NATO、ユーゴを空爆 軍施設など数十カ所 コソボ紛争

 ユーゴスラビア連邦セルビア共和国のコソボ自治州紛争で、北大西洋条約機構(NATO)は二十四日夜(日本時間二十五日早朝)、ユーゴに対する空爆を始めた。爆撃はベオグラード近郊の軍事施設などユーゴ全域に及び、ユーゴ政府は「戦争状態」を宣言、徹底抗戦の態勢に入った。空爆に反対してきたロシアの要請で国連安全保障理事会が急きょ開かれ、ロシアと中国は安保理の許可を得ていない武力行使を「国連憲章に違反する」と非難し、攻撃の即時停止を求めた。二千人の犠牲者三十万人以上の難民を生んだコソボ紛争は、NATOとユーゴ連邦軍の全面対決という事態に至った。

 【ブリュッセル25日=山本敦子】ユーゴスラビア・コソボ自治州紛争で、北大西洋条約機構(NATO)のソラナ事務総長は二十四日午後八時(日本時間二十五日午前四時)、ユーゴスラビアに対する空爆を始めた、と発表した。米艦船やB52爆撃機から発射された巡航ミサイルが、対空防衛施設など数十カ所を爆撃した模様だ。NATOはこの日の空爆を第一段階としている。NATOが国連安全保障理事会の決議なしに主権国家を攻撃したのは、一九四九年の発足以来初めて。

 ソラナ事務総長は声明で、「空爆の責任は、交渉を拒否し、コソボ内での暴力行為をやめなかったミロシェビッチ大統領にある」と批判。「我々には人道上の悲劇を終わらせる道徳的な義務がある」と宣言した。作戦名は「アライド・フォース(同盟の力)」。

 NATOによると、攻撃対象は地対空ミサイルやレーダーなどで、米国、英国、フランス、ドイツなどNATO加盟十一カ国が参加した。ソラナ事務総長の声明発表の約一時間前から、F16、F18、F117ステルス戦闘機など約八十機がイタリアのアビアノ基地を飛び立つのが目撃された。

コソボ紛争、解決へ展望見えず 大国は威信優先 戦火拡大の可能性

 「火に油を注ぐ」とは、このことではないか。コソボ紛争で、北大西洋条約機構(NATO)が始めたユーゴスラビア爆撃は、この地域の流血をとめて和平を図るという欧米諸国の介入の目的を大きくはずれ、逆に戦火と破壊を拡大する危険をはらんでいる。

 ユーゴのコソボ自治州で、ミロシェビッチ政権が繰り返している抑圧は、断じて許されない。人道上の立場から、欧米諸国が介入したのは、当然のことであるには違いない。「国家主権が絶対で、超越的な存在とされる時代は終わった」(ブトロス・ガリ前国連事務総長=平和への課題)のだから。

 問題はその介入の仕方である。自ら描いたコソボ自治を回復する和平案に、NATO主導の平和維持軍の展開が不可欠だとし、これを受け入れないユーゴを「平和への侵略者」として懲罰する武力行使に出た。

 NATO諸国は(1)依然として、現地ではユーゴの抑圧が続き(2)焦土作戦が始まるなど、過酷な「民族浄化」に発展し(3)たび重ねての説得にも、ミロシェビッチ政権が耳を傾けない――ことから、「もはや選択の余地がない」と決断した。

 空爆は欧米諸国の断固たる姿勢を示すものだ。ユーゴの軍事施設、能力を破壊し、抑圧作戦を鈍くすることができるかも知れない。しかし、作戦が紛争を沈静化させるかといえば、これはまったく逆さまだとの見方が大勢だ。

 もともと空爆には、「NATOがコソボ解放軍の『空軍』の役目を担う。解放軍が勢いづき戦火が拡大する」「ユーゴの反NATO感情が高まり、ミロシェビッチ政権の立場を強化する」……こんな懸念がもっぱらだった。「国民や軍部が動揺し、同政権が折れる」との見方は、一部の楽観論にすぎなかった。

 米英両国が強硬策に出た昨年十二月のイラク爆撃は、この国の大量破壊兵器開発を防ぐ国連査察が拒否されたためだった。武力行使の結果、査察再開は不可能になった。それでも、施設を破壊し、当面の間、同兵器の開発が進むのを防ぐという意味があった。

 ところが、ユーゴの場合は、コソボの分離独立をめぐる血みどろで泥沼の戦いが、決定的になったかに見える。

 解決への展望を欠いた軍事行動の理由は何か。そこに、悲劇的な現実が浮かび上がる。人道と正義を掲げた大国の「力に基づく外交」と、その威信である。英国のブレア首相も二十三日、議会で述べた。「この事態を回避すれば、NATOの威信を損なう」

 ミロシェビッチ大統領が英仏両国に抗議している。「ユーゴは、押しつけの解決策を受け入れられない。小国を爆撃で脅かす振る舞いを恥じるべきだ」。追いつめられての居直りである。だが、「大国」の論理に反発する「小国」の心情が吐露されている。ユーゴ国民の多くも、同じ気持ちであるに違いない。

 コソボは、NATOも認めているように、ユーゴの領土である。中国のチベット問題で、あるいはトルコのクルド問題で、同じ対応があり得るか。国連安保理決議など国際社会の幅広い支えもない。

 NATOの決断には、地域の平和と安全を図る機構はほかになく、その威信は保たれねばならないとの自負が見える。

 しかし、人道、正義、威信を掲げて「紛争の調停者」を試みた欧米の大国が、いつの間にか「紛争の当事者」になって、紛争がいちだんと大規模になっていく。とすれば、その出発点の動機と使命感は理解できるとしても、結果はあまりにも悲劇的だ。

 コソボ危機の展開は、こうした現在の「多極性に欠ける国際社会」のもろさを描き出している。

 (ヨーロッパ総局長 百瀬和元)

 

 

コメント

ユーゴ空爆はミロシェビッチ政権とNATO軍との意見の食い違いによるものである。双方がそれぞれの意見を主張しているため、この空爆はなかなか終わらない。しかも、NATO軍は誤爆などによって市民に被害をおよぼしている。空爆が終わった今でも避難民はたくさんいるし、彼らは不便な生活をおくっている。すこしでもはやく彼らに安全な生活をおくってほしいとおもう。