021219jichi 地方自治論 講義メモ 中村祐司作成

 

4 市町村合併をめぐる近年の動き


○「地方交付税 小規模自治体は削減」(朝日新聞2001531日付)

経済財政諮問会議による経済財政運営の基本方針→

 市町村合併を進めるため、小規模自治体に対する地方交付税の割増制度を見直す考え。

 「アメ」的な政策から「ムチ」への転換

 「段階補正の縮小」→「段階補正は、各自治体に配分する地方交付税の金額を決めるため、必要な行政経費を算出する際に小規模な自治体ほど社会福祉費などの経費が割高になることに配慮して設けている。段階補正の縮小は、小規模自治体には交付税の減額につながる。

 「与党3党は現在3224ある市町村を1000することを目標に掲げている。」

 「自治体数は300ぐらい、人口は30万くらいがよい」

 


「人口30万人を標準に 経済財政諮問会議(下野新聞200162日付)

「経済財政諮問会議は1日までに、地方自治体の効率性を高め、行政基盤を強化するため自治体の規模は『人口30万人』を標準とし、権限や責任を拡充する市町村再編策を基本方針に盛り込むことを決めた。

 人口規模が異なる自治体が一律に同様の行政サービスを担うことを見直し、30万人以下の自治体は権限を縮小することも検討。国からの財源を過疎地域などに傾斜配分して『均衡ある発展』を目指したこれまでの施策を転換し、都市中心の行政体制づくりを目指す。

 同会議では約3200ある市町村を『300に集約すべきだ』との意見も出ているが、地方からの反発などに配慮して目標数値は明示しない方向。

 30万人を適正規模とする根拠はあいまいで、自治体によって行政サービスに格差をつけることに批判もあり、最終決着まで曲折も予想される。

 具体的には、現行の「人口30万人以上」を要件とする中核市制度を見直し、政令指定都市並みに道路整備などの権限や財源保障を検討。従来の政令市、人口20万人以上の特例市を含めた都市制度の抜本改革も視野に入れる。30万人規模の自治体を軸にした合併を進めるため、小規模自治体に割り増し配分してきた地方交付税を縮減する方針で、30万人以下の自治体には、公共事業や社会保障などの事務を都道府県が代行することも検討課題とする。

 合併の数値目標は、昨年12月の政府の行政改革大綱で現在の3分の11000とする方針が決まったが、現実的にはその実現も困難視されている。」

 


 

○「地方分権推進委員会最終報告」2001614

「市町村合併の推進についての意見(平成121127日)の措置状況

 委員会の意見では、自主的合併の促進を基本としつつ、合併支援体制の整備、住民発議制度の拡充と住民投票制度の導入、合併推進についての指針への追加、財政上の措置、旧市町村等に関する対策、情報公開を通じた気運の醸成を求めていた。
 これに対する政府の取組みとしては、合併支援体制として、総務大臣を本部長とする市町村合併支援本部を内閣に設置している。
 住民発議制度の拡充と住民投票制度の導入については、改正法案を国会に提出している。
 指針については、新たな指針において、都道府県が全庁的な支援体制を整備し、合併重点支援地域を指定することを要請するとともに、合併協議会設置勧告の基準を明示している。
 財政上の措置としては、合併後の新たなまちづくりや公共料金の格差調整等についての包括的な特別交付税措置、合併移行経費に対する特別交付税措置を創設し、都道府県体制整備費補助金を創設している。さらに、合併後に地方税の不均一課税ができる期間の合併年度及びこれに続く5年度への延長、同期間における課税免除の特例の創設、合併後の事業所税の課税団体の指定の延期(最長5年間)、について改正法案を提出している。
 旧市町村等対策としては、新たな指針において、合併後の支所・出張所、地域審議会及び郵便局の活用、「わがまちづくり支援事業」の活用、合併に伴う市町村議会議員の選挙区の特例規定の活用を明示している。また、「地方公共団体の特定の業務の郵政官署における取扱いに関する法律案」が国会に提出されている。
 気運の醸成については、新たな指針において、合併に関する住民への積極的な情報提供を行うよう明示されている。また、「21世紀の市町村合併を考える国民協議会」が民間主導で設立されている。」

 

「平成17年3月までの時限法である市町村の合併の特例に関する法律(昭和40年法律第6号)に基づいて進められている市町村合併の帰趨を慎重に見極めながら、道州制論、連邦制論、廃県置藩論など、現行の都道府県と市区町村の2層の地方公共団体からなる現行制度を改める観点から各方面においてなされている新たな地方自治制度に関する様々な提言の当否について、改めて検討を深めることである。
 委員会は当初、地方分権推進法の制定以前の段階において隆盛を極めていたいわゆる「受け皿論」をこの際は一時棚上げにし、当面は現行の地方自治制度を前提にして、この体制の下で可能なかぎりの分権を推進することを基本方針としていた。地方分権推進法の制定に至るまでの論議の過程で、その旨の合意が関係者の間に概ね成立していたと理解していたためであった。
 しかしながら、市町村合併については分権改革と同時並行して推進すべしとする声が各方面で高まるばかりであった。そこで委員会としては、第1次勧告を提出した時点、すなわち機関委任事務制度の全面廃止が政府内で合意が得られる見通しが立った時点で、市町村合併問題を地方行政体制の整備及び確立方策の重要な一環として調査審議のそ上に載せることとし、第2次勧告において市町村の自主的な合併の積極的な促進方策を勧告したところである。
 これから平成17年3月までの間に市町村合併がどの程度まで進捗するのかによるが、その帰趨によっては基礎的地方公共団体である市町村のあり方にとどまらず、広域的地方公共団体としての都道府県のあり方の見直しも視野に入れた先に述べたような新たな地方自治制度に関する様々な提言がより現実性を帯びてくる可能性がある。そして、分権改革が次の第2次分権改革から更に第3次分権改革へと発展する段階になれば、地方自治制度の将来像を明確にする必要に迫られるのではないか。」

