比較政策論

                             2006124

国際社会研究専攻 和気和子

 

少子高齢・人口減社会の活性化に向けて

―大量退職する団塊世代の動向と変革―

 

はじめに

 2005年の国勢調査で、日本の総人口が1年前の推計人口に比べて、約20,000人減り、ついに人口減少社会に突入した。人口減が進行すれば、消費力が減り、企業を圧迫、税収は上がらず財政危機を深める。少子化と高齢化の同時進行で、生産を担う働き手も、需要を生み出す消費者も、地域を支える担い手も減少していく。所得格差や地域格差がひろがり、社会保障をめぐる世代間の不公平も強まる。少子・高齢化に伴う人口減社会の変化に遅れないよう、行政、自治体、1人ひとりの意識の構造改革が必要不可欠となる。

さらに、2007年には、約700万人といわれる団塊世代が60歳に到達し定年退職を迎える。団塊世代が退職後どのようなライフスタイルするかによって、企業や地域、社会保障などに及ぼす影響や日本の社会のあり方が変わってくる。日本社会に大きな影響力を持つ世代の退職後の動向や生きがい、地域社会とのかかわり方など研究する。

 

人口減がもたらす社会の動向

 日本の経済社会の仕組みは、「子どもの数が増える」ことを前提としており、1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)1.289人が上昇しないとすると、人口減が非常に早いテンポで進む。若い世代や働き手人口が減るため、経済成長はマイナス傾向となり、社会資本や社会保障などさまざまな分野で影響を及ぼす。(図1)

 

少子高齢化を乗り切るためには

 少子化;合計特殊出生率を1.71.8人程度に維持すれば、急激な人口減少が緩和し経済や生活水準は維持できる。女性の社会進出、未婚化や晩婚化が進み結婚願望が年々低くなり、また結婚しても仕事と家庭や育児の両立、教育費の負担など問題をかかえている。女性の重過ぎる負担を軽減するためにも、国や自治体、企業、地域社会が分担して取り組まなければならない。安心して子どもを産み育てられる環境づくりが必要である。

 

高齢化;高齢化率19.5%、5人に1人は高齢者である。平均寿命は男性78.64歳、女性

85.59歳と伸長し、日本は世界一の長寿国である。60歳でリタイアしてから80歳まで生きるとしても20年もの有り余る時間をどう過ごすか、有意義に尊厳をもって生きていくために本人の準備や心構えにかかってくる。現在の高齢者は多くの知識や経験を持った元気な高齢者が多く就業意欲が強い。能力と技術と意欲ある高齢者を年齢だからと活用しないのは大きな損失である。働くことで労働人口の減少の手助けとなり、年金の受給を遅らせ、消費力を上げ、健康維持にもなる。生涯現役として働けるよう柔軟な雇用制度を見直さなければならない。(図2)

社会保障制度を保てるよう改革するには

 年金;高齢者の給付を若い世代が賄う仕組みは、支えて手が減ると世代間格差を生み、若い人に過剰な負担を押し付けることになる。65歳の人と生まれたばかりの赤ちゃんでは、将来に受給できる年金総額は6千万円以上の差がある。(図3)

少子高齢化が進むため、年金の受取額を抑制しなければ、若い世代は重い保険料に苦しむことになる。大きな問題は世代間の是正である。将来、賦課方式から部分積立方式へ移行する必要性と、保険料の引き上げ、給付減の選択を迫られる可能性がある。また、富裕層への年金支給をやめるべきとの声がある。

 

 医療;増え続ける医療費抑制のため、新たな高齢者医療保険制度を創設した。医療費の抜本的改革で、高齢者世代と現役世代の負担を切り離すのが目的とされる。70歳以上の高齢者の内7%の約120万人は「高所得者」と見なされ、2006年10月から窓口負担を2割から3割に上がる。患者負担を引き上げだけでは、医療費抑制の効果は長続きしない。高齢者本人の保険料負担が増えると、高齢者自身に医療費の節約意識を持ってもらうことが最大の狙いと、病気を減らすことに意味がある。高齢化で膨らむ公的医療費をどう抑えるかは先進国の共通の課題である。 日本と同じ国民皆保険を掲げるドイツやフランスでは総額管理性(外来、入院など分野別に医療機関が受ける報酬の総額を設定し、予算を州単位で管理)の導入で医療費抑制策を展開。アメリカはIT(情報技術)で患者のカルテを共有することで合理化している。

 

