比較行政研究レジメ(MK000107  篠崎雄司)      2000年10月31日

「地方自治体の非現業部門における戦略的アウトソーシングの導入の可能性」

 

1.問題の所在

2.NPMの展開と民営化・民間委託の動向

3.企業におけるアウトソーシングによる経営戦略の動向

4.日本の自治体における民間委託の課題

5.自治体の非現業部門における戦略的アウトソーシングの導入の具体的検証

6.自治体における経営戦略上の課題

 

1.問題の所在

@日本の地方自治体における民間(外部)委託の位置付け

・財政難を背景として、歳出抑制のための職員数や経費を節減する手段

・現業部門(ブルーカラー)が中心

ANPM理論における民間(外部)委託の位置付け

・市場メカニズムを積極的に導入するための手段であり、経費の節減だけでなく行政サービスの向上をも追究

・現業部門だけでなく非現業部門(ホワイトカラー)も対象

B企業における外部委託の位置付け

    当初はコスト削減や人手不足解消が目的だったが、外部(Out)の資源(Source)を有効活用して、業務の効

率化や新たな付加価値を追究する手段となっている

・当初は情報システムや人材派遣が対象だったが、現在は経理、人事、営業などあらゆる分野に及ぶ

・アウトソーシングを戦略的活用により、企業は自社のコア・コンピタンスが可能となる

テキスト ボックス: 日本の地方自治体においても、経営戦略として民間(外部)委託(Outsourcing)を活用し、民間企業の優れた資源により付加価値を高め効果的な自治体経営ができないか?

 

2.NPMの展開と民営化・民間委託の動向

(1)NPM(New Public Management)理論

大住荘四郎・新潟大学教授によれば、NPM理論は下記のとおりである。

    NPMは、1980年代半ば以降、英国やニュージーランドなどのアングロ・サクソン系諸国を行政実務の現場を通じ

て形成された行政運営理論である

・その核心は、民間企業における経営理念・手法などにより行政部門の効率化・活性化を図ることにある

    具体的には、@経営資源の使用に関する裁量を広げる代わりに、業績や成果による統制を行うこと、A市場メカニズム

を可能な限り活用すること(広義の民営化(民間委託など)、エイジェンシー、内部市場、PFIなどの契約型シス

テムの導入)が特に重要である

(2)英国における民営化・民間委託の経過

1979年にサッチャー政権が誕生し、財政難を背景として、思い切った行政改革に取り組む。

    次のメージャー政権までの保守党政府により、公的企業の民営化、民間委託やバウチャー制度、PFI、エイジェンシー、

シチズン・チャーターなど様々な諸改革がなされ、これらの手法は他の国々にも採り入れられた。

    民間委託については、強制競争入札制度(CCT)が導入され、公的セクターが私的セクターと競争するという状況になり、

図書館など文化施設のホワイトカラー部門も対象となった。

    1997年にブレア労働党政権に代わり、ベスト・バリューが導入され、CCTなどは急進的過ぎると廃止になった。しかし、ベ

スト・バリューが行政に求める水準は高いようで、政権が変わっても、相変らず厳しい成果主義の行政運営がなされている。

 

3.企業におけるアウトソーシングによる経営戦略の動向

(1)     花田モデルによる戦略的アウトソーシング

花田光世・慶應義塾大学教授はアウトソーシングの形態を下記のようにまとめている。

 

業務の運営

社内

社外

業務の設計・企画

社内

@                     支援型アウトソーシング

(人材派遣)

A                     委託型アウトソーシング

(外注(代行))

社外

Aコンサルティング

C戦略的アウトソーシング

今日、経営戦略として注目されているのは、C戦略的アウトソーシングであり、委託先に権限と責任を与え、成果を期待するも

のであり、本研究もこの概念に基づき考察する。

(2)     アウトソーシングの戦略的活用

・企業におけるアウトソーシングは、当初、情報サービスや人材派遣が中心であった。

    しかし、アウトソーシング産業は97年時点で市場規模25兆円、雇用数207万人と拡大し、範囲も経理、人事、労務など様々な経

営機能の分野にいたるようになると、思い切った戦略的アウトソーシングを展開する企業が出現するようになった。

 

テキスト ボックス: 企業は戦略的アウトソーシングの活用により、自社の最も強い部門・分野(コア)に資源を重点的に集中できるようになってきた。

・カンキョー、メイテックなどの企業では製品開発部門だけを自社で行い、他部門は他社に委託している。

 

4.日本の自治体における民間委託の課題

これまでの日本の自治体における民間委託をめぐる議論において、課題・問題点は次のようになっている。

      主要な論点は、コスト、行政責任、労働条件、政府規模の4点である。

      具体的な問題点としては、@行政責任の所在が曖昧になる、Aサービスの質が低下する、B民主的コントロールが制限さ

れる、C労働条件の切り下げに直結する、D秘密漏洩の可能性がある、が指摘されてきた。

      また、地方自治法244条の2第3項に規定される公の施設の管理委託の他、様々な個別法令により、民間委託が制限されている。

      法令に特段の根拠を有しない場合でも、行政法学上、給付行政は民間委託できるが、規制行政はできないと解されてきている。

これらに加えて、最近の自治体において「流行」となっているPFIへの取組状況とその課題も、民間委託の課題として整理する必要がある。

今後、戦略的アウトソーシングを展開する上での課題解決策を考察したい。

 

5.自治体の非現業部門における戦略的アウトソーシングの導入の具体的検証

上記までの論点や課題を整理し、具体的な検証を行う。

検証の方法としては、実在する自治体をモデルとし、その業務内容を整理しながら、当該業務に関わる企業の動向も調査していくこととしたい。

 

6.自治体における経営戦略上の課題

自治体のホワイトカラー部門における戦略的アウトソーシングの導入の可能性を考察することを通じ、下記の点についても、考察したい。

(1)     自治体経営におけるコア業務、コア分野とは何か

(2)     内部市場、組織内アウトソーシングなどにより、組織内での活性化は可能か