gen001016      講義メモ(中村作成)

 

<ユーゴ情勢>(朝日新聞200010月7日〜10月9日付より)

野党連合統一候補コシュトニツァ氏13年間にわたるミロシェビッチ独裁政権は事実上崩壊。ユーゴ連邦軍は「不介入」の方針を示し、中立の立場明らかに。

 

社説7日付:「軍や警察も中立を約束したと伝えられる。ともにミロシェビッチ氏に優遇され、体制を支えてきた機関だ。しかし、さすがに同胞には銃口を向けられない。」

「新大統領となるコシュトニツァ氏は、これまでの」与党勢力に報復しないと強調した。重要なことだと思う。このうえ、国内で争いを続けるのでは、再建はおぼつかない。」

「振り返れば、群集の熱狂がこの国を不幸に陥れてきたのである。ミロシェビッチ氏は旧ユーゴの時代、セルビアの民族感情に訴える演説を各地で行い、歓呼して迎えた民衆によって権力の座に上り詰めた。」

「あのときの熱狂が、結局はボスニア・ヘルツェゴビナの内戦や、北大西洋条約機構(NATO)によるユーゴ空爆を招いた。」

「オランダのハーグに置かれた旧ユーゴ国際戦犯法廷もこれからの問題になる。」

「東欧の革命で社会主義体制が問われ、多くの国々が民主化への道を開く中で、ユーゴで台頭したのは過激な民族主義だった。」

ミロシェビッチ氏は「『民族感情を扇動して権力の座についた』といえるかもしれない。しかし、それにしても、多くの人々の支持を集めて、権力を握った事実は否定できない。」

「バルカン現代史の回り舞台で、ミロシェビッチ氏が決定的な役割を演じたことは間違いない。だが、彼がその悲劇全体の演出家だったとはいいがたい。」(百瀬和元)

「ミロシェビッチ大統領は側近政治を好んだが、なかでも本当に信頼したのは精神的同志とも言える夫人だけ、とさえ言われる。民族の息づかいの届かない、閉ざされた輪の中で一国の政策が決められていった。」

「首都で人々は、ホイッスルを用意して路上に出始めた。ひたすら、それを鳴らすことが抗議の表現だった。投票当日、民衆は警官隊と一触即発の状態となった。この時もビルの谷間にホイッスルの音が反響した。持たない人はただ「うおーっ」と叫んだ。「ホイッスル革命」は5日に頂点を迎えることになった。」(磯村健太郎)

 

「冷戦時代に非同盟と自主管理を軸とし、東西対立の中で特異な位置を保って『東欧の異端児』と呼ばれたユーゴスラビア。1989年の東欧革命で社会主義国が次々に崩壊するなか、ただ一つ残ったのが旧ユーゴだった。その後、約10年にわたって連鎖する内戦をもたらした連邦解体の動きは、北から始まった。

 まず独立を宣言したのはスロベニアだ。西欧に隣接して文化的、宗教的にもっとも西欧風で経済的にも豊かなこの国は、いち早く自由選挙を実施して民主政権を樹立。10日間の内戦ののち独立が発効した。

 ほぼ同時期に独立を宣言したクロアチアは、セルビアを中心としたユーゴ連邦軍との激しい内戦に突入した。国内のセルビア人の処遇でもめたためだ。四年にわたった激しい内戦の末、セルビア人は領内から駆逐された。

 そのさなか、マケドニアが独立を宣言し、無血で達成した。しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナは悲惨な内戦に陥った。セルビア、クロアチア、モスレムの三つの民族が混在するだけに戦闘は三つどもえとなり、せい惨を極めた。

 旧ユーゴを構成した六つの共和国の四つまでが独立し、最後に残ったセルビアとモンテネグロが「新ユーゴ連邦」を発足させた。ボスニア内戦での武力介入を理由に国連が制裁を科すと、これに反発して民族主義が高まった。

 その中心にいたのがミロシェビッチ氏である。

 コソボ自治州でセルビア民族主義をあおり立てて頭角を現した彼は、コソボでの「民族浄化」を理由に北大西洋条約機構(NATO)が空爆すると、孤立した民族感情を政権強化につなげた。しかし、その中で政権の基盤は急速に腐っていった。

 歴史の中で「欧州の火薬庫」と呼ばれ、近年は憎しみのルツボでもあったバルカンの行方は、なお定かではない。しかし、ミロシェビッチ独裁体制のあっけない崩壊は自由・人権・民主主義をうたった東欧革命の精神が欧州の辺境にまで到達したことを示している。」(伊藤千尋)

コソボのアルバニア人勢力は、独立を容認する可能性のないコシュトニツァ氏をミロシェビッチ大統領より危険と見なしている。コソボ問題やモンテネグロ共和国との関係が一気に解決されることはない。」「氏は、セルビア国民が西欧的な民主主義指導者をいずれ選択するまでの、過渡期の指導者と位置づけることができる。」(柴宜弘)

 

新政権樹立後の課題は山積している。野党は寄り合い所帯。連邦議会は旧政権与党が多数を占める。独立傾向を強めているモンテネグロ、平和維持部隊(KFOR)が駐留するコソボの今後など、舵取りの難しい問題が待ち受ける。」

*以上、10月7日付より

「支配のかなめの一つだった利権を少しでも手のうちに残そうとするミロシェビッチ派と、これを防ごうとするコシュトニツァ新体制の間では、カネをめぐる暗闘が繰り広げられている。」

「この日わかっただけでミロシェビッチ側近の運営する銀行に700万ドル(約7億7千万円)、やはり与党幹部が管理する金属工業に370万ドル(約1億8千万円)の不透明な支払いがあったという。」

 

「定員138議席の下院では、セルビアのミロシェビッチ派は46議席。だが、モンテネグロ共和国の親セルビア派、社会人民党を加えれば、74議席で過半数を制することができる。上院も、ミロシェビッチ派に社会人民党を加えれば過半数だ。内閣を意のままに操ることができれば、ミロシェビッチ体制「復活」のシナリオすら現実味を帯びてくる。」*以上、10月8日付より

 

「旧政権の負の遺産は重い。失業率は27%、職に就いていても平均月収は48ドル(約5千円)だ。国際赤十字(社)によると、人口の約1割、約100万人が食事の炊き出しや食料配給を受けている。」「ユーゴ経済は、前大統領が率いるセルビア社会党の支配下に置かれたまま。新規事業を始める際の許認可は形式的には担当の官公庁が行うが、裏で社会党へわいろを渡さなければ進まない。旧政権を支えた腐敗の構造は簡単には変わらない。外国からの投資が期待できるのは、まだ遠い先の話に見える。」(沢村瓦、磯村健太郎)*以上10月9日付より。

 

 

 

*以下、共同通信の記事→