比較行政研究レジメ(MK000107  篠崎雄司)      2000年11月28日

研究テーマ「地方自治体の非現業部門における戦略的アウトソーシングの導入の可能性」

 

研究の概略

1.問題の所在

2.NPMの展開と民営化・民間委託の動向

3.企業におけるアウトソーシングによる経営戦略の動向

4.日本の自治体における民間委託の課題

5.自治体の非現業部門における戦略的アウトソーシングの導入の具体的検証

6.自治体における経営戦略上の課題

 

 

アウトソーシングとしてのPFIの現状と課題

 

本研究については、前回(10月31日)に上記の概略を説明したが、今回は、上記4の「日本の自治体における民間委託の課題」の中で問題提起した、日本の自治体におけるアウトソーシングとしてのPFIについて考察した。

 

1.PFI(Private Finance Initiative)とは

PFIは、民営化手法の一つの応用例であり、社会資本分野への民間資金の導入手法である。これは、道路、橋りょう、高齢者福祉施設、さらには病院、学校など、従来は政府が一般税収で整備してきた社会資本について、その設計、資金調達、建設、運営などを、できる限り民間企業に任せていこうとする制度である。この制度は、財政的制約を背景として、1990年代はじめにイギリスで始まった。

おおまかな仕組みは、つぎのように示される。

1)      事業主体

事業主体の典型例は、建設会社、施設運営会社、金融機関・機関投資家などの関係事業者からなる民間コンソーシアムが当該事業のために設立した特別目的会社である。

2)事業主体の選定

事業主体の選定は、通常、競争性あるいは公開・公平性を確保するために「事業コンペ」によって行われる。

3)公的規制

対象となる事業サービスのほとんどは、公的サービスであるため、公共料金の価格規制など公的規制が課される場合が多い。

 

テキスト ボックス:                       公       共

PFIのフレーム

 

 


      譲渡

事業コンペ

 

契約

 
楕円: インフラ施設

                         

                    

(応募提案)

 
建設・運営

テキスト ボックス: 特別目的会社
(事業主体)

 

 


  資金・人材

テキスト ボックス:                  民間(コンソーシアム)

 

 

2.日本におけるPFIの動向

財政難を背景として行財政改革が緊急の課題であった日本では、同様な背景の中でかなりの成果を出したこの制度が注目され、1999年(平成11年)7月にはPFI推進法が成立し、全国の自治体は一斉にPFIの検討や発注手続きに入り、期待が高まっている。

しかしながら、宮脇淳(北海道大学大学院教授)によれば、こうした一方で、制度の本質への理解、事業に取り組むにあたっての政策思考や庁内体制の整備などへの意識・理解が不足する自治体も多いのが実態である、と指摘している。そして、中央主権型の請負政策の展開ではなく、自ら問題点を提示し制度設計に参画する努力が必要であるとし、PFIの本質と課題について、次のように述べている。

1)      PFIは行財政改革、小さな政府を目指す手段である。

PFIはNPM理論に支えられ、効率かつ効果・質の高いサービスを実現するものであるため、従来の公務員制度や予算制度など行政・内部体質を見直す必要がある。このため現行ではPFI事業を企画・管理できる人材がいないと指摘される。

2)      PFI事業はあくまでも公共事業の一種である。

公共事業の手法はいくつもあり、PFI事業として実施する適正さが必要である。

3)      PFI事業は民間資金で実施することを基本とする。

民間資金である以上、投資を回収する必要がある。事業内容、体制が厳しく問われ、従来の社会資本形成では対応できなくなる。

4)      PFI事業は公共事業の市場開放の性格を有している。

公共事業の分野に異業種が参入することにより、コスト構造や仕事の体制が見直され、従来行政によって形成されてきた公共事業のコストが見直される。

 

3.アウトソーシングとしてのPFIの課題

これまで見てきた結果、PFIはアウトソーシングの一つの形態と言える。このため、前述の宮脇氏の指摘などを勘案し、戦略的アウトソーシングとしてPFIを活用するにあたっての課題を考察すると以下のようになると思われる。

@PFI事業をマネージメントできる人材の育成、組織体制の整備

NPM理論を実践する手法であるPFIにより、最適な企業とのパートナーシップの形成を図るためには、従来の体制を打破し、民間企業と対等に交渉のできる人材や組織体制が必要であり、早急に育成、整備する必要がある。安易に国やコンサルタントに頼ることは許されない。

APFI対象事業の適正な選択

現行ではPFIは自治体を中心として「流行」の域にあり、様々な事業手法の一つに過ぎないことを忘れがちである。PFIを選択することによるリスクやコストを十分に考慮しながら、適正な事業手法を選択する必要がある。

B情報開示の徹底と事業の評価システムの確立

市場の競争性を十分に生かし、多くの企業が参入できるように、事業についての情報は徹底的にオープンにする必要がある。また、事業が始まってからも情報を開示し、その事業の成果について市民などが適正に評価できるシステムをつくる必要がある。

 

 

[参考文献]

1)大住荘四郎「ニュー・パブリック・マネジメント 理念・ビジョン・戦略」日本評論社、1999年12月20日

2)      牧野昇「[図解]アウトソーシング早わかり  利益を生み出す企業戦略の知恵」PHP研究所、1998年7月30日

3)      宮脇淳「自治体はPFI制度をどう活用すべきか  PFI制度の本質と導入の在り方」『地方自治職員研修』2000年11月号

4)      今村都南雄「公共サービスと「官民関係」 問われる行政のレーゾン・デートル」『地方自治職員研修』2000年11月号