたのであるが、今回よりはもうそれがなくなり、議会がどのような審議や採決をするのか、注目の多い議会である。

 

a、本会議初日においての調査

 

 本会議初日より、早くも動きが見られた。それは、市長が施政方針演説にて、議会や市民に対して、18歳以上の市民を対象にした、市民投票の条例化を提案したのである。

 その施政方針演説とは自治のルール作りと地域の活性化案として、リーディングプランとして7つの項目が挙げられていた。市民投票についてはそのうちの3番目に挙げられた。

 その内容としては、重要な政策に決定に市民投票の制度を設けることを提案したいとし、 『地域の政策課題も市民意識もますます多様化している中で、重要な政策につい て市民の意思を直接反映する仕組みは大切だ。地方自治体において、間接民主制を補完する直接民主制の導入は、市民の自治意識を高めますし、市民の総意によるまちづくりに有効』と述べられたあとで、18歳以上の市民による市民投票の制度化を提案したものであった。

  おそらく、今回の7つの重要政策の提案は、市長選挙が無投票当選により、政策を発表する機会がなかったことから、行われたものであろうが、市議会が当陳情を『継続審査』としている中においての今回の施政方針演説については、非常に意義深いものとなったであろう。条例を作るのがほぼ100%行政側からの提案になっているという我孫子市議会において、市長の側から提案があったということは、市議会の側にも非常に大きな意味合いがあるということは、お分かりであろう。

 

 なお、今回の施政方針演説についての詳しい内容は、第3章のdでの著者が行った、市長とのインタビューの内容を見ていただきたい。

 

 

 

 

 

d、2003年3月5日のインタビューより

 

・施政方針演説について

 

「できる限り、直接民主制に近づけていくことが私の理想 

 重要政策については、住民投票制度をぜひ取り入れていきたい

 ただ、単純に多数決では決められないこともある

 その案件についての議論をしたうえで、行いたい

 市民間の議論を重視したいのだ

 住民投票制度は市民間の自治意識を高めるのだ

 導入すべきものであろう」

 

・どのような住民投票条例を

 

「常設型を考えている」

 

     具体的な内容の草案は

 

「テーマは個々のテーマを列挙する

 ただ、分野は問わない 自治体自身の決定権があるもの、市民・自治体が自身で責任を負えるものに関しては、すべての案件を対象にできても良いだろう」

 

     年齢を18歳以上としたのは

 

「有権者を幅広く取り入れたい」

 

     『住民』投票を『市民』投票という表記を使ったのは

 

「これと言って深い意味はないが、『住民』という表記は一地域の居住者という意味合いになり、市民全体のことであるから『市民』投票という表記を使った。『町民』、『村民』、『県民』、の総称が『住民』なのだ」

 

     今後のスケジュールは

 

「細かいスケジュールはまだであるが、陳情が採択され、議会が受けたものだから議会が議員提案するならば、その議員立法を尊重したい。議員提案しないならば、行政にて行う。

また、11月の議会の任期満了にて、廃案になったならば、行政が行う。議員立法も含めて、議会の動向を見極める」

 

     自治基本条例との整合性は考えているのか

 

「自治基本条例は市民参画の方法であるが、まだ発展途上の段階で進化中である

 今、条例で固定化してしまうのは良くない

 条例で固めてしまうのはどうかと思われる

 個々の制度を決めた上で、制定したい

 基本構想はある」

 

b、本会議一般質問においての調査

 

 今回の3月議会において、一般質問にて、住民投票に関するものは2件行われた。それは、会派代表質問において、市政クラブ・関谷敏江議員、日本共産党・吉松千草議員からの質問であった。いずれも、3月議会初日の市長の施政方針演説に関してものであった。いわゆる、住民投票全般に関してというよりは、市長が提唱した、18歳以上の市民を対象とした、市民投票条例に関したものであったのである。

 

