011015jichi 地方自治論講義メモ(中村祐司作成)

 

―地方分権推進委員会の中間報告― http://www8.cao.go.jp/council/bunken/middle/ からそのまま引用(下線・赤字は中村)。

*前回からの続き(第1章総論)

 

目指すべき分権型社会の姿 ― 地方分権推進の目的・理念と改革の方向

 地方分権の推進が求められるに至った上記の背景・理由から明らかなように、地方分権推進の目的・理念を簡潔に要約して言えば、「国と地方」、「国民と住民」、「全国と地域」、「全と個」の間の不均衡を是正し、地方・住民・地域・個の側の復権を図ることを目的に、全国画一の統一性と公平性を過度に重視してきた旧来の「中央省庁主導の縦割りの画一行政システム」を、地域社会の多様な個性を尊重する「住民主導の個性的で総合的な行政システム」に変革することである。これを分解してもう少し詳しく説明すれば、以下のとおりである。

 

 

自己決定権の拡充 ― 規制緩和と地方分権

 それは、究極のところ、身のまわりの課題に関する地域住民の自己決定権の拡充、すなわち性別・年齢・職業の違いを越えた、あらゆる階層の住民の共同参画による民主主義の実現を意味する。この地方自治レベルにおける住民主導と男女協働の民主主義を基礎にして初めて、国政レベルにおける議会政治もまた一層健全なる発達を遂げることになるものと考える。

 これを裏返していえば、地方分権の推進は、「国から地方へ」の権限委譲であり関与の縮小である。その限りにおいてそれは、「官から民へ」の関与の縮小を求め「官主導から民自律へ」の転換を追求している規制緩和の推進と、軸を一にしている。規制緩和と地方分権は、中央集権型行政システムの変革を推進する車の両輪なのであって、この双方が並行して徹底して推進されたときに初めて、「第三の改革」が成就するのである。

 

 

新たな地方分権型行政システムの骨格

 では、地域住民の自己決定権を拡充するためには、どのような点を改めるべきなのか。新たな地方分権型行政システムの骨格とは何か。

 まず第一に、国と地方公共団体の関係を現行の上下・主従の関係から新しい対等・協力の関係へと改めなければならない。それには、国と地方公共団体を法制面で上下・主従の関係に立たせてきた機関委任事務制度を、この際廃止に向けて抜本的に改革する必要がある。

 第二には、この新しい対等・協力の関係を実のあるものにするために、これまで国の各省庁が包括的な指揮監督権を背景にして地方公共団体に対し行使してきた関与、なかでも事前の権力的な関与を必要最小限度に縮小し、国と地方公共団体の間の調整ルールと手続きを公正・透明なものに改める必要がある。なお、この新しい調整ルールと手続きを構築するにあたっては、官と民の関係を公正・透明なものにすることを目的にして制定された行政手続法の考え方を参考にすべきである。

 第三に、このことは、法令に明文の根拠をもたない通達による不透明な関与を排除し、「法律による行政」の原理を徹底することを意味する。国による地方公共団体の統制は、国会による事前の立法統制と裁判所による事後の司法統制を中心にするものとし、各省庁による細部にわたる行政統制を可能な限り縮小することである。

 

 

地方公共団体の自治責任

 この地方分権型行政システムは、国・都道府県・市町村の各々が担うべき役割と責任の範囲をできるだけ明確に区分けしようとするものである。したがって、中央集権型行政システムから地方分権型行政システムに移行したときには、地方公共団体の「自ら治める」責任の範囲は飛躍的に拡大することになる。条例制定権の範囲が拡大し、自主課税権を行使する余地が広がることに伴い、地域住民の代表機関として地方公共団体の最終意思の決定に与かる地位にある地方議会と首長の責任は現在に比べ格段に重くなる。そしてまた地方公共団体の職員も、その日々の事務の管理執行において国の各省庁による指示を口実にして主体的な判断を回避することも、困難な事態に直面して安易に国の各省庁の指示を仰ぐことも、もはや許されない。

 地方公共団体はこれまで以上に、その政策形成過程への地域住民の広範な参画を要請し、行政と住民・関連企業との連携・協力による地域づくりとくらしづくりに努め、地域住民の期待と批判に鋭敏かつ誠実に応答する責任を負うことになる。

 

 

地方分権型行政システムに期待される効果 ― 分権型社会の姿

 では、国・都道府県・市町村の関係が上下・主従の関係から対等・協力の関係に変わり、「中央省庁主導の縦割りの画一行政システム」から「住民主導の個性的で総合的な行政システム」に転換したならば、その帰結としてどのような効果を期待できるのか。

 第一に、知事・市町村長が、「国の機関」たる立場から解放され、「地域住民の代表」であり「自治体の首長」であるという本来の立場に徹しきることができるようになるので、知事・市町村長はこれまで以上に地域住民の意向に鋭敏に応答するようになる。地方議会にとっても、その権能が強化され、知事・市町村長に対する監視・牽制・批判機能の重要性が増す。そしてこのことは、地域住民による各種の新しい運動の展開を促し、自治への住民参画を促すことになるはずである。すなわち、民主主義の徹底である。

