021111jichi 地方自治論 中村祐司作成メモ

 

○「地方分権推進委員会最終報告」2001614日)からの抜粋

 

「団体自治の拡充方策には、事務事業の移譲方策広い意味での関与の縮小廃止方策とがある。 ここでいう事務事業の移譲方策とは、国の事務事業の一部の地方公共団体への移譲、または都道府県の事務事業の一部の市区町村への移譲を進めることによって、地方公共団体が所管する事務事業の範囲を拡充する方策であり、広い意味での関与の縮小廃止方策とは、地方公共団体が所管している事務事業の執行方法や執行体制に対する国による義務付け、枠付け、種々の関与などを、または市区町村が所管している事務事業の執行方法や執行体制に対する都道府県による枠付け、種々の関与などを縮小廃止することによって事務事業の執行方法や執行体制を地方公共団体の判断と責任において自由に取捨選択することのできる裁量領域を拡充する方策である。」

 

「今回は国庫補助負担金の廃止・削減という切り口からではなく、国と地方の税源配分のあり方の改革とこれに伴う国庫補助負担金・地方交付税のあり方の改革という切り口から地方税財源の充実確保方策について再検討してみることにした。」

 

「地方歳入中に占める一般財源、特に地方税収入の割合を高めることで受益と負担の関係を強化することができる。地方公共団体の施策の実施に必要な財源の相当部分は当該地域からの税収で賄い、財政力の弱い地域には一般的な財政調整制度で対応し、個別事業に係る国庫補助負担金は真に必要なものに限るという方向が、望ましい方向である。」

「その際には、税源移譲額に相当する国庫補助負担金や地方交付税の額を減額するなどにより、歳入中立を原則とすべきであると考える。」

 

 

個人住民税

 個人住民税については、都道府県、市町村にとっての基幹税目として更なる充実を図るべきである。国・地方の個人所得課税のあり方については、国の所得税が所得再配分機能などを担う基幹税であることに留意しつつ、全体としての個人所得課税の税負担に変更を加えないとの前提の下で、税源移譲により、個人住民税の最低税率を引き上げることにより、個人所得課税に占める個人住民税の割合を相当程度高めていくことが望ましい。その際には個人住民税のより比例的な税率構造の構築と課税ベースの拡大により、広く住民が地域社会のコストを負担する仕組みとすべきである。また、均等割の水準についても、過大な負担とならないよう配慮しつつ、見直しを図る必要がある。

 

地方消費税

 地方消費税については、今後の消費税のあり方の議論の中で、福祉をはじめとする幅広い財政需要を賄う税として、その位置付けを高め、その充実を基本に検討することが適当である。この場合、地方交付税原資として組み入れられている消費税の一定部分を地方消費税に組み替えることも検討すべきである。

 

固定資産税

 固定資産税については、資産の保有と市町村の行政サービスとの間に存在する一般的な受益関係に着目して課税されるものであり、応益性という地方税の基本的性格を具現したものであるとともに、市町村財政を支える基幹税目であり、引き続きその安定的確保に努めていくべきである。

 

法人事業税

 法人事業税については、税負担の公平性、税の性格の明確化、基幹税の安定化、経済の活性化等の観点から、外形標準課税の導入が必要であり、昨年11月自治省から提示された具体案は、課税標準として法人の生み出す付加価値を的確に捉え、現在の所得課税に比べ、薄く、広く、公平な課税を図ろうとするものであって、現行の所得課税よりも優れている。今後、これまでの議論を参考にしつつ、外形標準課税の早期導入を図るべきである。

*外形標準課税→「資本金や給与の支払い総額、売上高など、数字で測れる企業の規模を基準に税金の額を決める方式。地方自治体が徴収する地方税の法人事業税は「企業のもうけ」を基準に計算している。だから、不景気で企業の利益が減ると税収が減る。このため景気の影響を受けない安定した財源として自治体や自治省が導入を求めてきた。ゴミ処理や道路整備などの恩恵は赤字の企業も受けているという考えに基づく。不景気で大都市圏での法人事業税の落ち込みが激しく、このほど東京都は、大手銀行だけを対象に5年間課税する方針を示した。」(Mainichi INTERACTIVE まいにちKids.2000/2/10

