021216gensei 現代政治の理論と実際 中村祐司 講義メモ

 

朝日新聞朝刊20021213日付から→

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の外務省スポークスマンが、1212日、「米国が今月から重油の提供を中断したことを非難するとともに、94年の『米朝枠組み合意』以来凍結していた原子力発電所など核施設について「稼働と建設を即時再開する」と表明した」

 

北朝鮮:「(米国による)重油提供は、援助でも、協力でもなく、われわれが原発を凍結するのに伴う電力損失を補償するためにするために米国が負った義務事項である」「我々が核施設を再び凍結する問題は全面的に米国にかかっている」

 

米国が何らかの軟化姿勢を見せれば、核施設を再凍結する含みも残した」

 

「核危機を『演出』して、米朝対話を求めるという『捨て身の作戦』という見方も出来る。だが、米ブッシュ政権が北朝鮮に対する厳格な姿勢を崩す見通しは薄い」

 

米国を対話に引き出すための威嚇

 

「枠組み合意で2基の黒鉛原子炉は建設を中止している。運転を止めている原子炉は5千キロワットの実験用で、稼働させたとしても規模が小さすぎて、不足の電力をまかなえない

「韓国政府内には、北朝鮮に常駐して監視を続けている国際原子力機関(IAEA)職員の追放や保管されている燃料棒を取り出す可能性も排除できない、と憂慮する声もある」

「交渉に応じる気配をまったく見せないブッシュ米政権を何とか振り向かせようと、核凍結解除という残り少ない手持ちの『カード』を切った形だが、同時にそれは見返りの期待できない極めて危険な選択だ」

 

1974

北朝鮮がIAEAに加盟

1985

北朝鮮が核不拡散条約(NPT)に加盟

1991.12

北朝鮮と韓国が朝鮮半島非核化共同宣言に合意

1992. 1

北朝鮮がIAEAの保障措置(核査察)協定に調印。その後、核施設を申告し、査察受け入れ

1993. 2

IAEAが寧辺にある核廃棄物貯蔵施設2カ所への特別査察を要求するが、北朝鮮は拒否

    3

北朝鮮がNPT脱退を宣言

    6

北朝鮮がNPT脱退保留を表明

1994.10

米朝が「枠組み合意文書」に調印。北朝鮮のNPT復帰を確約

1995. 3

KEDO発足

   6

米朝が米国主導による軽水炉事業を確認

1995.12

KEDOと北朝鮮が軽水炉提供協定に調印

1997. 8

琴湖で軽水炉建設に着手

1998.10

米政府と議会が北朝鮮政策見直しで合意。米議会は重油供給費拠出に核疑惑解明などの条件付与

1999. 5

米調査団が金倉里の地下核疑惑施設への立ち入り調査を実施

1999. 9

米朝がミサイル再発射一時停止で合意

2000.10

オルブライト米国務長官(当時)が訪朝

2001. 6

ブッシュ米大統領が米朝枠組み合意の改善などを求める対北朝鮮政策を発表

2002. 8

軽水炉発電施設本体に着工

2002.10

北朝鮮がケリー米国務次官補に核開発計画を認めた、と米政府発表

2002.11

KEDO理事会、対北朝鮮の重油供給について12月からの凍結決定

2002.12

北朝鮮が核施設の稼働・建設再開を表明

 

マンスフィールド太平洋問題研究所のゴードン・フレーク所長

「前政権(*クリントン政権)を脅かして94年の枠組み合意を実現、核開発断念の見返りに軽水炉2基の建設を約束させて北朝鮮は、同じやり方でブッシュ政権からも譲歩を引き出せると考えている可能性が否定できない」

 

朝鮮半島危機では、米軍が寧辺の核施設へのピンポイント攻撃を軸とする先制攻撃プランを本格的に検討し、ゴーサインの一歩手前でカーター元大統領の訪朝が実現、危機が回避されたことを、後にペリー元国防長官が明らかにしている」

 

韓国統一省関係者

「近く『何か』あると思っていたが、まさかこんなメガトン級の反発で応じるとは」

 

核開発疑惑、スカッド・ミサイル輸出に続く北朝鮮の再稼働宣言で、米朝関係の一層の冷え込みが必至な環境」

 

日本の日朝交渉筋

KEDOの枠組みを何とか維持しようと苦労してきた日韓にしてみれば、煮え湯を飲まされる思い

 

「『電力生産に必要な核施設』とは、94年の米朝枠組み合意で凍結された寧辺地区などでの黒鉛減速炉型原子力発電所を指す。同原子炉は、使用済み核燃料の再処理を通じて兵器用プルトニウムをつくり出し、長崎型原爆の製造を可能とする恐れを秘めたものだ。▼北朝鮮は87年に平壌北部の寧辺地区に旧ソ連から輸入した5千キロワットの実験用原子炉を建設・稼働させた。さらに寧辺で5万キロワット、寧辺の北西にある泰川で20万キロワットの大規模な原子炉の建設計画も進めていた」

 

波佐場清(編集委員)

「金正日総書記を中心とした現体制の生き残りへ、同国が意を決して打った『最後の賭け』

イエメン沖で起きた北朝鮮のミサイル輸出船に対する米軍とスペイン軍による臨検が直接の引き金になった。北朝鮮にとって、国際法にもよらないこの強硬手段は、侮辱であるばかりでなく、ブッシュ米政権の核・ミサイル問題についての決意が言葉だけのものでないことを実感させたはずだ」