 


 

「全国で、合併に向けての取り組みが進んでいる市町村の数が最も多いのは広島県で、12日現在、54市町村にのぼります。ついで熊本県の45、佐賀県の34市町村、長崎県の29市町と、西日本が続きます。/これに対して東日本は、動きが鈍く、北海道や福島県、東京都などでは、具体的な動きが見られず、「西高東低」の傾向にあります」(朝日新聞2002430日付)


 

小原隆「市町村合併―放漫財政呼び込む支援策」(朝日新聞2002614日付「私の視点」

 

財務省、経済財政諮問会議「地方交付税を削減するために合併せよ

小原「現在の合併の進め方こそが市町村から自立心・自制心を奪い、モラルハザードを深め、将来の交付税財政にも禍根を残すのではないか」

 

20043月までに合併した場合に限り、小規模町村でも合併後の人口が3万人以上になれば、市に『昇格』できるという特例」

20053月までに合併した場合に限り、その後10年間は合併特例債の起債を認める措置」

 

特例債を充てる事業は、総費用の3分の2が後年の交付税で元利償還される。つまり、3分の1の自己負担さえ覚悟すれば、合併後、新たな事業に邁進できる」「経済同友会の試算によれば、特例債は10年間で最大20兆円にも及ぶという」

「乗り合いバスには乗り遅れたら損をする仕組みに、すでになっている」

「合併を目前に過疎債を増発し、基金を取り崩し、福祉施設や果ては役場新庁舎まで建設する町村が出始めている」


 

○「焦点!動き出した市町村合併―期待・不安・揺れる地方」(朝日新聞2002617日付)

福島県や岩手県は、合併しない市町村にも支援の手を差し伸べる検討を始めた。福島県は5月、若手職員らを中心に研究会を設けた。専門的な技術者や資格者を一定期間派遣したり、市町村道の整備を代行したりすることが考えられるという。岩手県は地形や歴史から市町村は合併を選択しにくいといい、いまのところ合併協議会はない。『支援の仕方によっては市町村の権限を奪いかねない』と、地方分権に逆行しない配慮を考えるつもりだ」

<政令指定都市をめざす各地の動き>(現在の人口と合併後の想定人口-万人)

新潟市(5365)、岐阜市(4080)、金沢市(4650)、堺市(7995)、岡山市(6370)、宇都宮市(4456)、さいたま市(104)、川口(4669)、藤沢市(3797)、

静岡市(4771)、浜松市(5980)、四日市市(3060

「従来の『人口100万人程度の都市』から『70万人でも可』に変更されたが、政府の市町村合併支援プランには『弾力的に検討』などの抽象的規定があるだけなのに、人口要件の緩和だけが独り歩きしているという」

850万人の人口で市町村数が37と全国で最下位に近い神奈川県は『市町村合併が済んだ姿に近い』と見ていた。しかし、『湘南市』で県内の指定市が、横浜、川崎と合わせて三つになると、65%の人口を『手放す』ことに」「岡山県では『中四国州』を想定した研究を進めている」「連携に最も積極的なのは今年度に『北東北広域政策研究会』を設けて議論を進める秋田、青森、岩手の県だ。合同で産業廃棄物税の導入を検討、『今後始まる道州制の議論の前に、実績を積み上げておきたい』と足並みがそろう」


 

下野新聞2002913日付論説「県内の市町村合併 将来のビジョンを明確に」

「県内では現在、二つの法定合併協議会と12の合併研究会が設置されている。これらの構成市町村は40で、全市町村の80%を超える」

「期限を切られた以上『合併は損か得か』の問題。もはや理念としての“まちづくり”を時間をかけて考えていく段階ではない、という意見もある。だが、これは『自治の精神』を放棄することにならないだろうか。」


 

西尾私案の内容(27次地方制度調査会2002111日発表)の内容

(20021116日日本地方自治学会、島田恵司氏発表「市町村再編と自治制度構想」より)

 

2002101日現在:法定・任意協議会設置数2821,203自治体

西尾私案:

@「都道府県に極力依存することのない」基礎的自治体=「市」を提起

A     合併特例法が切れる2005331日以後、新たな合併推進法の制定(解消すべき人口規模(例えば人口○○)を「法律上明示」し、「都道府県や国」が「財政支援策によらず」推進

B     「ア 事務配分移行方式」「イ 内部団体移行方式」の二種類の処理方法(併用も可)を提起→

ア:人口△△未満の自治体は、法令上義務付けられた一部の事務だけを処理し、他は都道府県の事務とする。都道府県は、事務の執行について近隣自治体への委託、広域連合、直轄のいずれかの方法を選択できる。当該自治体の組織などについては、議員を原則無給、助役、収入役、教育委員会などは置かない。

イ:人口××未満の自治体は、他の基礎的自治体へ編入され内部団体となるとする。編入先の選択は、知事が当該の意見を聴いて、都道府県議会の議決を経

て決定。当該内部団体の事務は、法令によらず基礎的自治体の条例による。組織は大幅に簡素化し条例で定める(法人格を有する内部団体が適当ではないか

という意見も付している)。

   

島田「小規模自治体のうち山間部、島嶼部は、これまで合併の対象とはされて来なかった。これら地域を合併の対象とすることが今回の合併の特徴」「都道府

県の終わりの始まり」