介護;人口減少、高齢社会になれば、介護の負担が大変になる不安が広がっている。2000年からスタートした介護保険には介護の不安を軽減するという本来の目的に加え、民間事業社の参入によるサービスの量と質の充実、社会的入院の解消による医療費の効率化、福祉産業の発展などメリットがあるといわれている。しかし、利用者の急増、要介護者の認定の甘さなどで、公費負担が膨張する一方、介護施設の供給不足が深刻となっている。介護保険開始後、初の大幅見直しが20064月から本格的にスタートする。軽度者への家事支援は本当に必要どうかを見極めて提供するなど、その代わりに身体の機能を維持するための運動や健康指導といった「予防給付」と要介護になる恐れが強い人向けに「地域支援事業」と呼ばれる予防サービスが導入される。また、これらの事業や企画などを行う「地域包括支援センター」が各地に設置される。高齢者介護の問題は社会全体で支えるという意識をもたないと将来の不安は解消しない。

 

団塊世代の退職後の動向

 団塊の世代(19471949年生まれ)は、豊富な労働力を日本経済に提供すると共にモノやサービスを大量に消費することで経済成長を支えてきた。その団塊世代は人生の大きな節目である60歳を迎え定年退職する。団塊世代は人口の多さゆえに、社会や経済に与える影響が大きい。企業では、労働力が急減、技術継承の面など問題が生じてくる。また、所得税や社会保険料を納める側から社会保障給付などの公的サービスの受益者になると、団塊世代はこれまで負担してきた社会保険料と比べ高い水準の給付を受けるとみられる。人数の多いこの世代を支えるために大きなコストを、それ以下の世代に求めるだけでは、世代間の不公平感はいっそう強まる。不公平を是正し、出来る限りコスト抑制にむけて制度改革は不可欠といわれている。年金支給開始年齢の引き上げや給付率の削減など、団塊世代は退職後も年金生活で悠々自適な生活どころか、受給年齢まで働かないと生活出来ない「年金兼業型勤労者」の大量出現となりそうである。

 

栃木県内で働く団塊世代の退職後の生きがい活動に関する意識調査結果(宇都宮まちづくり市民工房)県内100組合中 35組合176名(男性157名、女性16名)より回答

問:現在、仕事以外にしている活動ありますか。

  特に何もしていない38.9%、趣味やスポーツなど34.1%、地域社会への貢献活動17.3

  その他ボランティア活動やNPO活動、求職や企業の準備など

問:ボランティア活動やNPO活動、地域社会への貢献活動に関心をもっていますか。

  特に関心はない47%、関心がある41%、わからない9

問:あなたは退職後にどのような生活をしたいと思いますか。

  趣味やスポーツなどをする31.5%、再就職してほかの職場で働き続ける19.4%、

  地域社会への貢献活動をする13.6%、何もせずのんびりと暮す11.5%、

  その他現在の職場で働き続ける、ボランティア・NPO活動をする、別の場所(故郷や海外)で暮す、大学や生涯学習機関で学習する。

問:あなたが地域社会への貢献活動として必要と思うもの

  道路や公園などの一斉清掃、防犯活動、子ども会。青少年育成活動、  高齢者や障害者の声かけ、ゴミ集積所の清掃、地域の文化祭やスポーツ大会など

問:どのような支援策や講習会があったら参加しますか。

  就業や生活設計に関する情報提供や相談37.4%、NPOやボランティア活動等のセミナー30.1%、同世代のネットワークづくり17.2%、起業のための公的機関のセミナー

 

 栃木県内で働く労働組合の協力により、県内の電気、機械、運輸・輸送、精密、公務員、サービス業で働く団塊世代に定年後の動向(生きがい、ボランティア活動など)に関してアンケートと聞き取り調査を昨年の夏に実施した。定年退職を24年先に控えているにもかかわらず、まだ定年に備えての準備や意識が低く、趣味や社会貢献よりも働き続けることへの生きがいを感じている人が多い。地域活動の青少年育成や清掃活動、防災・防犯活動、自治会などへの参加は何らかの形で活動しているが、ボランティア、新しいビジネス起業やNPO活動には消極的である。会社人間として働き、職縁関係で結ばれてきた団塊の世代多くは、やがて組織から離れ個人として生きていくことになる。その世代が大挙して地域に戻ってきた時、何処で何をしたら良いのか解らない人のために、受け入れる行政、企業、民間団体や地域は情報提供や啓蒙活動の支援を急がなければならない。意欲的で経験や知識豊富な世代を労働力としてだけでなく、社会や経済、地域の活性化に生かしてもらいたい。また、少子・高齢化による人口構造の変化が著しい社会において、団塊世代の新しいライフスタイルと活気あるシニア文化を構築することを願う。