chi001016 地方行政論ノート 

*青字は中村の挿入メモ 赤字は中村による色づけ

「地方分権推進委員会の中間報告(総論)を読む*Iのみ」 http://www.sorifu.go.jp/whitepaper/bunken/middle/01.htmlより。

第1章 総論 ― 地方分権推進の趣意


    はじめに

     平成5年(1993年)6月の地方分権の推進に関する衆参両院決議、平成6年94年12月の地方分権の推進に関する大綱方針の閣議決定、並びに平成7年5月の地方分権推進法の制定は、国権の最高機関たる国会が率先し、これに内閣が歩調を合わせ、明治期以来の中央集権型行政システムを新しい地方分権型行政システムに変革しようとする決意を表明したものであって、わが国の憲政史上にも稀なる画期的な政治決断であった。これによっていまや、地方分権の推進は論議の段階から実行の段階に入ったと考える。
     しかしながら、この変革はわが国の政治・行政の基本構造をその大元から変革しようとするものであり、その波及効果は深く、広い。それは明治維新戦後改革に次ぐ「第三の改革」というべきものの一環であって、数多くの関係法令の改正を要する世紀転換期の大事業である。したがって、それは一朝一夕に成し得る性格のものではない。相互に複雑に絡まり合っている諸制度の縫い目を一つ一つ慎重に解きほぐし、システムの変革に伴いがちな摩擦と苦痛の発生を最小限度に抑えながら、諸制度を新たなデザインに基づいて順序よく縫い直して、その装いを新たにしていくべき事業である。 (*何か大変なことをやろうとしているが、なぜ大変なのであろうか?)
     そこで、地方分権推進法はこの事業を総合的かつ計画的に推進していくために、政府に対して地方分権推進計画の作成を義務づけた。そしてその上で、この地方分権推進計画の作成のための具体的な指針を内閣総理大臣に勧告する機関として、またこの地方分権推進計画に基づく施策の実施状況を監視しその結果に基づく内閣総理大臣に必要な意見を述べる機関として、総理府に地方分権推進委員会を設置する旨定めた。しかも、国会はこの地方分権推進法の有効期限を5年とし、この年限内に着実な成果を上げることを期待している。
     このような趣旨の下に昨年7月3日に設置された委員会の責任は重大である。そこで委員会は、この重責に応えるために、具体的な指針の勧告に向けて個別の課題についての調査審議に入るに先立ち、あるいはこれと並行して、地方分権推進の背景・理由、その目的・理念と改革の方向、並びに調査審議の進め方などについて意見を交換してきた。時代認識を共有し、目指すべき分権型社会の姿について合意を形成するためであった。この合意形成の結果を取りまとめたのが、この「総論 ― 地方分権推進の趣意」である。

    (*ややごちゃごちゃして分かりにくいので以下に整理→)

      衆参両院での地方分権推進決議(93.6.)

      9310月に第三次行政改革推進審議会(行革審)の最終答申

      地方6団体の意見書(94.9.)

       国が所管する事務を16項目に限定(外交、防衛、安全保障、国政選挙、公的年金、全国の総合開発計画や経済

         計画なども)。また、地方分権推進計画、地方分権推進委員会の設置なども決める)

      94.11.第24次地方制度調査会の答申はこの内容をまとめたもの

      政府による地方分権大綱の決定(94.12.)

      地方分権推進法の可決・成立(95.5.15.):地方分権推進委員会の設置と地方                     

                         分権推進計画の策定

       地方分権推進委員会は7名からなり、総理府に設置。勧告の実施状況を監視。独立の事務局。5年の時限立法。

        政府による勧告を最大限尊重した形での地方分権推進計画作成の義務づけ。包括的な分権手続法ともいうべき

        もの。

    中間報告「分権型社会の創造」(96.3.)

