藤田邦夫 修士論文「市町村合併成否の実証分析」のコメント        

中村祐司

 

 市町村合併については、近年、政府が地方交付税交付金の見直しなどを含んだ具体的な合併推進策を打ち出しており、行政学・地方自治の研究者の間でも注目される問題となっている。藤田氏の論文は、こうした合併論議をめぐる時代的趨勢を認識しつつ、従来の合併論ではなされてこなかった新しい分析の視点を提示したものである。

 合併論では、その歴史的経緯や法令およびその解釈の説明、合併した場合の効果・影響、さらには合併シミュレーションなどが矢継ぎ早に提示されてはいる。しかし、こと過去の合併効果をめぐる数値分析となると、評者の知る限り皆無であり、研究の独創性という点で極めて高く評価できる。

 分析手法にしても「景気動向指数」の算出方法を援用し、その上でデータ項目を絞り込んだ。データ収集にしても、データの精度を見極めつつ、「足でかせいだ」資料を活用している。論の進め方についても、難解な統計分析では決してなく、極めて分かりやすく説明の展開がなされている。合併の成否について数値をもとに○×式にシンプル化することは一見、数字には反映されない社会的諸要因を考慮すれば乱暴な印象を受けざるを得ないものの、数値分析そのものがこうした単純化を指向していることは確かである。

 合併の成否と面積との相関関係についての結論の内容については、藤田氏自身がことわっているように知見としては平凡なものである。しかし、この結論が従来、研究者の間でも「印象論」で語られてきた傾向にあったことを思えば、結論に至るプロセスの点で新しい知見が示されたといっても過言ではないであろう。

 ただし、対象合併市町村数に比した場合の対象データ項目数、現在やこれからの合併論議への貢献、制度設計や政策提言といった側面では、この論文の性格上仕方がない側面はあるものの、物足りなさが残ったことも事実である。