 

個別間接税

 たばこ税などの個別間接税については、偏在が少なく地方税になじむ税源であり、国税からの税源移譲を含め、その充実を図るべきである。

 

環境関連税制

 国・地方を通じた環境関連税制の検討に当たっては、地方公共団体が環境対策面において果たしている役割を踏まえた対応が必要であり、地域的環境問題はもとより、地球環境問題についても、地方公共団体が地球温暖化対策の面でも相当な役割を担っていること、流通・消費段階で課税される場合に、用途に応じた課税措置が可能となること、さらに消費者へのインセンティブ効果が期待されること等の観点から、地方税での対応も考えていくべきである。また、課税自主権の活用により、有効に対応できる分野もあると考えられる。

 

「現行の国税と地方税の税源配分を改め、地方公共団体の自主財源である地方税収入を充実し、その反面で国からの財政移転に依存した依存財源の規模をできるだけ縮減していかなければならない。その際、依存財源のなかでも、使途の特定された財源であるところの国庫補助負担金の縮減を優先し、ついで使途の特定されていない一般財源であるところの地方交付税の縮減を図る方途を探っていく必要がある。
 地方公共団体は、自主財源である地方税収入についてその税率設定権を含む課税自主権を積極的に行使し、行政サービス水準と地域住民の地方税負担のバランスの当否を地域住民に問いかけていくべきである。わが国のこれまでの地方自治は、国の地方税法に定められた法定税をその標準税率で課税して得た地方税収入に、国から配分される地方交付税収入や国庫負担金収入、国に申請し交付を受けた国庫補助金収入などを追加した歳入の総額を、いかなる行政サービスに配分するかという「歳出の自治」にのみ専念してきた観があるが、これからの分権型社会の地方自治は、地域住民にどれだけの地方税負担を求めるのかという「歳入の自治」まで含むものでなければならない

 

「ヨーロッパ先進諸国に普及しつつある「補完性(subsidiarity)の原理」を参考にしながら、市区町村、都道府県、国の相互間の事務事業の分担関係を見直し、事務事業の移譲を更に推進することである。
 すでに第1章で述べたように、第1次分権改革では事務事業の移譲方策の側面ではあまり大きな成果を上げられなかった。しかしながら、ヨーロッパ評議会が制定したヨーロッパ地方自治憲章や国際自治体連合(IULA)がその世界大会で決議した世界地方自治宣言では、事務事業を政府間で分担するに際しては、まず基礎自治体を最優先し、ついで広域自治体を優先し、国は広域自治体でも担うにふさわしくない事務事業のみを担うものとするという「補完性の原理」の考え方が謳われている。
 わが国の事務事業の分担関係をこの「補完性の原理」に照らして再点検してみれば、国から都道府県へ、都道府県から市区町村へ移譲した方がふさわしい事務事業がまだまだ少なからず存在している一方、これまではともかく今後は、市区町村から都道府県へ、都道府県から国へ移譲した方が状況変化に適合している事務事業も存在しているのではないかと思われる。分権改革というと、事務事業の地域住民に身近なレベルへの移譲にのみ目を向けがちであるが、分権改革の真の目的は事務事業の分担関係を適正化することにあるのである。」

 


 

○ 地方分権改革推進会議の中間報告(2002618日)

 

「社会保障」、「教育・文化」、「公共事業」、「産業振興」、「治安その他」の主要5分野別

 

「公共事業を効率化するため、原則として国の補助事業を廃止し、国の直轄事業と地方単独事業だけとするほか、小中学校教職員の給与の半額を国が補助する義務教育費国庫負担制度について、最終的に一般財源化し、自治体の裁量を大幅に拡大することなどを提言している。」