 市政クラブ・関谷敏江議員の会派代表質問は、3月議会2日目の10日に行われた。その内容は主に簡潔にまとめたもので、ここにその要点を記しておく。

要点は、・市長が表記した、「市民投票」じゃなくて「住民投票」と言っていた。

     ・「市民協調まちづくり」のために「市民自治」と「住民投票」の2つをセットで強調し、市民参加の重要性を説いた。

     ・高浜市と同様の、「18歳以上」、「永住外国人も含む」、住民投票を検討したいとのことが会派の意思であるとのことであった。

     ・そのために、情報公開の必要を訴え、「行政をわかりやすく説明する、意識改革が必要」であるとのことを提唱した。

というものである。

  それに対する市長の答弁は、施政方針演説を繰り返した程度のものであった。記しておくと、

 要点は、・特に重要な政策には、住民投票が必要である。

     ・(18歳以上について)若者の社会参加にも有効である。

     ・(外国人について)住み良いまちづくりに役立つ。

・ていねいな情報公開に努めるよう心がける。

 といったものであった。

 

 日本共産党・吉松千草議員の会派代表質問は、3月議会4日目の3月12日に行われた。その内容の主要なものをここに記しておく。(以下略、議事録作成後、表記)

 

 いずれにしても、施政方針演説を繰り返した程度のものであったが、両会派ともほぼ住民投票制度は必要だ、との認識で非常に意義の深かったもののように思われる。特に、市政クラブは今までの採決では『継続審査』の意志を示し、態度未定の感が強かったので、会派の意思が読めたという点では大きな進展があったのではないだろうか。このような市長(当局)や会派の意見が出揃ったところで、委員会審議へと議事は進むのである。

 

 c、付託委員会・総務企画委員会においての調査

 

 市長施政方針演説、本会議の一般質問が終了し、議事は委員会審議に進んでいった。当陳情が付託された、総務企画委員会は3月13日に行われた。

 

委員会採決・採決方法閉会中の継続審査に許可か不許可かについての採決

着席2−5起立

『継続審査』

 

 まず、結果より述べておくと、委員会審議の採決は着席2名、起立5名により、『継続審査』との結論を出した。ここに、その結論に至るまでの委員会審議の内容を記しておく。

 

継続審査を希望した委員は5名でその主要な意見は、

 「この陳情は付託されてから期間が長く、その文だけ陳情の内容の思いは伝わってきたのではないか。市長が施政方針演説で取り入れたのも、市長の気分に陳情の意思が伝わったからではないか。陳情を放っておいてそのままではない。陳情は確実に実っている」

 「市長は新しい方向で来ている。施政方針演説においても、表明している。」

 「市長はこちらの採決を待っているのか、分からない」

 「日本の議会は議会制民主主義で、議会が決定権を持っているのだ。それに、住民投票を一回行うと、とても財政的に負担が重い。そもそも、市長が住民投票条例の必要性を訴えたのなら、なぜ、合併という大きな案件で住民投票を行わなかったのか。」

というものであった。

 

 それに対し、継続審査を不許可とした上で、願意採決を行い、決着を付けたいとして、着席をした2名の議員の主要な意見は下記の通りである。

 「市長の施政方針演説を待ってもいいが、執行部の内部では『この陳情の採決を待って』という意見が出ているのは事実だ。やはり、この議会で議会の意思を出してあげるべきだ」

 「『住民投票一回に付き、財政的には2000〜2300万くらいだろう。』と執行部は述べている」

というものであった。

 また、委員会審議では総務企画委員長(会派・あびこ21)より、

「この陳情は付託してから期間が長く、1年半もかかっている。できれば、今議会にて方向性を出してあげて欲しい」との報告があり、採決へと移った。

 総務企画委員会においての採決は結局、継続審査を許可するのかしないのか、について行われ起立5名、着席2名にて、閉会中の継続審査にすることは許可された。その採決の会派の内訳は継続審査について許可することにつき起立したのが、市政クラブ、清風会、公明党の3会派であった。着席したのは無会派、あびこ21となった。

