Chi001023 講義メモ(中村祐司)
「減税」と「公共事業」(細野真宏『経済のニュースが面白いほどわかる本(日本経済編)』中経出版、2000年より)
<減税>
206;減税=税金を減らすこと。道路や橋、ホテル、マンション、ゴルフ場などは誰がつくるのか?→
ゼネコン(general contractor=総合工事業者、総合請負業者)、要するに「大手総合建設会社」)。
国がゼネコンにお金を払った。国はなんでお金を持っているの?
207;「国は、国民のための仕事をするために必要なお金を僕らから集める。」=税金
「国は僕らから税金を集めて、その税金を使って、僕らの生活のために道路や橋や公園などをつくったり、
208; 僕らの安全を守るために警察署をつくり、警察官を雇って彼らに毎月(税金から)給料をあげたりして
いるんだよ。また、『国がどのような仕事をするのか』を決めたり、日本のためにいろんな仕事をしている
政治家や官僚の給料も税金から支払われているんだよ。」
「まず、国が減税すると『僕らが国に納めるお金』(=税金)が減るので、僕らの手もとに残るお金はいつも
より増えるよね。」
209;「そこで、お金に余裕ができるので、今まで買えなかったモノや今までよりも多くのモノを買ったりして、
普段よりもお金を使うようになる。」(「今までガマンしていたパソコンを買おう」「今までは夕食に安い肉を1枚
しか買わなかったけれど、今日は高い肉を3枚買って帰るワ!」
「その結果、お店ではいつもよりモノがたくさん売れるので、お店の商品が足りなくなってきて、商品をたくさん
仕入れる必要が出てくる。」
「すると、その商品をつくっている会社や『その商品をつくるために必要な部品』をつくっている会社などの仕事
が増えて、いろんな会社の利益がどんどん増えていく。」
210;「また、商品がたくさん売れるようになって仕事が忙しくなると
商品をつくる人や商品を売る人などがもっと必要になってくるよね。
そこで、新たに人を雇う会社が増えてくるので
失業率がどんどん下がっていく。」
「会社の利益が増えていくと社員の給料(ボーナスが増えたりして)
上がっていくので、また収入が増える。」
「そして収入が増えた分、お金に余裕ができるので、また
今まで買えなかったモノや今までよりも多くのモノを買ったりして
普段よりもお金を使うようになる。」
「このように、減税をするとモノがどんどん売れるようになっていき景気はどんどん良くなっていくんだ。」
211;「景気が良くなって
儲かる会社がどんどん増えていくと、
『法人税』が増えていくよね。
(*214→税金には直接税(会社の利益に応じて、会社が国に納める法人税と個人の収入に応じて、
個人が国に納める所得税がある。直接、税務署に納めるのでこう呼ぶ。)と間接税(消費税、酒税、
たばこ税などのようにモノを買ったときにその値段に上乗せされている税金。
「この税金は、僕らが商品を買うときに、商品の値段といっしょに店に渡しておいて、
後から店の人が税務署に行って
その(消費税などの)税金を(僕らに代わって)納める、という形になっているんだ。つまり僕らは
その税金を直接(税務署に)納めているのではなく、間接的に納めているのである。」)
さらに、
それらの会社で働いている社員の給料もどんどん増えていくので
『所得税』も増えていくよね。
また、
みんながどんどんモノを買うので
『間接税』も増えていくよね。
その結果、国に入ってくる税金は
(減税した分よりも)増えたりするので、
国の収入は増えて国も儲けることができたりするんだ。
つまり、
確かに最初は減税することによって国の税収
は減ってしまうけれど、最終的には、
日本の景気が良くなり、しかもその減った分(減税分)よりも多くの
税金が国に入ってきたりもするんだ。