 第二に、それぞれの地方公共団体による行政サービスが、地域住民の多様なニーズに即応する迅速かつ総合的なものになるとともに、地域住民の自主的な選択に基づいた個性的なものになる。このことは、他面では地方公共団体が相互にその意欲と知恵と能力を競い合う状態を創り出すことになり、そのことがまた地方公共団体の自己改善を促す効果をもつはずである。それぞれの地方公共団体が優先して推進する政策にはこれまで以上に大きな差異が生じることとなり得るが、それは究極においては地域住民自らによる選択の帰結なのであって、これを不満とする地域住民は批判の矛先を自らが選出した地方議会と首長に向けなければならない。すなわち、地方自治の本旨の実現である。

 第三に、これまで国・都道府県・市町村の間で行われていた報告・協議・申請・許認可・承認等の事務が大幅に簡素化され、この種の「官官折衝」のために浪費されてきた多大の時間・人手・コストを節約し、これを行政サービスの質・量の改善に充てることができる。すなわち、公金の有効活用の促進であり、国・地方を通ずる行政改革の推進と国民負担増の抑制である。

 要するに、地方分権型行政システムに移行した暁には、まず国・地方を通じて〔行政のスタイル〕が変わり、〔国・都道府県・市町村の関係〕が変わる。これによって〔地方公共団体の姿勢〕も変わり、究極において〔地方公共団体による地域づくりとくらしづくりの方策〕が変わるのである。

 

 

生活者・納税者の視点に立った地方分権の推進 ― 調査審議の進め方

 最後に、調査審議の進め方に関する委員会の方針について説明し、この中間報告の構成のもつ意味を明らかにしておきたい。

 地方分権推進法は、その第2章冒頭の第4条で国と地方公共団体の役割分担のあり方について規定した上で、これに即して地方分権を推進するために国の側において講ずべき措置として、地方分権の推進に関する国の施策(第5条)、地方税財源の充実(第6条)、並びに地方公共団体の行政体制の整備及び確立に資するために必要な地方公共団体に対する国の支援措置(第7条2項)の3項目を挙げている。そして、このうちの第5条の地方分権の推進に関する国の施策の項目については、これをさらに以下の諸事項に分解して列挙している。すなわち、権限の委譲の推進、国の関与・必置規制・機関委任事務・負担金補助金等の支出金の整理及び合理化その他所要の措置である。

 したがって、委員会が調査審議の対象とすべき項目及び事項の範囲は自ずから明らかであるといえるが、これらの項目及び事項を調査審議する手順と方法については委員会の裁量に委ねられている。そこで委員会は、調査審議の進捗状況に応じて適宜に微調整を加えながらも、概ね以下の方針にしたがって調査審議を進めてきたところである。

 

 

委員会審議の情報公開

 地方分権推進の眼目は、先に述べたように、国と地方公共団体の役割分担のあり方に即して国と地方公共団体の間の権限及び税財源の配分関係を変革することにある。それだけにそれは、一般の人々の目から見れば、中央と地方の役所間の権限・税財源争い、役人の世界の内輪の争いであるかのように受け取られ、「われわれの関知するところにあらず」ということになりかねない。それでは、この世紀転換期の大事業に対して広く一般の人々の関心を喚起し、世論の理解と賛同を得ることなど、とてもおぼつかない。

 そこで委員会は、発足当初より、地方分権の推進が広く一般の人々の日常生活に直接に影響する主題であることを周知徹底する必要を痛感してきた。それには、委員会での論議を広く世間に伝達し、これが国民的論議の波紋を広げ、この国民的論議の波紋が委員会に還流してくるように仕掛けなければならない。そこで委員会は、委員会及び部会の会合のたびごとに記者会見を行い当日の審議の概要を説明することに加え、委員会議事録の詳細版を作成しこれを公表することにした。また、広島及び群馬の両県で一日地方分権委員会を開催したのも、事務局が「分権委ニュース」を発行しているのも、同じ理由に基づくものである。

 

 

制度的課題と行政分野別課題の並行審議

 地方分権の推進方策を調査審議するにあたっては、二つの方法がある。一つは、地方分権推進法第5条乃至第7条の諸項目及び諸事項のように、各省庁所管の各種行政分野に共通し、これらを横断している制度的課題ごとにその改革方策を横割りに検討していく方法である。そしてもう一つは、各省庁所管の個々の行政分野別課題ごとにその改革方策を縦割りに包括的に検討していく方法である。

 前者の方法は、すべての行政分野にわたって公平・平等に取り上げ、これについて概括的な改革指針を提示するのに適している。しかしながら、権限委譲の推進については、個々の行政分野の政策体系に深く立ち入ってその当否を検討せざるを得ない。そこで、権限委譲の推進まで含めて包括的な改革方策を提示しようとすれば、検討対象とする行政分野別課題を選別し、これについて個別に専門的に検討する必要があり、後者の方法によらざるを得ない。そしてまた、一般の人々の関心を喚起するには、人々の日常生活に密着した個々の行政分野別課題について具体的な改革指針を提示し、地方分権の推進が人々の日常生活にもつ意味を明らかにすることが望ましく、この点でも後者の方法の方がふさわしい。