     制度改革と各戸別行政分野(地域づくりとくらしづくり)。理念を打ち出す。

  1. 何故にいまこの時点で地方分権か ― 地方分権推進の背景・理由

     何故にいまこの時点で、地方分権の推進が広く各界からこのように強く求められるようになったのか。あらためてその背景・理由を整理すれば、以下のように要約することができると考える。

    1. 中央集権型行政システムの制度疲労

       明治維新以来徐々に形成されてきた中央集権型行政システムは戦時体制の下で一段と強化された。戦後改革はこの戦前のシステムを大きく変革するものであったが、機関委任事務制度の踏襲と拡張にみられるように、それは中央集権型行政システムを完全に払拭するものではなかった。そしてその後の高度成長期の行政活動の発展と膨張の流れのなかで、通達行政の濃密化と補助金行政の拡大にみられるように、新しい形態の集権化が積み重ねられてきた。  この明治期以来の中央集権型行政システムは、限られた資源を中央に集中し、これを部門間・地域間に重点的に配分して効率的に活用することに適合した側面をもち、これが当時はまだ後発国であったわが国の急速な近代化と経済発展に寄与し、比較的に短期間のうちに先進諸国の水準に追いつくことに大きく貢献してきた事実は、否定できないところである。
       しかしながら、中央集権型行政システムにはそれなりの弊害も伴う。すなわち、国民国家の統一のために地域社会の自治を制約し、国民経済の発展のために地域経済の存立基盤を掘り崩す。権限・財源・人間、そして情報を中央に過度に集中させ、地方の資源を収奪し、その活力を奪う。全国画一の統一性と公平性を重視するあまりに、地域的な諸条件の多様性を軽視し、地域ごとの個性ある生活文化を衰微させる。それは、脳神経ばかりが異常に肥大しその他の諸器官の退化した生物にも比せられる。

      (*ここで少し国の地方に対する関与について整理)

      地方自治体に対する国の関与=@通達行政(法令に基づく関与)

                      ←機関委任事務制度による支え

                    A補助金行政(資金交付に伴う関与)

                    B必置規制(組織編制に対する関与)


       このように、中央集権型行政システムには功罪両面があるのであるが、わが国の政治・行政を取り巻く国際・国内の環境はここのところ急速に大きく変貌してきている。そしてその結果として、今日では中央集権型行政システムが新たな時代の状況と課題に適合しないものとなって、その弊害面を目立たせることになったのではないか。言い換えれば、旧来のシステムは一種の制度疲労に陥り、新たな状況と課題に的確に対応する能力を失っているのではないかと考える。
       では、国際・国内の環境変化とは何か。そしてこの国際・国内の環境変化と地方分権の推進はどのような関連にあるのか。この点についてのわれわれの認識を整理要約すれば、以下のとおりである。

    2. 変動する国際社会への対応

       冷戦の終結に伴い、国際社会の枠組みは大きく変動した。経済活動のボーダレス化が急速に進み、政府レベルの国際交流のみならず、地域レベル・市民レベルの国境を越えた交流が活発を極め、政治・経済・社会をめぐる新たな国際秩序の模索が続いている。このような国際情勢の下で、国が担うべき国際調整課題があらゆる行政分野にわたって激増してきている。にもかかわらず、この種の国際調整課題に対する国の各省庁の対応は決して十分に迅速かつ的確であるようには見えない。
       そこでこの際、国にしか担い得ない国際調整課題への国の各省庁の対応能力を高めるためにも、地方分権を推進し、国の各省庁の国内問題に対する濃密な関与に伴う負担を軽減することを通して、これを身軽にしその役割を純化し強化していくべきである。

      *国の地方への関与の軽減→地方分権の推進→国による国際調整能力の強化

       

    3. 東京一極集中の是正

       国内の社会経済構造に目を転ずれば、まず産業の海外進出に伴う国内産業の空洞化現象を深刻に受け止めるべきであるが、純粋に国内の現象にかぎってみても、人口・産業・金融・情報・文化等の東京圏への過度の集中に依然として歯止めがかからない。そこで、東京圏における超過密の弊害は住民の生活環境のあらゆる側面に及んでいるとともに、この巨大都市圏は地震等の大規模災害に対してきわめて脆弱になってしまっている。そして地方圏では過疎化が進み、地域社会の活力が低下し、ところによっては崩壊の危機にさらされている。
       そこでこの際、多極分散型の国土形成を実効あるものにするためにも、地方分権を推進し、まずは政治・行政上の決定権限を地方に分散し、これによって東京一極集中現象に歯止めをかけ、地域の産業・行政・文化を支える人材を地方圏で育て、地域社会の活力を取り戻させる必要がある。
       なお、首都機能移転はこの課題に対する有効な方策の一つであるのかもしれないが、この大規模プロジェクトへの着手を決断するのであれば、その際に建設される「新首都」を第二の東京にしないためにも、規制緩和と地方分権の徹底した推進が不可欠の前提条件になるはずである。*首都機能移転には距離を置いている点に注意