 これにより、本会議の委員会審議においては、継続審査ということで本会議へと陳情書は運ばれた。今回の審議においても、また、前回までの審議においても、あくまでも継続審査に採決を示している会派においても、決して、住民投票に否定的ではなく、必要なものとして認めているのである。本当に、住民投票について否定している会派は本当にごく少数にとどまっているのである。しかし、市長の施政方針演説より、市長の意向を待つという進行状況になり、その市長もまた、議会の採決決定を待つという矛盾が起こっているのである(第2章においての市長とのインタビュー調査を参照)。両者が丸投げを始めたらキリがないが、このあたりでの議会としての、委員会の意思表示を見てみたかったものであるが、結果としては、継続審査ということで落ち着いた。

 以上の採決において、本会議審議の採決方法は願意採決ではなく、継続審査について許可するかしないかについての採決方法となったのである。

 

d、本会議においての討論・採決調査

 

委員長報告(継続審査について許可するかしないかについての採決)

起立12−17着席

委員長報告(継続審査)の否決

『非継続』

委員長報告否決による、願意採決

起立22−7着席

『採択』

 

 総務企画委員会での審議が行われた日より一週間後、我孫子市議会では本会議採決が行われた。結果は委員長報告である、閉会中の継続審査について、採決を取ったところ、起立が12名、着席17名にて、起立者が過半数に届かなかったため、委員長報告である、閉会中の継続審査が認められないこととなった。それにより、継続審査の否決により、即、願意採決にて採決を取ったところ、起立22名、着席7名により、採択されること決定した。

 

@     委員長報告(継続審査)の採決行動のマクロ的調査

 

今議会において、議会の議院の採決調査においても、大きな変動が見られた。

まず、委員長報告の継続審査を許可するかについての採決調査について述べておく。委員長報告、継続審査について起立(許可)をした会派は3会派と1会派の一部の3人であった。その内訳は、清風会、公明党は今まで通り、継続審査に起立の意志を表明した。前回より、継続審査に起立ということで意思表示を変化をした、新世会は今回の3月議会も前回と同じく継続審査に起立に意思表示をした。

それで、前回まで継続審査に起立の意思表示を示していた、あと一つの会派・市政クラブに意思の変化が見られた。それは、市政クラブの中で総務企画委員会に所属している議員、つまり、総務企画委員会にて継続審査の意思を示し、継続審査の採決にて起立の意思表示を示した議員3名を除いた、残りの市政クラブの議員5名が継続審査に着席の意思を示したのである。書き直すと、市政クラブが今回の議会で継続審査の採決で分裂し、起立が3名、着席が5名となったのである。

上記、市政クラブ以外での委員長報告の継続審査について着席(不許可)についての意思を示した会派は前回と変わらなかった。あびこ21、日本共産党、躍進あびこ、無会派2名であった。躍進あびこで前回の12月議会で継続審査に起立をした1名の議員も、今回は継続審査には着席の意思に戻った。であるから、継続審査に着席した合計は、それに加え、市政クラブの5名も含まれるのである。

これにより、委員長報告(継続審査)についての採決は、合計起立12名、着席17名となり、起立者が過半数に達しなかったため、委員長報告である、継続審査は否決され、不許可となり、そのまま願意採決へと移るのである。

 

A     願意採決の採決行動のマクロ的調査

   

   委員長報告(継続審査)が否決されたため、我孫子市議会の本会議採決では、即、願意採決が行われた。

   願意採決で起立の意思表示を示した会派は6会派であった。その内訳は、市政クラブ、あびこ21、躍進あびこ、日本共産党、公明党、無会派1名とのことであった。

   市政クラブは委員長報告の採決では、継続審査ということで本会議に送った、総務企画委員会のメンバーの3名が起立して、その他の5名のメンバーが着席するという、会派内で分裂した採決となったが、願意採決においては8名とも意思が一致して起立ということになったようである。