 そこで委員会は、制度的課題の審議と行政分野別課題の審議を並行して進めることを決め、前者は委員会自身で、後者は専門委員を主体に設置した二つの部会(地域づくり部会・くらしづくり部会)で担当することにした。それ故に、両部会は、委員会が示した制度的課題についての留意事項ないしは検討試案を受けて、これを個々の行政分野に具体的に適用してみるとともに、合わせて権限委譲の推進についても検討するという作業を行ったことになる。ただし、制度的課題のうちの一つである必置規制については、これが主として厚生・文部両省所管の行政分野に集中している事実に鑑み、その問題点の整理と改革の方向に関する原案の作成はくらしづくり部会に委託した。

 したがって、以下の各章では、まず委員会が担当した制度的課題の審議状況から順次に報告し、その後に両部会が担当した行政分野別課題の審議状況について報告している。

 

 

制度的課題についての調査審議の手順

 委員会は、地方分権推進法第4条の国と地方公共団体の役割分担のあり方、及び同法第5条に列挙されている制度的課題、すなわち機関委任事務制度及び国の関与、必置規制、並びに国庫補助負担金の諸事項こそ地方分権推進方策の要と考え、これらを優先して取り上げ調査審議することとした。そこで、同法第6条の地方税財源の充実及び同法第7条2項の地方行政体制の整備及び確立に必要な国の支援措置の両項目についての本格的な調査審議は今後に残されている。

 

 

生活者の視点に立った地方分権の推進

 二つの部会を設置し、ここで行政分野別課題について審議する方法を採った理由の一つは、先に述べたように、地方分権推進の論議を生活者の視点に立って進めるためであった。

 そこで、地域づくり部会では、数多くの検討課題のなかから、当面は、地域住民のくらしや民間企業の経済活動にとって共通の基盤であるところの土地又は地域空間に係る行政を優先して取り上げ、調査審議してきた。たとえば、都市計画における線引きと開発許可、農用地区域内の開発許可と農地の転用許可、臨港地区の都市計画、地域地区制と景観・建築、バス・離島航路等の地域交通などである。

 また、くらしづくり部会の報告では、対人サービスの現場を担っている人々の意欲と能力、公私協働と地域住民の支え合い、きめ細かな配慮と対応などの大切さが強調され、生活保護の決定・実施、福祉施設の基準、廃棄物の処理、幼稚園・保育所、学校教育など、地域住民のくらしに直接に影響する行政を優先して取り上げ、これらの行政が地方分権の推進によってどのように変化し得るのかを検討している。

 

 

納税者の視点に立った地方分権の推進

 ところで、いわゆるバブル経済の崩壊以来、国と地方を通じてその財政状態は極度に悪化してきている。このような財政状況の下で地方分権を推進しようとするとき、地方分権推進の故に公務員の定員増が必要になり、増税が必要になったりするようでは、納税者の理解と賛同は到底得られないであろう。

 そこで委員会は、地方分権を推進するにあたっても、国・地方を通じ行政の簡素効率化には十分配慮し、これによって公務員の人数が全体として増えることのないようにすることを基本方針としている。確かに、地方分権によって増員を要する行政部門も生じ得るが、他方には地方分権の推進に伴う事務の簡素合理化によって減員が確実に可能になる行政部門が生じるので、双方の帳尻は十分に合うものと確信しているところである。

 しかしながら、国と地方を通ずる昨今の厳しい財政事情に対処するためには、国と地方の双方において勇断をもって行政改革を推進し、歳出の削減に努めなければならない。そしてまた、特に地方公共団体においては、いまから分権型社会の到来に備え、自治責任の重さを再認識し、地方分権型行政システムを担い得る人材の確保と養成に努めるとともに、納税者から徴収した公金を最大限に有効に活用し、行政サービスの質・量の改善として納税者に還元することに努めてほしい。

 

 

地方分権は国から都道府県・市町村へ、そして都道府県から市町村へ

 今回の地方分権推進の論議では、これまでの種々の経緯もあって、国から都道府県・市町村への分権を実現することが最重点課題になっている。これはこれで正しい。

 しかしながら、地方自治制度にとっては基礎的地方公共団体である市町村こそが最も重要な存在であることについては大方の意見が一致しているところであって、都道府県と市町村の関係のあり方もまたきわめて重要な検討課題である。そして、機関委任事務制度が全面的に廃止されれば、当然のことながら都道府県と市町村の関係もまた、現行の上下・主従の関係から新たな対等・協力の関係へと転換されるべきものとなる。

 そこで、この中間報告では、この関連の問題について第3章「地方公共団体の行政体制等の整備及び確立」に独立の節を設け、委員会の現時点での見解を付言しておくこととした次第である。

 

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