「文部科学、厚生労働の両省が別々に保管しているため、必要な設備など設置基準が異なり、非効率となっている幼稚園と保育所の将来的な一元化を目指し、幼稚園教諭と保育士の資格を統合することを提言。」

保健所長に医師資格を求めている制度の撤廃」(読売新聞2002618日付)

 

 

以下、上記中間報告から抜粋→

 

「関係者からのヒアリングを通じて判明したことは、従来の国と地方の役割分担に基づく中央集権型システムが、未だ各行政分野の根幹として残されているということ」

 

「国の通達による統制は廃止されたものの、事務そのものの義務付け・枠付け、補助要綱による規制や、組織・職員に関する必置規制はまだ多数存在している。」

 

「現在は、国の地方に対する関与・規制が、それを維持するための巨大で非効率な行政機構を作り上げている

 

地方公共団体の自己決定は、単に国の法令によって義務付けられた事務の実施方法に関するものだけではなく、事務そのものの採択に関する決定であるべき

 

省庁の側の、企画立案を行うのは国であり、地方公共団体はそれを執行する機関に過ぎないという意識や、地方公共団体に対する不信感

 

「事務事業に関する制度について、組織・担当職員・手続き等に関して微細にわたって規制する事前規制、いわば『入り口及びプロセスの規制』から、遵守事項・達成すべき目標等を示し、適正な監視や評価によってその達成を誘導する事後統制、いわば『出口規制』への転換を図るべき」

 

保健所、福祉事務所、児童相談所、身体障害者更生相談所等の設置に関しては、各都道府県の判断で自由に統合して設置することができることの周知、徹底に国は努めるべき」

 

「法の目的、制度の趣旨の貫徹を目指す余り、国が地方における執行体制、即ち組織立てや職員の資格・配置に到るまで、法令によってきめ細かく義務付け、地方公共団体の独自性の発揮や創意工夫の余地を大きく制限している事例」

 

「国の規制では保育所には必ず調理施設を置かなければならないとされている。児童に家庭の雰囲気を味わわせるため、あるいは離乳食等の保存の問題から、保育所には調理施設が必須とのことであるが、昨今の社会情勢や食品保存・流通技術の向上を踏まえれば、その関与の必要性が必ずしもあるとは思われない。」

 

初等中等教育行政(幼稚園〜高等学校)は地方の自治事務であり、これに対し、国は学習指導要領や義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)等の体系の下で、教育内容、学級編制の在り方等について関与を行っている。」

 

学級編制において40 人を最低基準とせざるを得ないのは、義務教育に対する現在の国と地方の経費負担制度による面も大きいと考えられる。即ち、公立小中学校教職員は原則市町村職員であるが、給与等は県の負担とし、その給与等の2分の1を国が負担するという現行の経費負担制度の下では、国が2分の1負担すべき教職員数が、地域ごとの不公平の無い形で確定していなければならない。」

 

「現在の教育職地方公務員給与は、国立学校教育職俸給表に準拠して定められているところであるが、国立の小中学校は全て大学の附属校であり、今次の大学改革で国立大学が法人化されるに伴い、準拠すべき国立学校教育職俸給表が無くなる」

 

「農林水産業振興施策、農村、山村、漁村振興施策を通じて、まず、農業者の自主性に委ねるべき分野、地方が責任をもち国が関与しない分野、国が関与し責任をもつ分野の棲み分けを、可能な限り予見可能な形で明確にしていく努力が必要」

 

農業改良普及員という公務員による行政の仕組みとして、1万人近い規模で維持されていることの是非が、検討されなくてはならない」

 


 

     地方分権改革推進会議の最終報告(20021030日)について

 