213;「だけど、現実的にはなかなかこのようにうまくはいかないんだ。」
「景気が悪すぎるときには、将来に対する不安があまりにも強いために
減税によってちょっとだけ収入が増えたとしても多くの人達は
その減税分のお金を使わないで将来に備えて預金してしまうんだ。」
「また、
そもそも、もうみんながモノを持ち過ぎていて、
今さらどうしても欲しいモノなどない、という状態だから
減税してもたいして消費にお金がまわらない
という考え方もあるんだ。」
<公共事業>
216; 「公共」=「みんなの」
「事業」=「(社会のために行う大きな)仕事」
公共事業の大きな目的の1つに「インフラの整備」がある。
Infrastructure(社会資本)「インフラストラクチャー」=「国民生活に欠かせない道路
や橋や鉄道や港や空港などの社会的な基盤となる施設」
景気対策としての公共事業
217;「『減税』では消費にお金がまわらない可能性が高いので、
この『公共事業』が重要になってくるんだ。
なぜかというと、
『公共事業』では“国が自らお金を使う”ので
確実に景気に影響を与えることができるんだ。
つまり、
『減税』ではいくら国がお金を出したとしても
僕らがお金を使わないと景気には全く影響がない。
しかし、『公共事業』では国が直接お金を使うので
国がお金を出した分だけ確実に影響を与えることが
できるんだ。」
「しかも、道路や建物などをつくると建設会社だけが儲かるのではなくて、
土木やアスファルトやセメントや鉄鋼などに関する仕事をしている会社
はいうまでもなく、作業をするために必要な道具を作っている会社や
建物の中に必要な電気器具関連の商品を扱う電器産業など、
多くの会社が儲けることができるんだ。
また、
公共事業が行われると働く人がたくさん必要になるので、
失業している人達も仕事ができるようになり、
その地域の失業率がどんどん下がっていくんだ。
218; このように、公共事業が(適切な場所に適切な規模で)行われると
その地域はどんどん元気になっていくんだ。」
*このあたりから公共事業に対する価値評価の展開
219; 「景気対策に重点を置いた公共事業というのは、要は
『国がお金を使えばいい』のだから、極論をいうと
『穴を掘らせてそれを埋めさせる』だけでもいいんだ。」
「例えば、
『大規模な工業基地をつくるためにどうしても港をつくる必要がある』
ということで1600億円(!?)もの大金をかけて港をつくったが、
工業基地自体の生産も当初の計画には遠く及ばなくて
港もほとんど利用されておらず、『1600億円をかけた”釣り堀”』
として地元の人達の絶好の”釣り堀“となっている北海道にある港や、
当初の計画の100分の1の船も来なくて(計画では100隻は来る、として
いたが、実際にはせいぜい1隻が来るという状況)
ほとんど使用されていない青森にある港。
220; また、
『新鮮な野菜を都心に届けるために空港が必要だ』ということで
120億円以上もかけてつくった岡山、福島などにある「農道空港」。
実際にはトラックで普通に運ぶのよりも5倍近くお金がかかってしまう
ため採算が全く合わずほとんど使われていない。」
「いろんな理由があるんだけれど、政治家が大きな原因の一つだね。
まず、政治家が選挙で当選するためには
地元の人達からたくさんの支持を得なければならない。
地元の人達から手っ取り早く支持を得るためには
地元の人達を喜ばせればいいよね。
国から地元に仕事がたくさん入ってくるようにすれば
地元の景気が良くなりみんなが喜ぶ。
だから、(基本的に)政治家は
なんとしてでも国の予算を地元にもってこようと頑張るんだ。
221; (一部の)政治家にとっては、
ある意味『公共事業の採算がとれるかどうか』なんて
どうでもよく、単に公共事業が地元で行われさえすればいいのである!