「食糧不足とエネルギー不足が極まるなか、北朝鮮は自らの体制維持に危機意識をつのらせてきた。新たに表面化した濃縮ウランによる核開発疑惑に関しても、これを否定する一方で、米国に対し不可侵条約の締結を要求////『体制維持の保証』を「核放棄」の交換条件とする、と読み替えることのできる主張を展開」「////北朝鮮にとっては、北朝鮮の『体制抹殺』へ『日米共助』ができているというふうに見えているかもしれない」

 

小此木政夫氏(慶応大学教授)

「米国はイラクと北朝鮮の2方面へ同時に対峙はできないと読んだ上での、得意の瀬戸際外交

 

伊豆見元氏(静岡県立大学教授)

北朝鮮は3段階のカードを持っている。今回切ったカードは一番弱いもので////。第1カードの中身は、寧辺(ヨンピョン)にある5メガワット級の実験用原子炉の再稼働と、50メガワット級と200メガワット級の大型原子炉の建設再開だ。『即時』といっても核兵器になるまでには1年くらいはかかるとみられ、米国に与える刺激は少ない。▼///ブッシュ政権は昨年から第1カードを予想している。この段階ではまったく動じないだろう。///▼米国が動くとすれば、第2、第3のカードが切られたときだ。2段階のカードは、使用済み核燃料再処理施設の再稼働。3段階は、プルトニウムを抽出できる使用済み燃料棒の凍結解除だ。第2段階へ動くのは、イラク攻撃が終わったあとの来年春ごろになるのではないか」

 

「北朝鮮が米朝枠組み合意に基づいて凍結していた核開発は、平壌の北約100キロの寧辺で進めていたロシア型の黒鉛減速型原子力発電所の建設。そこでウラン燃料を燃やせば、原爆の材料になるプロトニウムを容易に入手できる。▼プルトニウムは、停止中の別の実験用原子炉でもできる。しかも、米国によると、北朝鮮はすでに原爆1,2個分のプルトニウムを保有しているという。▼だが、プルトニウム型(長崎型)原爆は構造が比較的複雑で開発に時間がかかるうえ、核実験なしでは本当に爆発するかどうか確信が持てないはずと、専門家はみる。▼高濃縮ウランを使うウラン型(広島型)原爆は、大量の高濃縮ウランさえあれば、製造は短時日で可能とされる。北朝鮮は、ウラン型原爆をめざしてパキスタンからウラン濃縮用遠心分離装置を買い入れたとされるが、濃縮工場は未着工らしい。高濃縮ウランそのものを外国から大量に入手していなければ、ウラン型原爆の保有までには5年程度かかるとみられている」

 

 

―北朝鮮の核施設稼動再会に関する談話(朝鮮通信による、国営朝鮮中央通信が伝えた北朝鮮外務省スポークスマンの談話)―

「つくられた状況に対処して朝鮮民主主義人民共和国政府はやむなく朝米基本合意文(朝米枠組み合意)に基づき年間50万トンの重油提供を前提にして講じた核凍結を解除し、電力生産に必要な核施設の稼働と建設を即時再開することにした。▼米国は去る1114日、朝米基本合意文に基づき、わが国に行ってきた重油提供を中断する決定を発表したのに続き、12月からは実際に重油納入を中断した。▼これで基本合意文に基づく米国の重油提供義務は言葉だけではなく、行動で完全に放棄された。▼米国は、重油提供義務の放棄が、いかにもわれわれが「核開発計画を自認」したことで、先に合意文に違反したと世論を誤導しているが、それは無駄な試みである。▽米国は、われわれを「悪の枢軸」、核先制攻撃対象に指定することにより、基本合意文の精神と条項を共に徹底的に踏みにじった責任から絶対に逃れることができない。▼米国が唯一、持ち出しているわれわれの「核開発計画自認」とは、去る10月初め、米国大統領特使が我が国を訪問して帰った後、恣意的に用いた表現であって、われわれはあえてそれについて論評する必要を感じない。▼朝鮮半島での核問題を平和的に解決しようとうとするのは、わが共和国政府の一貫した立場である。▼こうしたことから、われわれは米国によって朝米基本合意文が事実上、破棄状態に至り、われわれに対する核の脅威が現実化している現在のような最悪の状況のもとでも、高度の自制と忍耐力を発揮してきた。▼にもかかわらず、逆に自分の方で先に重油提供中断措置を強行しておきながら、われわれに対して検証可能の方法で核開発計画を放棄せよと圧力攻勢を強化しているのは、米国が力でわれわれを武装解除させ、われわれの体制を抹殺しようとする企図をより明白にさらけ出したものとなる。▼われわれに対する重油提供は、援助でも、協力でもなく、われわれが稼動・建設中にあった原子力発電所を凍結するのに伴う電力損失を補償するために米国が負った義務事項である。▼米国がこうした義務を実質的に破棄することにより、わが国の電力生産では直ちに空白が生じるようになった。▼われわれが核施設を再び凍結する問題は、すべて米国にかかっている

 

     以下の3つの図はいずれも朝日新聞朝刊20021213日付から