「地方分権改革推進会議(議長・西室泰三東芝会長)は、今月末にまとめる最終報告の中に、『国から地方への税源移譲』については言及しない方針を固めた。////この方向で決着すると、補助金廃止、税源移譲、地方交付税改革の『三位一体』を軸とした小泉地方改革は着手前から崩壊することになる。////税源移譲など財源確保の見通しをつけずに補助金廃止を打ち出すと、地方負担の増加につながりかねず、『分権改革』に逆行する結果になりそうだ」(朝日新聞朝刊20021026日付)

 

「焦点だった補助金の廃止・縮減は、義務教育の教員退職金など限定的なものにとどまり、国から地方への税源移譲など代替財源への言及も避けた////最大の焦点は、教員給与の半額補助である義務教育費国庫負担金だった。金額も大きい。////▼結局、義務教育への負担金は3兆円のうち、教員退職金、年金にあたる共済費長期給付(5千億円)を先行して廃止・縮減することで決着。残りの25千億円は06年度を最終目標に、使途を教育目的に限定した交付金にしていく方向で直ちに検討に入る。▼同負担金の改革は、教員数の弾力化につながり、自治体裁量で少人数学級教育が可能になるとの期待があった。それがごく一部にとどまり、先行実施の対象となった教員退職金、年金は16年後に3倍の15千億円に膨らむとの試算もあり、地方の反発は強まりそうだ。///▼今後は経済財政諮問会議に舞台を移し、各省が最終報告を基に具体策をまとめるほか、総務省が来年6月末までに『地方改革』の工程表を作る」(朝日新聞朝刊20021031日付)

 

「これでは改革どころか、改革の骨抜きというべきだ」「その象徴が、公立小中学校の教員給与を政府が半額負担している義務教育費国庫負担金(約3兆円)の見直し問題だ。▼負担金は『40人学級』を基準に全国一律に支給される。そのため、地域の特性に応じた学級編成や教員人事を結果的に阻害する原因ともなってきた」「文教予算の半分近くを占める制度の廃止に文部科学省が難色を示し、負担金に代わる財源に不安をもつ自治体側からも抵抗があったためだ」「税源移譲には、財務省が強く抵抗した」「報告は自治体が自由に使える余地がある地方交付税で削減分を補うという方向性を示した。だがこれでは、交付税そのもののスリム化という地方財政改革の流れに逆行する」「代替財源の手当てがされないまま地方にしわ寄せがいくといった事態も起こりかねない」(朝日新聞朝刊2002111日付社説)

 

「全国知事会など地方6団体も『義務教育費の見直しは、税源移譲の財源措置も明確でなく、到底受け入れることはできない』との談話を出した」「最終報告には11人中5人の委員が反対の姿勢だったが、修正されなかった。委員間の溝は深まり、会議の運営も行き詰まった」(朝日新聞朝刊2002111日付)

 

「そもそも、退職手当のような固定的経費を地方に移しても、地方が創意工夫を発揮できる余地はほとんどない」「政界には、地方分権を『永遠の課題』と揶揄(やゆ)する声もある。歴代政権が取り組みながら、なかなか進まないからだ」「報告は、社会保障など五分野、百三十五項目について改革の方向を期限付きで明示している。▼首相は、自治体の自主性を高める方向で、早急に報告を具体化するよう、全閣僚に指示する必要がある。来年度予算編成が当面の試金石だ」(読売新聞社のホームページ、Yomiuri On-Line/2002111付社説)

 

「補助金負担金を削減した分を地方に税源移譲し、自治体間の格差拡大は新しい制度で調整する。改革の大まかな筋書きだ」「具体的なのは義務教育費負担金のうち教職員の退職手当などの約5000億円だけだ」「国の歳出削減だけで、税源移譲抜きなら、地方は負担が増すだけで、自主性が増すことにはならない。それは国の財政再建策であって、分権改革ではない」「補助金負担金の削減には事業官庁、税源移譲には財務省、地方交付税改革には総務省がそれぞれ抵抗している」「最終報告の100%実施では不足だ。各省に報告以上の実施を迫るという荒業が必要だ」(日本経済新聞社のホームページ、NIKEI NET: 社説・春秋20021031日付)