つまり彼らにとってはつくることに意味があって
その後それが使われなくてもたいした問題ではないんだ。」
「従来のような
道路やダムをつくったりする公共事業においては
もうあまり意味がないけれど、
これから整備するべきインフラはまだまだ存在するんだ。
例えば、21世紀においては情報や通信などの分野が
さらにものすごいスピードで進歩していくだろう。
それらに教育がキチンと対応できるようにできるだけ早い時期に
もっと学校にコンピュータを入れるとか、
『光ファイバー』(『情報を光の信号に換えて、その信号を送るときに使われる回線』
のことで今後の情報通信において主流になるものである。)に
代表されるような『情報・通信インフラ』の整備をさらに進めることも重要だ。
222; 「また、今後、日本では
高齢者の人数が増え若者の人数が減っていく、という
『少子高齢化』が進むので、その対策として
介護施設の充実など、医療・福祉に関するインフラの整備を
さらに進めていくことも重要だ。
つまり、将来の日本にとってどうしても必要となることに対して
国のお金(税金)を使うべきなのである。
国のサイフにも限界はある。
だから、
あまり大きな意味がなく、しかもただ借金が増えていくだけ
のような公共事業はやるべきではない。
増え続ける日本の借金は
今後、税金を高くするなどして返さなければならなくなり、
結局、将来の子供達が背負わなければならなくなる。
一部の人達のエゴのために将来の子供達に迷惑をかけるようなことは
絶対にやめるべきである!」
* 公共事業に関して以下、『週間ダイヤモンド』2000年10月14日号より
* 以下キーワード等の羅列
「大手をアゴで使い八万社突破 不良舗装業者の天下泰平」
48; 「公共事業予算の四割弱を占める道路事業
そのうちの舗装工事
「工事は、地元優先と、中小の企業“保護・育成”を盾に、地場の中小建設会社に
発注される。そして、舗装の技術も設備も持たない、不良不的確会社は、受注し
た工事を大手舗装会社に“丸投げ”し、儲けをピンハネする。」
建設業法22条違反だが公然の秘密
「元請けの制服を借りるなんて当たり前のこと。役所の完成検査への立ち会いだっ
てするし、役所の担当者から『あんたは東京の××社の人だろう』と言われる
ことだって珍しくない」
「道路舗装は地方の中小業者の独断場である。小選挙区制導入で『道路のない選挙
区はない』とばかり、政治は地元建設業者への優遇を強め、行政は地場の中小企業
育成と地元での雇用確保を大儀名文に、中央の大手舗装業者の閉め出しを強めるば
かりである。
だが、今も昔も、道路舗装の施工を実際に行なうのは大手の道路舗装会社である。」
道路事業予算は98年度時点で15兆150億円
49; 「景気浮揚と雇用拡大の大義名分のもと、予算規模が大きく、早期執行が可能な道路
建設は、“上請け”と相まって地方の中小建設業者にとってもっとも人気の高い公共
事業だといえる。
ただし、それは、技術力と設備を兼ね備えた大手舗装会社の“上請け”があってはじ
めて可能なのである。」
「舗装は薄層舗装や排水性舗装などの技術開発が進み、高度の専門技術と熟練を要する。
また、プラントや舗装用機械の保有など、建設業のなかでは装置産業的色彩も強い。
そうした負担に耐えながら、大手舗装会社は“上請け”に甘んじているわけだ。」
1963年制定の中小企業基本法
1966年制定の「官公需法」(官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律)
「この二法制定で中小企業育成の方針が明確化され、これと前後して、それまで受注
条件とされていたアスファルトなどの生産設備や舗装用機械の保有が緩和されたこと
で、中小の建設会社の舗装工事の受注が可能になった。」
「当時は中小企業育成の名のもとに、行政が舗装の技術も設備も持たない元請け(受注者)
に工事を発注し、それを大手舗装会社に下請けさせ、元請け業者への技術指導を求める
行為が公然と行われていたのである。」
「官公需法制定の66年に479社しかなかった舗装会社は10年後の75年には20倍増の
1万社を超えた。さらには91年に6万社、95年には7万社と驚異的な増え方をした。
66年に1546億円だった舗装市場(着工統計・公共のみ)が95年に1兆1667億円と
7.5倍しか増えていないのに対し、業者数は150倍も増えたのだ。今や、舗装会社は
8万7000社を超えている。」
「官公需法制定時に26%だった発注目標はすでに6割増しの40%を超え、上がる一方だ。
このノルマを果たすため、行政は大手の排除に躍起である。その典型的手法が工事・
建設会社の『ランク分け』と『地域要件』の制定である。」