    4. 個性豊かな地域社会の形成

       わが国は高度成長によって世界有数の経済力を有する国に発展して、先進国の仲間入りをはたした。そしてこの間に、多くの行政分野でそのナショナル・ミニマムの目標水準を達成し、平和で安全な社会を築き上げた。にもかかわらず、国民の多くはその日常生活の場で真の安らぎと豊かさを実感できないでいる。その原因の少なくとも一端は、中央集権型行政システムの下で全国画一の統一性と公平性が過度に重視され、地域社会の諸条件の多様性が軽視されてきたことにある。ナショナル・ミニマムが概ね達成されたことによって、行政サービスに対する国民のニーズは多種多様になってきた。こうした国民の多様化した価値観に対して全国画一の統一性と公平性の価値基準を押し付けようとすることは、もはや時代錯誤になってきている。
       すべての行政分野でナショナル・ミニマムの目標水準を達成し、これを維持していくことは、今後とも引き続き国の担うべき重要な役割である。ナショナル・ミニマムにも達しない地域社会が残存するような地域間格差は国の責任において解消させなければならない。しかしながら、国の各省庁がそれぞれの行政分野においてナショナル・ミディアム又はナショナル・マキシマムというべき目標水準を立て、これをあたかもナショナル・ミニマムであるかのように扱い、全国画一にこの水準まで引き上げようとすることは慎むべきである。ナショナル・ミニマムを超える行政サービスは、地域住民のニーズを反映した地域住民の自主的な選択に委ねるべきものである。その結果として地域差が生ずるとしても、それは解消されるべき地域間格差ではなく、尊厳なる個性差と認識すべきである。
       そこでこの際、安らぎと豊かさを日々に実感できる真に成熟した社会に発展していくためにも、地方分権を推進し、固有の自然・歴史・文化をもつ地域社会の自己決定権を拡充すべきである。

    5. 高齢社会・少子化社会への対応

       わが国では今日、他国に類例をみない急激なテンポで人口の高齢化が進み、その反面では少子化が進んでいる。そこで、この人口構成の急激な変動に対応する各種サービスの供給体系の構築が急務になってきており、高齢者に向けては保健・医療・福祉及び生涯学習関連のサービス相互の緊密なる連携が、幼児児童に向けては保育・教育関連のサービスの再編成が要請されている。
       また、それは地方公共団体職員による行政サービスの供給だけで対応できるものではなく、各種の公益法人、NPO、ボランティアなどの協力をはじめ、場合によっては民間企業の参入を得て、公私協働のサービス・ネットワークを形成する必要がある。
       この種の総合行政と公私協働の仕組みづくりは、国の各省庁別の、さらには各局別の縦割りの行政システムをもってしては到底実現できない。この種の仕組みづくりは地方公共団体のなかでも、住民に身近な基礎的地方公共団体である市町村の創意工夫に待つほかはない。
       そこでこの際、来るべき本格的な高齢社会と少子化社会に的確に対応するためにも、地方分権を推進し、行政の総合化と公私協働を促進すべきである。

       *特定非営利活動促進法(NPO法)→1998年12月1日試行。特定非営利活動として、

         1.保健、医療又は福祉の増進を図る活動

         2.社会教育の推進を図る活動

         3.まちづくりの推進を図る活動

         4.文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動

         5.環境の保全を図る活動

         6.災害救援活動

         7.地域安全活動

         8.人権の擁護又は平和の推進を図る活動

         9.国際協力の活動

        10.男女共同参画社会の形成の促進を図る活動

        11.子どもの健全育成を図る活動

        12.前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動

        

       第一条 「この法律は、特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由         な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的とする。」

        (以上、経済企画庁『特定非営利活動促進法(NPO法)のあらまし』より)


 *先週取り上げた介護保険についても、上記のような視点で新聞記事を読むと大変面白い。