   公明党は、委員長報告の採決では起立をしたが、願意採決では起立ということで採択の側に回った。

   それ以外の4会派においては、今までの通り、採択ということで意思が一致していて、変化は見られなかった。

   一方の願意採決で着席の意思を示したのは、3会派であった。清風会、新世会、無会派1名であった。

   清風会は委員長報告には起立したが、願意採決においては着席の意思を示した。

新世会も委員長報告に起立し、願意採決においては着席の意思を示した。

もう一人の無会派の議員は、委員長報告には着席したが、願意採決においても着席の意思を示した。

   というわけで、願意採決において、起立22名、着席7名において、起立者が過半数に達したため、採択とのことで決定した。 

 

B     採決行動の理由

 

ここで、委員長報告の採決と願意の採決においての各会派の採決行動の理由について検討しておきたい。

まず、今回の議会で大きな変動と言えば、市政クラブの意思表示の変動であろう。ごらんの通り、最大会派である市政クラブが今回意思の変化をしたため、採択という結果の変動が起こったのである。市政クラブは委員長報告については、総務企画委員であった3名が起立し、その他の5名の議員が着席をした。願意採決については、8名全員が起立をするという意思を示した。

このような意思の変化として、やはり、3月議会初日の市長の施政方針演説が大きいように思われる。ご存知の通り、第2章でも述べたが、市政クラブの議員は今まで、過去1年間のデータを調べてみても、市長の議案に着席の意思を示したことがないのである。いわゆる、市長与党なのである。だから、今回、施政方針演説で市長が市民投票の提案をしたことにより、市長が動いたのだから、市民投票を制定する時期に来た、と判断したのではないだろうか。ゆえに、市政クラブの総務企画委員の議員も市長が新しい方向で来ていて、施政方針演説で述べているとして、市長の意向に重みを置いているのである。

また、総務企画委員会の議員の3名が委員会審議において継続審査にし、それに基づいて、本会議採決においても3名のみが委員長報告において起立したことは、一番消極的な採択方法を選んだことに他ならないだろう。これを仮に願意採決ということで委員長報告で、本会議に持って行くとなると、他会派より、賛成討論なり、反対討論なりができることになり、より、積極性を持たせてしまうのだ。今まで、継続審査という意思を示していて、これにて重い腰を上げ採択するとなるとより、消極的になりがちである。というわけでより『消極的採択』の方法として、このような手段を選んだのではないだろうか。

また、今回新たに意志が表明された会派としては公明党、清風会、新世会、無会派の1名であった。

公明党は委員長報告の継続審査には起立したが、願意採決にも起立の意思を示した。これは、3月議会の討論にもある通り、住民投票制度には賛成であるが、市長が施政方針演説で提案したことの進行状況を見極めて、市長の動向を待っても良いのではないだろうか、という理由に他ならないであろう。

清風会は委員長報告の継続審査には起立の意思を示したが、願意採決には着席の意思を示した。これは、3月議会の討論にもあるとおり、日本の議会は議会制民主主義であること、住民投票を行うと財政的にも負担が重いことなどが理由として挙げられるであろう。

無会派の1名は委員長報告の継続審査には着席したが、願意採決にも着席をした。これは、住民投票に否定的なのであろうとは思うが、この陳情の付託期間が長く、3月議会で決着をつけるべきだという意思で、継続審査には着席したという意思は筋が通っているであろう。

新世会は委員長報告の継続審査には起立の意思を示したが、願意採決には着席した。この会派は昨年度の12月議会より、継続審査に着席の意思から起立の意思に変化し、その変化の理由についてアンケート用紙を送付し、調査しているのだが、未だに返答はない。

その他、あびこ21、躍進あびこ、日本共産党、無会派1名においては、採決行動も理由も前議会より変わっていないということで良いだろう。

以上が今回変化のあった、あるいは新たの採決行動が見られた会派においての、採決行動の理由である。