「ランク分け」:工事を金額でランク付けし、その金額に応じて入札に参加できる企業を制限。
「地域要件」:指名競争入札の指名対象を、発注者である地方自治体の行政区域内に営業所や
本社を置く企業に限定。
50; 「零細舗装業者が増えるのも当然なのである。地場の建設業者にすれば、事業規模や営業地域の
拡大という経営努力を行わず、中小・零細企業にとどまれば、官公需法による受注保証と、
地域要件による他地域業者の排除という“保護・育成”の恩恵にあずかれるのである。談合
に頼って工事受注を待ち、いざ工事が受注できれば、利益を抜いて大手舗装業者に工事を丸
投げすればいいだけだ。まさに、行政が経営努力を行わない不良不適格業者の増殖を後押しし
ているのだ。」
51; 「工事の細分化によるコストアップ、“上請け”による不良不適格業者による搾取という割高な
道路のツケは、最終的に納税者にのしかかることになる。」
* 公共事業に関する情報収集:例えば、「ことといクライアント」を利用
公共事業予算(expenditure for public works)〔財政予算〕
河川、道路、港湾、空港などの公共土木事業や住宅、下水道、公園など国民の生活に直結した施設の整備を行うための事業のうち、国の一般会計予算等がつくものを一般に公共事業という場合が多い。一九九九(平成一一)年度の公共事業関係費については、本格的な高齢化社会の到来を目前に控え、社会資本整備を着実に推進するとの基本的な考え方を踏まえたうえで、当面の景気回復に向け全力を尽くすとの観点に立ち、九九年度の公共事業予算については、いわゆる一五カ月予算の考えの下、九八年度第三次補正後予算と一体的にとらえ、当面の景気回復へ向けての観点より、九兆五二五一億円、前年度比では一般歳出の五・三%増を下回るものの四・九%増を計上した(ちなみに九八年度の対前年比は、一般歳出一・二%減、公共事業予算は七・八%減であった)。また、その配分についても、経済構造改革関連の社会資本について物流の効率化対策に資するものを中心として、優先的、重点的に整備するなど、ある程度のメリハリがつけられた。さらに、長期にわたる事業を対象に再評価を行い、事業の中止も含めた見直しを行う「再評価システム」も導入された。加えて公共事業予備費として五〇〇〇億円が計上され、予見し難い経済情勢の推移に対拠しうる配慮もなされた。
なお国の公共事業関係費は、事業の実施主体との関係で、国が直接実施する事業のための経費(直轄事業費)と、地方団体が実施する事業に補助を与えるための経費(補助事業費)とに分かれている。(現代用語の基礎知識2000年版から)
公共事業複合体〔汚職・経済事件〕
戦後の焦土日本を復興させ、高度経済成長路線に乗せるため、各種インフラ整備の公共事業は必要不可欠であった。反面、その過程で、公共事業御三家といわれる建設、農水、運輸などの開発関連中央官庁から地方自治体にいたるまで、公共事業の計画・実施部門が肥大化し、同時に累年、国家予算の二割以上を占める公共事業予算には大小五〇万社以上もの建設企業が群がり、その予算分配の裏面では、各省の省益と予算分配と引き換えの集票にうごめく族議員(→別項→別項)の跳梁を招いた。こうした土建国家といわれるこの国の公共事業をめぐる政・官・業の癒着システムをいう。一九九三(平成五)−九四年のゼネコン汚職事件は、その暗部を白日のもとにさらした。今日、国家財政の逼迫とともに圧縮された公共事業費に苦しむ建設企業救済と引き換えの集票目当ての徳政令的措置が不要公共事業費水増し政策の形で画策されている。(現代用語の基礎知識2000年版から)
談合〔汚職・経済事件〕
公の競売や入札で、公正な価格を害しまたは不正な利益を得る目的で、事前に話し合う罪で、刑法九六条違反。しかし、戦後日本の公共事業工事の大半を占めた指名競争入札制度では、指名資格のある大手建設が「談合元締め」などの介入で順番に落札、談合に加わった指名業者全員が、事後に適宜利益配分に預かるという談合が半公然と慣習化していた。しかも、巨額な公共事業予算の発注権限を握る政治家や自治体首長らの、落札業者を示唆する「天の声」を期待する土建業者からの、事実上の贈収賄であるウラ政治献金も活発化し、長期保守一党独裁を支える集票資金の源泉ともなっていた。その病根にメスを入れたゼネコン汚職摘発後も、最近の自治体のゴミ焼却炉発注をめぐる公取委の手入れなど、談合疑惑は後を断たない。(現代用語の基礎知識2000年版から)
* また、例えば、下野新聞の記事検索に「公共事業」と入力すると、100件以上の記事が出てくる。
http://dw.diamond.ne.jp/ には週刊ダイヤモンドのホームページがある。